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何の行動をする事もないまま時は流れて、学園に入学する日がきた。
今、私の目の前には、黒髪ショートの金色の瞳をした怜悧な恐ろしく美貌の王子様が座っている。 朝、立派な黒塗りの王家の紋章を付けた二頭引きの馬車で、婚約者である第2王子のアイザックが迎えに来たのだ。
乙女ゲームはヒロイン目線で進むから悪役令嬢の日常なんて描かれてなかったけど、王子様はちゃんと婚約者らしい行動をしていたのね。
そのうちこれも無くなるんだろうけれど。
それよりも、入学式の日にヒロインと攻略対象者達との出会いのイベントがあって、アイザックと恋人同士になったヒロインを悪役令嬢が虐め抜いて断罪される、っていう曖昧な事以外は思い出せないまま、肝心なところも全く思い出せないで今日を迎えてしまったのだけど·····はぁぁ·····記憶があるのに記憶ない·····役立たずだわ·····などと馬車の窓から外の景色をぼんやりと見送りながら考え事に耽っていた私は、向かいに座るアイザックがジッと見つめていた事に気づいていなかった。
アイザックのエスコートで入学式会場である講堂に入ると、予め爵位順に決められている席に着いた。私達が到着した頃には殆どの新入生が席に着いており、間もなく式が始まるところだった。男爵家の令嬢達が座る席の辺りにさり気なく顔を向けると、ヒロインはすぐに見つかった。分かりやすい桃色の毛先がクルンと丸まったふわふわの髪をした令嬢。丸く大きなシャンパンピンクの瞳をした目、白い肌にやはり桃色のぽってりと可愛らしい唇··········唇··········驚き過ぎて目が飛び出しそうだった。ポカンと口を半開きにして、大きな目は今にも閉じそうに半目になっている··········
「·····っ!!」
危うく変な声をあげそうになって口を押さえた。
式が始まっても私の頭はそれどころではない、曖昧な記憶を総動員しても、入学式で不安そうな表情を浮かべながらも、大きなキラキラうるうるした瞳で真剣に王子の入学の挨拶と宣誓を聞いているスチルしか出てこない。
ストーリー通り首席で入学したアイザックが壇上でスピーチを始めても、ヒロインは今にも船を漕ぎそうになっている·····何故? 私は何もしていないからストーリー通りに進んでいるはずなのに。
彼女がヒロインじゃないのかしら·····
でも他を見回しても桃色の髪でシャンパンピンクの瞳の令嬢なんて彼女以外にはいない。
思考に耽る私はアイザックのスピーチが終わり式が終了した事にも気づかなかった。
そしてアイザックが私を凝視していた事にも。
「おい、お前はさっきから何を百面相しているんだ。終わったからクラスに移るぞ」
頭上から声が降ってきて我に返った私は思わずびくりと顔を上げると、呆れた顔をしたアイザックが見下ろしていた。
「ごめんなさい、少し考え事をしていて」
「そんな面白い顔しながらか?」
「──────────っ」
面白い顔!?クルリと後ろを向くと頬を軽く叩いて顔を引き締めて向き直る。
「何でもないの。行きましょう?」
「·····ああ」
普段通りの微笑みを浮かべると、アイザックは不思議そうに首を傾げながらも、二人並んで教室に向かった。
担任の教師が教室に入ってきてオリエンテーションが済むと今日はこれで解散となる。
荷物を鞄に詰めて、ガチャリ、と留め具を留める音が響いた時、なんと思い出した。ずっとモヤモヤしていた肝心なものを思い出してしまった。
そう、このゲームは18禁だった事を。
今、私の目の前には、黒髪ショートの金色の瞳をした怜悧な恐ろしく美貌の王子様が座っている。 朝、立派な黒塗りの王家の紋章を付けた二頭引きの馬車で、婚約者である第2王子のアイザックが迎えに来たのだ。
乙女ゲームはヒロイン目線で進むから悪役令嬢の日常なんて描かれてなかったけど、王子様はちゃんと婚約者らしい行動をしていたのね。
そのうちこれも無くなるんだろうけれど。
それよりも、入学式の日にヒロインと攻略対象者達との出会いのイベントがあって、アイザックと恋人同士になったヒロインを悪役令嬢が虐め抜いて断罪される、っていう曖昧な事以外は思い出せないまま、肝心なところも全く思い出せないで今日を迎えてしまったのだけど·····はぁぁ·····記憶があるのに記憶ない·····役立たずだわ·····などと馬車の窓から外の景色をぼんやりと見送りながら考え事に耽っていた私は、向かいに座るアイザックがジッと見つめていた事に気づいていなかった。
アイザックのエスコートで入学式会場である講堂に入ると、予め爵位順に決められている席に着いた。私達が到着した頃には殆どの新入生が席に着いており、間もなく式が始まるところだった。男爵家の令嬢達が座る席の辺りにさり気なく顔を向けると、ヒロインはすぐに見つかった。分かりやすい桃色の毛先がクルンと丸まったふわふわの髪をした令嬢。丸く大きなシャンパンピンクの瞳をした目、白い肌にやはり桃色のぽってりと可愛らしい唇··········唇··········驚き過ぎて目が飛び出しそうだった。ポカンと口を半開きにして、大きな目は今にも閉じそうに半目になっている··········
「·····っ!!」
危うく変な声をあげそうになって口を押さえた。
式が始まっても私の頭はそれどころではない、曖昧な記憶を総動員しても、入学式で不安そうな表情を浮かべながらも、大きなキラキラうるうるした瞳で真剣に王子の入学の挨拶と宣誓を聞いているスチルしか出てこない。
ストーリー通り首席で入学したアイザックが壇上でスピーチを始めても、ヒロインは今にも船を漕ぎそうになっている·····何故? 私は何もしていないからストーリー通りに進んでいるはずなのに。
彼女がヒロインじゃないのかしら·····
でも他を見回しても桃色の髪でシャンパンピンクの瞳の令嬢なんて彼女以外にはいない。
思考に耽る私はアイザックのスピーチが終わり式が終了した事にも気づかなかった。
そしてアイザックが私を凝視していた事にも。
「おい、お前はさっきから何を百面相しているんだ。終わったからクラスに移るぞ」
頭上から声が降ってきて我に返った私は思わずびくりと顔を上げると、呆れた顔をしたアイザックが見下ろしていた。
「ごめんなさい、少し考え事をしていて」
「そんな面白い顔しながらか?」
「──────────っ」
面白い顔!?クルリと後ろを向くと頬を軽く叩いて顔を引き締めて向き直る。
「何でもないの。行きましょう?」
「·····ああ」
普段通りの微笑みを浮かべると、アイザックは不思議そうに首を傾げながらも、二人並んで教室に向かった。
担任の教師が教室に入ってきてオリエンテーションが済むと今日はこれで解散となる。
荷物を鞄に詰めて、ガチャリ、と留め具を留める音が響いた時、なんと思い出した。ずっとモヤモヤしていた肝心なものを思い出してしまった。
そう、このゲームは18禁だった事を。
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