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1章
プチ同窓会
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9:30という時間を確認してから、2階にある自宅を出て駅へ向かう。
私の住んでいるのは、築10年程のアパートだ。少し寂れていたりするところもあるけど、見た目は言うほど古臭くはないし、駅から離れているからか家賃が他のアパートよりも安かった。私は距離よりも安さを優先して、大学へ入学すると同時に引っ越した。
駅までは自転車なら30分くらいかかるから、歩けば50分くらいか。たまには歩いていこうかな。自転車で行っても、約束の時間よりも結構早めにつくことになるだろうし、なんとなく今は気晴らしがしたい気分だった。もやもやしている時は、歩くことでなんとなく気持ちが晴れる気がした。
外は雲一つない快晴だった。3月も半ばになると、暖かく微かに吹く風は心地よく、ひざの辺りでスカートの裾をひらひらと揺らしていた。
朝からとんだ勘違いで早起きしてしまって、色んなことが面倒くさかった。自室が2階にあるから、階段を降りなければいけないことさえ億劫だった。雲一つない快晴が、何やら皮肉に感じてしまう。
だらだらと階段を降りていくと、階段の裏側の部分に設置されているポストが目に入る。いつも忘れてしまって、たまに見ると色んなチラシがたまってしまっている。
ポストを覗くと、中には紙が1枚だけ入れられていた。久しぶりに覗いたつもりだったけど、これだけなんだ。
それを取り出すと、歩きだしながらそれをなんとなく読んでみていた。普段ならば家に持って帰って、いずれゴミになってしまっていただろう。
『未来屋工房』
紙にはそう書かれていた。初めて聞く名だった。
"過去を変え、新しい未来《いま》にしたいあなたへ"
と書かれている。下部分に小さく書いてある地図を見ると、駅の近くの裏路地にあるようだった。具体的にどのような場所だか書かれていない。
正直宗教的な胡散臭さを感じたことは否定出来ないが、なぜかその紙から目を離せなかった。どこか無意識に心惹かれていたのかもしれない。
私はとりあえずその紙をカバンにしまう。覚えていたら試しに行ってみても良いかなと思いつつ、街の方へ向かった。
大学は駅とは逆方向にあるから、こちらの方にはあまりくる機会はなかった。案外みんなでもこちらに来ることもない。道中に街の中心街があり、デパートとかもあるけど、ほとんど寄ったことはなかった。来るとしたら、今日みたいに遊ぶ時だ。
この辺り―家から街までの間の通り―は、割と自然が多い。実家の周辺に比べるとそうでもないが。夜に見える星もこちらの方が少なく感じるし、最近は慣れたが、住み始めた頃は夜が寂しく感じることも多かった。
街が近づくにつれ、自然な木々も少なくなる。気が付けば、街の中心街に到着していた。デパートやレストラン、飲み屋が並び、その前の通りは人や車が結構行き交っている。
とりあえずデパートによって時間を潰すことにした。
まだ時間に余裕があったから、各階を適当にゆっくり見て回った。しかし、朝のことがあったからか、時間があるものの約束の時間があるからか、落ち着いて見れなかった。
なんだかソワソワしたまま、気がついたら1階まで降りてきていたから、そのままデパートを出た。
時刻は11時30分。待ち合わせしている駅まではここから20分程度かかることも見越して、早めに行って待っていることにした。
デパートから出ると、だいぶ人通りが増えていた。昼も近づいてきたからかもしれない。しかし、歩きだして5分くらい経つと、周りはだいぶ静かになっていた。中心街から少し外れればこんな感じなのだ。
駅に着く。時刻は11時50分。丁度20分かかった。待ち合わせまでも10分くらい早いし、ちょうど良いだろう。
正面は広いロータリーになっていて、車が数台止まり、反対側にはタクシーやバスが何台も止まっている。その横に駅ビルが建っているためか、バスは大勢の学生が乗り降りしている。
その間の中央には広場になっていて、銅像や噴水がある。子供たちの遊び場であったり、学生達の待ち合わせ場所になっていて、私たちの待ち合わせ場所もいつもそこだった。
銅像の脇にあるベンチに座っていると、間もなく1人の女性が駆け寄ってくる。
「ゴメン、おまたせ」
待ち合わせした友人達のうちの1人である川崎友紀だった。ロングスカートに白いTシャツ、上にデニム地のシャツを羽織っている。
「あ、ゆき~」
私が友紀に手を振ると、彼女も私に手を振り返してくる。
「早かったね」
私は駅の中央にある時計を見ながら言う。
「ゆいちゃんこそ。何時からいたの?」
「私もさっききたばっかだよ」
友紀は明るい性格で人当たりもよく友達が多かった。小柄で少し幼い見た目もあってか、先生や先輩たちからかわいがられていたし男子からの人気も高かった。確か中学時代からの彼氏がいたはずだ。その辺は私も、詳しくは聞いたことは無いけれど。
「おはよー」
2人で話していると、程なくして眠たそうな顔をした藤崎陽菜子が私たちの方へ歩いてくる。
「おはよう、ヒナちゃん」
「ゆき、おはよ」
「おはよう・・・って、朝起きてたよね」
私は思わず突っ込んでしまう。朝のアプリを見たときは、私以外の3人で普通にやり取りをしていたずだ。なのにだいぶ寝起きのような声だし、顔をしている。
「あのあと、寝直しちゃってさ」
といってヒナは大きなあくびを掌で隠す。私が苦笑いをしていると、そのやり取りを見て茜もクスクスと笑っていた。
こんなのんきな雰囲気のヒナだけど、学校にいるときはサバサバ系だった。昔からバスケをしていて、今は引退しているから鎖骨辺りまで伸びているけど、以前は髪形もショートカットだったから、どちらかというと男子よりも女子からモテるタイプだった。そんなギャップの様なところも、ヒナの魅力だと思っている。
3人で談笑していると駅を出てすぐのところで、周りを見回す1人の女性がいた。
「ゆりな、こっちだよ」
茜が大きな声で呼びかける。待ち合わせしていた川上優里奈だった。これで全員そろった。
「ごめん、遅くなって」
優里奈は荒く息をしていた。運動はあまり得意ではないから、駅からの少しの距離を駆け足で来ただけで息が上がっていたのだ。まだ約束の時間からまだそんなに経っていないんだし、それに友人同士なのだから気にしなくても良いのに。
「大丈夫だよ。全然遅れてないし」
ヒナが慌てて彼女をフォローする。私とゆきも必死にうなずく。優里奈はこういう時、すごく申し訳なそうに謝ってくるから、むしろこっちの方が慌ててしまうのだ。
少し談笑してから4人でファミレスへと移動を始める。
優里奈は休んで落ち着いてくると、汗をかいておろしていた髪を1つにまとめ直した。その姿が、同性ながら美しく思えた。
初めて会った高校生の時から大人っぽくって綺麗で、雰囲気もお嬢様で、まるで同い年とは思えなかった。オマケにスタイルも良くて、高校でも大学でも男子のマドンナ的な存在だった。
服装も白のワンピースだ。私のお嬢様のイメージと重なる。穏やかにニコッと微笑む姿がよく似合っていた。
ファミレスは駅からそんなに離れてないからあっという間に到着した。
中も結構混み合っていた。平日ではあったけど、昼時だからだろう。待っているお客さんもいて、私たちも入ってすぐに置いてあった順番待ちのボードに名前を書いて、呼ばれるのを待った。それから10分くらいしてやっと呼ばれた。
自分たちと同じくらいの年頃の女子のグループや高校生や中学生らしきグループが結構いた。多分卒業生で、春休みに入っているのだろう。私たちと同じだ。
席に案内されると、それぞれが注文を決め
ようやく一息がつけた。3人を待っている間も、ここで順番を呼ばれるのを待っている間も、なんとなく落ち着かなかったのだ。
そうして落ち着いてから3人の話に耳を傾ける。基本的には3人が話していることに口は挟まない。別に私の意見を求めてられてないと思うから。聞かれたら答えたら良い。そのスタンスは3人と遊ぶようになった時から変わっていない。最初の頃こそ気にしてくれていたが、今は多分特に気にしていない。私は別にその事を気にしていないから、むしろそれで問題なかった。
でも一応聞いてる風は装っている。まぁばれているんだろうけど。今話していることは高校の時の話しみたいだった。どうやら当時の同級生同士が付き合っているらしい。友紀が久しぶりに会ったのだそうだ。
私はその同級生のことをよく覚えていなかった。女子の方はなんとなく覚えていたけど、男子の方は全くだった。男子達と特別仲が良くなかったわけではないけれど、その男子のことはよく覚えていなかった。だからといって、私にもなにか聞いてくる訳でもないから無理に思い出す必要は無い。
と、だいたいいつも、話してる内容はこんな感じだった。恋愛の話だったり友人の話だったり、学校の話だったり。
それがいつもの光景だったはずなのに、何かが違って思えた。就職が決まっているから?それとも別の理由?何が理由かはわからないが、今までとは何か違うし、なんだか場違いな気がしてしまっていた。
そのあと運ばれてきた食事を雑談しつつ、食べ終える。そして食べ終えて少し休むと、すぐにカラオケに移動した。
カラオケはファミレスから5分もかからない所にある。ファミレスと同様に受付にはお客さんが結構いたけど、今度はすんなり入れた。
飲み物を飲みながら、3人が順番に歌う歌に耳を傾ける。私は基本的に歌わない。歌うことが苦手だったし、何より3人の歌を聞いていることが好きだった。
「ゆいちゃんも何か歌わないの?」
友紀が曲を検索する機械を渡してくる。
「いや、私は・・・」
「今日くらい良いんじゃない?」
「そうだよ、次いつ来れるか分からないしね」
3人からそう言われたら歌わないわけにはいかない。私は数少ないレパートリーの中から、一番好きな曲を選んで歌った。
しばらく順番に歌い続けていたけど、段々と疲れてきたのか少しづつ間が空くようになり、歌う人が減り、全員歌うのをやめて雑談を始めた。
「ところでさ」
さっきと同じように3人で話していたが、話しが一旦途切れた時、ヒナが話題を変える。
「どうしたの?」
「ななって就職どうなったの?」
その言葉に、3人の視線が一斉に私に向く。
「あー、えーっと・・・」
まさかその話題になるなんて―。想定外の状況に私はなんて答えたら良いのか咄嗟に浮かんでこない。出来ていないことは3人とも分かっている。聞きたいのは多分そういうことじゃないんだろう。
「ちゃんと探してる?」
「探してるよ?うん、探してる・・・」
正直言えば、よくは探していなかった。何かやりたいことがある訳でもないし、別に取り柄もない。ただなんとなく今日まで過ごしてきてしまった。どうしたら良いか分からなかった。
「バイトも辞めちゃったんでしょ。大丈夫なの?」
いつになく真剣な声と表情。そんな茜たちのことをまともに見れず、ばつの悪い顔をして俯く。
「ま、そんなことだろうと思ってたけど」
「大丈夫だよ。私達はいつでも由衣ちゃんの味方だからね」
ひなが呆れたように笑う。その横でいつものように明るく優しく友紀が言ってくれる横で、それを見て優里奈も微笑みながら頷いている。私は涙が出そうになった。
高校の時から3人は、他人《ひと》よりも出来の悪い私のことをいつも気にかけてくれていた。仲が良かったというのもあるかもしれないけど、いつも面倒を見てくれていた。そんな3人に甘えてばかりだった。これからはもう、当たり前だけれど3人と一緒にいられなくなくなる。ちゃんと自立しないといけないんだと、わかってはいたけど、改めて思い知らされた気がした・・・。
夕方、優里奈が用事があるということでお開きになり、4人で駅まで戻ってきていた。電車の時間まで少し時間があるから、待ち合わせした噴水で雑談をしている。
「用事でもあるの?」
ヒナが内容を聞いていた。優里奈も1人暮らしをしていて、家は駅からあまり離れていないから、わざわざ電車に乗る必要はなかった。電車で動くとすれば実家に帰る時くらいらしい。それは小学校の頃からの同級生で親友のヒナだからわかる事かもしれない。実家暮らしのヒナも基本的には電車か車で行動している。
「え?あぁ、うん。ちょっとね」
優里奈は答えになってない答えを返す。普段通りを装って居るようだけど、いつもとは違いどこか焦っているように見える。そんな優里奈を見たのは、私ははじめてだった。
「そうなんだ」
ヒナはそれ以上詳しく聞こうとはしなかった。だから友紀も私も何も言わなかった。
「そろそろ行くね」
チラっと腕時計を見た優里奈は、少しいつもより大げさに思える笑顔を見せながら、駅の中へと向かっていく。
「うん、またね」
ヒナが笑って答えると、少しだけこちらを見て笑顔を見せたけど、すぐに振り返って歩いていってしまった。振り返る時、一瞬悲しそうな横顔にに見えたのは気のせいだろうか・・・。
「私たちも帰ろうか」
優里奈が帰ったあとは、なんとなく皆気まずい気がして、ヒナの言葉を合図に解散した。家の方向がバラバラだから、また連絡するといって別れた。
少し歩いてから振り返ると、2人もそれぞれこちらを振り返っていた。そして、皆同じタイミングで手を振った。
気がつけば夕陽のオレンジ色の粒が、キラキラと辺りを染め始めていた。
私の住んでいるのは、築10年程のアパートだ。少し寂れていたりするところもあるけど、見た目は言うほど古臭くはないし、駅から離れているからか家賃が他のアパートよりも安かった。私は距離よりも安さを優先して、大学へ入学すると同時に引っ越した。
駅までは自転車なら30分くらいかかるから、歩けば50分くらいか。たまには歩いていこうかな。自転車で行っても、約束の時間よりも結構早めにつくことになるだろうし、なんとなく今は気晴らしがしたい気分だった。もやもやしている時は、歩くことでなんとなく気持ちが晴れる気がした。
外は雲一つない快晴だった。3月も半ばになると、暖かく微かに吹く風は心地よく、ひざの辺りでスカートの裾をひらひらと揺らしていた。
朝からとんだ勘違いで早起きしてしまって、色んなことが面倒くさかった。自室が2階にあるから、階段を降りなければいけないことさえ億劫だった。雲一つない快晴が、何やら皮肉に感じてしまう。
だらだらと階段を降りていくと、階段の裏側の部分に設置されているポストが目に入る。いつも忘れてしまって、たまに見ると色んなチラシがたまってしまっている。
ポストを覗くと、中には紙が1枚だけ入れられていた。久しぶりに覗いたつもりだったけど、これだけなんだ。
それを取り出すと、歩きだしながらそれをなんとなく読んでみていた。普段ならば家に持って帰って、いずれゴミになってしまっていただろう。
『未来屋工房』
紙にはそう書かれていた。初めて聞く名だった。
"過去を変え、新しい未来《いま》にしたいあなたへ"
と書かれている。下部分に小さく書いてある地図を見ると、駅の近くの裏路地にあるようだった。具体的にどのような場所だか書かれていない。
正直宗教的な胡散臭さを感じたことは否定出来ないが、なぜかその紙から目を離せなかった。どこか無意識に心惹かれていたのかもしれない。
私はとりあえずその紙をカバンにしまう。覚えていたら試しに行ってみても良いかなと思いつつ、街の方へ向かった。
大学は駅とは逆方向にあるから、こちらの方にはあまりくる機会はなかった。案外みんなでもこちらに来ることもない。道中に街の中心街があり、デパートとかもあるけど、ほとんど寄ったことはなかった。来るとしたら、今日みたいに遊ぶ時だ。
この辺り―家から街までの間の通り―は、割と自然が多い。実家の周辺に比べるとそうでもないが。夜に見える星もこちらの方が少なく感じるし、最近は慣れたが、住み始めた頃は夜が寂しく感じることも多かった。
街が近づくにつれ、自然な木々も少なくなる。気が付けば、街の中心街に到着していた。デパートやレストラン、飲み屋が並び、その前の通りは人や車が結構行き交っている。
とりあえずデパートによって時間を潰すことにした。
まだ時間に余裕があったから、各階を適当にゆっくり見て回った。しかし、朝のことがあったからか、時間があるものの約束の時間があるからか、落ち着いて見れなかった。
なんだかソワソワしたまま、気がついたら1階まで降りてきていたから、そのままデパートを出た。
時刻は11時30分。待ち合わせしている駅まではここから20分程度かかることも見越して、早めに行って待っていることにした。
デパートから出ると、だいぶ人通りが増えていた。昼も近づいてきたからかもしれない。しかし、歩きだして5分くらい経つと、周りはだいぶ静かになっていた。中心街から少し外れればこんな感じなのだ。
駅に着く。時刻は11時50分。丁度20分かかった。待ち合わせまでも10分くらい早いし、ちょうど良いだろう。
正面は広いロータリーになっていて、車が数台止まり、反対側にはタクシーやバスが何台も止まっている。その横に駅ビルが建っているためか、バスは大勢の学生が乗り降りしている。
その間の中央には広場になっていて、銅像や噴水がある。子供たちの遊び場であったり、学生達の待ち合わせ場所になっていて、私たちの待ち合わせ場所もいつもそこだった。
銅像の脇にあるベンチに座っていると、間もなく1人の女性が駆け寄ってくる。
「ゴメン、おまたせ」
待ち合わせした友人達のうちの1人である川崎友紀だった。ロングスカートに白いTシャツ、上にデニム地のシャツを羽織っている。
「あ、ゆき~」
私が友紀に手を振ると、彼女も私に手を振り返してくる。
「早かったね」
私は駅の中央にある時計を見ながら言う。
「ゆいちゃんこそ。何時からいたの?」
「私もさっききたばっかだよ」
友紀は明るい性格で人当たりもよく友達が多かった。小柄で少し幼い見た目もあってか、先生や先輩たちからかわいがられていたし男子からの人気も高かった。確か中学時代からの彼氏がいたはずだ。その辺は私も、詳しくは聞いたことは無いけれど。
「おはよー」
2人で話していると、程なくして眠たそうな顔をした藤崎陽菜子が私たちの方へ歩いてくる。
「おはよう、ヒナちゃん」
「ゆき、おはよ」
「おはよう・・・って、朝起きてたよね」
私は思わず突っ込んでしまう。朝のアプリを見たときは、私以外の3人で普通にやり取りをしていたずだ。なのにだいぶ寝起きのような声だし、顔をしている。
「あのあと、寝直しちゃってさ」
といってヒナは大きなあくびを掌で隠す。私が苦笑いをしていると、そのやり取りを見て茜もクスクスと笑っていた。
こんなのんきな雰囲気のヒナだけど、学校にいるときはサバサバ系だった。昔からバスケをしていて、今は引退しているから鎖骨辺りまで伸びているけど、以前は髪形もショートカットだったから、どちらかというと男子よりも女子からモテるタイプだった。そんなギャップの様なところも、ヒナの魅力だと思っている。
3人で談笑していると駅を出てすぐのところで、周りを見回す1人の女性がいた。
「ゆりな、こっちだよ」
茜が大きな声で呼びかける。待ち合わせしていた川上優里奈だった。これで全員そろった。
「ごめん、遅くなって」
優里奈は荒く息をしていた。運動はあまり得意ではないから、駅からの少しの距離を駆け足で来ただけで息が上がっていたのだ。まだ約束の時間からまだそんなに経っていないんだし、それに友人同士なのだから気にしなくても良いのに。
「大丈夫だよ。全然遅れてないし」
ヒナが慌てて彼女をフォローする。私とゆきも必死にうなずく。優里奈はこういう時、すごく申し訳なそうに謝ってくるから、むしろこっちの方が慌ててしまうのだ。
少し談笑してから4人でファミレスへと移動を始める。
優里奈は休んで落ち着いてくると、汗をかいておろしていた髪を1つにまとめ直した。その姿が、同性ながら美しく思えた。
初めて会った高校生の時から大人っぽくって綺麗で、雰囲気もお嬢様で、まるで同い年とは思えなかった。オマケにスタイルも良くて、高校でも大学でも男子のマドンナ的な存在だった。
服装も白のワンピースだ。私のお嬢様のイメージと重なる。穏やかにニコッと微笑む姿がよく似合っていた。
ファミレスは駅からそんなに離れてないからあっという間に到着した。
中も結構混み合っていた。平日ではあったけど、昼時だからだろう。待っているお客さんもいて、私たちも入ってすぐに置いてあった順番待ちのボードに名前を書いて、呼ばれるのを待った。それから10分くらいしてやっと呼ばれた。
自分たちと同じくらいの年頃の女子のグループや高校生や中学生らしきグループが結構いた。多分卒業生で、春休みに入っているのだろう。私たちと同じだ。
席に案内されると、それぞれが注文を決め
ようやく一息がつけた。3人を待っている間も、ここで順番を呼ばれるのを待っている間も、なんとなく落ち着かなかったのだ。
そうして落ち着いてから3人の話に耳を傾ける。基本的には3人が話していることに口は挟まない。別に私の意見を求めてられてないと思うから。聞かれたら答えたら良い。そのスタンスは3人と遊ぶようになった時から変わっていない。最初の頃こそ気にしてくれていたが、今は多分特に気にしていない。私は別にその事を気にしていないから、むしろそれで問題なかった。
でも一応聞いてる風は装っている。まぁばれているんだろうけど。今話していることは高校の時の話しみたいだった。どうやら当時の同級生同士が付き合っているらしい。友紀が久しぶりに会ったのだそうだ。
私はその同級生のことをよく覚えていなかった。女子の方はなんとなく覚えていたけど、男子の方は全くだった。男子達と特別仲が良くなかったわけではないけれど、その男子のことはよく覚えていなかった。だからといって、私にもなにか聞いてくる訳でもないから無理に思い出す必要は無い。
と、だいたいいつも、話してる内容はこんな感じだった。恋愛の話だったり友人の話だったり、学校の話だったり。
それがいつもの光景だったはずなのに、何かが違って思えた。就職が決まっているから?それとも別の理由?何が理由かはわからないが、今までとは何か違うし、なんだか場違いな気がしてしまっていた。
そのあと運ばれてきた食事を雑談しつつ、食べ終える。そして食べ終えて少し休むと、すぐにカラオケに移動した。
カラオケはファミレスから5分もかからない所にある。ファミレスと同様に受付にはお客さんが結構いたけど、今度はすんなり入れた。
飲み物を飲みながら、3人が順番に歌う歌に耳を傾ける。私は基本的に歌わない。歌うことが苦手だったし、何より3人の歌を聞いていることが好きだった。
「ゆいちゃんも何か歌わないの?」
友紀が曲を検索する機械を渡してくる。
「いや、私は・・・」
「今日くらい良いんじゃない?」
「そうだよ、次いつ来れるか分からないしね」
3人からそう言われたら歌わないわけにはいかない。私は数少ないレパートリーの中から、一番好きな曲を選んで歌った。
しばらく順番に歌い続けていたけど、段々と疲れてきたのか少しづつ間が空くようになり、歌う人が減り、全員歌うのをやめて雑談を始めた。
「ところでさ」
さっきと同じように3人で話していたが、話しが一旦途切れた時、ヒナが話題を変える。
「どうしたの?」
「ななって就職どうなったの?」
その言葉に、3人の視線が一斉に私に向く。
「あー、えーっと・・・」
まさかその話題になるなんて―。想定外の状況に私はなんて答えたら良いのか咄嗟に浮かんでこない。出来ていないことは3人とも分かっている。聞きたいのは多分そういうことじゃないんだろう。
「ちゃんと探してる?」
「探してるよ?うん、探してる・・・」
正直言えば、よくは探していなかった。何かやりたいことがある訳でもないし、別に取り柄もない。ただなんとなく今日まで過ごしてきてしまった。どうしたら良いか分からなかった。
「バイトも辞めちゃったんでしょ。大丈夫なの?」
いつになく真剣な声と表情。そんな茜たちのことをまともに見れず、ばつの悪い顔をして俯く。
「ま、そんなことだろうと思ってたけど」
「大丈夫だよ。私達はいつでも由衣ちゃんの味方だからね」
ひなが呆れたように笑う。その横でいつものように明るく優しく友紀が言ってくれる横で、それを見て優里奈も微笑みながら頷いている。私は涙が出そうになった。
高校の時から3人は、他人《ひと》よりも出来の悪い私のことをいつも気にかけてくれていた。仲が良かったというのもあるかもしれないけど、いつも面倒を見てくれていた。そんな3人に甘えてばかりだった。これからはもう、当たり前だけれど3人と一緒にいられなくなくなる。ちゃんと自立しないといけないんだと、わかってはいたけど、改めて思い知らされた気がした・・・。
夕方、優里奈が用事があるということでお開きになり、4人で駅まで戻ってきていた。電車の時間まで少し時間があるから、待ち合わせした噴水で雑談をしている。
「用事でもあるの?」
ヒナが内容を聞いていた。優里奈も1人暮らしをしていて、家は駅からあまり離れていないから、わざわざ電車に乗る必要はなかった。電車で動くとすれば実家に帰る時くらいらしい。それは小学校の頃からの同級生で親友のヒナだからわかる事かもしれない。実家暮らしのヒナも基本的には電車か車で行動している。
「え?あぁ、うん。ちょっとね」
優里奈は答えになってない答えを返す。普段通りを装って居るようだけど、いつもとは違いどこか焦っているように見える。そんな優里奈を見たのは、私ははじめてだった。
「そうなんだ」
ヒナはそれ以上詳しく聞こうとはしなかった。だから友紀も私も何も言わなかった。
「そろそろ行くね」
チラっと腕時計を見た優里奈は、少しいつもより大げさに思える笑顔を見せながら、駅の中へと向かっていく。
「うん、またね」
ヒナが笑って答えると、少しだけこちらを見て笑顔を見せたけど、すぐに振り返って歩いていってしまった。振り返る時、一瞬悲しそうな横顔にに見えたのは気のせいだろうか・・・。
「私たちも帰ろうか」
優里奈が帰ったあとは、なんとなく皆気まずい気がして、ヒナの言葉を合図に解散した。家の方向がバラバラだから、また連絡するといって別れた。
少し歩いてから振り返ると、2人もそれぞれこちらを振り返っていた。そして、皆同じタイミングで手を振った。
気がつけば夕陽のオレンジ色の粒が、キラキラと辺りを染め始めていた。
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