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第10話 謀(はかりごと)3
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「どうせなら、彼女の思う通りの話にお膳立てしてあげるのはどうかな?」
しばらく皆が口を閉じ考えている中、リリスがゆっくりと口を開いた。その言葉に首を傾げる皆は、言葉の意味を噛み砕く。戸惑いの色を滲ませたヘンリーは、尋ねる。
「えっと・・リリィ、それはどういう意味かな?」
「だからあの物語の話通りになるように、あえて私たちが仕組むのよ」
屈託なく答えるリリスにアリーナたちは驚きの表情を見せる。そしてヘンリーは悩ましげに眉間を押さえている。色気が漂うその姿は、後ろで咲く花々を背景にした絵画のようにも見える。リリスへ戸惑い表情の中に弱々しい笑みを浮かべたヘンリーが問う。
「それは僕との婚約は解消して、殿下と婚約。そしていずれ君は国外追放されると・・」
「・・えっ?・・・」
さっきまでの和やかな空気は消え、代わりに物々しい空気が辺りを覆う。そんな中、アリーナが口を開いた。
「ちょっと、リリス。突然何を言い出すのよ」
「あっ!違う違う!ヘンリー、違うの!」
皆の反応に勘違いされてることに気付いたリリスが、隣に座る彼の手を取り慌てて否定する。自然と握る手に力が入る。
「あくまでも形だけだよ」
「形だけとは?」
黙って聞いていたスタイラスが口を挟む。その瞳にヘンリーの手を握ったまま
こちらへ身を乗り出すリリスが映っている。
「うん。あの子に物語通りに進んでるとそう思わせるのよ。ただあくまでも私が国外追放がされる前の夜会までね。あっ、夜会は社交デビューしてないから無理ね・・今年の卒業パーティー!そこがラスト。そこでネタバラシして、彼女にちょっとギャフンしてもらうの」
「そんな簡単な話ではないんじゃない?」
「そうだね・・それに殿下やみんなの協力をとりつけて話を合わせる必要がある。僕らだけでは無理があるからね」
「それはそうね。殿下もあの子に意味もわからずストーカーされて困ってると思うの。それに殿下はこういうこと喜んで協力するタイプに見えるわ。それに学園のみんなにも協力してもらうためには、やっぱり殿下からお話ししてもらうのが一番だと思う」
「なるほど。そうなるとグラム王子とリュシェル王女の協力もとりつけないと」
「もちろんよ。あの噂が本当なら、ちゃんと説明をしておかないと外交問題だもの」
リリスたちが話を進める中、ヘンリーが会話に交じる。
「ひとつ気がかりなことがあるんだ。リリィの言うとおり進めるには、君が転生者だと話す必要があるんじゃないか?・・もし前世の記憶があると知られたら、リリィを利用しようとする者が出てくるかも。君にもし何かあったら僕は・・」
ヘンリーの心配も最もだった。正しくそのせいでリリスはディファナに執着されたのだ。彼の言葉に皆が一斉に押し黙る。まるで糸が張られたように、一瞬で空気が張り詰めた。そしてその糸を断ったのは、スタイラスだった。
「そこは明かさずにできるよう考えよう。リリス嬢の秘密は口外しないよ。だからヘンリーも安心してくれ」
その言葉に皆が頷き、ヘンリーはホッと胸を撫で下ろす。リリスは「みんなありがとう」と礼を言うと、頭を下げた。その胸の中は万感胸に迫る思いだ。そして下げる頭には、さらにリリスの胸をつまらせる友人たちの言葉が降ってきた。
「これくらい色々あったほうが楽しいよ」
「本当にリリスと仲良くなるまで、こんなに楽しい学園生活を送れるなんて思ってもみなかったわ」
「学園を卒業したら、こんなに面白いことそうそうないだろ?学生の特権だよ」
言葉を受け止め、顔を上げたリリスは今日の空のように澄み切った顔をしている。そして温かい目で彼女を見る友人たちを順に見回すと、太陽のように破顔した。様子を見守っていたヘンリーがパンッと手を叩き、「よし!それじゃあ、話を詰めようか」と言うと、皆は頭を突き合わせ話し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
話し合いが終わり皆が帰る中、リリスはヘンリーを呼び止めた。
「あっ、ヘンリー待って。ちょっと相談したいことがあって・・まだ時間ある?」
「もちろんだよ。君のために割く僕の時間は、無限にあるんだからね」
「無限って大袈裟なんだから・・私ね、ついにアイデアが閃いたの!」
そう興奮を押さえ喋り始めたリリスは、昨日の晩餐でグラムの言葉をヒントに思いついたアイデアを披露する。ヘンリーは時折頷きながら、説明を聞いている。そして聞き終わった彼は、アルミーダに相談してみることを提案した。突然出てきた魔女の名前に首を傾げるリリスにヘンリーは「どうしたら君の言うとおり動くのか、ここは魔法のプロに聞くのが一番だと思わない?」と言った。その説明にリリスは「なるほど」と納得した表情を見せる。そんな彼女にヘンリーは微笑むと言った。
「ついでに僕とデートしてくれたら、光栄です。お姫様」と腕を胸に当て、まるで騎士のようにお辞儀をするヘンリー。一瞬驚いた表情を覗かせるも、すぐに輝く笑顔を見せたリリスは、頬を染め言った。
「もちろんよ、騎士様。明日楽しみにしてるわね」
しばらく皆が口を閉じ考えている中、リリスがゆっくりと口を開いた。その言葉に首を傾げる皆は、言葉の意味を噛み砕く。戸惑いの色を滲ませたヘンリーは、尋ねる。
「えっと・・リリィ、それはどういう意味かな?」
「だからあの物語の話通りになるように、あえて私たちが仕組むのよ」
屈託なく答えるリリスにアリーナたちは驚きの表情を見せる。そしてヘンリーは悩ましげに眉間を押さえている。色気が漂うその姿は、後ろで咲く花々を背景にした絵画のようにも見える。リリスへ戸惑い表情の中に弱々しい笑みを浮かべたヘンリーが問う。
「それは僕との婚約は解消して、殿下と婚約。そしていずれ君は国外追放されると・・」
「・・えっ?・・・」
さっきまでの和やかな空気は消え、代わりに物々しい空気が辺りを覆う。そんな中、アリーナが口を開いた。
「ちょっと、リリス。突然何を言い出すのよ」
「あっ!違う違う!ヘンリー、違うの!」
皆の反応に勘違いされてることに気付いたリリスが、隣に座る彼の手を取り慌てて否定する。自然と握る手に力が入る。
「あくまでも形だけだよ」
「形だけとは?」
黙って聞いていたスタイラスが口を挟む。その瞳にヘンリーの手を握ったまま
こちらへ身を乗り出すリリスが映っている。
「うん。あの子に物語通りに進んでるとそう思わせるのよ。ただあくまでも私が国外追放がされる前の夜会までね。あっ、夜会は社交デビューしてないから無理ね・・今年の卒業パーティー!そこがラスト。そこでネタバラシして、彼女にちょっとギャフンしてもらうの」
「そんな簡単な話ではないんじゃない?」
「そうだね・・それに殿下やみんなの協力をとりつけて話を合わせる必要がある。僕らだけでは無理があるからね」
「それはそうね。殿下もあの子に意味もわからずストーカーされて困ってると思うの。それに殿下はこういうこと喜んで協力するタイプに見えるわ。それに学園のみんなにも協力してもらうためには、やっぱり殿下からお話ししてもらうのが一番だと思う」
「なるほど。そうなるとグラム王子とリュシェル王女の協力もとりつけないと」
「もちろんよ。あの噂が本当なら、ちゃんと説明をしておかないと外交問題だもの」
リリスたちが話を進める中、ヘンリーが会話に交じる。
「ひとつ気がかりなことがあるんだ。リリィの言うとおり進めるには、君が転生者だと話す必要があるんじゃないか?・・もし前世の記憶があると知られたら、リリィを利用しようとする者が出てくるかも。君にもし何かあったら僕は・・」
ヘンリーの心配も最もだった。正しくそのせいでリリスはディファナに執着されたのだ。彼の言葉に皆が一斉に押し黙る。まるで糸が張られたように、一瞬で空気が張り詰めた。そしてその糸を断ったのは、スタイラスだった。
「そこは明かさずにできるよう考えよう。リリス嬢の秘密は口外しないよ。だからヘンリーも安心してくれ」
その言葉に皆が頷き、ヘンリーはホッと胸を撫で下ろす。リリスは「みんなありがとう」と礼を言うと、頭を下げた。その胸の中は万感胸に迫る思いだ。そして下げる頭には、さらにリリスの胸をつまらせる友人たちの言葉が降ってきた。
「これくらい色々あったほうが楽しいよ」
「本当にリリスと仲良くなるまで、こんなに楽しい学園生活を送れるなんて思ってもみなかったわ」
「学園を卒業したら、こんなに面白いことそうそうないだろ?学生の特権だよ」
言葉を受け止め、顔を上げたリリスは今日の空のように澄み切った顔をしている。そして温かい目で彼女を見る友人たちを順に見回すと、太陽のように破顔した。様子を見守っていたヘンリーがパンッと手を叩き、「よし!それじゃあ、話を詰めようか」と言うと、皆は頭を突き合わせ話し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
話し合いが終わり皆が帰る中、リリスはヘンリーを呼び止めた。
「あっ、ヘンリー待って。ちょっと相談したいことがあって・・まだ時間ある?」
「もちろんだよ。君のために割く僕の時間は、無限にあるんだからね」
「無限って大袈裟なんだから・・私ね、ついにアイデアが閃いたの!」
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「ついでに僕とデートしてくれたら、光栄です。お姫様」と腕を胸に当て、まるで騎士のようにお辞儀をするヘンリー。一瞬驚いた表情を覗かせるも、すぐに輝く笑顔を見せたリリスは、頬を染め言った。
「もちろんよ、騎士様。明日楽しみにしてるわね」
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