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皇妃

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  サフィーラの自室と寝室を挟んで皇妃としてのシャーロットの部屋が準備された
  ハーレムの部屋も十分に上質なものであったが、更に上質なセンスの良い調度品が揃えられていた

  「今日より皇妃様に仕えさせていただきます、よろしくお願いいたします。何なりと申し付けくださいますよう」

  夕方になりシャーロットが引っ越してくると、女官や侍女が出迎えた

  「勿論私も、今まで通り皇妃様に付かせていただきます」

  侍女達と並んでミーナも挨拶を述べると

  「至らぬ者にございますが、よろしくお願いいたします」

  そこにいた者達が皆目を見張るような、美しい礼をシャーロットは取った
  あの婚約破棄劇まではまともな国だったのだ
  女性の地位は低いものの、貴族としての礼儀作法やマナーなどは厳しく、王太子の婚約者としてゆくゆくは王妃としてのシャーロットへの教育は、それはそれは厳しいものであった、朝起きてから夜眠りにつくまで監視され、一部の乱れも許されぬ日々を送っていたのだ

  晩餐の時間に呼びにくると言い残してミーナを除く女官達は部屋を後にした
  
  「陛下、皇妃様がお部屋に入られました」

  シャーロットの移動が滞りなく行われた事をサフィーラの執務室に報告にいった者達は

  「そうか。どうであった」

  「想像以上に、可憐でお美しい方でしたね」

  部屋に入らず入り口の外から様子を見ていたサフィーラの側近が答えた
  皇宮に送られて来てから、出迎えた外交官と皇宮騎士以外はシャーロットの顔を見たものはいなかったのだ。その外交官達もシャーロットが顔を伏せていた為にしっかりと見てはいない
  シャーロットの顔を知っているのはほんの僅か、サフィーラとミーナ達身の回りの世話をしていた侍女とメイド達だけだったのである
  サフィーラが気に入って正妃に迎えるくらいだから見目麗しいのだろうと皆想像はしていたのだが、実物は想像をはるかに上回る美しさで、思わず見惚れた程であったのだ

  「それは分かっている。そんな事を聞いたのではない」

  「所作も、何も申し上げる事がない程にお美しく、この様子では、講師をお付けして学ぶ必要もないかと思われます」

  「それもそうなんだろう。ではなく、健やかであったか、と聞いたのだ」

  「それは、まあ、緊張なさっているご様子でしたが、健やかにございました」

  「ならば結構だ」

  側近やそこに集まっていた官僚達は非常に驚いていた
  臣下や使用人を無体に扱う事もなく、ハーレムの令嬢達にもそれなりの態度を持って接している事は知っていたが、こんなにも一人の女性を気に掛けるようなところは見た事がなかったからだ、まあ、正妃にと望む程であるからにはそれだけ気に入ったのだとは理解してはいたのだが、あれだけ不当に扱っていた令嬢に対して、ある意味惚気のようなものが、あのサフィーラの口から出たのだから驚かないわけがなかったが、ヴァルドーラの血を考えてみればそれは当然の事であったと納得もしたのであった
  
  
  「共に晩餐を取れるよう準備いたしております」

  「そうか。ではそれまでに政務を終わらせよう」

  サフィーラは女官長の言葉に満足気に頷くと、すぐに執務に取り掛かった、そこに集まっていた者達もそれぞれの仕事に戻る為に散らばっていった

  一方シャーロットは、ミーナに晩餐の為の準備を施されていた
  サフィーラから正妃にと望まれたものの、まだ正式に正妃になった訳ではないのに、このような扱いを受けて良いのだろうか、とシャーロットは戸惑いを隠せなかった

  「シャーロット様は、おそらく誤解なさっておられるかと思われますよ」

  「誤解?」

  「はい。シャーロット様はもう正式な皇妃様になられておりますから」

  「··········正式に?」

  驚くシャーロットにミーナが説明をする

  「シャーロット様のお国とは違うかと思われますが、我が国の皇帝陛下の正妃様は、皇帝陛下が御自身でお選びになられます。歴代の皇帝陛下の正妃様も皆、ハーレムに来られたご令嬢でございますわ。お選びになられた方に皇帝陛下からお話しになって、受けられた瞬間から、そのお方は正妃様なのでございます。おそらく今夜にでもお互いに正式な書面を交わされると思います」

  そんな簡単に?シャーロットの心の声を読んだかのようにミーナが苦笑するのを見たシャーロットは
 
  「わたくしなどがサフィーラ皇帝陛下の正妃になどと、反対されなかったのでしょうか」

  「何を反対される事がありましょうか?」

  逆に問い返されて、シャーロットは困ったようにポツリポツリと

  「わたくしは、人質として、それも身代わりに送られてきましたの。そんな者が大国の皇帝陛下の正妃などと。処刑されても文句も言えない立場ですのに」

  ああこのお方は、国家間で結ばれた約束事を違えた母国の罪を背負い、処罰を受ける覚悟で身代わりを引き受けてきたのだと、今更ながらにミーナはシャーロットの強さを感じた

  「反対する者など、誰一人としておりません。ヴァルドーラの血を引く英雄が認め、決められたお方がシャーロット様です。それに、身代わりとはいえ、ハーレムに入られた方の身元の調査をされていないと思われますか?シャーロット様は、何も心配なさる事はありませんわ」

  力強く断言したミーナは、綺麗に結い上げた髪の仕上がりを確認して、晩餐用のドレスをシャーロットに着せた
  
  二人での晩餐が始まると、美しい所作と作法で音もなく食事を取る姿を見ながら、確かに態々教えるべき事は何もないだろう、たった一つを除いては、とサフィーラは思った
  隣接している為、帝国と王国は言語は同じであるが、聞けばシャーロットは他国の言語7ヵ国語は読み書き会話に至るまで習得し、それぞれのマナーや作法、ダンスも問題なく出来るようになっている。成程、元々の素直さや性格、素養などが相まって、王家にとっては非常に都合良く使い勝手の良い自己を持たずに動く美しい人形に仕上がったというわけである

  そのたった一つ、自己を育てるのは、非常に時間は掛かるだろう、が、何も問題はない

  その夜、今更ながらではあるが初夜を迎えた二人。サフィーラはそれはそれは甘かった

  先代、先々代と続くヴァルドーラの血筋なのであろうか、兎に角愛を注いでいくもの、と自分で決めた者に対する愛情の深さが半端なく深いのである
  自分の血を滾らせ昂らせ、時には鎮める女性
  適当に欲を発散するのは誰が相手でも出来るが、血が湧くほどの興奮、癒しは、たった一人にしか感じられないのであった
  壊れかけた心を抱えながら、あれ程の仕打ちを自らの役目と受け入れてきたシャーロット。サフィーラが与えた屈辱恥辱すらも全て受け入れ、それを止められたシャーロットは心を壊した。シャーロットは自分が無になってしまったと思った事で壊れたのであろうが、サフィーラは自分の執着に気づいた。初めはシャーロットの母国に対する怒りと呆れだったのが、途中からシャーロット自身に対する執着に変わっていっていた事に。シャーロットの心を壊したのはサフィーラ自身である罪悪感と共に、仄暗い喜びを覚えた。今、シャーロットの中にあるのは自分の存在であると
  サフィーラが与える快楽を全て受け入れて悶え狂う様を、サフィーラの凶悪な昂りを受け入れイキ狂う様にサフィーラは血を滾らせ心を静める
  唯一無二の存在になったシャーロットを余す所なく愛し責め上げた。サフィーラの腕の中で、可憐に妖艶に乱れるシャーロットを飽きることなく堪能すると、意識を手放したシャーロットを大事に抱き上げて浴室で綺麗に清める。くったりとサフィーラに全身を預けるシャーロットの吸い付くような肌を十分に堪能した

  翌朝、サフィーラの腕の中で目覚めたシャーロットは、甘く蕩けるようなサフィーラの視線に、朝から心臓が止まる程の衝撃を受けて顔を真っ赤に染めた
  そんなシャーロットの様子に満足気に笑みを浮かべ、薄いローブを羽織らせるとミーナを呼び朝食の準備をさせる。今まで通りにサフィーラの手ずからシャーロットに朝食を摂らせると、名残惜しそうにしながら

  「俺は執務室にいる。昼過ぎに仕立ての者達が来るが、それまではゆっくりと身体を休めているといい」

  シャーロットの頬をするりと撫でると、軽く唇に口付けを落としてから部屋を後にして執務室に向かったサフィーラに、シャーロットは顔を赤くして固まっていたのだった

  空気のようになっていたミーナがシャーロットに手を貸してベッドに横たえて掛布を掛けた
  シーリンス王国で王妃となる為の教育を施されたシャーロットは、何もせずにのんびりと身体を休めていることに罪悪感を感じるものの、意識を失うまでサフィーラの欲を受け続けた身体は、ハーレムにいた頃と同じように怠く重く、ベッドに身体が沈み込むように動けなかった
  それを気遣ってサフィーラは休んでいるように言ったのだろう
  仕立て屋が訪れた頃にやっと自室に戻って身支度を整えたのだった

  サフィーラとシャーロットの意見を元に、何着かの普段使いのドレスと、婚儀用の真っ白なウエディングドレス、お披露目舞踏会の為のドレスの打ち合わせが行われ、二ヶ月後に二人の婚儀と共に、サフィーラの皇帝継承を各国に正式に知らせるパーティを執り行うことが決定していた

  
  

  
  
  
 
  

  
  
  
  
    
  

  
  
  


    
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