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第Ⅱ章
第7話 小悪魔
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「姫には、こんな時間に男の部屋に来るということがどういう意味か教えないとダメかな?」
ライモンがいつもより少し低い声でそう言うと、ナタリアはピクリと肩を震わせる。その様子からして、ナタリアは何をするのか分かっていないようだ。
「そんな格好で夜の男の寝室を訪れるなど、襲ってくれと言ってるようなものだよ」
彼女の耳元でそう囁きかけると、最初こそキョトンとしていたナタリアは徐々に顔を真っ赤にする。どうやらやっと自分の置かれている状況を理解したようだ。
ライモンはゆっくりと彼女から離れると、ナタリアの表情を観察する。その顔は恥じらいに染まり、瞳は潤んでいる。その姿を見ただけで、ライモンの中の理性が千切れそうになる。
ライモンは必死に紳士の理性を手繰り寄せ、ナタリアの瞳から溢れそうな涙を指で拭い、そのまま頬に手を添えて視線を合わせる。ライモンはふわりと笑うと、彼女へ額へ口づけを送る。触れるだけの優しいキスだったが、それでもナタリアの顔は更に赤く染まり、瞳はさらに潤んだ。
そしてライモンはナタリアの唇に親指で触れ、ゆっくりと撫でるように動かした。ナタリアは固まりされるがままになっていたが、ライモンの手の動きに合わせて微かに唇を動かす。それが無意識なのか意識的な行動なのか分からないが、ライモンにとってその動きは扇情的でしかない。
ライモンはそのままナタリアの顎に手を添えると、上向きになるように誘導する。そして再びゆっくりと顔を近づけると、唇・・ではなく、首筋に触れるだけのキスを落とす。するとナタリアは身体を大きく跳ねさせ、身体を離そうとする。しかしライモンの腕が緩むことはない。
「まさかこの先を知りたいとか言わないよな?」
ナタリアの耳元で囁かれた言葉に僅かに首をフルフルと横に振る。そんな彼女にライモンは優しく微笑みかけ、頭をぽんぽんと軽く叩くとようやく拘束を解いた。
しばらく二人を静寂が包み込む。そして顔を真っ赤にして、俯くナタリアにライモンが声をかけようと口を開くと同時に彼女の可愛らしいセリフが届いた。
「今の私には早いので、いつか教えて下さい。私はライモン様から教わりたいです」
「っ!!」
ナタリアのその言葉を聞いた瞬間、ライモンは目を見開き固まってしまった。そしてそんな彼を見つめるナタリアもまた耳まで赤く染めながら、少し潤んだ瞳で彼を見上げていた。
・・・・・
二人はしばらく無言のまま視線を交わしていたが、やがてライモンが「もちろんだ。その役を他の男に渡すつもりなど毛頭ないよ」と苦笑する。
そしてライモンを見つめていたナタリアは、ハッと我に返った様子を見せると、扉に逃げるように駆け寄る。そして、そのまま出て行ってしまうのかと少し残念に思うライモンに向けて最後に可愛らしい言葉を残し、今度こそ扉から姿を消した。
「ありがとうございました。ライモン様のおかげでちゃんと眠れそうです。眠れない時は、また来ますね」
パタンッと音を立てて閉まる扉を呆然と見つめるライモンだったが、しばらくして我を取り戻すと、先ほどのナタリアの言葉を思い出し苦笑する。そしてその場にしゃがみ込み、乱暴に髪をクシャッと掴むと一人呟いた。
「まいったな。全然意味を分かってない・・・無垢すぎて、たちが悪いぞ。小悪魔だな」
しかしそこには困っているような表情はなく、むしろどこか嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。その後、ライモンはベッドの上で寝転びながら先ほどの出来事を思い返し、相変わらずなかなか寝付けないのだった。
そしてライモンの部屋を後にしたナタリア。自分の部屋に駆け込むようにして戻った彼女は、ベッドにポスンッと飛び込むようにして身体を横にする。真っ赤になった顔を手で覆い隠し、ジタバタしていた。
「あの先・・・」
彼女の口から小さく漏れた声。そして、枕を抱きかかえ顔を埋めると悶える。
こうして、ますます眠れない一夜を明かすことになったナタリアとライモン。
翌朝、ひと目見た瞬間お互いに頬を染めた二人の様子にサマンサが、何かあったなと勘づいたことは言うまでもない。
しかしそんな穏やかな朝を迎えた侯爵邸にこの日、大事件が襲いかかるのだった。
ライモンがいつもより少し低い声でそう言うと、ナタリアはピクリと肩を震わせる。その様子からして、ナタリアは何をするのか分かっていないようだ。
「そんな格好で夜の男の寝室を訪れるなど、襲ってくれと言ってるようなものだよ」
彼女の耳元でそう囁きかけると、最初こそキョトンとしていたナタリアは徐々に顔を真っ赤にする。どうやらやっと自分の置かれている状況を理解したようだ。
ライモンはゆっくりと彼女から離れると、ナタリアの表情を観察する。その顔は恥じらいに染まり、瞳は潤んでいる。その姿を見ただけで、ライモンの中の理性が千切れそうになる。
ライモンは必死に紳士の理性を手繰り寄せ、ナタリアの瞳から溢れそうな涙を指で拭い、そのまま頬に手を添えて視線を合わせる。ライモンはふわりと笑うと、彼女へ額へ口づけを送る。触れるだけの優しいキスだったが、それでもナタリアの顔は更に赤く染まり、瞳はさらに潤んだ。
そしてライモンはナタリアの唇に親指で触れ、ゆっくりと撫でるように動かした。ナタリアは固まりされるがままになっていたが、ライモンの手の動きに合わせて微かに唇を動かす。それが無意識なのか意識的な行動なのか分からないが、ライモンにとってその動きは扇情的でしかない。
ライモンはそのままナタリアの顎に手を添えると、上向きになるように誘導する。そして再びゆっくりと顔を近づけると、唇・・ではなく、首筋に触れるだけのキスを落とす。するとナタリアは身体を大きく跳ねさせ、身体を離そうとする。しかしライモンの腕が緩むことはない。
「まさかこの先を知りたいとか言わないよな?」
ナタリアの耳元で囁かれた言葉に僅かに首をフルフルと横に振る。そんな彼女にライモンは優しく微笑みかけ、頭をぽんぽんと軽く叩くとようやく拘束を解いた。
しばらく二人を静寂が包み込む。そして顔を真っ赤にして、俯くナタリアにライモンが声をかけようと口を開くと同時に彼女の可愛らしいセリフが届いた。
「今の私には早いので、いつか教えて下さい。私はライモン様から教わりたいです」
「っ!!」
ナタリアのその言葉を聞いた瞬間、ライモンは目を見開き固まってしまった。そしてそんな彼を見つめるナタリアもまた耳まで赤く染めながら、少し潤んだ瞳で彼を見上げていた。
・・・・・
二人はしばらく無言のまま視線を交わしていたが、やがてライモンが「もちろんだ。その役を他の男に渡すつもりなど毛頭ないよ」と苦笑する。
そしてライモンを見つめていたナタリアは、ハッと我に返った様子を見せると、扉に逃げるように駆け寄る。そして、そのまま出て行ってしまうのかと少し残念に思うライモンに向けて最後に可愛らしい言葉を残し、今度こそ扉から姿を消した。
「ありがとうございました。ライモン様のおかげでちゃんと眠れそうです。眠れない時は、また来ますね」
パタンッと音を立てて閉まる扉を呆然と見つめるライモンだったが、しばらくして我を取り戻すと、先ほどのナタリアの言葉を思い出し苦笑する。そしてその場にしゃがみ込み、乱暴に髪をクシャッと掴むと一人呟いた。
「まいったな。全然意味を分かってない・・・無垢すぎて、たちが悪いぞ。小悪魔だな」
しかしそこには困っているような表情はなく、むしろどこか嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。その後、ライモンはベッドの上で寝転びながら先ほどの出来事を思い返し、相変わらずなかなか寝付けないのだった。
そしてライモンの部屋を後にしたナタリア。自分の部屋に駆け込むようにして戻った彼女は、ベッドにポスンッと飛び込むようにして身体を横にする。真っ赤になった顔を手で覆い隠し、ジタバタしていた。
「あの先・・・」
彼女の口から小さく漏れた声。そして、枕を抱きかかえ顔を埋めると悶える。
こうして、ますます眠れない一夜を明かすことになったナタリアとライモン。
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しかしそんな穏やかな朝を迎えた侯爵邸にこの日、大事件が襲いかかるのだった。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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