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第2章

第91話 リリス13歳 愛情表現頑張ってみた2

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リリスとヘンリーは、中を珍しそうに見回した。中は座り心地の良さそうなソファーと小さなテーブルがあり、テーブルの上にはお芝居のパンフレットが置いてあった。
正面には装飾の施された柵があり、その先に広い空間が広がっていた。二人が柵から見ると、眼下には座席が並んでおり、さらにその先に幕の下りた舞台があった。

「なんかすごいね。何がすごいのか分からないけど、とにかくすごいね」

リリスは興奮した様子で彼に話しかけた。

「うん、そうだね。でもまさかボックス席で観られるなんて思わなかったな。リリィも知らなかったんでしょ?」

リリスはコクコクと頷いた。それにヘンリーは「これはリリィのお父上にお礼をしないとね」と微笑んだ。
ちょうどその時、扉がノックされ先程の支配人が飲み物を運んで来た。彼は飲み物とお菓子をテーブルに置くと「それではごゆっくりご覧ください」と言い、扉から出て行った。
リリスたちはソファーに腰掛けると、飲み物に手を伸ばす。そして「あっ、これ・・」とヘンリーは呟くと、リリスを見て「お父上は本当にすごいね」と言った。リリスが首を傾げると、彼は「これ僕の一番の好みなんだよ」とグラスを掲げて言った。思わずリリスは持っていたグラスの中身を確認する。

「あっ・・」

リリスも小さく声を漏らした。

(お父様、どんだけできる男なの?!私たちの好きな飲み物をズバリ用意させるって。さすが文官長やってるだけあるわぁ。はぁぁぁ、参った・・・これをされたら、女の子は惚れる!いや、お父様だから私は惚れないけどね!お母様はイイ男捕まえたねぇ。いやぁ、本当に参った・・・)

リリスはダーウィンの気遣いに脱帽した。そして二人は幸せな気分で芝居が始まるのを、待った。

やがて舞台の幕が上がった。内容は敵対する家同士の息子と娘の恋物語だった。冒険物などいろんな芝居が上演されていたが、マリーに「これが今王都で一番人気なんですよ」と言われ、それならと決めた芝居だった。
しかし今のリリスには、目の前で演じられている芝居より別のことで頭がいっぱいだった。なぜならヘンリーの言うところの"積極的な愛情表現"を頑張ってみようと決めていたからだった。ヘンリーに「リリィはお子様だから」と冗談でも言われた事に意地になっている部分はなくもないが、それでもいつも大事にしてくれる彼の気持ちに寄り添いたい想いもあった。

(はぁ、どうしよう。今日するとは決めたけど、いつ?・・それにお父様はマリーとトーマスを付けると言ってたけど、どこにいるんだろう・・まさか芝居中まで監視してないよね)

その時、ヘンリーはリリスと握りこぶし2つ分空いた距離を詰めてきた。そしてリリスの手を取った。リリスはヘンリーに顔を向けるが、彼の視線は舞台にあったので交わることはなかった。

(ひーっ、そんなピッタリくっつかなくても。あー、なんか緊張する。こんなのいつもの馬車と変わらないのに・・ゔー、もう吐きそう・・・そうよ!ここは馬車の中・・いつもの馬車・・馬・・ダメだぁぁぁ。どう見たって馬車じゃないしぃぃぃ)

「リリィ?どうかした?」

ヘンリーに小声で聞かれ、リリスは慌てて「だっ、大丈夫。お芝居が素敵で」と取り繕った。それに彼は「そう・・」と口にすると、再び舞台に視線を移した。

(はぁぁぁ、もう挙動不審になってどうするのよ。さっさとやらないから・・・そうよっ、悩んでたってなーんにも解決しないんだから!もう決めたんだし、さっさとやってしまいなさいよ、リリスっ!)

リリスはそう自分を鼓舞すると、思い切って口を開いた。

「ヘンリー・・」

リリスの呼びかけにヘンリーは「ん?」と顔を向ける。

(おぅふっ・・ヘンリーのキラキラスマイル眩しい・・くっっ・・この薄暗い空間で眩しすぎるんですけどぉぉぉ)

リリスは心の中でそう叫びながらも、必死に言葉を続けた。

「目を瞑ってくれる?お願い・・」

リリスの思いもしなかった願いにヘンリーは少し目を見開くが、すぐに表情を戻し言われたとおり目を閉じた。

(やっぱりヘンリーってイケメンよね。鼻筋もこう・・・いやいや、そんなことより・・いざっ!)

リリスは覚悟を決めると、ヘンリーに顔を近付けた。
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