上 下
7 / 13

7

しおりを挟む
 強引に純潔を奪われてから、甘い雰囲気を作られていますが、そういえば、これで処女で陵辱される、っていうのはなくなったな、などと呑気に考えていた。

 ちょっと待ってろと、素早くトラウザーズを履いたアイザックが隣の部屋に用意させたらしい軽食をトレイに乗せて戻ってきた。

 サンドウィッチやフルーツ、スープなど軽く食べられる物だ。
 こういうのをさりげなく出来るところが王子様たる所以なのか。

 「美味しい」

 シーツを身体に巻き付け、ベッドに座り脇のサイドテーブルに乗せられたサンドウィッチを摘みながら

 「そういえば、王宮に泊まると言いましたが、部屋を用意してくださったのですか?」

 「いや?」

 同じようにサンドウィッチを摘むアイザックが首を振る。

 「では帰れと?」

 「泊まると言っただろうが」

 「どこに寝ろと?」

 「ここで寝ればいい」

 「··········アイザック様はどこで寝るんですか」

 「ここで寝るが?」

 「····················はぁ?」

 「俺にどこで寝ろと言うんだ」

 「ソファーがあるじゃないですか」

 人が1人くらい余裕で寝られるくらいの立派なソファーが。

 「·····お前」

 はぁぁ、と大きな溜め息を吐きながら首を振ったアイザックは、サンドウィッチを口に放り込んでスープを飲む。
 乱雑に見えてもしっかりと躾られたその仕草は優雅で決して下品には見えない。

 「その話は後だ。とりあえず食べたら湯浴みをしてこい。シャワールームに準備がしてある」

 
 食事を済ませて、アイザックの私室にあるシャワールームへと入った。
 浴槽にはお湯が張られていてミルクの入浴剤が入っている。
 着替えのナイトドレスまで用意されている。

 「あ、アイザック様、私が出てくるまで寝室から出ないでくださいませね」

 そう言ってシャワールームの扉を閉めると、バサリとシーツを剥ぎ取る。

 シャワーを浴び髪を洗って、ボディソープで隅々まで綺麗にすると、ゆっくりとお湯に浸かり

 「気持ちいい··········」  じゃなくて────────何でこんな事になってるの、どういう事!? 私の事、好みだなんて言ってたわよね··········
 ヒロインの可愛らしい顔、華奢で小柄な儚げな身体、天真爛漫で健気な性格、その全てが愛おしいと言う王子様。
 あくまでゲームの王子様とアイザックは別だと考えるべきなのか、特段私が特別な行動をしていたわけではないから、やっぱりヒロインの行動で変わってきているのか·····うーーーん、わからないなぁ··········
────────まあいいか、なるようになるよね。
 私は私で楽観的で流されやすい質だったのだ。

 浴槽から出てバスタオルで綺麗に水分を拭うと、ナイトドレスを身に付けた。薄手の上質な生地で着心地がとても良かった。
 シャワーから上がった事をアイザックに告げると、寝室から出てきたアイザックは、ナイトドレスを着た私をジッと見てシャワールームに入って行った。

 何かしら、まさか、後悔してたんじゃないでしょうね

 別の意味で後悔したアイザックが、シャワールームで頭を抱えていた事を、私は知らない。

 シャワーから出てきたアイザックと、どこで寝るのか揉めに揉め、私の抵抗も虚しく結局同じベッドで寝る事になってしまった。
 なるべく隅に寄って距離を取り、色々疲れていたのか私はすぐに眠ってしまったみたいなんだけど────────何故こんな事になっているのか

 何で抱きしめられてるのーーー!?

 私にガッチリと腕を回して眠っているアイザックの腕から脱出しようと藻掻いていると、クックックッと笑い声が·····恐る恐る視線を移すと、目を細めて笑っているアイザックと、バッチリと目が合ってしまった

 ギャーーーー、心の中で悲鳴をあげる。

 というか、「何で裸で寝てるんですかーー!?」

 「下は履いてるけど?」

 しれっと返すアイザックを睨む。

 「そんな問題じゃないんですよ」

 程よく鍛えられしなやかな筋肉の付いた身体から目を逸らしながら、早く服を着てくださいと促す。

 私の服は、シャワールームの近くに、一晩のうちにクリーニングして綺麗にプレスされた制服がハンガーに掛けられていた。流石王宮の使用人。

 両陛下と王太子夫妻も集まっている朝食の席に案内される。
 
 お会いした事は何度もあったけどそんな席に呼ばれて大丈夫なの?婚約者でしかない私が泊まっていたのって、かなり問題ない?

 ドキドキビクビクしながらアイザックと共に席に着くと、とても生暖かいにこやかな視線を向けられていた。

 「ジュリエッタ、いつでも王宮に泊まっていってちょうだいね」

 「はい、ありがとうございます」

 思った以上に和やかな朝食の席で帰りがけにそう声を掛けられた。

 いつでも泊まっていってって·····それでいいの?緩過ぎない?
 チラリとアイザックを見ると、婚約者同士仲良くしてるから喜んでるんだ。と言う。
 そういう問題じゃなくない?

 「ジュリエッタの着替えも王宮に用意しておかなきゃねぇ」
 
 なんていう王妃陛下と王太子妃殿下の会話が聞こえてきた。·····嘘でしょ?

 その後アイザックに侯爵邸まで送ってもらって帰ると、出迎えてくれた両親と兄夫婦や執事にも生暖かい目で迎えられた。

 まだデビュタント前の結婚前の娘が、婚約者のところにお泊まりだよ?叱ったりしない?

 この世界ってやっぱり18禁の世界だからなのかな、緩過ぎるんだけど。

 ていうか、体調崩したって言付けだったのに、あの様子だと、やっぱり体調崩したなんて思われてないよねぇ。
  

 

 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

塩対応彼氏

詩織
恋愛
私から告白して付き合って1年。 彼はいつも寡黙、デートはいつも後ろからついていく。本当に恋人なんだろうか?

婚約者と妹に毒を盛られて殺されましたが、お忘れですか?精霊の申し子である私の身に何か起これば無事に生き残れるわけないので、ざまぁないですね。

無名 -ムメイ-
恋愛
リハビリがてら書きます。 1話で完結します。 注意:低クオリティです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

私知らないから!

mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。 いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。 あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。 私、しーらないっ!!!

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...