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本編
第6話 悪役は皇太子に翻弄される
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翌日、朝食を終えたマリオンは「来い」と短い言葉でエルメの手を取ると、強引に彼女を部屋から連れ出した。そして、半ば引きずられるように連れてこられたのは、色とりどりの薔薇が咲き乱れる皇城の庭だった。カラマノ王国の王城にも薔薇はあったが、ここまで様々な色の薔薇を見たことがなかった。
自然と彼女の口から感嘆の声が漏れる。
「わあ、キレイ」
そんな彼女の様子にマリオンは僅かに目を細めるが、薔薇に目を奪われたエルメは気が付かない。さらにマリオンの強引な腕に引かれ奥へ進むと、豊満な薔薇の香りが二人を包んだ。
高貴な薔薇の香りを抜けた先には、四阿があった。マリオンは何も言わずにエルメを四阿に座らせ「貸せ」とまた短く言うと、頭を彼女の膝の上に乗せ横になった。いわゆる膝枕だ。目を瞑ったその端正な顔をエルメは見下ろし、抗議する。
「ちょっとマリオン様!」
しかし相変わらず聞く耳を持たない様子に、エルメは「どこまで強引なんですか!」と再び言葉を降らせる。すると、マリオンはその瞳に彼女を映すことなく口を開いた。
「私がこうしたいのだから、君は大人しく従っていればいい」
「本当にどこまで身勝っ・・」
エルメはマリオンの俺様発言に再び口を開くが、それは途中で切れた。何故ならマリオンがその瞳に彼女を映すと、抗議を口にする彼女の唇に人差し指を当てたからだ。
「黙れ・・君は静かにするという事を知らんのか?」
「はい?マリオン様が強引なことをするから、黙っていられないのです」
「だから黙れと言っている」
「私は人形ではありません。大体、強引に連れてきて、勝手に膝を貸し出されて、挙げ句“黙れ”とは、マリオン様こそっ・・・」
ここでまたもエルメの言葉が途切れる。今度は、マリオンが親指で彼女の唇を撫でたからだ。色気を帯びた眼差しを向け、左から右へ撫でるように触れるだけの彼の指に、エルメの身体がピクッと反応する。
「黙れないのなら、また塞いでやろうか?」
そう口にしたマリオンは、エルメの唇から肩に垂れる長い髪に指を絡ませると、ぐいっと引っ張った。
「痛っ」
お互いの鼻が触れるほどの近い距離に、エルメは瞳を揺らす。そしてマリオンの翡翠色の瞳は、エルメの揺れる瞳を映していた。目を背けることも瞬きすることもできずに、その翡翠色を見つめるエルメは、昨日の夜の出来事を思い出した。自然と熱る顔を自覚したエルメは、頭の中からそれを必死に追い出そうとする。しかし必死になればなるほど、それはぐるぐると頭の中を回り、占領していく。
「どうした。顔が赤いぞ」
エルメの動揺を察しているのか、そう言う彼の表情はからかっているようにも見える。エルメが言い返せないでいると、マリオンは更に言葉を続けた。
「何を考えている?」
昨夜、テラスで聞いたのと同じセリフに動揺という大波が彼女の心を押し潰す。
(完全に遊ばれてる・・悔しい・・・どうしたら、この人にギャフンと言わせられる?)
そんなエルメを見つめ、フッと笑みをこぼしたマリオンは、更に煽る言葉を吐く。
「どうやらこのセリフ覚えていると見えるな。この後も続けてやろうか?・・・君を抱かないが、触れないとは言ってない。それに君のく・・」
ここでエルメが反撃に出た。
マリオンの顔を両手でガッチリ押さえると、挑戦的なセリフを吐く彼の唇を自身のそれで塞いだ。昨日の仕返しとばかりに唇を重ね合わせていると、彼の顔が一瞬苦悶の色に染まる。
そして、エルメがマリオンの顔の拘束を解き、顔を上げると、そこには唇を赤く染めたマリオンの顔があった。どうやらエルメが彼の唇を噛んだようだ。
さらにエルメは顔を上げた勢いのまま、膝に横たわる彼の身体を抱き起こすと、自由になった足で立ち上がる。そしてすぐに四阿から出ると、振り返りマリオンへ真っ直ぐな眼差しを向けた。
「レディの髪を引っ張った罰です!」
エルメは精一杯の怒りの感情を込めて言葉を吐き出す。しかし相変わらずクールな表情を崩さずにエルメを見つめ返すマリオンは、親指で唇の血を拭った。たったそれだけの仕草なのに、エルメの瞳にやけに色っぽく映る。
「私の妻は暴れ馬だけでなく、噛み癖のある犬の顔も持っていたか・・・」
そう独り言のように言ったマリオンは、立ち上がる。エルメはまた捕まるのかと身構えるが、彼は四阿の入り口で立ち止まると片肘を壁につき、翡翠色の瞳を彼女へ向けた。
自然と彼女の口から感嘆の声が漏れる。
「わあ、キレイ」
そんな彼女の様子にマリオンは僅かに目を細めるが、薔薇に目を奪われたエルメは気が付かない。さらにマリオンの強引な腕に引かれ奥へ進むと、豊満な薔薇の香りが二人を包んだ。
高貴な薔薇の香りを抜けた先には、四阿があった。マリオンは何も言わずにエルメを四阿に座らせ「貸せ」とまた短く言うと、頭を彼女の膝の上に乗せ横になった。いわゆる膝枕だ。目を瞑ったその端正な顔をエルメは見下ろし、抗議する。
「ちょっとマリオン様!」
しかし相変わらず聞く耳を持たない様子に、エルメは「どこまで強引なんですか!」と再び言葉を降らせる。すると、マリオンはその瞳に彼女を映すことなく口を開いた。
「私がこうしたいのだから、君は大人しく従っていればいい」
「本当にどこまで身勝っ・・」
エルメはマリオンの俺様発言に再び口を開くが、それは途中で切れた。何故ならマリオンがその瞳に彼女を映すと、抗議を口にする彼女の唇に人差し指を当てたからだ。
「黙れ・・君は静かにするという事を知らんのか?」
「はい?マリオン様が強引なことをするから、黙っていられないのです」
「だから黙れと言っている」
「私は人形ではありません。大体、強引に連れてきて、勝手に膝を貸し出されて、挙げ句“黙れ”とは、マリオン様こそっ・・・」
ここでまたもエルメの言葉が途切れる。今度は、マリオンが親指で彼女の唇を撫でたからだ。色気を帯びた眼差しを向け、左から右へ撫でるように触れるだけの彼の指に、エルメの身体がピクッと反応する。
「黙れないのなら、また塞いでやろうか?」
そう口にしたマリオンは、エルメの唇から肩に垂れる長い髪に指を絡ませると、ぐいっと引っ張った。
「痛っ」
お互いの鼻が触れるほどの近い距離に、エルメは瞳を揺らす。そしてマリオンの翡翠色の瞳は、エルメの揺れる瞳を映していた。目を背けることも瞬きすることもできずに、その翡翠色を見つめるエルメは、昨日の夜の出来事を思い出した。自然と熱る顔を自覚したエルメは、頭の中からそれを必死に追い出そうとする。しかし必死になればなるほど、それはぐるぐると頭の中を回り、占領していく。
「どうした。顔が赤いぞ」
エルメの動揺を察しているのか、そう言う彼の表情はからかっているようにも見える。エルメが言い返せないでいると、マリオンは更に言葉を続けた。
「何を考えている?」
昨夜、テラスで聞いたのと同じセリフに動揺という大波が彼女の心を押し潰す。
(完全に遊ばれてる・・悔しい・・・どうしたら、この人にギャフンと言わせられる?)
そんなエルメを見つめ、フッと笑みをこぼしたマリオンは、更に煽る言葉を吐く。
「どうやらこのセリフ覚えていると見えるな。この後も続けてやろうか?・・・君を抱かないが、触れないとは言ってない。それに君のく・・」
ここでエルメが反撃に出た。
マリオンの顔を両手でガッチリ押さえると、挑戦的なセリフを吐く彼の唇を自身のそれで塞いだ。昨日の仕返しとばかりに唇を重ね合わせていると、彼の顔が一瞬苦悶の色に染まる。
そして、エルメがマリオンの顔の拘束を解き、顔を上げると、そこには唇を赤く染めたマリオンの顔があった。どうやらエルメが彼の唇を噛んだようだ。
さらにエルメは顔を上げた勢いのまま、膝に横たわる彼の身体を抱き起こすと、自由になった足で立ち上がる。そしてすぐに四阿から出ると、振り返りマリオンへ真っ直ぐな眼差しを向けた。
「レディの髪を引っ張った罰です!」
エルメは精一杯の怒りの感情を込めて言葉を吐き出す。しかし相変わらずクールな表情を崩さずにエルメを見つめ返すマリオンは、親指で唇の血を拭った。たったそれだけの仕草なのに、エルメの瞳にやけに色っぽく映る。
「私の妻は暴れ馬だけでなく、噛み癖のある犬の顔も持っていたか・・・」
そう独り言のように言ったマリオンは、立ち上がる。エルメはまた捕まるのかと身構えるが、彼は四阿の入り口で立ち止まると片肘を壁につき、翡翠色の瞳を彼女へ向けた。
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