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14.ざわつく修学旅行【前】
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『俺だって、お前のことが好きだよ!』
『じゃあ、どうして!
両想いなのに付き合えないなんておかしいだろ!』
リビングでは、テレビの中の俳優たちによる台詞の応酬が響く。
ミントは画面をぼんやり眺めながら、手元の紙パックを軽く握った。ストローから「ズズ」と音が鳴る。
慎一がネットショッピングで箱買いした「背が伸びる」という胡散臭い乳酸菌飲料だ。
『わかってねえんだよ、お前は。
俺は世間に白い目で見られて傷つくお前を見たくねぇ。
それに、お前には人並みの幸せを経験してもらいたい。
男同士だと、叶わねえだろ……』
鼻水をすする音が聞こえて振り向く。
ダイニングテーブルの椅子に座った母親が、目に涙を溜めながら画面を見つめていた。
最近話題になっている、同性愛を扱ったテレビドラマだ。
多様性がトレンドになっている今、こういった作品が急激に増加していた。
『俺の幸せを勝手に決めんなよ……!』
画面の向こうでは、人気のイケメン俳優が涙を流している。
飲み終えた後の紙パックをゴミ箱に捨てると、
ミントはソファに寝転がった。
『悪かった。一時の気の迷いだとしても、お前の気持ちが俺に向くなんて想像しなかったんだ。
こうなることが予想出来ていたら、俺は告白なんてしなかった』
そういえば。とミントは桜太郎の顔を思い浮かべた。
彼も「好きです」とは言うものの、こちらに対する要望は無かった。
告白といえば、「好きです」と「付き合ってください」をセットにするのが王道だろう。彼は意図的に省いていたんだろうか。
(だとしたら、俺は……)
「今、誰のこと考えてんの」
突如、視界に慎一の顔が飛び出してきたので、ミントは「うお」と声を上げる。
ミントが体を起こすと、慎一はソファの空いたスペースに腰を降ろした。
「変な現れ方すんじゃねえよ。なんだよ」
母親のドラマ視聴の邪魔にならないよう、声を抑えて話す。
「いや、珍しく恋愛ドラマなんか真剣に観てるからさ。
自分と重ねてんのかなって思っただけよ」
慎一の言葉に、ミントは眉根を寄せた。
混乱する彼を前に、慎一はにこりと笑顔を作った。
「お父さんはぜーんぶ知ってんのよ。
先生にも確認済みだかんねー」
(は?)
「はああ!?」
絶叫するミントを、母親が「騒がないで」と叱る。
仕方ないので、慎一の腕を引っ張って自室に連れ込んだ。
「どういうことだ。説明しろ」
ドアを閉めてから凄むと、慎一は「怖ぇってば」と言いながらミントのベッドに腰を下ろした。
「説明も何もあんなの丸わかりじゃん。
先生がお前を見る目、あれは獲物を狙う目だぜ?」
「……!」
驚きで口をあんぐりと開くミントに、慎一は苦笑した。
「いや、ほら。お前のこと小学生だと思ってあの態度だったらめちゃくちゃヤバいじゃん。いくら多様性の時代っつったって小児性愛は例外だろ? だから確認しておいたのよ。
で、どうやら彼が好きなのはアラサーおじさんの策也らしいから安心安全ってわけ」
まさか全部気づかれていたとは。昔から慎一の観察眼には驚かされる。
固まって動かなくなったミントに、慎一は「俺はどっちでも賛成」と声をかけた。
「なにが……」
「さっきのドラマじゃないけど、お前の幸せを決めるのは世間でも親でもなければ、あの先生でもない。お前自身だろ?
小都美さんとの結婚を認めてくれた恩もあるしな、お前の選択を応援するよ」
下がっていた目線を上げると、優しく微笑む慎一と目が合った。
思ってもみなかったエールの言葉に、ぐっと声が詰まる。
「……ふざけんなよ。まるで、俺がアイツのこと好きなのに踏みとどまっているみたいじゃねえか」
「違うんだ?」
首を傾げる慎一に、ミントは舌打ちを返した。
「なんで俺があんな堅物を」
反論しながら、ミントはクローゼットからボストンバッグを取り出した。
慎一はその行動を不思議に思いながらも「ふーん」と返事をする。
「でも策也ってめちゃくちゃ押しに弱いし。
向こうから好きって言われたらその気になっちゃうタイプだろ」
ミントの肩がぎくりと揺れた。慎一には今までの恋愛遍歴をほとんど知られている。
「ひとをチョロいアホみたいに」
「実際そうだろ。恋愛面だけで見ればお前の偏差値はなかなか低めだよ。
でも仮にそうじゃなくても俺、あの人と策也は案外相性良いと思うんだよ」
「どこが!」
食ってかかるミントを、慎一は「まあまあ」と宥めた。
『じゃあ、どうして!
両想いなのに付き合えないなんておかしいだろ!』
リビングでは、テレビの中の俳優たちによる台詞の応酬が響く。
ミントは画面をぼんやり眺めながら、手元の紙パックを軽く握った。ストローから「ズズ」と音が鳴る。
慎一がネットショッピングで箱買いした「背が伸びる」という胡散臭い乳酸菌飲料だ。
『わかってねえんだよ、お前は。
俺は世間に白い目で見られて傷つくお前を見たくねぇ。
それに、お前には人並みの幸せを経験してもらいたい。
男同士だと、叶わねえだろ……』
鼻水をすする音が聞こえて振り向く。
ダイニングテーブルの椅子に座った母親が、目に涙を溜めながら画面を見つめていた。
最近話題になっている、同性愛を扱ったテレビドラマだ。
多様性がトレンドになっている今、こういった作品が急激に増加していた。
『俺の幸せを勝手に決めんなよ……!』
画面の向こうでは、人気のイケメン俳優が涙を流している。
飲み終えた後の紙パックをゴミ箱に捨てると、
ミントはソファに寝転がった。
『悪かった。一時の気の迷いだとしても、お前の気持ちが俺に向くなんて想像しなかったんだ。
こうなることが予想出来ていたら、俺は告白なんてしなかった』
そういえば。とミントは桜太郎の顔を思い浮かべた。
彼も「好きです」とは言うものの、こちらに対する要望は無かった。
告白といえば、「好きです」と「付き合ってください」をセットにするのが王道だろう。彼は意図的に省いていたんだろうか。
(だとしたら、俺は……)
「今、誰のこと考えてんの」
突如、視界に慎一の顔が飛び出してきたので、ミントは「うお」と声を上げる。
ミントが体を起こすと、慎一はソファの空いたスペースに腰を降ろした。
「変な現れ方すんじゃねえよ。なんだよ」
母親のドラマ視聴の邪魔にならないよう、声を抑えて話す。
「いや、珍しく恋愛ドラマなんか真剣に観てるからさ。
自分と重ねてんのかなって思っただけよ」
慎一の言葉に、ミントは眉根を寄せた。
混乱する彼を前に、慎一はにこりと笑顔を作った。
「お父さんはぜーんぶ知ってんのよ。
先生にも確認済みだかんねー」
(は?)
「はああ!?」
絶叫するミントを、母親が「騒がないで」と叱る。
仕方ないので、慎一の腕を引っ張って自室に連れ込んだ。
「どういうことだ。説明しろ」
ドアを閉めてから凄むと、慎一は「怖ぇってば」と言いながらミントのベッドに腰を下ろした。
「説明も何もあんなの丸わかりじゃん。
先生がお前を見る目、あれは獲物を狙う目だぜ?」
「……!」
驚きで口をあんぐりと開くミントに、慎一は苦笑した。
「いや、ほら。お前のこと小学生だと思ってあの態度だったらめちゃくちゃヤバいじゃん。いくら多様性の時代っつったって小児性愛は例外だろ? だから確認しておいたのよ。
で、どうやら彼が好きなのはアラサーおじさんの策也らしいから安心安全ってわけ」
まさか全部気づかれていたとは。昔から慎一の観察眼には驚かされる。
固まって動かなくなったミントに、慎一は「俺はどっちでも賛成」と声をかけた。
「なにが……」
「さっきのドラマじゃないけど、お前の幸せを決めるのは世間でも親でもなければ、あの先生でもない。お前自身だろ?
小都美さんとの結婚を認めてくれた恩もあるしな、お前の選択を応援するよ」
下がっていた目線を上げると、優しく微笑む慎一と目が合った。
思ってもみなかったエールの言葉に、ぐっと声が詰まる。
「……ふざけんなよ。まるで、俺がアイツのこと好きなのに踏みとどまっているみたいじゃねえか」
「違うんだ?」
首を傾げる慎一に、ミントは舌打ちを返した。
「なんで俺があんな堅物を」
反論しながら、ミントはクローゼットからボストンバッグを取り出した。
慎一はその行動を不思議に思いながらも「ふーん」と返事をする。
「でも策也ってめちゃくちゃ押しに弱いし。
向こうから好きって言われたらその気になっちゃうタイプだろ」
ミントの肩がぎくりと揺れた。慎一には今までの恋愛遍歴をほとんど知られている。
「ひとをチョロいアホみたいに」
「実際そうだろ。恋愛面だけで見ればお前の偏差値はなかなか低めだよ。
でも仮にそうじゃなくても俺、あの人と策也は案外相性良いと思うんだよ」
「どこが!」
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