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Scene14 誰かの悪意が迫ってます
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その夜、夕食を終えたシャーロットはローラと部屋で話していた。
シャーロットが「仕事はどお?」と尋ね、ローラがそれに「厳しいけど楽しい」と他愛もない会話を繰り広げている。
シャーロットは、棚に曲がって並ぶ置物を横一列に直しながら、口を動かしていた。ローラからは「お嬢様は、昔から置物が曲がっていたりすると、直してましたよね」と言われ、更に子爵家のメイドたちは、掃除の最後に必ず置物や壁の絵画などが曲がってないか確認していたと、語った。
そんなシャーロットの知らない話をされ、何だか自分が口うるさい小姑のようだと恥ずかしくなり、思わず苦笑いを浮かべる。
「別に曲がってるから、ダメとかではないのよ。ただ、気になって直しちゃうだけなの。でもメイドたちがそんなに気を使ってたなんて、知らなかったわ。ごめんね」
シャーロットがそう言って軽く謝罪の言葉を口にすると、ローラは慌てて取り繕う。
「あっ、いえ。申し訳ありません。ただご主人様方には、気持ちよく過ごしていただくのが、メイドの努めですから、やり甲斐があったんですよ」
「なるほどね。メイドの努め・・そうすると、今の私はセリウス様に気持ちよく過ごしてもらうために、何が必要か考える必要があるってことね。今は、ただ言われたことをこなしてるだけだもの」
メイド仕事の真髄を極めようとしているのか、シャーロットはやる気だ。しかし、セリウスが彼女を自分の側に置いている理由を知ってるローラは、「お嬢様は、そこまで追求されなくてもよろしいかと」とやんわりと止める。しかしシャーロットは「いいえ!ローラありがとう!明日からその心づもりで頑張るわ」と、やる気がみなぎったのだった。
しかしそんなシャーロットを横目にローラは、聞こえないよう声にならないセリフを口にすると、苦笑した。
「いえ・・お嬢様をメイドだと見てるのは、お嬢様だけなんですよ」
◇◇◇◇◇
「何これ!?」
その声を上げたのは、シャーロットだ。キラキラと宝石の輝く派手な髪留めを手にしている。一緒にいたローラが覗き込み、「まあっ、綺麗ですねぇ」と言った。
この時、シャーロットは棚の上の置物を直していた。昨夜、直したはずの置物が曲がっていたので、規則正しく直していたところ花瓶の中から音がしたのだ。不思議に思い覗いてみると、その髪留めが出てきた。
「これ、私のじゃないわ」
「そうですよね。お嬢様はこんな派手な髪留めは、好みではありませんものね」
ローラの言葉に頷くと、シャーロットは疑問を口にする。
「でも、誰が入れたのかしら?この部屋に入れる人なんて、私以外にいないはずなのに」
シャーロットの部屋に入れる人間は限られている。当然だ。新米メイドの彼女に親しい友人などいないし、当然掃除も自らするのだから・・また部屋の扉を開けるには鍵が必要で、それはいつも肌身離さず持っているからだ。
「そうですね。一体誰なんでしょう?」
シャーロットは眉を寄せて「気味悪いわね」と言うと、ローラが思い出したように「あっ!」と声を上げた。
メイド長のところに髪留めが失くなったと、訴えに来たメイドがいたことを思い出したのだ。
「それがこれ?」
「でしょうか・・」
「でも、何でそれがここにあるのかしら」
「さあ・・・」
二人は顔を見合わせて首を傾げた。そして、ローラが思いがけないことを口にする。誰かがこの部屋に侵入しているというのだ。その人物が髪留めを花瓶の中に入れたのだろうと・・・その人物の目的は分からないが、毎日侵入していたからこそ、直したはずの棚の置物が移動していたのではないかと言うのだ。
(確かにローラの主張が正しい気がするわ。でもこの部屋に高価のものはないのに、何が目的かしら・・・)
しかし、ここで思案していても埒が明かない。シャーロットは、明日メイド長に事情を話そうと決めたのだった。
そして翌日、仕事を終えたシャーロットが、メイド長の元へ向かおうと髪留めをしまっておいたクローゼットを開ける。すると、領地で作ったあのワンピースに異変が・・・切り裂かれていたのだ。
「きゃっ!嘘でしょ・・・何でこんなことに・・やっぱりこの部屋に誰か入ってる。それも毎日・・・・」
クローゼットの前で悲鳴を上げたシャーロットに「お嬢様、髪留めありましたか?」と声をかけるローラ。彼女もワンピースを見ると、「ひっ!」と後退りする。
「ひどい・・」
二人の顔は青ざめていた。シャーロットは、わずかに震えている。当然だ。明らかに、誰かの悪意によってこんなことをされているのだから・・・
あの洗濯室で絡んできたメイドたちの顔が脳裏をよぎるが、ここまで悪質な嫌がらせをするようには見えなかった。
(あの人たちではないわ。だってこんなことをしたら、いくらなんでも自分たちが疑われると分かるもの・・・)
シャーロットはそんなことを考えながら、ポケットから取り出した部屋の鍵を見つめた。はめ込まれた紫の石がキラキラと光っている。
そしてローラに促され、髪留めを手に取ると、メイド長の元へ向かった。
シャーロットが「仕事はどお?」と尋ね、ローラがそれに「厳しいけど楽しい」と他愛もない会話を繰り広げている。
シャーロットは、棚に曲がって並ぶ置物を横一列に直しながら、口を動かしていた。ローラからは「お嬢様は、昔から置物が曲がっていたりすると、直してましたよね」と言われ、更に子爵家のメイドたちは、掃除の最後に必ず置物や壁の絵画などが曲がってないか確認していたと、語った。
そんなシャーロットの知らない話をされ、何だか自分が口うるさい小姑のようだと恥ずかしくなり、思わず苦笑いを浮かべる。
「別に曲がってるから、ダメとかではないのよ。ただ、気になって直しちゃうだけなの。でもメイドたちがそんなに気を使ってたなんて、知らなかったわ。ごめんね」
シャーロットがそう言って軽く謝罪の言葉を口にすると、ローラは慌てて取り繕う。
「あっ、いえ。申し訳ありません。ただご主人様方には、気持ちよく過ごしていただくのが、メイドの努めですから、やり甲斐があったんですよ」
「なるほどね。メイドの努め・・そうすると、今の私はセリウス様に気持ちよく過ごしてもらうために、何が必要か考える必要があるってことね。今は、ただ言われたことをこなしてるだけだもの」
メイド仕事の真髄を極めようとしているのか、シャーロットはやる気だ。しかし、セリウスが彼女を自分の側に置いている理由を知ってるローラは、「お嬢様は、そこまで追求されなくてもよろしいかと」とやんわりと止める。しかしシャーロットは「いいえ!ローラありがとう!明日からその心づもりで頑張るわ」と、やる気がみなぎったのだった。
しかしそんなシャーロットを横目にローラは、聞こえないよう声にならないセリフを口にすると、苦笑した。
「いえ・・お嬢様をメイドだと見てるのは、お嬢様だけなんですよ」
◇◇◇◇◇
「何これ!?」
その声を上げたのは、シャーロットだ。キラキラと宝石の輝く派手な髪留めを手にしている。一緒にいたローラが覗き込み、「まあっ、綺麗ですねぇ」と言った。
この時、シャーロットは棚の上の置物を直していた。昨夜、直したはずの置物が曲がっていたので、規則正しく直していたところ花瓶の中から音がしたのだ。不思議に思い覗いてみると、その髪留めが出てきた。
「これ、私のじゃないわ」
「そうですよね。お嬢様はこんな派手な髪留めは、好みではありませんものね」
ローラの言葉に頷くと、シャーロットは疑問を口にする。
「でも、誰が入れたのかしら?この部屋に入れる人なんて、私以外にいないはずなのに」
シャーロットの部屋に入れる人間は限られている。当然だ。新米メイドの彼女に親しい友人などいないし、当然掃除も自らするのだから・・また部屋の扉を開けるには鍵が必要で、それはいつも肌身離さず持っているからだ。
「そうですね。一体誰なんでしょう?」
シャーロットは眉を寄せて「気味悪いわね」と言うと、ローラが思い出したように「あっ!」と声を上げた。
メイド長のところに髪留めが失くなったと、訴えに来たメイドがいたことを思い出したのだ。
「それがこれ?」
「でしょうか・・」
「でも、何でそれがここにあるのかしら」
「さあ・・・」
二人は顔を見合わせて首を傾げた。そして、ローラが思いがけないことを口にする。誰かがこの部屋に侵入しているというのだ。その人物が髪留めを花瓶の中に入れたのだろうと・・・その人物の目的は分からないが、毎日侵入していたからこそ、直したはずの棚の置物が移動していたのではないかと言うのだ。
(確かにローラの主張が正しい気がするわ。でもこの部屋に高価のものはないのに、何が目的かしら・・・)
しかし、ここで思案していても埒が明かない。シャーロットは、明日メイド長に事情を話そうと決めたのだった。
そして翌日、仕事を終えたシャーロットが、メイド長の元へ向かおうと髪留めをしまっておいたクローゼットを開ける。すると、領地で作ったあのワンピースに異変が・・・切り裂かれていたのだ。
「きゃっ!嘘でしょ・・・何でこんなことに・・やっぱりこの部屋に誰か入ってる。それも毎日・・・・」
クローゼットの前で悲鳴を上げたシャーロットに「お嬢様、髪留めありましたか?」と声をかけるローラ。彼女もワンピースを見ると、「ひっ!」と後退りする。
「ひどい・・」
二人の顔は青ざめていた。シャーロットは、わずかに震えている。当然だ。明らかに、誰かの悪意によってこんなことをされているのだから・・・
あの洗濯室で絡んできたメイドたちの顔が脳裏をよぎるが、ここまで悪質な嫌がらせをするようには見えなかった。
(あの人たちではないわ。だってこんなことをしたら、いくらなんでも自分たちが疑われると分かるもの・・・)
シャーロットはそんなことを考えながら、ポケットから取り出した部屋の鍵を見つめた。はめ込まれた紫の石がキラキラと光っている。
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