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第31話 試作品完成
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魔石を十分に用意したリリスは、アルミーダの元を訪ねていた。
「ほう、悪くないね」と言ったのは、リリス作の魔石を鑑定したアルミーダだ。魔女からお褒めの言葉をもらったリリスは、内心ガッツポーズをする。
(よしっ!頑張った、私!)
リリスはヘンリーにデロデロに甘やかされたあの夜から毎夕食後、彼と一緒に魔石を作らされ・・いや、作っていた。見ず知らずのフェクターと張り合うように魔石作りを促すヘンリーは、フェクターに貰ったあの注入器で作ることを良しとしなかった。作る時はいつも彼の膝に乗せられ、甘い眼差しを向けられていた為、リリスはドキドキと今にも心臓が破裂しそうな状態だった。そして、彼が帰る頃にはいつもヘロヘロだった。結果、リリスが作り上げた魔石のうち、ヘンリーとの共同制作?は8割、残り2割が注入器を使ったリリス作となった。
「それで今日は術式の相談をしたくて・・」
「あぁ、約束だったからね。で、絵本だったかい?動かしたいのは」
「はい、こちらなんですが・・」
そう言ってリリスが取り出した絵本には、『3匹の猫』とタイトルがある。
前世の物語『3匹の子豚』の豚を猫に置き換えて、リリスが書いたものだ。既に出版されている絵本を動かすことも考えたが、この世界で著作権がどうなっているのか分からなかった為、それは止めておいた。
なぜ猫にしたのか。それは猫獣であるネージュへのオマージュと前世のミズキが猫派だったというシンプルな理由だ。そして、3匹の子豚でオオカミから身を守ったのはレンガの家だったが、3匹の猫では野良猫のボスから大好物の猫用おやつ○ゅーるを守ったのは、友の協力という話にした。リリスなりに“友達っていいよ”というメッセージを込めたつもりだ。
「あの・・とりあえず試作品なので、絵も下手で恥ずかしいのですが」
「あっ?ああ・・確かにあまり上手くはないねえ」
「あはははっ、ですよねぇ。その辺りも今後考えます」とリリスは、乾いた笑いを浮かべる。
(前世でも壊滅的だったけど、絵心ってのは練習ではどうにもならないもんね。誰か絵の上手い人、探さなくちゃ・・)
そんなリリスをよそに、アルミーダは奥の棚から紙を一枚持ってくると、リリスの前に置いた。見ると、そこには魔法の術式が書かれていた。驚いたリリスがアルミーダをパッと見ると、彼女は「なるべく簡単に組んどいたよ。お前さんでもできるようにな」と迷惑そうに言った。
実はリリスは自分で術式を組むつもりだったが、あまり自信はなかった。アルミーダに相談しながらなら、何とかなるかなぁぐらいに考えていた。しかしそんなリリスを察してなのか、アルミーダは術式を完成させていた。
また、アルミーダの迷惑そうな表情は、時として見える感情とは違う時がままあることをリリスは知っていた。今のそれは、完全に照れ隠しだ。リリスは「ありがとうございます!」と嬉しそうに言うと、アルミーダは嬉しそうな表情を必死に堪え「大したことじゃぁない」とそっぽを向いた。アルミーダが上がりそうな口の端を固く閉じ我慢していたのを、リリスは見逃さなかった。
(フフフッ・・やっぱりアルミーダって、なんだかんだ親切だよね。ホント天邪鬼なんだから)
「早速、やってみてもいいですか?」
「断りなんかいらないから、早くおやり」
「はい!・・えーっと・・・」と、リリスは紙とにらめっこを始める。術式というのは形も色々あるが、基本的に幾何学模様に文字が組み合わさってできている。術者は、それを頭にイメージして魔法を埋め込みたい物に集中する。そうすると、術式に組まれた魔法作用が対象物に刻まれるのだ。この場合の対象物は、魔石だ。
リリスは術式を細部に至るまで、頭に叩き込む。付与したい魔法作用が多ければ多いほど複雑になる為、頭の中で完璧にイメージするのは大変だ。慣れた者なら術式を書き出さず、即興で頭の中で組み立てられるが、授業で習っただけのリリスにはそんな芸当無理だった。
頭に入れたリリスは「では」と魔石を手にし、集中する。徐々に手元がじんわり温かくなる。しかしアルミーダが「おや」と言うのと同時に、魔石に当てられたリリスの手が弾かれた。それはまるで魔石に拒否されたように見えた。
「あぁ・・」
落胆するリリスの手には、黒く変色した魔石が握られていた。「失敗のようだねぇ」と言うアルミーダにリリスは、悔しさを滲ませ「はい・・」と返す。そして頭を軽く振ると、次の魔石を手にし、術式をイメージする。再び手元が温かくなり、先程より強くイメージを浮かび上がらせる。そして、それが数分続いた後、手の中の魔石が光を放った。成功した証だ。
「出来た!アルミーダさん!出来ました!」
嬉しそうにはしゃぐリリスにアルミーダは「喜ぶのは早い」と落ち着いて言った。
「あっ、そうですよね。すみません。授業以外で成功させたのは、初めてで、つい・・・」
「それよりほら、あと一息だ」
そう言って、アルミーダは絵本を差し出す。リリスはそれを受け取ると、背表紙を器用に剥がし、魔石を埋め込むと、背表紙を元に戻した。
「今度こそ完成です!」と誇らしげに絵本を掲げるリリスに、またしてもアルミーダは否定の言葉を告げる。
「まだだろうがね」
「えっ?ほら、間違いなく完成しましたよ!ちゃんと見てましたか?」
「全く失礼な子だねぇ。歳はとっても
、目も耳もまだはっきりしとるわ。目の前で見てたろうに・・物は出来たが、ちゃんと動くのかって言ってるんだよっ、あたしゃ」
「あっ!そういう・・そうですね・・・では、早速・・」
そう口にしたリリスは、表紙に手をかける。
ゴクリ・・・
自然と緊張がはしり、リリスの喉が渇く。そして、一呼吸おいたリリスは、ゆっくりと表紙をめくった。
「ほう、悪くないね」と言ったのは、リリス作の魔石を鑑定したアルミーダだ。魔女からお褒めの言葉をもらったリリスは、内心ガッツポーズをする。
(よしっ!頑張った、私!)
リリスはヘンリーにデロデロに甘やかされたあの夜から毎夕食後、彼と一緒に魔石を作らされ・・いや、作っていた。見ず知らずのフェクターと張り合うように魔石作りを促すヘンリーは、フェクターに貰ったあの注入器で作ることを良しとしなかった。作る時はいつも彼の膝に乗せられ、甘い眼差しを向けられていた為、リリスはドキドキと今にも心臓が破裂しそうな状態だった。そして、彼が帰る頃にはいつもヘロヘロだった。結果、リリスが作り上げた魔石のうち、ヘンリーとの共同制作?は8割、残り2割が注入器を使ったリリス作となった。
「それで今日は術式の相談をしたくて・・」
「あぁ、約束だったからね。で、絵本だったかい?動かしたいのは」
「はい、こちらなんですが・・」
そう言ってリリスが取り出した絵本には、『3匹の猫』とタイトルがある。
前世の物語『3匹の子豚』の豚を猫に置き換えて、リリスが書いたものだ。既に出版されている絵本を動かすことも考えたが、この世界で著作権がどうなっているのか分からなかった為、それは止めておいた。
なぜ猫にしたのか。それは猫獣であるネージュへのオマージュと前世のミズキが猫派だったというシンプルな理由だ。そして、3匹の子豚でオオカミから身を守ったのはレンガの家だったが、3匹の猫では野良猫のボスから大好物の猫用おやつ○ゅーるを守ったのは、友の協力という話にした。リリスなりに“友達っていいよ”というメッセージを込めたつもりだ。
「あの・・とりあえず試作品なので、絵も下手で恥ずかしいのですが」
「あっ?ああ・・確かにあまり上手くはないねえ」
「あはははっ、ですよねぇ。その辺りも今後考えます」とリリスは、乾いた笑いを浮かべる。
(前世でも壊滅的だったけど、絵心ってのは練習ではどうにもならないもんね。誰か絵の上手い人、探さなくちゃ・・)
そんなリリスをよそに、アルミーダは奥の棚から紙を一枚持ってくると、リリスの前に置いた。見ると、そこには魔法の術式が書かれていた。驚いたリリスがアルミーダをパッと見ると、彼女は「なるべく簡単に組んどいたよ。お前さんでもできるようにな」と迷惑そうに言った。
実はリリスは自分で術式を組むつもりだったが、あまり自信はなかった。アルミーダに相談しながらなら、何とかなるかなぁぐらいに考えていた。しかしそんなリリスを察してなのか、アルミーダは術式を完成させていた。
また、アルミーダの迷惑そうな表情は、時として見える感情とは違う時がままあることをリリスは知っていた。今のそれは、完全に照れ隠しだ。リリスは「ありがとうございます!」と嬉しそうに言うと、アルミーダは嬉しそうな表情を必死に堪え「大したことじゃぁない」とそっぽを向いた。アルミーダが上がりそうな口の端を固く閉じ我慢していたのを、リリスは見逃さなかった。
(フフフッ・・やっぱりアルミーダって、なんだかんだ親切だよね。ホント天邪鬼なんだから)
「早速、やってみてもいいですか?」
「断りなんかいらないから、早くおやり」
「はい!・・えーっと・・・」と、リリスは紙とにらめっこを始める。術式というのは形も色々あるが、基本的に幾何学模様に文字が組み合わさってできている。術者は、それを頭にイメージして魔法を埋め込みたい物に集中する。そうすると、術式に組まれた魔法作用が対象物に刻まれるのだ。この場合の対象物は、魔石だ。
リリスは術式を細部に至るまで、頭に叩き込む。付与したい魔法作用が多ければ多いほど複雑になる為、頭の中で完璧にイメージするのは大変だ。慣れた者なら術式を書き出さず、即興で頭の中で組み立てられるが、授業で習っただけのリリスにはそんな芸当無理だった。
頭に入れたリリスは「では」と魔石を手にし、集中する。徐々に手元がじんわり温かくなる。しかしアルミーダが「おや」と言うのと同時に、魔石に当てられたリリスの手が弾かれた。それはまるで魔石に拒否されたように見えた。
「あぁ・・」
落胆するリリスの手には、黒く変色した魔石が握られていた。「失敗のようだねぇ」と言うアルミーダにリリスは、悔しさを滲ませ「はい・・」と返す。そして頭を軽く振ると、次の魔石を手にし、術式をイメージする。再び手元が温かくなり、先程より強くイメージを浮かび上がらせる。そして、それが数分続いた後、手の中の魔石が光を放った。成功した証だ。
「出来た!アルミーダさん!出来ました!」
嬉しそうにはしゃぐリリスにアルミーダは「喜ぶのは早い」と落ち着いて言った。
「あっ、そうですよね。すみません。授業以外で成功させたのは、初めてで、つい・・・」
「それよりほら、あと一息だ」
そう言って、アルミーダは絵本を差し出す。リリスはそれを受け取ると、背表紙を器用に剥がし、魔石を埋め込むと、背表紙を元に戻した。
「今度こそ完成です!」と誇らしげに絵本を掲げるリリスに、またしてもアルミーダは否定の言葉を告げる。
「まだだろうがね」
「えっ?ほら、間違いなく完成しましたよ!ちゃんと見てましたか?」
「全く失礼な子だねぇ。歳はとっても
、目も耳もまだはっきりしとるわ。目の前で見てたろうに・・物は出来たが、ちゃんと動くのかって言ってるんだよっ、あたしゃ」
「あっ!そういう・・そうですね・・・では、早速・・」
そう口にしたリリスは、表紙に手をかける。
ゴクリ・・・
自然と緊張がはしり、リリスの喉が渇く。そして、一呼吸おいたリリスは、ゆっくりと表紙をめくった。
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