上 下
24 / 33
第Ⅱ章

第9話 兄弟

しおりを挟む
「まあ!この猫ちゃんセバちゃん様のっ・・んん」

白猫の姿を見たサマンサが思わず口にする台詞を察したライモンが「サマンサ!黙れっ・・」と慌てて塞ぐ。塞がれてすぐ彼女も失言だったと察したが、最近ライモンの自分に対する扱いが雑じゃないかという想いが頭をかすめる。

どうやら白猫、ナタリアがここに入っていくのを見たらしい。中に入って追いかけようとも思ったが、さすがに正面突破はできそうにないと、侵入方法を考えていたら、黒猫たちが来たそうだ。

なぜそのまま正面突破できないのか。それは門から中を見れば、一目瞭然だっだ。男爵家の敷地に地を這うおびただしい数のヘビがいたからだった。その光景を見たサマンサは、「ひぃっ!!」と悲鳴をあげたほどだ。

一同は、目的地を目前にして足止めを食らってしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一方、その頃のナタリアはというと、後ろ手に縛られ、犯人と対峙していた。

「何故こんな事をするんですか?前にも言いましたが、そんなにお嫌いでしたら、無視してくださればいいことですよね?」

「いちいち癪にさわるな。女なら男に口答えするんじゃねえよ」

「ちょっと兄さんは黙ってて!落ち着いて彼女と話ができないだろう」

ナタリアをさらったのは、伯爵兄弟バスチアンとテリオスだったのだ。テリオスはまだ何か言いたげな兄を制止し「無視できないほど、恨みが募ってると言ったら?」と疑問を投げかける。

「恨みが募る・・・?」

「ええ、そうです。そうでないと、こんな危険な橋渡りませんよ。それ程までに、過去の女神は酷い行いを我々の同胞にしたんです。よって、その生まれ変わりである貴女に責任を取ってもらうんです。ね?簡単な話でしょう?」

全くテリオスの話にピンとこないナタリアは「女神・・?生まれ変わり・・?」と口にする。

「ああ、やはり貴女のご両親は、隠し通したわけですね。真実を・・・おっと、このままおしゃべりしていたいところですが、外が騒がしくなるようなので貴女のお相手は後です」

そう言うと、二人は姿を消した。

ナタリアは今の会話を反芻はんすうするが、全く意味が分からない。

部屋を見渡すと、窓ひとつなく後ろには上へ上がる階段があり、ここが地下であることが想像できる。そして何より正面の壁には、美しい女性の肖像画が何枚も掛けられていた。

「キレイな人。どなたかしら・・・それにしても、この祭壇はなに?」

ナタリアが肖像画よりもっと気になったのは、壁の前に置かれた祭壇だった。そこには、小さな猫の彫像や宝石などが飾られていて、祭壇の中央には丸い水晶玉が置かれている。ナタリアは、玉から僅かに青い光が漏れ出しているのが、ずっと気になっていた。

ちょうど部屋にはナタリア一人。縛られたまま立ち上がり水晶玉を覗き込む。すると青い光が目の前いっぱいに広がり、そのままナタリアの身体は光の中に消えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『ニャタリアが待ってるニャ!このまま突っ込むニャ!』

黒猫はそう言うや否や、先頭を切って乗り込もうとするが、慌ててライモンがその首を根っこを掴む。

「君はもっと理知的だと思っていたが、どうした?」

『ニャにするニャッ!!離すニャ!ニャイモンこそ、ニャタリアが攫われたというニャに、よく冷静でいニャれるニャ!ここは、我ニャの勝手知ったる場所!余裕ニャ!』

黒猫の言葉を後押しするように『『ニャ~!!』』と辺りに響き渡る。

「ほお・・私のどこが冷静に見えるって?」

そう言ったライモンは笑顔だが、額には青筋が立ち、その瞳には冷たい光が宿っている。そんなライモンを見てもなお、セバちゃんはその手を掻い潜ろうと暴れている。しかし人間の力に敵うはずもなく、暴れる足は虚しく宙をかいた。

『離すニャッ!!』

セバちゃんとライモンのせめぎ合いが繰り広げられる中、そこにあらわれた二つの人影。

「何だよ。仲間割れかよ」

「まあ、どちらでもいいじゃないですか」

そこには、ライモンたちに余裕の笑みを向けるバスチアンとテリオスが立っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり令嬢に王子が夢中!

百谷シカ
恋愛
伯爵令嬢イーリス・レントリヒは、王妃アレクサンドラの侍女として宮廷で働いている。 ぽっちゃりしていて特に美人でもないので、誰の寵愛も受けないかわりに敵もいない。 ところがある日、王妃付きのコックから賄いを都合してもらった際に、酒を拝借しにきた第二王子ヨハンに見初められてしまう。 「はぁ……可愛い。丸くて白くてぷにぷにしてて、食べちゃいたいよ」 芸術好きで戦争嫌いの平和主義者ヨハンは、イーリスの見た目から性格までとにかく大好き! ♡無欲なぽっちゃり令嬢が幸せを掴むシンデレラストーリー♡ ==================================== (他ベリーズカフェ様・野いちご様、エブリスタ様に投稿)

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

静間 弓
恋愛
バーで初めて出会った男女は、互いの目的を利用し結婚することを決めた。それは、偽装結婚。27歳にして、恋人も居場所も全てを奪われてしまったヒロイン・瀬川 晴日。ある日突然、恋人が姉と結婚したことを機に、全てが一変してしまう。意地と勢いで知らない男との結婚を決めた晴日だったが、次第にその男に惹かれていく。しかし、その男は謎だらけ。だんだんと明かされていく衝撃の真実。晴日は、受け止めることができるのか。

転生した貴族令嬢は、辺境の森で魔女となる

椎名さえら
恋愛
「お前との婚約は今ここで破棄する!」 幼い頃からの婚約者だった公爵嫡男に舞踏会の最中に 婚約破棄された 私ーーユリアーナ。 彼の後ろには、か弱く震える貴族令嬢の姿が。 そしてその時に気づいてしまったのは、 「あ、これ、前世で読んでいた恋愛小説の一部分と同じだ」 前世で好んで読んでいた、転生もの恋愛小説と まったく同じ導入部分と気づき、仕方なく婚約破棄に同意した。 その後、貴族のしきたりに絡めとられて辺境の森へ追放となった。 ついてきてくれたのは、幼馴染みの公爵三男テオドールのみ。 6年後、誰からも忘れ去られた存在の私は魔女となるーー ____________________________ 魔女って書いてるけど、魔法は使いません(ゴメン) 長編と書いてるけど、たぶん短編(あいまい) ざまあ、を書いてみたい。 テンプレあるあるになったらゴメンナサイ。 皆さま、脳内に「ご都合主義」の魔法処理を先に 済ませてからお読みください。 「誤字脱字」「矛盾点」のスルースキルを磨く 良い修行になると思われます… ✴︎不定期更新ですが、朝と夜2回更新したい✴︎

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

有能なメイドは安らかに死にたい

鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。 運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。 ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。 彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。 リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。 熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。 シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。 ※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。 ※同性愛を含む部分有り ※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜 ※小説家になろうにも掲載しております。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...