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プロローグ
束の間の日常
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時はまたひと月後に戻る―。
私は両の手のひらを並べて、斜め下に向けて突き出すように伸ばす。それをそれぞれ中央に少し傾けて親指を重ね合わせ三角形を作ったまま、目を瞑って念じる。
ガザガサと音をしたから目を開くと、木のかごの中で小猫が穏やかな表情で眠っていた。そのかごを忙しなくまろすけが覗き込んでいる。
私は、国王直々に、"猫の売買"を許可された。この国では、街に住むためにはギルドというものに所属する必要があるらしく、そこに所属するために目的も必要となるという。
動物の売買が禁止となっているこの国では異例になるのだろうけど、猫の存在が神様のようなこの国ならすぐに受け入れてもらえるだろう、という。その代わり、国の為に猫を献上するという条件付きだった。
住む場所を探していた私にとっては、断れないことを見越しての条件ではあるだろうけど、その話に乗ることにしたのだった。
私は椅子に座り込んだ。安堵によるものもあるだろうけど、やはりまだまだ召喚後の疲労には慣れない。
こんなことで、国の為に猫を召喚できるのか、要請されている猫はもっと複雑で数も多い、今の私では飼う用の猫を1日1匹が限界だ。
とまぁ、考えることは後でもできる。
召喚しただけで終わりじゃなく、この猫の健康状態であったり、環境への適応など、確かめないといけない。そうしてやっと、購入希望の方へ届けることができる。
そして、その猫は一匹や二匹では無い。早くこの感覚に慣れていかないと、もっと高い能力の猫を召喚することは出来ないだろう。
「お疲れ様」
そこへ女性がやってきた。
仕事終わりなのか私服姿の女性は、普段の男らしい雰囲気―服装のせいかもしれない―とは違い、とてもかわいらしい。
「こんばんは、どうしたんです?」
「ご飯にしようと思って、まだでしょ?」
持っていた袋をテーブルに置くと、香ばしい香りが部屋に溢れた。
ハンバーグを2人で向かい合って食べた。召喚後で疲れていたから、余計に美味しかった。
「すみません、いつも」
定期的に食事の差し入れを持ってきてもらっていて、今いる家も女性に手配をしてもらったものだ。もしかすれば、監視とかの意味もあるのかもしれないけど、どんな理由でもひとりじゃない事が嬉しかった。
「じゃあ、無理しないでね」
ご飯を食べて、少し世間話をしながら一息ついてから、女性は帰るために席を立った。
泊まって言ってもいいですよ、と言うと、まだ仕事が残ってる、と笑う。
「あの、今更なんですけど」
「ん?」
「名前、とか…?」
ほんとに今更だな、と自分でも思った。
「そういえばそうだったね」
「サキだよ、改めてよろしくね」
サキさんはニコっと微笑んでくれた。
私は両の手のひらを並べて、斜め下に向けて突き出すように伸ばす。それをそれぞれ中央に少し傾けて親指を重ね合わせ三角形を作ったまま、目を瞑って念じる。
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動物の売買が禁止となっているこの国では異例になるのだろうけど、猫の存在が神様のようなこの国ならすぐに受け入れてもらえるだろう、という。その代わり、国の為に猫を献上するという条件付きだった。
住む場所を探していた私にとっては、断れないことを見越しての条件ではあるだろうけど、その話に乗ることにしたのだった。
私は椅子に座り込んだ。安堵によるものもあるだろうけど、やはりまだまだ召喚後の疲労には慣れない。
こんなことで、国の為に猫を召喚できるのか、要請されている猫はもっと複雑で数も多い、今の私では飼う用の猫を1日1匹が限界だ。
とまぁ、考えることは後でもできる。
召喚しただけで終わりじゃなく、この猫の健康状態であったり、環境への適応など、確かめないといけない。そうしてやっと、購入希望の方へ届けることができる。
そして、その猫は一匹や二匹では無い。早くこの感覚に慣れていかないと、もっと高い能力の猫を召喚することは出来ないだろう。
「お疲れ様」
そこへ女性がやってきた。
仕事終わりなのか私服姿の女性は、普段の男らしい雰囲気―服装のせいかもしれない―とは違い、とてもかわいらしい。
「こんばんは、どうしたんです?」
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持っていた袋をテーブルに置くと、香ばしい香りが部屋に溢れた。
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「すみません、いつも」
定期的に食事の差し入れを持ってきてもらっていて、今いる家も女性に手配をしてもらったものだ。もしかすれば、監視とかの意味もあるのかもしれないけど、どんな理由でもひとりじゃない事が嬉しかった。
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「ん?」
「名前、とか…?」
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