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医務室に入ってきた私を見て驚いた医事課の先生がベッドに寝かせてくれた。
確かに、昨夜は涙が枯れるほど泣いて殆ど睡眠も取らずに学園に来ていたのだ、酷い顔をしている事だろう。
まあ、そんなセイラを見ても心配すらせずに罵声を浴びせた婚約者もいますけど。
さっきまでは過去の記憶を辿っていたので、今からはこれからの事を考える事にする。
まず、どう考えてもウィリアムとの関係を再構築するのは無理だろうと思う。
セイラの悲しみが伝わってくるが、あの中庭での事や記憶の中の様子を見ても、やり直すのは無理だ。
両親や弟、ウィリアムの側近達もだが、自分の世界にいた頃に読んだ異世界ものの小説にある、魅了にでも掛かったみたいな、思考能力の低下ぶりである。
両親はメイリンを養女にしてセイラを追い出すつもりなのだろうか。
あの話しぶりからして、ウィリアムとの婚約は破棄されるだろう。
婚約破棄となれば傷物令嬢となり、まともな人生を送るのは難しそうだ。
ならば、どちらにしても一か八かの賭けに出ようと考えた。
小説やゲームでは、婚約破棄といえば舞踏会や卒業式など目立つ場所で、というのが規定路線であるが、おあつらえ向きに建国記念の祝賀パーティが二週間後にあるのだ。
両親があんな話を持ち出してきた事を考えれば、おそらくそのパーティで何らかが起こると思っていいだろう。
とにかくもう、出来るだけ酷い状況になる事を避ける為に動き始めようと考えた。
そして今日、建国記念の祝賀パーティ、やはり何の連絡もないまま、私は一人エスコートもなくパーティの会場へと向かったのだった。
ウィリアムの婚約者であるセイラが一人で会場に入場すると、当然のように好奇の目に晒される。
ましてやウィリアムがメイリンをエスコートして入場したとなれば特に。
一人で佇むセイラと、メイリンを囲んで側近達といるウィリアムを交互に見比べながらヒソヒソと噂話する貴族達。
楽器が鳴り響くと、ざわついていた会場がしんと静かになり、国王陛下と王妃陛下が入場された。
国王陛下の厳かな建国を祝う言葉に、拍手が鳴り響いた後、突然大きな声で名前を呼ばれた。
やはり予想通りにきた、と、胸を張ってゆっくりと、声の主のもとに歩みを進める。
「セイラ、貴様とは婚約を破棄し、ここにいるメイリンと新たに婚約を結ぶ事とする」
私は、優雅に見えるようにゆっくりと扇を開いて口元を隠すと、ウィリアムとウィリアムの腕にぶら下がっているメイリンを真っ直ぐに見る。
「何故でしょう。理由をお聞かせ願えますでしょうか」
メイリンが『怖いわ·····』と呟いてフルフルと震えながらウィリアムに縋りつく。側近達やセイラの弟が慰め、ウィリアムが私を怒鳴りつける。
「未来の王妃を虐める醜い女が。そうやっていつもメイリンを虐めているのだろう」
虐めるも何も、私はあの令嬢に一言も声を掛けていませんが。
弟や側近達もメイリンを慰めながらセイラを貶めるように罵倒する。
ウィリアムにも側近達にも弟にも、一々態とらしい演技で泣くメイリンにも苛苛してきたので
「まだ、正式に婚約は破棄されていないので、未来の王妃とはわたくしで、メイリン様はただの男爵令嬢ですが」
さっさと話を進めたいので多少煽るような発言を投げかける
その私の発言に、会場内からは『確かに』などといったざわめきが起こる。
メイリンがまた『酷い·····』と泣きながらウィリアムに縋ると
「貴様、メイリンをただの男爵令嬢などと!」
事実を告げただけであるが面倒なので先を急ぐ。
「事実を述べたまでです。わたくしと婚約を破棄したとしても、メイリン様とは婚約出来ませんわ。王太子殿下の婚約者となる為には、伯爵家以上の令嬢。男爵令嬢では無理ですもの」
そう言うと、それまで激昂していたウィリアムがニヤリと笑った。
「ああ、だから婚約は破棄されない、とでも思ったか?残念だが、メイリンは侯爵家の養女となって王家に入るんだ。なあ、アシュトン侯爵」
ウィリアムがセイラの両親の方を見て自信たっぷりに言うと、両親もウィリアムに微笑みながら頷いている。
それを聞いた貴族達は戸惑うような視線を私達に向けている。
まあ、そりゃそうだわ。自分達の実子のセイラが婚約破棄されそうになっている元凶の、赤の他人の令嬢を養女にするって言ってるんだからね。
まあいいわ、次々行こう。
「わたくしは七歳の頃から十年間王妃教育を受けております。メイリン様はそれをどうするお積もりですの?」
ウィリアムは馬鹿にしたような目を私に向ける。
「貴様は無能で不出来だから十年も掛かったのだろうが、可憐なメイリンなら半年もあれば十分だ」
無能か有能か出来が良いか不出来か、という事と、可憐、な事は全く関係ないのだけど、大丈夫かしら?
まあいい、ここまできたからさっさと片付けるわ。
私は視線を、国王陛下と先程の発言で射殺しそうな目をウィリアムに向けている王妃に移した。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。わたくしに、最後まで発言の許可を頂けますでしょうか」
国王陛下は鷹揚に頷いた。
確かに、昨夜は涙が枯れるほど泣いて殆ど睡眠も取らずに学園に来ていたのだ、酷い顔をしている事だろう。
まあ、そんなセイラを見ても心配すらせずに罵声を浴びせた婚約者もいますけど。
さっきまでは過去の記憶を辿っていたので、今からはこれからの事を考える事にする。
まず、どう考えてもウィリアムとの関係を再構築するのは無理だろうと思う。
セイラの悲しみが伝わってくるが、あの中庭での事や記憶の中の様子を見ても、やり直すのは無理だ。
両親や弟、ウィリアムの側近達もだが、自分の世界にいた頃に読んだ異世界ものの小説にある、魅了にでも掛かったみたいな、思考能力の低下ぶりである。
両親はメイリンを養女にしてセイラを追い出すつもりなのだろうか。
あの話しぶりからして、ウィリアムとの婚約は破棄されるだろう。
婚約破棄となれば傷物令嬢となり、まともな人生を送るのは難しそうだ。
ならば、どちらにしても一か八かの賭けに出ようと考えた。
小説やゲームでは、婚約破棄といえば舞踏会や卒業式など目立つ場所で、というのが規定路線であるが、おあつらえ向きに建国記念の祝賀パーティが二週間後にあるのだ。
両親があんな話を持ち出してきた事を考えれば、おそらくそのパーティで何らかが起こると思っていいだろう。
とにかくもう、出来るだけ酷い状況になる事を避ける為に動き始めようと考えた。
そして今日、建国記念の祝賀パーティ、やはり何の連絡もないまま、私は一人エスコートもなくパーティの会場へと向かったのだった。
ウィリアムの婚約者であるセイラが一人で会場に入場すると、当然のように好奇の目に晒される。
ましてやウィリアムがメイリンをエスコートして入場したとなれば特に。
一人で佇むセイラと、メイリンを囲んで側近達といるウィリアムを交互に見比べながらヒソヒソと噂話する貴族達。
楽器が鳴り響くと、ざわついていた会場がしんと静かになり、国王陛下と王妃陛下が入場された。
国王陛下の厳かな建国を祝う言葉に、拍手が鳴り響いた後、突然大きな声で名前を呼ばれた。
やはり予想通りにきた、と、胸を張ってゆっくりと、声の主のもとに歩みを進める。
「セイラ、貴様とは婚約を破棄し、ここにいるメイリンと新たに婚約を結ぶ事とする」
私は、優雅に見えるようにゆっくりと扇を開いて口元を隠すと、ウィリアムとウィリアムの腕にぶら下がっているメイリンを真っ直ぐに見る。
「何故でしょう。理由をお聞かせ願えますでしょうか」
メイリンが『怖いわ·····』と呟いてフルフルと震えながらウィリアムに縋りつく。側近達やセイラの弟が慰め、ウィリアムが私を怒鳴りつける。
「未来の王妃を虐める醜い女が。そうやっていつもメイリンを虐めているのだろう」
虐めるも何も、私はあの令嬢に一言も声を掛けていませんが。
弟や側近達もメイリンを慰めながらセイラを貶めるように罵倒する。
ウィリアムにも側近達にも弟にも、一々態とらしい演技で泣くメイリンにも苛苛してきたので
「まだ、正式に婚約は破棄されていないので、未来の王妃とはわたくしで、メイリン様はただの男爵令嬢ですが」
さっさと話を進めたいので多少煽るような発言を投げかける
その私の発言に、会場内からは『確かに』などといったざわめきが起こる。
メイリンがまた『酷い·····』と泣きながらウィリアムに縋ると
「貴様、メイリンをただの男爵令嬢などと!」
事実を告げただけであるが面倒なので先を急ぐ。
「事実を述べたまでです。わたくしと婚約を破棄したとしても、メイリン様とは婚約出来ませんわ。王太子殿下の婚約者となる為には、伯爵家以上の令嬢。男爵令嬢では無理ですもの」
そう言うと、それまで激昂していたウィリアムがニヤリと笑った。
「ああ、だから婚約は破棄されない、とでも思ったか?残念だが、メイリンは侯爵家の養女となって王家に入るんだ。なあ、アシュトン侯爵」
ウィリアムがセイラの両親の方を見て自信たっぷりに言うと、両親もウィリアムに微笑みながら頷いている。
それを聞いた貴族達は戸惑うような視線を私達に向けている。
まあ、そりゃそうだわ。自分達の実子のセイラが婚約破棄されそうになっている元凶の、赤の他人の令嬢を養女にするって言ってるんだからね。
まあいいわ、次々行こう。
「わたくしは七歳の頃から十年間王妃教育を受けております。メイリン様はそれをどうするお積もりですの?」
ウィリアムは馬鹿にしたような目を私に向ける。
「貴様は無能で不出来だから十年も掛かったのだろうが、可憐なメイリンなら半年もあれば十分だ」
無能か有能か出来が良いか不出来か、という事と、可憐、な事は全く関係ないのだけど、大丈夫かしら?
まあいい、ここまできたからさっさと片付けるわ。
私は視線を、国王陛下と先程の発言で射殺しそうな目をウィリアムに向けている王妃に移した。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。わたくしに、最後まで発言の許可を頂けますでしょうか」
国王陛下は鷹揚に頷いた。
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