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第1話 現れた転生者
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悪い知らせというものは、時と場所を選ばずにやってくる。
こう言うと、皆「当たり前だよ」と笑うが、それを身に沁みて実感している人間がどれ程この世にいるだろうか。
ここにいるリリス・アルバートは、間違いなくそれを身に沁みて実感している一人だ。
リリス・アルバート。彼女はここプロメア王国の四大公爵家のひとつアルバート公爵家のご令嬢だ。よく手入れされた漆黒の黒髪と透き通ったラベンダー色の瞳を持つ15歳の少女。
セントラード魔法学園へ入学してから、魔女ディファナに一方的に利用され、散々な目に合わされた彼女。周りの助けもあり、ようやく魔女との決着をつけた。そして自分の中に閉じ込めていた前世“仙道ミズキ”の魂を解放し、全ての記憶を取り戻したリリスは、これから平穏な学園生活を送ることができると思っていた。しかしその平穏は、彼女が三年生になって早々逃げていったのだ。
それはニ週間前、リリスが転んだ少女を助けたことに始まる。
リリスが学園の廊下を親友のアリーナ、エリーゼと共に歩いていると、教室から出てきた少女が目の前で転んだ。立ち上がる少女に駆け寄り、手を貸すリリス。制服のリボンの色から彼女が新入生だと分かった。この学園の制服のリボンの色は、学年によって違う。リリスは赤、一学年下は茶、そして今年の入学者は緑だ。これは卒業まで変わらない。
手を借り立ち上がった少女はスカートの埃を手で払い、「ありがとうございます」と頭を下げた。リリスはそれに「いいえ、お礼なんていらないわ。それより怪我はない?大丈夫かしら?」と気遣うと、少女は「はい、大丈夫です」と口にしながら顔を上げた。そしてリリスと少女の視線が交差したその時、少女の口から脈略のないセリフが出た。
「見つけた」
「見つけた?・・・一体、何を見つけたの?」
リリスは少女の不思議な一言に不意をつかれたが、それを隠し穏やかな微笑みを浮かべ尋ねる。すると、少女は手を振り「何でもありません!とっ、とにかく助けていただいて、ありがとうございました」としどろもどろになりながら、廊下を走って行った。その慌てぶりに成り行きを見ていたアリーナとエリーゼが言う。
「なにあれ・・」
「変わった子ねぇ」
二人の言葉にリリスは「本当・・面白い子ね」と笑った。
そしてこの時、リリスの穏やかで平穏な学園生活を送るという願いが崩れ去ったのだ。
あれからというもの少女の姿は、度々、リリスの目にとまった。ある時はお昼のカフェテリアで、そしてまたある時は登校してすぐの校舎の入口で。
そして会うと決まって彼女は、意味不明な独り言を口にするのだ。それは「なんでアーサーじゃないの」「あー、もう!どう追い出すのよ」といったセリフだ。彼女はそのセリフが誰の耳にも届いていないと思っているようだったが、周りの生徒たちにも、そしてリリスの耳にもハッキリ聞こえていた。
そして、彼女の言動に違和感を覚えたリリスは、アリーナたちに相談した。するとアリーナたちの情報網は、すぐに彼女の正体を突き止めた。
アリーナによると、彼女の名はサリー。ボランタリー男爵家の一人娘だった。今年、学園に入学した一年生で、入学式から三週間足らずで“変人“として学年で有名人となった。その原因は、リリスも違和感を抱いたサリーの言動だった。
とにかくサリーは独り言が多かった。フワフワのブロンドヘアーに宝石のトパーズのように透き通るイエローの瞳を持つ見た目は愛らしく、当初は男子生徒の注目を浴びた。しかし度々、目撃されるサリーの言動に、徐々に皆から距離を置かれた。
しかし、サリーの名を聞いたリリスは違った。なぜならサリーが口にする数々のセリフの意味に気付いたからだ。
リリスが気付いたこと・・・それはサリーも転生者だという事実だった。
こう言うと、皆「当たり前だよ」と笑うが、それを身に沁みて実感している人間がどれ程この世にいるだろうか。
ここにいるリリス・アルバートは、間違いなくそれを身に沁みて実感している一人だ。
リリス・アルバート。彼女はここプロメア王国の四大公爵家のひとつアルバート公爵家のご令嬢だ。よく手入れされた漆黒の黒髪と透き通ったラベンダー色の瞳を持つ15歳の少女。
セントラード魔法学園へ入学してから、魔女ディファナに一方的に利用され、散々な目に合わされた彼女。周りの助けもあり、ようやく魔女との決着をつけた。そして自分の中に閉じ込めていた前世“仙道ミズキ”の魂を解放し、全ての記憶を取り戻したリリスは、これから平穏な学園生活を送ることができると思っていた。しかしその平穏は、彼女が三年生になって早々逃げていったのだ。
それはニ週間前、リリスが転んだ少女を助けたことに始まる。
リリスが学園の廊下を親友のアリーナ、エリーゼと共に歩いていると、教室から出てきた少女が目の前で転んだ。立ち上がる少女に駆け寄り、手を貸すリリス。制服のリボンの色から彼女が新入生だと分かった。この学園の制服のリボンの色は、学年によって違う。リリスは赤、一学年下は茶、そして今年の入学者は緑だ。これは卒業まで変わらない。
手を借り立ち上がった少女はスカートの埃を手で払い、「ありがとうございます」と頭を下げた。リリスはそれに「いいえ、お礼なんていらないわ。それより怪我はない?大丈夫かしら?」と気遣うと、少女は「はい、大丈夫です」と口にしながら顔を上げた。そしてリリスと少女の視線が交差したその時、少女の口から脈略のないセリフが出た。
「見つけた」
「見つけた?・・・一体、何を見つけたの?」
リリスは少女の不思議な一言に不意をつかれたが、それを隠し穏やかな微笑みを浮かべ尋ねる。すると、少女は手を振り「何でもありません!とっ、とにかく助けていただいて、ありがとうございました」としどろもどろになりながら、廊下を走って行った。その慌てぶりに成り行きを見ていたアリーナとエリーゼが言う。
「なにあれ・・」
「変わった子ねぇ」
二人の言葉にリリスは「本当・・面白い子ね」と笑った。
そしてこの時、リリスの穏やかで平穏な学園生活を送るという願いが崩れ去ったのだ。
あれからというもの少女の姿は、度々、リリスの目にとまった。ある時はお昼のカフェテリアで、そしてまたある時は登校してすぐの校舎の入口で。
そして会うと決まって彼女は、意味不明な独り言を口にするのだ。それは「なんでアーサーじゃないの」「あー、もう!どう追い出すのよ」といったセリフだ。彼女はそのセリフが誰の耳にも届いていないと思っているようだったが、周りの生徒たちにも、そしてリリスの耳にもハッキリ聞こえていた。
そして、彼女の言動に違和感を覚えたリリスは、アリーナたちに相談した。するとアリーナたちの情報網は、すぐに彼女の正体を突き止めた。
アリーナによると、彼女の名はサリー。ボランタリー男爵家の一人娘だった。今年、学園に入学した一年生で、入学式から三週間足らずで“変人“として学年で有名人となった。その原因は、リリスも違和感を抱いたサリーの言動だった。
とにかくサリーは独り言が多かった。フワフワのブロンドヘアーに宝石のトパーズのように透き通るイエローの瞳を持つ見た目は愛らしく、当初は男子生徒の注目を浴びた。しかし度々、目撃されるサリーの言動に、徐々に皆から距離を置かれた。
しかし、サリーの名を聞いたリリスは違った。なぜならサリーが口にする数々のセリフの意味に気付いたからだ。
リリスが気付いたこと・・・それはサリーも転生者だという事実だった。
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