上 下
6 / 10
プロローグ

束の間の日常

しおりを挟む
 時はまたひと月後に戻る―。

 私は両の手のひらを並べて、斜め下に向けて突き出すように伸ばす。それをそれぞれ中央に少し傾けて親指を重ね合わせ三角形を作ったまま、目を瞑って念じる。
 ガザガサと音をしたから目を開くと、木のかごの中で小猫が穏やかな表情で眠っていた。そのかごを忙しなくまろすけが覗き込んでいる。

 私は、国王直々に、"猫の売買"を許可された。この国では、街に住むためにはギルドというものに所属する必要があるらしく、そこに所属するために目的も必要となるという。
 動物の売買が禁止となっているこの国では異例になるのだろうけど、猫の存在が神様のようなこの国ならすぐに受け入れてもらえるだろう、という。その代わり、国の為に猫を献上するという条件付きだった。
住む場所を探していた私にとっては、断れないことを見越しての条件ではあるだろうけど、その話に乗ることにしたのだった。

 私は椅子に座り込んだ。安堵によるものもあるだろうけど、やはりまだまだ召喚後の疲労には慣れない。
 こんなことで、国の為に猫を召喚できるのか、要請されている猫はもっと複雑で数も多い、今の私では飼う用の猫を1日1匹が限界だ。

 とまぁ、考えることは後でもできる。
 召喚しただけで終わりじゃなく、この猫の健康状態であったり、環境への適応など、確かめないといけない。そうしてやっと、購入希望の方へ届けることができる。
 そして、その猫は一匹や二匹では無い。早くこの感覚に慣れていかないと、もっと高い能力の猫を召喚することは出来ないだろう。

 「お疲れ様」
 そこへ女性がやってきた。
 仕事終わりなのか私服姿の女性は、普段の男らしい雰囲気―服装のせいかもしれない―とは違い、とてもかわいらしい。
 「こんばんは、どうしたんです?」
 「ご飯にしようと思って、まだでしょ?」
 持っていた袋をテーブルに置くと、香ばしい香りが部屋に溢れた。

 ハンバーグを2人で向かい合って食べた。召喚後で疲れていたから、余計に美味しかった。
 「すみません、いつも」
 定期的に食事の差し入れを持ってきてもらっていて、今いる家も女性に手配をしてもらったものだ。もしかすれば、監視とかの意味もあるのかもしれないけど、どんな理由でもひとりじゃない事が嬉しかった。

 「じゃあ、無理しないでね」
 ご飯を食べて、少し世間話をしながら一息ついてから、女性は帰るために席を立った。
 泊まって言ってもいいですよ、と言うと、まだ仕事が残ってる、と笑う。

 「あの、今更なんですけど」
 「ん?」
 「名前、とか…?」
 ほんとに今更だな、と自分でも思った。
 「そういえばそうだったね」
 「サキだよ、改めてよろしくね」
 サキさんはニコっと微笑んでくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

王子様な彼

nonnbirihimawari
ライト文芸
小学校のときからの腐れ縁、成瀬隆太郎。 ――みおはおれのお姫さまだ。彼が言ったこの言葉がこの関係の始まり。 さてさて、王子様とお姫様の関係は?

処理中です...