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第Ⅰ章

第6話 侯爵邸庭園

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離れを後にしたナタリアは、ライモンに連れられて庭園を歩いていた。サマンサが言っていたとおり、侯爵邸の庭には、色とりどりのバラが咲き乱れており、豊潤で高貴な香りがナタリアを楽しませる。

六年ぶりの外の世界は、ナタリアの心を躍らせた。

ブロンドの髪を陽の光で輝かせ、ブルーのドレスを風でなびかせる姿は、天使のようだ。そして目をキラキラさせて花の香りを嗅ぎ、小走りに花の間を抜ける様子は、ライモンを楽しませた。

「気に入ったようだな」

ライモンの言葉に、ナタリアはハッと我に返ると、頬を染めた。

「私ったら、はしゃいでしまって・・」

「構わない。私は君のそうした表情を見たかったのだからな」

ライモンの言葉に、ナタリアの頬は更に赤みを増した。

やがて二人は、庭の端にある東屋までたどり着く。ライモンは置かれた椅子に腰を下ろすと、ナタリアに「おいで」と言った。手を広げて彼女を待つライモンにナタリアの心臓は途端にうるさくなる。ナタリアはそれを自覚しながら、ゆっくりとライモンに近付いた。

すると手の届くところまで来たナタリアの腕をライモンは少し強引に取ると、引っ張り腕の中に華奢な身体を閉じ込めた。気付けば、ナタリアの身体は彼の膝の上に乗っていた。

「ライモン様・・」

突然のことにナタリアが戸惑っていると、ライモンの顔がすぐ側にあった。

「ナタリア」

ナタリアの名を呼んだライモンは、額へのキスを送る。頬を染め、俯くナタリアに彼女の肩に顔を埋めたライモンが「かわいすぎるな・・」と呟いた。

「ナタリア・・君はこれからどうしたい?」

ライモンの唐突な質問にナタリアは戸惑いを見せる。

「これから?・・・“どうしたい”とは?」

そんな彼女を真っ直ぐ見つめるライモンは「ナタリア、私を見ろ。目を逸らすな」と言った

その言葉に素直に従うナタリアは、ゆっくりと顔を上げる。そこには優しく微笑むライモンの顔があった。

「いいか?君はあの屋敷を出て、自由となった。これから、君の好きなことができるんだ」

「自由・・好きなこと・・・」

「そうだ・・・ただ、もし君が望んでくれるなら、私は君の一番近い存在でありたいのだ。ゆっくりで構わない。私と共に歩む未来も考えてくれ。そして、いずれ君から“私のことを愛している”と言ってほしいと思っている」

懇願するように言ったライモンは、再びナタリアの額にキスを送る。今度は先程よりも長く、その唇に願いを込めるように触れた。

やがて唇を離したライモンは、ナタリアの額に自身のそれを合わせる。至近距離から見つめる彼の瞳は、揺れ動いていた。

「ずっと君を迎えに行きたかったんだ・・君に出会えて良かった・・」

「・・・はい。ライモン様、私もそう思ってます」

ナタリアのその言葉にライモンは「そうか」と短く返すと、柔らかな笑顔を送った。
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