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第3章

第121話 リリス14歳 合同授業3

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「今日はスタイラスたちが、君を僕から遠ざけようとしていたみたいだけど」

(ありゃぁ、気付かれてたのね。さすがにちょっと態とらしかったかな)

「それは殿下の勘違いですわ。そんな事をして何の意味がありましょう」

リリスの返答にアーサーは苦笑する。そして「僕との噂」と言った。それに何も言わずに笑顔を返すリリス。

「そんなに警戒しないでおくれ。これでも君とヘンリーには迷惑をかけたと思ってるんだ」

「殿下が今日みたいに私に話しかけてくるから、みんなが面白がって噂するんです」

「えー、それはおかしいよね。ただの友人として、話しかけてるのにさ」

「殿下が早く婚約者を決めればいいんです。今まで何度も話があったのに、立ち消えになったと皆不思議がっておりますのよ」

「君には逃げられたからね。それに僕の立場上、婚約者選びが簡単ではないことぐらい君も分かるだろう?
それに生涯の伴侶だよ。そんなに簡単には決められないよ」

「まさか恋愛結婚がしたいなんて、言いませんわよね」

「あはは。恋愛結婚か。面白いこと言うね。王族や貴族の婚姻がそうできたら、いいのにね。
そうだ、僕が王になったら、そういう御触れを出そうかな・・・ねっ?面白いだろう?」

何も言わないリリスにアーサーは肩をすくめ、言葉を続けた。

「ほら、むやみにご令嬢と仲良くすると、色々面倒だろう?父上も母上もそうだけど、本人に勘違いされたらいちばん困るんだよ。
その点、君なら勘違いもしないし、ヘンリーと仲睦まじいのは周知の事実だからね。それにアーウィンの姉というのも大きい」

「それならそうと仰っていただければ、私だって余計なことはいたしませんのに」

「あっ。やっぱり僕を避けていたことを認めたね」

楽しそうに話すアーサーに「だって、それは殿下があの時、その・・花言葉が・・・どうのとかおっしゃるから・・」と、少し狼狽えて言ったリリスの頬が赤く染まる。リリスは城でアーサーから言われたハクモクレンの花言葉を思い出していた。

そしてアーサーは何か思い出した様子で、クスッと笑うと言った。

「アーウィンも君とヘンリーとの仲を必死にアピールしてきたよ。君はみんなに愛されてるね」

「まあ、アーウィンがそんな事を」

弟のフォローにジーンときたリリスだったが、アーサーの次の一言でその嬉しい気持ちは一瞬で吹き飛んだ。

「君が今年の誕生日にヘンリーと劇場に初めて行ったことや昨年の夏休みにはお互いの領地を・・・」

「はっ!?ちょっ!殿下!お止めください。あの子ったら、何をペラペラと喋ってるのよ」

アーサーのセリフを慌てて遮るリリスの顔は真っ赤だった。そんなリリスの様子をアーサーは眩しそうに見つめている。そして小さく息を吐くと言った。

「今度、皆の前でヘンリーも一緒に誘うから許してくれ。そうすれば噂も時期におさまるだろう」

アーサーの申し出にリリスはホッとした笑みを浮かべ「友人として接していただけるのでしたら、もちろん断る理由はありませんわ」と言った。

「よかった」

そう口にしたアーサーは、最後に中級魔法ファイヤーランスを放った。皆が初級魔法を練習する中、いきなり放たれた中級魔法に皆の視線がアーサーに集まる。慌ててやって来たアルバスに「すみません、先生。思わず使ってしまいました」とアーサーはあっけらかんと言った。それにアルバスは眉間に手を当て、困った顔をした。

「殿下、今後"思わず"使わないでください。今は基本の練習です。いずれレベル別授業となりますから、それまでは我慢してください」

アルバスの言葉にアーサーは頷いた。それを確認したアルバスは、再び戻って行った。

「君が友人となるお許しをもらえたから、嬉しくてつい使ってしまったよ」

「殿下はもう中級魔法が使えたのですね。逆にご指導頂きたいぐらいですわ」

リリスはそう言うと、この日一番の笑顔を見せた。
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