19 / 58
第18話 リリス 悶々と悩む
しおりを挟む
アリーナの屋敷から戻ったリリスは、ヘンリーの到着を待っていた。自分の心臓がドクドクとうるさい事を自覚しながら、待つのは初めてだ。緊張の原因はアリーナとエリーゼだ。二人が言った言葉。
『ヘンリー様を労ってあげなさいよ』
『とにかくキスぐらいしてあげなさいよ。ヘンリー様、すごく我慢してると思うわ』
言われたセリフを思い出したリリスは、それを頭から追い出すようにブンブンと頭を振る。
(キス・・キスってどうやるんだっけ・・・“今からキスします”とか言ったほうがいいの?・・いやいや、それはないよね。雰囲気と流れよね。
大体、前世でも経験ないのに、ハードル高くない!?・・・・うん、高い。めっちゃ高い。棒高跳びの世界記録を超えちゃうぐらい高いわ。いや、エベレスト級かもね・・・いやいや、それは高すぎっ!せめて富士山級ね。
そうよ!こういうことは男性に任せておけば、いいのよ。人は人うちはうちよね・・・・・あっ、でもヘンリー我慢してるって・・キス“ぐらい”してあげなって、言ってたしなぁ。“ぐらい”って何!?そんなに簡単なものなの?キスって!?)
表情が目まぐるしく変わるリリスの様子に侍女のマリーが怪訝な顔で聞いてきた。
「お嬢様?大丈夫ですか?帰って来てから、様子が変ですよ」
「へっ?・・あー、うん、平気!全然大丈夫だからっ!ホントに何にも考えてないからっ・・・いつもと何にも変わらないから・・・」
早口で捲し立てるリリスは、誰がどう見ても怪しい。マリーの言うとおり、帰宅した際も階段は踏み外しそうになるわ、自室と間違えて隣のアシュリーの部屋へ入ろうとするわ、ひどい有様だった。しかし、そんな事を気にする余裕のないリリスは「平気」と言いながら、その返事すら上の空だ。そんな彼女の様子にマリーはため息交じりに言う。
「お嬢様・・・いつも言っておりますよね?お嬢様の“大丈夫”は全く大丈夫ではないと・・・一体何があったのですか?今からヘンリー様がお見えになるというのに・・」
ガシャンッ
持ち上げようとしたカップをテーブルに落としそうになり、マリーが駆け寄る。“ヘンリー”という単語にリリスの身体が敏感に反応してしまった結果だ。慌てた様子で「火傷はないか」とリリスを心配する侍女の姿にリリスは申し訳なくなった。
(まさかキスのことで悩んでるなんて思ってもないだろうな、マリーは・・・)
リリスは小さくため息をつくと「ごめんなさい、マリー」と謝る。まるで幼い子供のように謝るリリスにマリーは微笑むと、優しく語りかける。
「お嬢様、僭越ながら何か心配事がおありでしたら、私でよろしければ相談にのります。例え簡単に答えの出ない悩みでも、誰かに話してしまえば気が楽になるものです。それに案外お嬢様が悩むほど、深刻なものではないかもしれませんよ」
その言葉にジーンと胸が熱くなり、ウルっときてしまったリリスは「マリーが優しい・・・・」と消え入りそうな声を出す。それにマリーはリリスの手を取り、そっと包むと頼もしい笑顔で言った。
「お嬢様、マリーは“いつも”優しいのですよ。それで?何をそんなにお悩みなのですか?」
(うぅ・・・そうなの、貴女が思ってるような深刻な悩みじゃないのよ。でもこう言ってくれてるし、どうする?聞く?聞かない?・・思い切って聞いちゃうか?・・・いやいや、こんなに真剣に打ち明けられるのを待ってるマリーに、まさか“キスはどうやってするの”なんて、聞けないよぉ)
今度はマリーに話すべきかどうか頭を悩ませるリリスがうんうん唸っていると、ドアをノックする音がし、執事がヘンリーの到着を告げに来た。「リリスお嬢様、ヘンリー様がご到着されました」という言葉に「はひぃぃぃ」と声を裏返らせ答えたリリス。それを見たマリーは眉間に指を当て渋い顔をしているという目も当てられない光景が部屋に広がっている。
「はははっ・・・はぁぁ・・」
リリスは、取り乱したことを今更ごまかすように乾いた笑いをこぼすと、ため息をつく。そして「マリー、ありがとう。心配かけてごめんね。大丈夫だから」と笑顔を見せた。それにマリーは少し残念そうに微笑むと「分かりました」とだけ返す。
そしてリリスはヘンリーの待つ客間へと向かった。彼のもとへ向う足は重しをつけてるかのように重く、心臓はうるさく鳴り心を乱す。
(落ち着け、落ち着けぇ。いつも通り夕食を共にして、楽しく会話をするだけじゃない・・・・息を吸ってぇ・・吐いてぇ・・・ヒッヒッフーヒッヒッフー・・ヒッヒ・・あっ、これ違った。これじゃあ、赤ちゃん生まれちゃうじゃないのよ。まったく私ったら・・・・とにかく、もう成るように成れっ!運否天賦(うんぷでんぷ)よっ!)
リリスは覚悟を決めると、開かれた扉を通り『作戦名 キス完遂』の攻略対象の前へと姿を現したのだった。
『ヘンリー様を労ってあげなさいよ』
『とにかくキスぐらいしてあげなさいよ。ヘンリー様、すごく我慢してると思うわ』
言われたセリフを思い出したリリスは、それを頭から追い出すようにブンブンと頭を振る。
(キス・・キスってどうやるんだっけ・・・“今からキスします”とか言ったほうがいいの?・・いやいや、それはないよね。雰囲気と流れよね。
大体、前世でも経験ないのに、ハードル高くない!?・・・・うん、高い。めっちゃ高い。棒高跳びの世界記録を超えちゃうぐらい高いわ。いや、エベレスト級かもね・・・いやいや、それは高すぎっ!せめて富士山級ね。
そうよ!こういうことは男性に任せておけば、いいのよ。人は人うちはうちよね・・・・・あっ、でもヘンリー我慢してるって・・キス“ぐらい”してあげなって、言ってたしなぁ。“ぐらい”って何!?そんなに簡単なものなの?キスって!?)
表情が目まぐるしく変わるリリスの様子に侍女のマリーが怪訝な顔で聞いてきた。
「お嬢様?大丈夫ですか?帰って来てから、様子が変ですよ」
「へっ?・・あー、うん、平気!全然大丈夫だからっ!ホントに何にも考えてないからっ・・・いつもと何にも変わらないから・・・」
早口で捲し立てるリリスは、誰がどう見ても怪しい。マリーの言うとおり、帰宅した際も階段は踏み外しそうになるわ、自室と間違えて隣のアシュリーの部屋へ入ろうとするわ、ひどい有様だった。しかし、そんな事を気にする余裕のないリリスは「平気」と言いながら、その返事すら上の空だ。そんな彼女の様子にマリーはため息交じりに言う。
「お嬢様・・・いつも言っておりますよね?お嬢様の“大丈夫”は全く大丈夫ではないと・・・一体何があったのですか?今からヘンリー様がお見えになるというのに・・」
ガシャンッ
持ち上げようとしたカップをテーブルに落としそうになり、マリーが駆け寄る。“ヘンリー”という単語にリリスの身体が敏感に反応してしまった結果だ。慌てた様子で「火傷はないか」とリリスを心配する侍女の姿にリリスは申し訳なくなった。
(まさかキスのことで悩んでるなんて思ってもないだろうな、マリーは・・・)
リリスは小さくため息をつくと「ごめんなさい、マリー」と謝る。まるで幼い子供のように謝るリリスにマリーは微笑むと、優しく語りかける。
「お嬢様、僭越ながら何か心配事がおありでしたら、私でよろしければ相談にのります。例え簡単に答えの出ない悩みでも、誰かに話してしまえば気が楽になるものです。それに案外お嬢様が悩むほど、深刻なものではないかもしれませんよ」
その言葉にジーンと胸が熱くなり、ウルっときてしまったリリスは「マリーが優しい・・・・」と消え入りそうな声を出す。それにマリーはリリスの手を取り、そっと包むと頼もしい笑顔で言った。
「お嬢様、マリーは“いつも”優しいのですよ。それで?何をそんなにお悩みなのですか?」
(うぅ・・・そうなの、貴女が思ってるような深刻な悩みじゃないのよ。でもこう言ってくれてるし、どうする?聞く?聞かない?・・思い切って聞いちゃうか?・・・いやいや、こんなに真剣に打ち明けられるのを待ってるマリーに、まさか“キスはどうやってするの”なんて、聞けないよぉ)
今度はマリーに話すべきかどうか頭を悩ませるリリスがうんうん唸っていると、ドアをノックする音がし、執事がヘンリーの到着を告げに来た。「リリスお嬢様、ヘンリー様がご到着されました」という言葉に「はひぃぃぃ」と声を裏返らせ答えたリリス。それを見たマリーは眉間に指を当て渋い顔をしているという目も当てられない光景が部屋に広がっている。
「はははっ・・・はぁぁ・・」
リリスは、取り乱したことを今更ごまかすように乾いた笑いをこぼすと、ため息をつく。そして「マリー、ありがとう。心配かけてごめんね。大丈夫だから」と笑顔を見せた。それにマリーは少し残念そうに微笑むと「分かりました」とだけ返す。
そしてリリスはヘンリーの待つ客間へと向かった。彼のもとへ向う足は重しをつけてるかのように重く、心臓はうるさく鳴り心を乱す。
(落ち着け、落ち着けぇ。いつも通り夕食を共にして、楽しく会話をするだけじゃない・・・・息を吸ってぇ・・吐いてぇ・・・ヒッヒッフーヒッヒッフー・・ヒッヒ・・あっ、これ違った。これじゃあ、赤ちゃん生まれちゃうじゃないのよ。まったく私ったら・・・・とにかく、もう成るように成れっ!運否天賦(うんぷでんぷ)よっ!)
リリスは覚悟を決めると、開かれた扉を通り『作戦名 キス完遂』の攻略対象の前へと姿を現したのだった。
0
お気に入りに追加
357
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
貴族としては欠陥品悪役令嬢はその世界が乙女ゲームの世界だと気づいていない
白雲八鈴
恋愛
(ショートショートから一話目も含め、加筆しております)
「ヴィネーラエリス・ザッフィーロ公爵令嬢!貴様との婚約は破棄とする!」
私の名前が呼ばれ婚約破棄を言い渡されました。
····あの?そもそもキラキラ王子の婚約者は私ではありませんわ。
しかし、キラキラ王子の後ろに隠れてるピンクの髪の少女は、目が痛くなるほどショッキングピンクですわね。
もしかして、なんたら男爵令嬢と言うのはその少女の事を言っています?私、会ったこともない人のことを言われても困りますわ。
*n番煎じの悪役令嬢モノです?
*誤字脱字はいつもどおりです。見直してはいるものの、すみません。
*不快感を感じられた読者様はそのまま閉じていただくことをお勧めします。
加筆によりR15指定をさせていただきます。
*2022/06/07.大幅に加筆しました。
一話目も加筆をしております。
ですので、一話の文字数がまばらにになっております。
*小説家になろう様で
2022/06/01日間総合13位、日間恋愛異世界転生1位の評価をいただきました。色々あり、その経緯で大幅加筆になっております。
めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。
hoo
恋愛
ほぅ……(溜息)
前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。
ですのに、どういうことでございましょう。
現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。
皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。
ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。
ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。
そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。
さあ始めますわよ。
婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒロインサイドストーリー始めました
『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』
↑ 統合しました
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
【完結】悪役令嬢になるはずだった令嬢の観察日記
かのん
恋愛
こちらの小説は、皇女は当て馬令息に恋をする、の、とある令嬢が記す、観察日記となります。
作者が書きたくなってしまった物語なので、お時間があれば読んでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる