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 「随分、盛り上がってたね。ジュリエッタゆっくり聞かせてほしいなぁ」

 物凄くいい笑顔をしている。
 怖い··········このまま逃げてしまいたい。
 絶対に聞いてたよね、この王子様。ミーフィアも同じ事を思ったのだろう、さっきと同じ体勢のまま固まってしまっている。

 「サンタナ男爵令嬢、ジュリエッタは君と気が合うみたいだね。これからもジュリエッタをよろしく頼むよ」

 「は、はい。勿論ですっ!こちらこそよろしくお願いします!!」

 勢いよく返事したミーフィアは、ガバリと頭を下げて、失礼しますと言うと走って逃げて行った。
 私も一緒に走っていきたかった··········

 「さあジュリエッタ、教室に戻ろうか」

 がっしりとアイザックに腰を抱かれた私は、連行される罪人のような気分で教室に戻る廊下を歩いた。

 
 授業が終わった後、校舎から寮に連行された私は今、部屋に入ったところで壁に背をつけて両手を壁に付いたアイザックに囲い込まれている。所謂壁ドンというやつだ。
 流れるような動作でナチュラルに壁ドンするアイザックは、流石王子様と言える程に絵になっている。

 「ジュリエッタ?」

 不自然なくらいの優しげな声で名前を呼ばれて余計に背中にゾクリとした震えが走る。

 「えーと·····あの、どの辺りから·····聞いてました?」

 「何か記憶があるとかなんとか、っていうところかな」

 「初めから聞いてるんじゃないですか!」

 「君達の会話で、理解出来ない所が多々あってね」

 しれっと言うアイザック。
 初めから聞いていたアイザックに誤魔化しは効かないと思った私は、正直に全部話した。変に隠して端折ったりすれば、余計な誤解を産む事になってしまうので洗いざらい全部。

 聞き終わったアイザックは、ふぅっと息を漏らすと、私の手を引いてソファーに座る。

 「ジュリエッタは、生まれる前世の記憶があって、その世界には、この国の事をなぞらえたようなゲーム?というものがあったっていう事でいいんだな?」

 私はコクリと頷く。

 「それには、俺やジュリエッタも出ていたと」

 コクリ

 「サンタナ男爵令嬢も出ていて、彼女が主役のゲームって事だね」

 「そうです」

 「で、俺とサンタナ男爵令嬢が恋に落ちて、邪魔になったジュリエッタとの婚約を破棄すると。んで、ジュリエッタを陵辱させて娼館に売り払うって」

 はぁぁ、と大きく溜め息を吐いて、ソファーの背もたれに腕を乗せ、深く沈み込んで天井を見上げると、たっぷりと間をおいて

 「その俺って、クズじゃねえ?」

 「ええっと、まあ·····そうですね」

 思わず正直に答えてしまうと、苦虫を噛み潰したような顔になるアイザック。

 「でも、まあ、そういうのは結末としては定番というか、悪役令嬢が娼館行きとか、幽閉とか処刑とか国外追放とか修道院とか」

 慌ててフォローするように早口で口走ると

 「いや、それ全部クズだからな」

 すぐさま突っ込んだアイザックに、しまったと私は口を閉じた。

 「そんだけのバリエーションの定番があるって事は、そういう似たようなゲーム?があるって事?」

 「そうです。王子様や高位貴族の令息達と恋愛を楽しむゲームなんですよ」

 「ゲームの数だけクズな王子がいるって事だな」

 「まあ、そういう事になりますね。·····随分クズっていうところに拘りますね」

 「それはそうだろう!そのゲームの中でとはいえ、婚約者を陵辱させて売り払う王子って事にされてるんだぞ!」

 「まあ·····そこはスパイス的なものですよ」

 「スパイスで片付けるような事か?」

 「それはほら、ヒロインと王子様達の甘いイチャイチャと、そのヒロインの為に悪役令嬢を婚約破棄してズバッと断罪しちゃう王子様が素敵っていうのがゲームの醍醐味なんですよ」

 「ふーん、随分とヒロインってのが優遇されてるんだな」

 「ヒロインが善で婚約者が悪っていうのがセオリーなので」

 「善と悪ねえ·····」

 呟きながらジッと見つめていたアイザックは、私の腕を掴んで引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。

 「ま、そのゲームとやらの俺とは違う。お前も悪役令嬢とやらじゃない。だろ?」

 「そうね。確かに違うわ」

 「それに、そのゲームの俺は馬鹿だなぁ、ジュリエッタをそんな所に売り払うなんて、こんな身体知っててよく手放そうと思ったな」

 「あ··········いや、あの、ゲームの王子様は悪役令嬢令嬢とは何もしていないから」

 「····················はぁ?」

 「王子様は悪役令嬢を蛇蝎のごとく嫌っていたので、指一本触れてなくて。陵辱されるまでジュリエッタは純潔だったと·····」

 アイザックは信じられないというような顔をして、頭を乱暴に掻き回す。

 「馬鹿だろ、馬鹿なんだろその俺は」

 私は苦笑いをするしかなかった。

 「ゲームの中の話ですから」

 「そうだな。そうだな、その俺と俺は違うって、じっくり覚えてもらわないとな」

 今度こそアイザックは私に覆い被さり、いつも以上の時間を掛けて愛し合った。

 

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 
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