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1章
デジャブ
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『ジリリリ……』
けたたましい音が鳴り響いていた。"場違いな音"に私―高橋由衣は"我に返る"。
目の前に広がるのは、見慣れた白い天井に色あせた蛍光灯。それもまだ少しぼやけて見えていた。
夢うつつのまま、体を起こした私は、ハッとして周りを見回す。今度はちゃんと横になっていた。ここはもう中学校の教室ではなく、普段一人で暮らしている家だ。自分の身なりはいつも寝る時に着ているスウェット、いつもの朝だ。どうやらあれは全て夢だった様で、何だかなんとなくほっとする。
枕元の時計を見つけて確認すると、7時を回ったところだった。
一応念のため1度ほっぺをつねって見る。じんわりとした痛みが広がっていったから、もう夢ではないということは間違いないようだったから、とりあえず安心する。ふと、さっきの目覚ましの音も、もう場違いでは無いのだな、と私は思った。
妙にリアルな夢だった。いつもなら少しすれば忘れてしまうのに、今回は割と覚えたままだった。なにかの暗示だろうか。
あの教室には見覚えがあった。あれは実際に行っていた中学校の教室であり、校庭だった。とは言っても中学生の頃の具体的なことはほとんど覚えていない。もう卒業してから6年も経っているのか、としみじみ思う。とりあえず、夢のことは一旦置いておいて大学へ行く準備をしよう。
まず朝食は、適当に台所に置いてあった食パンを1枚、マーガリンを塗って食べた。
食べ終わると顔を洗い、歯を磨く。鏡を見ると、肩にかからないほどの長さの髪が乱れているので軽くとかして整えた。
次に化粧をする。
普段からあまり時間はかけず最低限で済ませている。今日も同様だ。嫌味でしょ、なんて友人から言われたりするが、顔に自信はない。化粧以外で鏡を見ることはない。私は、自分の顔があまり好きではなかった。
そして、着慣れた服に着替える。こだわりはなく、ある程度コーディネートは決まっていて、それを着まわしている。今日は、Tシャツにデニムのシャツを羽織り、下は黒のロングスカートだ。
いつもと変わらない流れで大学へ行く準備を進めながら、ふと頭には先ほど見た夢がまた流れはじめていた。今回の夢はなかなかいなくならなかった。心に引っかかっているようで、すごくもやもやしている。
再度テレビの時計を確認すると、丁度よく時計と番組が切り替わった。つまり8時になった。いつも家を出るのは15分から20分くらいだから、いつもより早く準備が整っていた。夢のことばかり考えていたからだろうか。だけど、何故だか違和感がすごくあった。もやもやとしてスッキリとしない。
ひとまず夢のせいにして家を出よう。今日はなんでも夢のせいにしてしまえば丸く収まりそうな気がした。玄関の扉を開けようとした私は、その手を止める。
あ、時計がない。
ノブに手をかけた腕に時計がないことに気づく。悩んだけど、今日は時間に余裕があったから取りに戻った。
改めて見ると部屋が汚かった。色々散らかっている。ゴミが捨てられてないとか、服が脱いだままとかもあるけど、それだけではない。
例えば、タンスの奥にしまっていたはずの高校時代の卒業アルバムが出ていたり、当時の写真がテーブルの上にあったり。
腕時計は、テーブルの上でその写真達に紛れていた。また忘れてしまわないように、先に腕に巻いておいた。
しかしなんで写真が・・・?テーブルの上に置かれていた写真は、どれも大学ではなく高校の時の写真だ。体育祭や修学旅行や、学校外での友人たちとのものだった。どれも最早懐かしい。
でもどうしてか、それがなぜ出ているのか記憶になかった。
大丈夫か、私・・・。
もしかすれば、さっきからのスッキリしないものが、全く無関係ではないような気もしていた。
そう思いながら、簡単に片付けておく。面倒だけど、帰ってきた時に散らかっている方が嫌だった。一つ一つしまっている余裕はないから、とりあえず部屋の端にでもまとめておこう。
そんな時、そこの近くに掛けられていた壁掛カレンダーが視界に入る。そう言えば今日って何かあったっけ、とふと思った。何か大事なことがあればそのカレンダーにメモしている。
一応スマホで日付を確認してから、もう一度カレンダーを見る。
「3月24日・・・」
その今日の日付には、
『みんなでカラオケ!!』とあった。
みんな、とは大学の同級生達3人のことだ。高校から一緒で、唯一と言っていいくらい親しくしている友人だった。
そう言えば、今日はカラオケだったっけ・・・。
・・・カラオケ?
カラオケと言う文字ににまた違和感を覚えながら、その日付の左側に目を移す。
その数字の周りは赤や緑のそのカラフルなペンで囲まれ、24日まで侵食している。各日付には軽くメモがかけるスペースがあり、23の下には『卒業式!』と書かれていた。
その文字が、夢で見た黒板の文字と被った。
ゆっくり整理しよう。
今日は24日だから、当然昨日が23日。23日が卒業式ということは、24日は…
朝だからなのか、夢のせいなのか、思考回路がうまく働いていなかったから、そんな簡単なことでもすぐに整理できない。
1度深呼吸をしてみる。なんだか、心が少し落ち着いた気がした。しかしだからだろうか、私は、私自身が大きな勘違いをしていることに、割と早い段階で気づいてしまった。
私は倒れるように身体は横にする。そして、自然と一緒に目を閉じていた。
もう今日から学校に行く必要はないんだ・・・。
このまま寝てしまいたいと思った。そうは言っても、頭の中で色々な情報が混雑している。目を閉じることでそれをハッキリと認識してしまう。オマケにテレビもついていない無音の空間だからか、それが鮮明になってしまってとても眠れそうになかった。
ふと、夢の事が思い返される。だからあんな夢を見たのだろうか。なぜ中学時代だったのか、という疑問は残っていたが、卒業式だったというのはなんとなく納得できた。
はぁー、というため息が部屋中に広がる。そのまま仰向けになった。
思考が停止していた。だが、良くも悪くもそれが復活するまで待てるだけの時間が、現在《いま》の私にはあった。
高校時代に始めたホームセンターでのバイトは、就活に合わせて徐々にシフトを減らしていくと、気がつけばシフトの希望を出すこともなくなっていた。最初の内はバイト先からの連絡が来たりしたが、半年くらい経ってしまった今はもうなくなっていた。
今頃連絡をするのもなんだか今更な気がして嫌だし、だからって改めて、辞めます、と言うのも変な気がするし、緊張するし、嫌だった―本当は連絡しないといけないのだろうけど。
まぁ、色々言い訳を並べたが、結局の所は辞めると言うことが嫌なだけだった。
正直なところでは、ミスが多く、人間関係でも辛かったりということもあって辞めようかと思っていたから個人的には丁度良いタイミングだった。
特に向こうからも引き留められるような感じでも、そんな人材でも無い。だからお互いにとって良い結果になったのだろうし、良かったのでないか?いや、良くはないのだろうけど。
そんな私だからか、就活も上手くは行かず、バイトももうしていない私は無職になったわけで。このまま何もしないでいたら、はれてニートの仲間入りってことになる。それは流石にまずい。
私はゆっくり体を起こす。これ以上横になっていたら嫌なことばかり考えてどんどん深みにハマっていきそうだった。
どうにか何かを考えないと、と思った矢先、カレンダーに書いてあった文字が頭をよぎる。
『みんなでカラオケ!!』
今日はカラオケだ・・・。
一瞬の間のあと、慌てて携帯を取り出す。画面をつけると、メールアプリからの通知がいくつも来ていた。
『ゆいってこれ見てんのかな』
というメッセージが表示される―文章の一部だけなら、アプリを起動していなくても見れるシステムだ。
『既読ついてないし寝てんじゃない?』
確かにいつもの休みの日なら寝ている時間だ。
話に参加するなら今か?いや、このタイミングで参加すると自分のことが話題になることを待っていたみたいで嫌だな、とか思ってしまう。ただの考えすぎなのだろうけど。
とりあえず出かける準備でも、と思ったけどもう出来てしまっていた。
何時集合だったっけ。予定を確認しようとするならどちらにしろ既読になってしまう。仕方ない会話に参加するか。気がつけば話題は別のことに移っていた。朝からみんな元気で羨ましいな、となんとなく思ったりもした。
『おはよう』
とだけ送ってから、ログを遡り予定を確認する。
あったあった。
待ち合わせは12時から、地元の駅に集合だった。そこから近くのファミレスで昼食を取り、カラオケに行く。それが私達のいつものルートだった。
それだけ確認したら閉じて家を出ようと思っていたけど、3人から返事が来ていたから、適当に相槌を打つ感覚でそれぞれに向けて返事を返した。
けたたましい音が鳴り響いていた。"場違いな音"に私―高橋由衣は"我に返る"。
目の前に広がるのは、見慣れた白い天井に色あせた蛍光灯。それもまだ少しぼやけて見えていた。
夢うつつのまま、体を起こした私は、ハッとして周りを見回す。今度はちゃんと横になっていた。ここはもう中学校の教室ではなく、普段一人で暮らしている家だ。自分の身なりはいつも寝る時に着ているスウェット、いつもの朝だ。どうやらあれは全て夢だった様で、何だかなんとなくほっとする。
枕元の時計を見つけて確認すると、7時を回ったところだった。
一応念のため1度ほっぺをつねって見る。じんわりとした痛みが広がっていったから、もう夢ではないということは間違いないようだったから、とりあえず安心する。ふと、さっきの目覚ましの音も、もう場違いでは無いのだな、と私は思った。
妙にリアルな夢だった。いつもなら少しすれば忘れてしまうのに、今回は割と覚えたままだった。なにかの暗示だろうか。
あの教室には見覚えがあった。あれは実際に行っていた中学校の教室であり、校庭だった。とは言っても中学生の頃の具体的なことはほとんど覚えていない。もう卒業してから6年も経っているのか、としみじみ思う。とりあえず、夢のことは一旦置いておいて大学へ行く準備をしよう。
まず朝食は、適当に台所に置いてあった食パンを1枚、マーガリンを塗って食べた。
食べ終わると顔を洗い、歯を磨く。鏡を見ると、肩にかからないほどの長さの髪が乱れているので軽くとかして整えた。
次に化粧をする。
普段からあまり時間はかけず最低限で済ませている。今日も同様だ。嫌味でしょ、なんて友人から言われたりするが、顔に自信はない。化粧以外で鏡を見ることはない。私は、自分の顔があまり好きではなかった。
そして、着慣れた服に着替える。こだわりはなく、ある程度コーディネートは決まっていて、それを着まわしている。今日は、Tシャツにデニムのシャツを羽織り、下は黒のロングスカートだ。
いつもと変わらない流れで大学へ行く準備を進めながら、ふと頭には先ほど見た夢がまた流れはじめていた。今回の夢はなかなかいなくならなかった。心に引っかかっているようで、すごくもやもやしている。
再度テレビの時計を確認すると、丁度よく時計と番組が切り替わった。つまり8時になった。いつも家を出るのは15分から20分くらいだから、いつもより早く準備が整っていた。夢のことばかり考えていたからだろうか。だけど、何故だか違和感がすごくあった。もやもやとしてスッキリとしない。
ひとまず夢のせいにして家を出よう。今日はなんでも夢のせいにしてしまえば丸く収まりそうな気がした。玄関の扉を開けようとした私は、その手を止める。
あ、時計がない。
ノブに手をかけた腕に時計がないことに気づく。悩んだけど、今日は時間に余裕があったから取りに戻った。
改めて見ると部屋が汚かった。色々散らかっている。ゴミが捨てられてないとか、服が脱いだままとかもあるけど、それだけではない。
例えば、タンスの奥にしまっていたはずの高校時代の卒業アルバムが出ていたり、当時の写真がテーブルの上にあったり。
腕時計は、テーブルの上でその写真達に紛れていた。また忘れてしまわないように、先に腕に巻いておいた。
しかしなんで写真が・・・?テーブルの上に置かれていた写真は、どれも大学ではなく高校の時の写真だ。体育祭や修学旅行や、学校外での友人たちとのものだった。どれも最早懐かしい。
でもどうしてか、それがなぜ出ているのか記憶になかった。
大丈夫か、私・・・。
もしかすれば、さっきからのスッキリしないものが、全く無関係ではないような気もしていた。
そう思いながら、簡単に片付けておく。面倒だけど、帰ってきた時に散らかっている方が嫌だった。一つ一つしまっている余裕はないから、とりあえず部屋の端にでもまとめておこう。
そんな時、そこの近くに掛けられていた壁掛カレンダーが視界に入る。そう言えば今日って何かあったっけ、とふと思った。何か大事なことがあればそのカレンダーにメモしている。
一応スマホで日付を確認してから、もう一度カレンダーを見る。
「3月24日・・・」
その今日の日付には、
『みんなでカラオケ!!』とあった。
みんな、とは大学の同級生達3人のことだ。高校から一緒で、唯一と言っていいくらい親しくしている友人だった。
そう言えば、今日はカラオケだったっけ・・・。
・・・カラオケ?
カラオケと言う文字ににまた違和感を覚えながら、その日付の左側に目を移す。
その数字の周りは赤や緑のそのカラフルなペンで囲まれ、24日まで侵食している。各日付には軽くメモがかけるスペースがあり、23の下には『卒業式!』と書かれていた。
その文字が、夢で見た黒板の文字と被った。
ゆっくり整理しよう。
今日は24日だから、当然昨日が23日。23日が卒業式ということは、24日は…
朝だからなのか、夢のせいなのか、思考回路がうまく働いていなかったから、そんな簡単なことでもすぐに整理できない。
1度深呼吸をしてみる。なんだか、心が少し落ち着いた気がした。しかしだからだろうか、私は、私自身が大きな勘違いをしていることに、割と早い段階で気づいてしまった。
私は倒れるように身体は横にする。そして、自然と一緒に目を閉じていた。
もう今日から学校に行く必要はないんだ・・・。
このまま寝てしまいたいと思った。そうは言っても、頭の中で色々な情報が混雑している。目を閉じることでそれをハッキリと認識してしまう。オマケにテレビもついていない無音の空間だからか、それが鮮明になってしまってとても眠れそうになかった。
ふと、夢の事が思い返される。だからあんな夢を見たのだろうか。なぜ中学時代だったのか、という疑問は残っていたが、卒業式だったというのはなんとなく納得できた。
はぁー、というため息が部屋中に広がる。そのまま仰向けになった。
思考が停止していた。だが、良くも悪くもそれが復活するまで待てるだけの時間が、現在《いま》の私にはあった。
高校時代に始めたホームセンターでのバイトは、就活に合わせて徐々にシフトを減らしていくと、気がつけばシフトの希望を出すこともなくなっていた。最初の内はバイト先からの連絡が来たりしたが、半年くらい経ってしまった今はもうなくなっていた。
今頃連絡をするのもなんだか今更な気がして嫌だし、だからって改めて、辞めます、と言うのも変な気がするし、緊張するし、嫌だった―本当は連絡しないといけないのだろうけど。
まぁ、色々言い訳を並べたが、結局の所は辞めると言うことが嫌なだけだった。
正直なところでは、ミスが多く、人間関係でも辛かったりということもあって辞めようかと思っていたから個人的には丁度良いタイミングだった。
特に向こうからも引き留められるような感じでも、そんな人材でも無い。だからお互いにとって良い結果になったのだろうし、良かったのでないか?いや、良くはないのだろうけど。
そんな私だからか、就活も上手くは行かず、バイトももうしていない私は無職になったわけで。このまま何もしないでいたら、はれてニートの仲間入りってことになる。それは流石にまずい。
私はゆっくり体を起こす。これ以上横になっていたら嫌なことばかり考えてどんどん深みにハマっていきそうだった。
どうにか何かを考えないと、と思った矢先、カレンダーに書いてあった文字が頭をよぎる。
『みんなでカラオケ!!』
今日はカラオケだ・・・。
一瞬の間のあと、慌てて携帯を取り出す。画面をつけると、メールアプリからの通知がいくつも来ていた。
『ゆいってこれ見てんのかな』
というメッセージが表示される―文章の一部だけなら、アプリを起動していなくても見れるシステムだ。
『既読ついてないし寝てんじゃない?』
確かにいつもの休みの日なら寝ている時間だ。
話に参加するなら今か?いや、このタイミングで参加すると自分のことが話題になることを待っていたみたいで嫌だな、とか思ってしまう。ただの考えすぎなのだろうけど。
とりあえず出かける準備でも、と思ったけどもう出来てしまっていた。
何時集合だったっけ。予定を確認しようとするならどちらにしろ既読になってしまう。仕方ない会話に参加するか。気がつけば話題は別のことに移っていた。朝からみんな元気で羨ましいな、となんとなく思ったりもした。
『おはよう』
とだけ送ってから、ログを遡り予定を確認する。
あったあった。
待ち合わせは12時から、地元の駅に集合だった。そこから近くのファミレスで昼食を取り、カラオケに行く。それが私達のいつものルートだった。
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