4 / 74
本編
第4話 想定外の口づけ
しおりを挟む
マリオンとの交渉を成立させたその夜、ベッドの上で二人は対峙していた。
「いいですか。ここからこっちは私、そっちはマリオン様のプライベートスペースです。決してこのスペースを侵さないでくださいね。不可侵条約締結ですよ」
正座をして、そう宣言するエルメの前には、ベッドの真ん中にぬいぐるみが鎮座している。どうやら、そのぬいぐるみの左右でお互いのスペースを分けるようだ。エルメの訴えに背を向けベッドに腰掛けるマリオンは、片手をヒラヒラと振り「分かった分かった」と面倒くさそうに言う。それにエルメは「よろしい」と満足そうに頷くと、テラスへ出た。
空を見上げると、落ちてきそうなほど瞬く星たちが柔らかい光を放っていた。心地よい風がエルメの長い髪を揺らし、頬をかすめる。そしてエルメは目を閉じ、順調に進む兆しの離婚計画に思いを馳せる。
(とりあえず賭けなんてのっちゃったけど、大丈夫!だって、マリオンがアリスを好きになるのは絶対だもん。どうせなら、アリスに転生してもよかったよね。まあ、仕方ないか。エルメでも庶民になれば、お気楽ハッピーライフが待ってるし・・フフッ)
そんなエルメの思考は、前触れ無く腰に巻かれた腕に強引に引き寄せられた身体と耳元で囁かれた言葉によって遮られる。
「何を考えている?」
「きゃっ!何をするんですか!」
エルメの抗議にも腰に巻かれた腕はびくともしない。
「君を抱かないが、触れないとは言ってない。それに君の口から離婚したくないと言わせるのも一興だろう?」
面白そうにそう口にするマリオンに、苛立つエルメは「そういうのはいりません!」と言い、睨みつける。しかし、全く効く様子はない。
「結婚前は淑やかな姫だと思っていたが、いざ結婚してベッドに押し倒してみれば、とんだじゃじゃ馬。どうして別人のように変わったのかと思えば、自分には前世があると言う。全く面白い姫だ」
そう言うと、マリオンの腕は一層狭まり、エルメはマリオンの胸に鼻をぶつけそうになる。
「ところでその癒やしの乙女は、いつ私たちの前に現れるのだ?」
頭の上から降ってきた質問にエルメは「それは今から一年ほど後です。離婚するのは、それから更に一年後です」と答えた。すると余裕をかましていたマリオンの口から「なっ、そんなに待つのか!?」と驚く声が聞かれる。それに気を良くしたエルメは、ドヤ顔で「仕方ありません。そう書いてしまったのですから」と返した。
「書いてしまったって・・・そんなにお預けを食らうのか!?・・・決めた!健康な男がそんなに待てるかっ」
マリオンはそう言うと、腰に回す腕はエルメの肩をガッチリ抱き、顎を強引に持ち上げる。そして、彼女の唇を塞いだ。感情をぶつけるような強引な口づけに、エルメは自分の身体を羽交い締めにするマリオンの身体に拳をぶつけ、精一杯の抵抗をみせる。
ロマンチックな雰囲気など欠片もない一方的なキスは、エルメの怒りを沸点まで一瞬で上げた。唇という拘束から解かれた口で「なっ、何をするの!」と怒りをあらわにし、そしてテラスにパンッと鈍い音が響く。マリオンの腕から逃れたエルメが、不敵な笑みを浮かべる彼の頬を叩いたのだ。マリオンは顔を背けるが、その表情は変わらない。
「まさかキスで子供が出来るとか言わないよな?」
そう言ってマリオンは、挑戦的な瞳をエルメへ向ける。エルメはそれを真っ直ぐに受け止めると「そんな子供ではありません!」と言い放つ。
「好みの女・・しかも結婚もしてる女を前に二年も手を出すなとは、拷問だ。おかしいぞ。子を授かるようなことはしないが、スキンシップやキスくらいは大目に見ろ」
「好みの女って!女なら誰でもいいのですか!?」
「大人しい女はゴメンだが、前世とやらを思い出した君はタイプだ。言ったろう?暴れ馬を乗りこなすのが、好きだって・・そういうことだ」
マリオンは色気のない妻への想いを言葉にすると、再び食らいつくような口づけをした。
「いいですか。ここからこっちは私、そっちはマリオン様のプライベートスペースです。決してこのスペースを侵さないでくださいね。不可侵条約締結ですよ」
正座をして、そう宣言するエルメの前には、ベッドの真ん中にぬいぐるみが鎮座している。どうやら、そのぬいぐるみの左右でお互いのスペースを分けるようだ。エルメの訴えに背を向けベッドに腰掛けるマリオンは、片手をヒラヒラと振り「分かった分かった」と面倒くさそうに言う。それにエルメは「よろしい」と満足そうに頷くと、テラスへ出た。
空を見上げると、落ちてきそうなほど瞬く星たちが柔らかい光を放っていた。心地よい風がエルメの長い髪を揺らし、頬をかすめる。そしてエルメは目を閉じ、順調に進む兆しの離婚計画に思いを馳せる。
(とりあえず賭けなんてのっちゃったけど、大丈夫!だって、マリオンがアリスを好きになるのは絶対だもん。どうせなら、アリスに転生してもよかったよね。まあ、仕方ないか。エルメでも庶民になれば、お気楽ハッピーライフが待ってるし・・フフッ)
そんなエルメの思考は、前触れ無く腰に巻かれた腕に強引に引き寄せられた身体と耳元で囁かれた言葉によって遮られる。
「何を考えている?」
「きゃっ!何をするんですか!」
エルメの抗議にも腰に巻かれた腕はびくともしない。
「君を抱かないが、触れないとは言ってない。それに君の口から離婚したくないと言わせるのも一興だろう?」
面白そうにそう口にするマリオンに、苛立つエルメは「そういうのはいりません!」と言い、睨みつける。しかし、全く効く様子はない。
「結婚前は淑やかな姫だと思っていたが、いざ結婚してベッドに押し倒してみれば、とんだじゃじゃ馬。どうして別人のように変わったのかと思えば、自分には前世があると言う。全く面白い姫だ」
そう言うと、マリオンの腕は一層狭まり、エルメはマリオンの胸に鼻をぶつけそうになる。
「ところでその癒やしの乙女は、いつ私たちの前に現れるのだ?」
頭の上から降ってきた質問にエルメは「それは今から一年ほど後です。離婚するのは、それから更に一年後です」と答えた。すると余裕をかましていたマリオンの口から「なっ、そんなに待つのか!?」と驚く声が聞かれる。それに気を良くしたエルメは、ドヤ顔で「仕方ありません。そう書いてしまったのですから」と返した。
「書いてしまったって・・・そんなにお預けを食らうのか!?・・・決めた!健康な男がそんなに待てるかっ」
マリオンはそう言うと、腰に回す腕はエルメの肩をガッチリ抱き、顎を強引に持ち上げる。そして、彼女の唇を塞いだ。感情をぶつけるような強引な口づけに、エルメは自分の身体を羽交い締めにするマリオンの身体に拳をぶつけ、精一杯の抵抗をみせる。
ロマンチックな雰囲気など欠片もない一方的なキスは、エルメの怒りを沸点まで一瞬で上げた。唇という拘束から解かれた口で「なっ、何をするの!」と怒りをあらわにし、そしてテラスにパンッと鈍い音が響く。マリオンの腕から逃れたエルメが、不敵な笑みを浮かべる彼の頬を叩いたのだ。マリオンは顔を背けるが、その表情は変わらない。
「まさかキスで子供が出来るとか言わないよな?」
そう言ってマリオンは、挑戦的な瞳をエルメへ向ける。エルメはそれを真っ直ぐに受け止めると「そんな子供ではありません!」と言い放つ。
「好みの女・・しかも結婚もしてる女を前に二年も手を出すなとは、拷問だ。おかしいぞ。子を授かるようなことはしないが、スキンシップやキスくらいは大目に見ろ」
「好みの女って!女なら誰でもいいのですか!?」
「大人しい女はゴメンだが、前世とやらを思い出した君はタイプだ。言ったろう?暴れ馬を乗りこなすのが、好きだって・・そういうことだ」
マリオンは色気のない妻への想いを言葉にすると、再び食らいつくような口づけをした。
28
お気に入りに追加
2,201
あなたにおすすめの小説
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる