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第3章

第112話 リリス14歳 メイルはどこ?

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その日の帰りの馬車の中、リリスはヘンリーに今度アルミーダの元を訪ねることを言った。

「一緒に行ってくれるよね?」

「当たり前じゃないか。僕もどうなったのか気になってはいたんだよ」

「そうね。魔女ディファナって、どんな人なんだろうね。アルミーダさんみたいな感じなのかな」

ヘンリーはリリスの問には答えず、手に取っていた彼女の手をそのままにエルムンド商会で買ったブレスレットに触れる。そして次に14歳の誕生日に贈った胸元で光るネックレスに触れた。胸元にヘンリーの手が伸びてきた時には思わず少し力の入ったリリスも、何も言わずに彼のしたいようにさせていた。

最近のヘンリーは何かにつけて、すぐリリスの身に着けている髪留め、ネックレス、ブレスレットに触れる。その存在を確かめるように。
そうする理由をリリスは知っていた。あの日、アーサーに誘われ城に行ってからだった。きっとアーサーとの噂も彼の耳に入っているのだろう。だが、リリスはヘンリーに噂について何も言わなかったし、彼もリリスに何も言わなかった。城から帰ったあの日以来、ふたりきりの時は一言も第一王子の名を口にしなかった。

「アルミーダさんは正しく魔女って感じよね。大鍋で何か怪しい液体をグツグツ混ぜてる風景が思い浮かぶもの。
でもアルバス先生は魔女は見た目をいくらでも変えられるって言ってたから、アルミーダさんも仮の姿かもしれないよね。何百年も生きてたら、ミイラみたいになっててもおかしくないもの。ヘンリーはどう思う?」

・・・・・・

応えないヘンリーにリリスはもう一度尋ねる。

「ヘンリー、どう思う?・・・・・ねえ、ヘンリー聞いてる?」

リリスはネックレスに触れる胸元の彼の手をそっと手に取った。そこでようやく彼は「うん?なんだったかな」と微笑んだ。リリスは彼の笑みに胸の奥がチクリとしたが、それを振り払うように元気な声で言った。

「もう、ヘンリー・・私といるときは考え事したらダメ。ねっ?分かった?」

そう言葉にすると、彼の頬を両手でふんわり包んだ。

(いつものように無駄にキラキラしててよ!私をドキドキさせてよ!こんなのヘンリー・セルジュじゃない)

リリスの力強い瞳にヘンリーはゆっくり瞬きをする。そしていつものキラキラスマイルを浮かべると「リリィ、分かったよ」と言った。

いつもの彼に戻った様子にリリスは、ホッと胸をなでおろした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


リリスが屋敷に戻ると、いつもは部屋で待っているネージュとメイルの姿が見えなかった。
リリスが2年生になってから2匹は学園には行かず、屋敷で留守番をしていた。アーウィンが行き帰り一緒だったため初日こそ留守番させていたが、2日目以降アーウィンとは別の馬車になったためリリスはネージュたちを昨年のように学園へ誘ったが、ついてくることはなかった。
そして部屋で待っていた2匹もリリスが帰宅するとふらっと居なくなることも多かったので、この日居ないことを特にリリスは気にしなかった。

夕食を終えて、リリスが自室へ戻ると窓際の棚の上にネージュの姿があった。ネージュは、そこから窓の外を見ていた。

「あら、ネージュおかえり。今日は遅かったのね」

そう言いながら部屋を見渡すが、もう1匹の聖獣メイルの姿はなかった。リリスは不思議に思い、ネージュに再び声をかける。

「ネージュ?メイルはどうしたの?」

しかしネージュはリリスに視線を送ることはなく、窓から外をジッと見ていた。

この日を境にメイルの姿は、リリスの前から消えた。
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