上 下
9 / 46

8

しおりを挟む
  庇うようにしてリーザロッテを連れ出し、教室の外に出ていたエルバルトの元に行く

  「リーザロッテ嬢、怪我はないか?」

  「はい、大丈夫ですわ。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

  頭を下げようとするリーザロッテをとめて五人は首を振る
  教室の中からはルルアが泣きながら何かを言っている声と、リチャード達がリーザロッテを罵倒する声が聞こえる
  周りで見ていた者達も口々に何かを言っているが、リーザロッテを気遣う声は全くと言っていいほど聞こえてこない
  それからも、リーザロッテを睨みつけるリチャード達とヒソヒソと何か噂するような声、嫌な空気が流れていた

  翌朝事態は一変していた

  教室輪の中心で体をくねくねさせながらキャッキャと嬉しそうに笑っているルルア
  誇らしげな顔でルルアを取り囲むリチャード達、ワイワイしながら拍手をしているクラスの生徒達、廊下からは他クラスの生徒達も覗き込んでいる

  「やっぱりな!ルルアは聖女様のようだと思っていたんだよ!」

  「神ですらルルアの魅力には叶わなかったのでしょうね!」

  騎士団長令息のマーノと侯爵令息のサイラスの興奮した声が聞こえてきた

  「聖女?今、聖女と仰いました?」

  セレスティアがボソリと呟いた

  「言いましたね、聖女と。どういう意味でしょう?」

  五人は顔を見合わせてヒソヒソと話し合っていた

  「エルさまぁ、聞いてくださいぃ」

  エルバルトに駆け寄ってきたルルアが体をくねくねさせながら甘ったるく甘えた声で

  「ルルア、昨日神様から聖女だって言われたんですぅ」

  「……っぅん!どういう意味かな?」

  思わずおかしな声が出そうになったエルバルトが咳払いをすると、流石の王子スマイルを装備して問い掛けた

  「寝ていたら、夢にぃ神様が出てきたんですぅ」

  「ルルアに、聖女であると、神のお告げがあったんだ」

  リチャードが大きな声で

  「教会の大司教の所に行って、ルルアを正式な聖女と認定させよう。すぐにでも御触れが出る事だろう」

  エルバルトは思わず半目になりそうになりながら

  「そうか、それはおめでとう」

  そう言うと席に着きながら、魔力を探っていた
  その日は時間ギリギリになって教室に入ってきたリーザロッテをお昼に誘って裏庭のいつもの場所に六人はいた

  「聖女だと。また大きく出たなぁ」

  「聖魔力のようなものは一切感じなかったがな」

  「それは、私達もです。聖魔力どころか、アレ以外は何も感じ取りませんでしたね」

  リドウィンとアイリスも顔を見合わせながら頷く
  セレスティアは、ずっと黙って聞いているリーザロッテに話し掛ける

  「シストラ王国には、現在聖女様はいらっしゃいませんわね?」

  「ええ、おりませんわ。シストラ王国は太陽神を信仰しておりますが、建国の頃に聖女様が現れたという伝説が記述として残っているだけでございます。我が国には魔法や魔術を使える者もおりませんし。ライディン王国には聖女様がいらっしゃるとお聞きしていますけれど」

  「ええ、ライディン王国には聖女様がいらっしゃいますわ。とてつもない聖魔力をお持ちの方ですわ」

  「我が国において、聖女様はとても大きな存在なのです。国中に加護を与えてくれますが、何か大きな災害や災厄を予知すればすぐにその土地に出向いて強い加護を祈り、国内中を飛び回っています。女神の化身といわれているような方です」

  「私達は魔力を持っていますが、聖魔力というのは特別で、聖魔力に変わる魔力は他に存在しません。セレスティアは光の魔力という珍しい魔力の持ち主ですけれど、その光の魔力とも違うのですわ」

  リドウィンとアイリスが聖女と聖魔力についての説明をする
  詳しい事は初めて聞いたのであろうリーザロッテは真剣に耳を傾けている

  「何故突然、あのミンス男爵令嬢が聖女などと言い出したのかは分からないが、暫くは静観してみよう。リーザロッテは少し苦しい立場になるかもしれないが」

  眉を顰めたエルバルトが気遣うと

  「わたくしは大丈夫ですわ」

  リーザロッテは美しい微笑みを見せた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて満足したので聖女辞めますね、神様【完結、以降おまけの日常編】

佐原香奈
恋愛
聖女は生まれる前から強い加護を持つ存在。 人々に加護を分け与え、神に祈りを捧げる忙しい日々を送っていた。 名ばかりの婚約者に毎朝祈りを捧げるのも仕事の一つだったが、いつものように訪れると婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄をされて喜んだ聖女は、これ以上の加護を望むのは強欲だと聖女引退を決意する。 それから神の寵愛を無視し続ける聖女と、愛し子に無視される神に泣きつかれた神官長。 婚約破棄を言い出した婚約者はもちろんざまぁ。 だけどどうにかなっちゃうかも!? 誰もかれもがどうにもならない恋愛ストーリー。 作者は神官長推しだけど、お馬鹿な王子も嫌いではない。 王子が頑張れるのか頑張れないのか全ては未定。 勢いで描いたショートストーリー。 サイドストーリーで熱が入って、何故かドタバタ本格展開に! 以降は甘々おまけストーリーの予定だけど、どうなるかは未定

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる

珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて…… ゆっくり更新になるかと思います。 ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます

夜桜
恋愛
 共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。  一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

処理中です...