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Scene11 私ったら、なんてことを・・・どうしましょう

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思いの外、ルーカスの身体は後ろに転げ落ち、床に背中を打つ。しかしすぐに立ち上がると、焦点の合わない瞳でこちらを見つめてきた。

「ロッティ・・私たちは結婚するんだ。照れなくていいんだよ」

「照れてなどいません!大体、婚約している時は、手さえ握らなかったのに、どうなさったんですか?」

「あの頃は、君を大事にしたくて・・それにこういうことに、君は慣れてないだろう?」

この言い訳にシャーロットの中で何かが切れた。前にヨロヨロと立ち上がったルーカスにキッと力強い視線を向けると、辺りにパンッと乾いた音が響いた。

平手打ちされた頬を押さえながら、信じられないという表情をするルーカスの前で、シャーロットは声を張り上げる。

「コーネリアス様!貴方は最低です!それに、私には今の貴方を到底理解できません!本当にお医者様に診てもらってください!こんなところまで来られて、迷惑です!」

呆然自失状態のルーカスは、その場にへたり込み、その目に宿るのは驚愕と絶望だった。彼はその表情のまま、震える声で呟く。

「ロッティ・・私は何を間違えたんだ・・・?結婚できないのか・・?」

「当然です!」

「そんな・・私は・・・」

「・・・もう帰ってください。二度とここには来ないでください。そして・・・私の前に現れないで」

そう告げると、シャーロットは踵を返し、庭園を後にした。


◇◇◇◇◇


「いい身分よね。セリウス殿下に乗り換えて・・コーネリアス様と二人きりなんて」

ルーカスから逃げてきたシャーロットは、いまメイドたちに囲まれてる最中だった。場所は洗濯室。汚れた洗濯物の匂いと石鹸の香りが入り混じった部屋で、シャーロットを忌々しげに見つめてくるメイドたち。その中にルーカスと四阿にいるところを目撃したメイドもいる。

「乗り換えたとは、どういう意味ですか?」

そう聞き返したシャーロットの言葉に、彼女たちは嘲るような笑みを浮かべた。

「しらばっくれるつもり?コーネリアス様と婚約破棄して、殿下に乗り換えたんでしょう?それなのに、あんな場所にコーネリアス様と二人きりでいるなんて、破廉恥だわ」

「殿下への裏切りよ!」

シャーロットは目眩がした。別に望んでルーカスとあそこにいたわけではない。シーラもいると騙されたのだ。それなのに勝手に想像を膨らませて、言いがかりをつけてくる。

しかしここで事を荒立てては、自分をメイドにしてくれたセリウスの顔を潰すことになる。それに、こんなところで油を売ってる場合ではない。伯爵家令息を殴ってしまったのだから、両親に事の次第を知らせなければならない。そう思い、彼女は素直に想いをぶつけることにした。

「ごめんなさい。私、今それどころじゃないんです」

「何よ!私達とは話もできないってわけ?」

「違います!まず誤解なさってるみたいですから申し上げますが、コーネリアス様は私よりシーラ様に魅力を感じられたようなので、お互いのために婚約破棄をしたんです。シーラ様は私にないものをお持ちですから・・それにお二人のことは心から応援してるんですよ。それに殿下に乗り換えたなど、滅相もないです。そもそもメイドになることが何故になるのですか」

シャーロットはそう言うと、後退りする。しかし、一人のメイドが彼女の腕を掴むと、「待ちなさいよ」と凄むように言ってきた。

「そっ、それならさっき何故コーネリアス様と二人でいたのよ」

その問いにシャーロットは、首を傾げ答える。

「あれは本当によくわからないんです。コーネリアス様の言動がおかしいので、お医者様に診てもらうよう、進言してきました。それより私、彼を殴ってきたので、ここでのんびりしてる暇はないんです。だから部屋から出してください。すぐに両親に手紙で知らせなくてはなりません」

「「殴った!?」」

シャーロットはメイドたちの驚きの声を聞きながら、「はい」と大きく返事をした。それにかぶせ気味に「誰を?」と聞いてくるので、「誰って、コーネリアス様です」と答える。するとメイドたちは顔を見合わせ、「信じられない」「暴力を振るうなんて」などと口々に騒ぎ出した。

(信じなくてもいいけど、とにかく早く部屋から出してくれないかしら)

シャーロットはそう思ったが、彼女たちは背を向け、何やらヒソヒソと話し出した。その合間にチラチラとシャーロットに訝しげな眼差しを向けてくる。

(一体、どうなさったのかしら・・・)

そしてヒソヒソ話が終わったのか、シャーロットに向き直ったメイドたちが口を開く。

「あなた、本気でメイドに雇われと思ってるの?」

「はい、それ以外に何があるのですか?」

そして「あなた何者?」という全く意図のよめない質問にシャーロットは、「何者って、ただのメイドです」と当たり前に答える。しかし、向こうは「あなた、本当にそう思ってるの?」と更に質問を被せてきたので、内心ため息をつきながら答えを返した。

「はい、それ以外に何があるんですか?
殿下はメイドとして城に住み込めと、仰っしゃられました」

そして再びヒソヒソと話し出したメイドたち。シャーロットはいい加減焦っていた。

(お父様とお母様に早く知らせないといけないのに・・・)

そんな彼女の耳にメイドたちの会話の断片が微かに届く。

「メイ・・長の話と違・・ない」

「・・・単純?」

「ほ・・・素・・なの。噂・・・じゃない」

「私た・・・・馬鹿み・・」

シャーロットがじっと会話が終わるのを待っていると、メイドの一人がシャーロットに視線を向けた。

「もう行っていいわよ」

「えっ!?」

「だからもう行ってもいいわ。行かないのなら、もっとお説教してあげましょうか?」

シャーロットは、戸惑いながらも「いえ!ありがとうございます」と頭を下げると、シャーロットはこれ幸いとばかりに洗濯室から駆け出したのだった。
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