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第2章
第47話 リリス13歳 悪魔とヒロイン
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リリスたちは教室の前に到着した。隣のクラスだというレイリーと別れ、教室に入るといつもの面々が集まっているのを見つける。「おはよう」と声を掛けながら、近付くと「えー」「どうするの?」と彼らの声が耳に届いた。「何かあったの?」リリスはアリーナの後ろ姿に声をかけると、彼女は振り返り「それが・・」と言葉を切った。その言葉をエリーゼが続けた。
「それが私のお見合いのことなんだけど・・・決まりそうなの」
おめでたい話にリリスは「良かったわ。本当におめでとう」とお祝いの言葉を述べると、エリーゼは「ありがとう」と微妙な表情を浮かべた。彼女のとても喜んでいるとは思えない表情を見て首を傾げたリリスに、アシュリーが言った。
「相手はトーゴ伯爵家のグライン様なんだけど、どうやらあまり印象が良くなかったみたいなんだ」
「それって、なにか失礼なことをされたとか言われたとか?私の友達に何かしたら許さないんだから」
リリスの微妙に怖い発言に当のエリーゼが苦笑した。
「リリス様、ありがとうございます。でも私、何もされてないから大丈夫よ。ただお見合い中、グライン様ったら無愛想でニコリともしないの。だから少し不安になっただけなの。学院の方ってみんな、ああなのかしらね」
アリーナが「学院って、相手はダートライアル学院の方なの?」と聞くと、エリーゼは肯定した。
ダートライアル学院とは、騎士を育てる学校である。国内にはいくつか学校があるが、魔法ならセントラード魔法学園、騎士ならダートライアル学院が名門校として有名だった。
「みんな心配かけてごめんなさい。もしかしたら緊張していただけかもしれないし、きっと大丈夫よ」
気丈に明るく答えたエリーゼの言葉は、授業開始の鐘で終わりを告げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の帰り際、リリスはスタイラスに呼び止められた。どうやら夏休み中の約束を覚えていてくれたようだ。
「リリス嬢、前に話してくれたキャンディー屋のことなんだけど、何か気付いてたかな?」
「いいえ、何も・・」
(ていうか、すっかり忘れてたぁ。スタイラス様はちゃんと覚えていてくれたのに、当の本人が忘れてどうするのよ)
「そうか」と一言口にした彼が明日行ってみることを提案してきたので、予定のなかったリリスは承諾した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜、リリスはベッドの中で魘されていた。夢を見ていたのだ。
・・・・・・・・・・
(あっ、また。危ないから逃げて!)
誰かが階段の上から金色の髪の少女を突き落とそうとしている。
ドンッ
背中を押された少女は階段を転げ落ちていった。
落ちた先の踊り場に横たわった少女は、苦しそうに呻いている。少女は突き落とした悪魔を捉えようと、目を開く。そしてその黄色い瞳は、彼女を突き落とした悪魔を捉えた。
(この黄色い瞳に金色の髪・・・・まさかレイリー様?)
瞳の中の悪魔が大きくなる。踊り場まで下りてきたのだ。そのまま少女を見つめ、腰を折り、顔を近づけるとこの場に不釣り合いな笑みを浮かべて言った。
「あなたが悪いのよ」
顔を近づけた時に、少女の瞳の中に突き落とした悪魔の正体がはっきりと映った。
(嘘・・・)
その悪魔は、苦しそうに呻き続けている少女の腕をなんの戸惑いもなく踏みつけた。
・・・・・・・・・・
学園の生徒たちが取り囲んでいる輪の中から
『そんなことやってません!』
『あら、では私が嘘を言ってると、おっしゃるのかしら?・・・ひどいわ。皆さん、今の言葉をお聞きになって?』
金色の髪の少女と黒髪の悪魔の声がした。そして悪魔の言葉につられて、周囲の生徒たちの罵倒が金髪の少女に浴びせられた。
『ほらあ、皆さんよくおわかりになっていてよ。どちらが本当の事を言っているか』
悪魔の勝ち誇ったような台詞に金髪の少女は、キッと睨みつける。
その黄色い瞳には悪魔の姿がはっきり映っていた。
(やっぱり・・あの瞳はレイリー様だわ。それに、私・・・・)
『私を睨みつけるなんて、いい度胸してるじゃないの。男爵家の娘ごときが。学園にあなたの居場所はなくってよ』
おーほっほっほっ
悪魔の勝ち誇った高笑いが周囲に響いた。
・・・・・・・・・・
(もう嫌っ!やめてっ!)
リリスは飛び起きた。汗で濡れた夜着がカラダに纏わりつくのも構わず、見ていた夢に呆然としていた。
(あれはレイリー様と私だったわ。前に見た夢と同じ?違う。微妙にかわっていた。なんでレイリー様が?・・・本当に私、どうかしちゃたの・・これからどうなっちゃうの?)
リリスは言い知れぬ不安に心の中が黒く塗り潰されるのを感じ、それから一睡もできなかった。
「それが私のお見合いのことなんだけど・・・決まりそうなの」
おめでたい話にリリスは「良かったわ。本当におめでとう」とお祝いの言葉を述べると、エリーゼは「ありがとう」と微妙な表情を浮かべた。彼女のとても喜んでいるとは思えない表情を見て首を傾げたリリスに、アシュリーが言った。
「相手はトーゴ伯爵家のグライン様なんだけど、どうやらあまり印象が良くなかったみたいなんだ」
「それって、なにか失礼なことをされたとか言われたとか?私の友達に何かしたら許さないんだから」
リリスの微妙に怖い発言に当のエリーゼが苦笑した。
「リリス様、ありがとうございます。でも私、何もされてないから大丈夫よ。ただお見合い中、グライン様ったら無愛想でニコリともしないの。だから少し不安になっただけなの。学院の方ってみんな、ああなのかしらね」
アリーナが「学院って、相手はダートライアル学院の方なの?」と聞くと、エリーゼは肯定した。
ダートライアル学院とは、騎士を育てる学校である。国内にはいくつか学校があるが、魔法ならセントラード魔法学園、騎士ならダートライアル学院が名門校として有名だった。
「みんな心配かけてごめんなさい。もしかしたら緊張していただけかもしれないし、きっと大丈夫よ」
気丈に明るく答えたエリーゼの言葉は、授業開始の鐘で終わりを告げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の帰り際、リリスはスタイラスに呼び止められた。どうやら夏休み中の約束を覚えていてくれたようだ。
「リリス嬢、前に話してくれたキャンディー屋のことなんだけど、何か気付いてたかな?」
「いいえ、何も・・」
(ていうか、すっかり忘れてたぁ。スタイラス様はちゃんと覚えていてくれたのに、当の本人が忘れてどうするのよ)
「そうか」と一言口にした彼が明日行ってみることを提案してきたので、予定のなかったリリスは承諾した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜、リリスはベッドの中で魘されていた。夢を見ていたのだ。
・・・・・・・・・・
(あっ、また。危ないから逃げて!)
誰かが階段の上から金色の髪の少女を突き落とそうとしている。
ドンッ
背中を押された少女は階段を転げ落ちていった。
落ちた先の踊り場に横たわった少女は、苦しそうに呻いている。少女は突き落とした悪魔を捉えようと、目を開く。そしてその黄色い瞳は、彼女を突き落とした悪魔を捉えた。
(この黄色い瞳に金色の髪・・・・まさかレイリー様?)
瞳の中の悪魔が大きくなる。踊り場まで下りてきたのだ。そのまま少女を見つめ、腰を折り、顔を近づけるとこの場に不釣り合いな笑みを浮かべて言った。
「あなたが悪いのよ」
顔を近づけた時に、少女の瞳の中に突き落とした悪魔の正体がはっきりと映った。
(嘘・・・)
その悪魔は、苦しそうに呻き続けている少女の腕をなんの戸惑いもなく踏みつけた。
・・・・・・・・・・
学園の生徒たちが取り囲んでいる輪の中から
『そんなことやってません!』
『あら、では私が嘘を言ってると、おっしゃるのかしら?・・・ひどいわ。皆さん、今の言葉をお聞きになって?』
金色の髪の少女と黒髪の悪魔の声がした。そして悪魔の言葉につられて、周囲の生徒たちの罵倒が金髪の少女に浴びせられた。
『ほらあ、皆さんよくおわかりになっていてよ。どちらが本当の事を言っているか』
悪魔の勝ち誇ったような台詞に金髪の少女は、キッと睨みつける。
その黄色い瞳には悪魔の姿がはっきり映っていた。
(やっぱり・・あの瞳はレイリー様だわ。それに、私・・・・)
『私を睨みつけるなんて、いい度胸してるじゃないの。男爵家の娘ごときが。学園にあなたの居場所はなくってよ』
おーほっほっほっ
悪魔の勝ち誇った高笑いが周囲に響いた。
・・・・・・・・・・
(もう嫌っ!やめてっ!)
リリスは飛び起きた。汗で濡れた夜着がカラダに纏わりつくのも構わず、見ていた夢に呆然としていた。
(あれはレイリー様と私だったわ。前に見た夢と同じ?違う。微妙にかわっていた。なんでレイリー様が?・・・本当に私、どうかしちゃたの・・これからどうなっちゃうの?)
リリスは言い知れぬ不安に心の中が黒く塗り潰されるのを感じ、それから一睡もできなかった。
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