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第10話 不可抗力ですよね?

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『ありませんが、そのかわりそれ以外の質問があるようでしたらどうぞ・・』

まるで会見後の質疑応答の手始めのようなセリフにリーナは、苦笑する。だが、せっかく許可された質問時間を有効活用するため、リーナは頭をフル回転させる。そうして導き出した質問を始めた。

「オルガの彼がこの魔法のない世界で魔法を使えるのは、何故ですか?」

『あー、それは話せば長いので、また別の機会にお願いします』

「えっと・・それじゃあ、なぜ彼は転移してきたのでしょうか?」

『それも話せば長いので、また今度にしましょう』

神様の返答にリーナの顔は引きつっていた。当然である。質問を許可した本人が、返答からのらりくらりと逃げているのだ。そして、リーナは「そう言われて、“はいそうですか”なんて言うと思いますか?ちゃんと答えて下さい」と反論する。しかし神は、うーんと渋っていた。

「彼の状況、神様なら全てご覧になってますよね?彼が元の世界に帰るなら、尚の事、帰る前にちゃんと説明してあげたいんです。なぜこんな事になったのか。お願いします。ちゃんと教えて下さい」

リーナは、素直な気持ちをぶつける。そして、それは渋っていた神の重い口を開くのに十分だった。

『貴女の言うとおりですね。彼には知る権利があります。分かりました。ちゃんとお答えします』

そう言って神は、リーナの質問に丁寧に答え始める。

『まず彼がなぜ魔法を使うことができるのか。それは今の入れ物に入る前に、彼の魂が別の入れ物に転移していたからと申し上げておきましょう』

そうして神の口から語られる話に、これからリーナの疑問は解消される一方、自分を責めることになるのだ。

冬馬は彼の説明どおりリーナと同じ列車事故に合い、入院していた。これだけなら、彼が転移するはずはない。しかし彼の転移にリーナ・・いやリーナの前世“梨奈”が関わっていた。

梨奈は事故で亡くなった後、リーナとして転生するまでブランクがあった。それは何故か・・・転生先をどこにするのか神が迷っていたからだ。

転生や転移は、神の気持ちひとつでその行き先が変わる。魂の適正を見て、最適な転生・転移先へと導くのが、神の仕事の一つだった。しかしリーナの時は、神はその行き先に頭を悩ませていた。なにせその時空いていたのが、完全な悪役キャラの入れ物だけだったからだ。

神は梨奈の性格をかんがみても、その空きに転生させることだけは避けたかった。彼女が若くして事故で亡くなったことも、神の同情を誘い、第二の転生人生を満喫してほしいと神は思っていた。そういう理由で一時、彼女の魂は宙ぶらりんの状態だった。

しかしこの時、梨奈が予想外のことを引き起こす。梨奈が冬馬の魂を転移へと引きずり込んだのだ。理由は定かではないが、おそらく冬馬の魂と共鳴したのだろうという。

不測の事態で冬馬の魂を呼び込んでしまった為、とりあえず彼も転移させることにした。

「そのまま彼の身体に戻す事は、できなかったのですか?」

『それは無理なんです』

「神様って、案外出来ない事が多いんですね」

『神が万能だという姿を作り上げたのは、人間の都合です。その方が信仰するには、都合がいいですからね』

そして、冬馬の魂を転移させようとしたが、あいにく男性用の入れ物は定員がいっぱいでどこにも転移させようがなかった。そうして梨奈の魂と同じく彼の魂も宙ぶらりんの状態になる。

そしてようやく空いた男性の入れ物は、あいにく他の魂によって予約されていたが、冬馬の魂が不意をついて入ってしまう。それがオルガの前の転移の経緯だった。そして、この転移で彼に魔力が宿ってしまう。その入れ物が、悪の魔法使い、しかも石化の魔法が得意だったからだ。

慌てて魂を外したものの、魔力はそのまま。魂のままでは魔力に耐えられず、壊れてしまうと考えられ、手近なオルガという入れ物に入れた。

「えっ?ちょっと待ってください。本来のオルガがいるのに、なぜそこに彼の魂を入れたんですか?」 

『ああ、それは・・・いや、それは彼が無事に帰った後、ご自分の目で確かめてください』

何とか冬馬の魂も片付いたところで、ようやく梨奈の転生先を決める段階になる。迷った挙げ句、神が決めたのは、オルガと同じ世界のリーナの入れ物だった。

『貴女には、彼の魂に共鳴してしまったという罪がありますからね。その責任を取ってもらおうと、考えました・・ああ、反論はなしでお願いします。私が貴女の転生先を迷っていたことも原因ですから、こうして私も助言に来たわけです』

リーナは意図せずとはいえ、幸せが目の間にあった冬馬をこんな困難に巻き込んでしまった責任を感じていた。

「分かりました。話して頂いて、ありがとうございます。しっかり夢のお告げを聞いて、彼を無事に戻してみせます!」

そう力強く言ったリーナの瞳には、決意の色が滲んでいた。
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