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第2章
第69話 リリス13歳 思いの外、物騒でした
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ふたりはリリスの部屋へやって来た。ヘンリーは抱えていたぬいぐるみをソファーへ置くと、部屋をぐるっと見回した。
「部屋の改装したんだね。前に来たときと変わってる。リリィらしい、可愛らしい部屋だね」
「そお?あっ、壁紙には拘ったのよ」
ヘンリーの言った"前に来たとき"というのは、もう随分前の子供の頃だった。お互い幼い頃は彼も遊びに来るたびにこの部屋で過ごしていたが、リリスが魅力的な女性に成長するにつれ、彼はリリスの部屋以外で会うようにしていた。彼なりのリリスへの気遣いだった。
しかし今日はリリスの夢の話をするため、この部屋へやって来た。リリスは街のカフェでもいいと言ったが、誰にも聞かれる心配のないところがいいとのヘンリーの意見が通ったのだ。ヘンリーの提案には、ネージュへの対抗心が僅かながらにあったのは否定できないだろう。
侍女のマリーにお茶を淹れてもらい、下がらせると、ヘンリーはリリスの隣へ座り、彼女の艶の良い長い髪を指で梳きながら口を開いた。
「リリィ、疲れてない?早速、夢の話を聞きたいんだけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ヘンリーこそ屋敷まで来てもらってありがとう」
リリスの言葉にヘンリーがいつもの微笑みを彼女へ向けた。それにリリスの心臓は久しぶりに煩かった。
(なんか、急に緊張してきた。なんかヘンリー近くない?それにいつもより甘い雰囲気が・・しかも部屋に二人っきりだし)
実際、部屋には向かいのソファーで寛ぐネージュとさっき買ってもらった存在感の半端ないテディベアがいたし、今までも部屋に二人っきりは珍しくなかったが、久しぶりに自室へ彼が来たことがリリスの緊張を助長させたようだった。
リリスは頬が赤くなるのを自覚しながら
、話し始めた。
「そっ、そうね。夢の話をね・・ええと昨日見た夢は、女の子2人が話してて、それが読んだ本の感想を言い合ってるみたいなの。
でもその子たちは、どこか他の国とか昔の人とか・・なんて言えばいいか、うーん・・とにかくこの国の人じゃないの。話し方が違ったし、知らない言葉も使ってたから。
それから、私はその女の子の夢を前にも見たことあると思う。それにその子たちのことを知ってる気がするの」
「なるほど。リリィがその子たちを知ってる気がするのは、前にも夢を見たからではなくて?」
「ううん。違うと思う。最初は私もそう思ってたんだけど・・うまく言えないんだけど、とにかく知ってると思う」
ヘンリーはリリスの答えに頷き、更に聞いた。
「それでリリィはその子たちの話の内容を覚えてるよね?」
「もちろん。それであの悪夢と関係があると思ったんだもん。その小説というのが、アーサーとヒロインと呼ばれる女の子がどうやら恋に落ちるらしいの。アーサーは王子だと思う。それでナタリーっていう子がそのヒロインを階段から突き落として、腕を踏むって話してた。あっ、ナタリーはアーサーの婚約者だと思う」
「リリィ、それって・・」
リリスの話の内容にハッとしたヘンリーは、心配そうにリリスの手を握る。
「うん、そうなの。あの夢と同じことを話してたの。それでまだ続きがあって、そのナタリーが夜会でアーサーに問い詰められるの。婚約破棄までされて。
で、最後にアーサーがナタリーを国外追放にして刺客を送ってナタリーの乗った馬車を襲わせたって言ってたわ」
「何だか、国外追放とか刺客とかだいぶ物騒な話なんだね」
「そうね。話のナタリーって子が悪夢の私の立場なら、私がいずれ国外追放にされて刺客に襲われるってことだよね。アハハ・・」
「ちょっ、リリィ笑い事じゃないって!そんな事絶対にさせないし!でも話には王子が出てきたけど、うちの学園にはまだ王子はいないからね。いや、でも来年入学か!しかも名前が」
「「アーサー!」」
リリスとヘンリーの声が揃った。ヘンリーは握っていたリリスの手に力を入れ、自分に言い聞かせるように言葉を口にした。
「思ったより話が広がってきたけど、大丈夫だ。リリィには、僕が付いてるから。それにみんなもいる!大丈夫・・うん、大丈夫」
(なんかヘンリーが動揺してる気がするけど・・そりゃ、そうか。追放とか殺されるかもしれないんだもんね。でも不思議と怖くない。この手を掴んで離さなければ、私は大丈夫よ)
そんな二人の様子を向かいのソファーから、2つのブルーの瞳がじーっと見ていた。
「部屋の改装したんだね。前に来たときと変わってる。リリィらしい、可愛らしい部屋だね」
「そお?あっ、壁紙には拘ったのよ」
ヘンリーの言った"前に来たとき"というのは、もう随分前の子供の頃だった。お互い幼い頃は彼も遊びに来るたびにこの部屋で過ごしていたが、リリスが魅力的な女性に成長するにつれ、彼はリリスの部屋以外で会うようにしていた。彼なりのリリスへの気遣いだった。
しかし今日はリリスの夢の話をするため、この部屋へやって来た。リリスは街のカフェでもいいと言ったが、誰にも聞かれる心配のないところがいいとのヘンリーの意見が通ったのだ。ヘンリーの提案には、ネージュへの対抗心が僅かながらにあったのは否定できないだろう。
侍女のマリーにお茶を淹れてもらい、下がらせると、ヘンリーはリリスの隣へ座り、彼女の艶の良い長い髪を指で梳きながら口を開いた。
「リリィ、疲れてない?早速、夢の話を聞きたいんだけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ヘンリーこそ屋敷まで来てもらってありがとう」
リリスの言葉にヘンリーがいつもの微笑みを彼女へ向けた。それにリリスの心臓は久しぶりに煩かった。
(なんか、急に緊張してきた。なんかヘンリー近くない?それにいつもより甘い雰囲気が・・しかも部屋に二人っきりだし)
実際、部屋には向かいのソファーで寛ぐネージュとさっき買ってもらった存在感の半端ないテディベアがいたし、今までも部屋に二人っきりは珍しくなかったが、久しぶりに自室へ彼が来たことがリリスの緊張を助長させたようだった。
リリスは頬が赤くなるのを自覚しながら
、話し始めた。
「そっ、そうね。夢の話をね・・ええと昨日見た夢は、女の子2人が話してて、それが読んだ本の感想を言い合ってるみたいなの。
でもその子たちは、どこか他の国とか昔の人とか・・なんて言えばいいか、うーん・・とにかくこの国の人じゃないの。話し方が違ったし、知らない言葉も使ってたから。
それから、私はその女の子の夢を前にも見たことあると思う。それにその子たちのことを知ってる気がするの」
「なるほど。リリィがその子たちを知ってる気がするのは、前にも夢を見たからではなくて?」
「ううん。違うと思う。最初は私もそう思ってたんだけど・・うまく言えないんだけど、とにかく知ってると思う」
ヘンリーはリリスの答えに頷き、更に聞いた。
「それでリリィはその子たちの話の内容を覚えてるよね?」
「もちろん。それであの悪夢と関係があると思ったんだもん。その小説というのが、アーサーとヒロインと呼ばれる女の子がどうやら恋に落ちるらしいの。アーサーは王子だと思う。それでナタリーっていう子がそのヒロインを階段から突き落として、腕を踏むって話してた。あっ、ナタリーはアーサーの婚約者だと思う」
「リリィ、それって・・」
リリスの話の内容にハッとしたヘンリーは、心配そうにリリスの手を握る。
「うん、そうなの。あの夢と同じことを話してたの。それでまだ続きがあって、そのナタリーが夜会でアーサーに問い詰められるの。婚約破棄までされて。
で、最後にアーサーがナタリーを国外追放にして刺客を送ってナタリーの乗った馬車を襲わせたって言ってたわ」
「何だか、国外追放とか刺客とかだいぶ物騒な話なんだね」
「そうね。話のナタリーって子が悪夢の私の立場なら、私がいずれ国外追放にされて刺客に襲われるってことだよね。アハハ・・」
「ちょっ、リリィ笑い事じゃないって!そんな事絶対にさせないし!でも話には王子が出てきたけど、うちの学園にはまだ王子はいないからね。いや、でも来年入学か!しかも名前が」
「「アーサー!」」
リリスとヘンリーの声が揃った。ヘンリーは握っていたリリスの手に力を入れ、自分に言い聞かせるように言葉を口にした。
「思ったより話が広がってきたけど、大丈夫だ。リリィには、僕が付いてるから。それにみんなもいる!大丈夫・・うん、大丈夫」
(なんかヘンリーが動揺してる気がするけど・・そりゃ、そうか。追放とか殺されるかもしれないんだもんね。でも不思議と怖くない。この手を掴んで離さなければ、私は大丈夫よ)
そんな二人の様子を向かいのソファーから、2つのブルーの瞳がじーっと見ていた。
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