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第2章

第33話 リリス13歳 逃げる

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キャンディーのせいで夢見の悪かった朝、リリスの髪をとかしながら侍女のマリーが心配そうに聞いてきた。

「お嬢様、顔色がすぐれないようですが、大丈夫ですか?」

リリスは鏡の中の自分の顔を確認し、「そうかしら。全然大丈夫よ」と誤魔化すように笑顔を見せた。

(絶対あんな夢知られちゃダメよ。知られたらみんなになんて思われるか・・)
そんなマイナス思考についため息をついてしまう。

「やっぱり学園はお休みされたほうが」
マリーが言う言葉を「本当に大丈夫」とリリスは途中で止めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


学園へ登校したリリスはアリーナの元気な声に笑顔になった。

「リリスおはよう。今日は1限から文化史だね」

「おはよう。うん、今日眠くなっちゃうかもしれない」
(昨夜、あの夢のせいであまり眠れなかったのよね)

「あー、ローブン先生の喋り方眠気を誘うのよね」
とアリーナが肯定した。
ローブン先生とは文化史の先生で、彼女たちの年齢からはお爺ちゃんと呼ばれるほど高齢だった。そしてその喋り方がゴニョゴニョ話し、まるで子守唄と言われていた。
ふたりが話しているとスタイラスとアシュリーも登校してきた。
「「おはよう」」
「なに話してたんだい?」
スタイラスが挨拶もそこそこに聞いてきた。
「あのね、リリスが文化史の授業眠りそうだって話」
「昨日眠れなかったの?」
アシュリーが心配して聞いてきた。
「あー、まあね」とリリスは曖昧に答える。すると彼は教えてくれた。
「眠気覚ましにはコーヒーがいいよ」
「コーヒーね。カフェインがいいのよね?それとエナジードリンクも効くのよ」
リリスがそう言うと
「エナジードリンク?それは初めて聞いたな。どういうもの?詳しく教えてくれない?良さそうなら商会で扱うよう父さんに言ってみるから」
アシュリーが知らない商品に食いついてきた。
「えっ?私そんなこと言った?」
(また私、変な言葉言っちゃった?前にヘンリー様から気を付けるように言われたのに。エナジードリンクってなに?)
リリスが自分の口から出た知らない単語を、どうやって誤魔化そうか頭をフル回転させていると「リリス」と声がした。
ヘンリーが教室の扉から呼んでいたのだ。
みんなの「ほら、来たわよ」「今日は朝イチか」なんて言葉を背に、エナジードリンクから逃れられたことにホッとしながら、リリスはヘンリーに近づいた。

「ヘンリー様、おはようございます。今日は早いんですね」
(朝からイケメンオーラ浴びるなんて。朝日より眩しいわ)
今まで喋っていたスタイラスやアシュリーもヘンリーに負けず劣らず見目麗しいのだが、リリスにとってはヘンリーだけが輝いて見えるらしい。

「リリスおはよう。今日のランチ一緒にどうかなと思って誘いに来たんだ。ほら昨日のキャンディーも気になってね。食べたんだろう?」

(ひっ!あのキャンディー。忘れてたわ。・・・どっどっ、どうしよう、あんな夢を見たなんて言ったら、愛想つかされない?・・つかされるわ。絶対に感づかれたらだめよ!)
リリスの脳内センサーがピーーーッ!と激しく鳴り響いていた。そしてリリスはやはり隠すことに決めたようだ。

「あのー、えーと、今日はどうしてもアリーナたちと食べないといけなくて。ちょっと相談が・・・」

「相談?なに?心配ごと?」

(あっ、相談なんて言ったら、食いつかれちゃったじゃない!ばかぁ)
「いえ!相談ではなく、その・・あの・・ちょっと女の子の話なので・・」

「そっか、それじゃ仕方ないね。かわりに週末屋敷に遊びに行ってもいいかな?明後日なんてどお?」
そう言うとヘンリーはお願いと首を傾ける。

(あぁ、もう。なんだかヘンリー様に犬獣の耳と尻尾が見えてきたわ。実は本当に生えてるとか?!)
そんなことを考えながら、リリスは
「ええ、もちろん大丈夫です。」と満面の笑顔と共に返事をした。

「良かった。じゃ、明後日楽しみにしてるよ」
ヘンリーはリリスの頭をポンポンと軽く触れてから、教室へ帰って行った。

リリスも教室の中へ入り席に着くと、エリーゼがニヤニヤしながら登校してきた。廊下でヘンリーとすれ違ったのか彼女は「今日は朝から逢い引きなのね」と言った。
そして顔を見るなり言われたリリスは「やめて・・・」と力なく笑うしかなかった。
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