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8.めちゃくちゃ可愛いだろ【前】
しおりを挟む「全日平日かぁ~。まあ学校の先生だって土日まで仕事したくないよなあ」
「当たり前だろ。そもそも、仮に土日の日程が用意されたとして何なんだよ」
「決まってんじゃん。俺も行く」
「バッカじゃねえの!」
リビングの椅子に腰かけ朝食のトーストをかじっている慎一が、片手に掴んだプリントをひらひらともてあそんでいる。
ミントが母親に見せるため置いていた、「三者面談のご案内」を目ざとく発見したのだ。
「だってすげぇ気になるもん。あの策也が小学校でどんな風に過ごしてんのか」
小学生に紛れる彼を想像したのか、慎一は笑いをこらえきれず、「ぷっ」と吹き出した。
「こいつ……」
ミントは苛立ちで顔を歪めるが、
目の前の義父は気にも留めず、トーストに乗っけたチーズを伸ばしている。
「いっでぇ!」
慎一の足をスリッパごと踏んづけた。
「ばか、お前! 小都美さんとお揃いのスリッパが傷むだろうが!」
「ボロ雑巾になるまで踏み倒してやるわ、そんな気色悪いもん!」
彼の足元をぎろりと睨む。近所の量販店で見つけてきたらしい、青地に「DUDDY」とロゴが入ったスリッパ。ちなみに母親のものは赤地に「MOMMY」だ。
ミントはこれを見るたびに虫唾が走る思いだった。
「こら、朝から喧嘩しないの」
そう言って、母親、小都美がリビングの椅子に座る。
先ほど起きたばかりらしく、パジャマのままだ。パートは休みなのだろう。
大きな瞳と丸みを帯びた輪郭。いわゆる「たぬき顔」の彼女は、すっぴんでも実年齢よりずいぶんと若く見える。
「おはよう、小都美さん。コーヒー淹れようか?」
「あら、大丈夫よ。ありがとう。
それにしても三者面談なんて索也が高校生の時以来ね。懐かしいわ」
慎一が持つプリントを覗き込むと、小都美は昔を思い出したのか、にこにこと微笑んだ。
「索也ったら成績は悪くなかったんだけど、授業態度がダメダメで」
「それ社会人になっても変わらなかったし、何なら生まれ変わった今も変わってないけどねー」
小都美に合わせて笑顔を作る慎一に、「うるせえ」と返す。
「あら、でもどうしましょう。小学生のお子さんがいらっしゃる方々なんて皆さんお若いに違いないわ。私だけおばさんで浮いちゃうかも」
両手を頬に当て、困ったように立ち上がる母親を見て、ミントは呆れながら息を吐いた。
「授業参観ならまだしも三者面談で他と比べられるタイミングねえし」
「大丈夫だよー。どんなに周りが若くたって小都美さんが1番かわいいよ」
「もう、慎くん。やめて、恥ずかしいわ」
両親のやりとりを前に鳥肌が立つ。
早くこの空間から抜け出そうと、急いでトーストを口の中に放り込んだ。
**
「信じらんねえ。毎日飽きずに子どもの前でいちゃつきやがって。悪影響のかたまりだ」
これはもはや一種の虐待ではないか。ミントはぶつぶつと呟きながら、小学校行きのバスに揺られていた。
本来、母親が再婚して幸せになるのは喜ばしいことだ。相手が自分の親友で無ければ。
ぐったりと背もたれに体重を預ける。
前方のモニターに次の停留所が表示された。
大宮だ。
家族に慎一を迎え入れるにあたって、木下家は以前の2DKアパートから3LDKの分譲マンションに引っ越した。
最寄りは大宮から少し離れたが、小学校までバス1本で行けることは変わらないため利便性にそれほど問題はない。
30年のローンを背負った慎一は、以前より精を出して社畜生活に励んでいる。
大宮駅に着くと、陽太が乗り込んでくる。
「おっす、ミント」
「おー」
陽太は当然のように隣に座り、ぐるんとこちらを向いた。
「今度の三者面談、あの父さん来るのか?」
「来ねえよ。あんなもん連れてったら俺の恥だわ。どいつもこいつも全く」
そう言うと、彼は残念そうに眉をハの字に下げた。
「なーんだ、つまんね」
仮に来たとして会えないだろう。というツッコミはあえてしなかった。
「そうだ、聞けよ。ミント。俺ん家は母さんが来るんだけどさー」
嬉々として家族の話題を出す陽太に、ミントの目尻が下がる。
前世ではこんな風に、児童一人一人の心情を気にしたことなんて無かった。
勿体無いことをしたのかもしれない。ふと、そんな考えが過る。
「いやいや。あの熱血バカの影響受けすぎだろ」
自嘲気味に笑うミントを、陽太が不思議そうに眺めた。
「そういやさー。今度の学習発表会」
「んあー?」
「お前、女子に混ざって浴衣着るわけ?」
窓枠に置いていた腕ががくんっと落ちた。
ぎぎぎ、と陽太の方を振り返る。
「……え?」
「だって飛鳥と代わったならお前の役、町娘だろ」
ミントの顔が青ざめていく。
ーー完全に盲点だった。
「どんまい。がんばれよ、町娘」
項垂れるミントの肩を陽太がポンと叩いた。
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