【完結】小学生に転生した元ヤン教師、犬猿の仲だった元同僚と恋をする。

めんつゆ

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3.生意気な問題児【前】

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1年ぶりに登校したミントは、
教室より先に職員室へ向かうよう指示されていた。

「はあ? まてまて、え? 担任が平原なの?」

驚いて声を上げるミントに、桜太郎は眉を顰めた。

「そうだけど、先生相手につかう言葉じゃないよね、それ」

「小学生に礼儀作法なんか教えたって無駄だぞ、これからの世の中はグローバルなんだ。敬語なんか時代遅れなんだよ。
……って、いや。そんなことはどうでもいい」

そう言って広げた左掌を突き出すミント。
桜太郎はそんな彼を面食らったように見た。

「え、そんな性格なの……? 前任の報告と違うんだけど……」

「気にすんな。それより
虐待、施設入所、事故、入院、突然里親に名乗り出た超歳の差新婚夫婦。イマココ! デリケートな問題が山積みのケア必須児童なんだよ。担任はベテランにしろよ」

そう言ってミントは桜太郎を見上げた。

(本音はコイツ以外なら誰でも良い)

180センチを越える高身長。
小学生の身体では、身長差があり過ぎて首が疲れてしまう。

「担任をベテランに変えろなんて言う小学生には初めて会ったよ。君、本当に12歳? 成人してない?」

「……そんなわけねえだろ!」

咄嗟に反論する。

(速攻バレそうなんだけど)

バレると色々厄介なので正体を隠すことは決めた。

しかし、だからと言って年相応の児童を演じる気はなかった。
それを始めてしまえば、これからの人生を全部嘘で固めることになる。そんな大変な生き方は嫌だ。

「……やけに思い出すなあ」

ぽそりと落とされた言葉に、
ミントは首を傾げた。

「何を?」

「……君のその感じ、誰かに似てるなって。
話し方もそうだけど、表情とか仕草も……。いや、ごめん。そんなわけないのにね。忘れて」

片眉を下げて笑う桜太郎に、
ミントは引きつった笑みを返す。
 
(俺の仕草なんか覚えてんのかよ)

案外、よく人を観察するタイプの人間らしい。

「あ、それから。君が入院していた間の勉強なんだけど……」

「あー、勉強は良いわ。それよりクラスメイトの情報が知りてえ」

「それも大事だけど、勉強だって大切だよ」

めんどくさいな、とミントは左手で後頭部を掻いた。

「じゃなくて、小6の勉強なんか余裕だからそっちは面倒見てもらわなくて良いって」

「何言ってるの? 君そんなに成績良くないでしょ? 放課後は教室に残って。補習するからね」

「……」

コイツのこういう真面目なところが苦手だ。
ミントはうんざりと肩を落とした。



**

6年2組。教室のプレートを確認する。

「あー! ゆちゃが触ったー!」

「触ってない! 近く通っただけ!」

「ぶつかってましたー! 俺見てたもーん」

(うるせえー……)

ミントとしての記憶こそ無いものの、前世の職場だ。授業前特有の騒ぎ声に懐かしさを覚える。

席は前から2列目だったな。先程桜太郎に教えられた情報を頭の中で復習しながら、ドアを引く。

見慣れた教室。自身の体が縮んだせいで、児童たちと目線が同じことに違和感がある。

ドア付近にいた男児と目が合った。

「……おはよ」

ひとまず左手をわずかに上げて挨拶する。名前はわからない。担当外だった児童なんて覚えていない。

児童は、眉間にシワを寄せてからふいと視線を逸らした。

(……は?)

彼の態度に面食らいながら、異様な空気を感じ取って教室に視線を送る。

クラスメイト達がミントを遠巻きに見つめていた。それは汚いものでも見るかのような嫌悪感を滲ませた表情だった。

(歓迎されてねえ)

索也の死因とミントの入院は無関係ということになっている。

つまり、この状態は「元から」だ。
生前のミントは嫌われ者だったのだろうか。

「ミントグリーン来たんだ、一生病院で寝とけばよかったのに」

「お医者さん、お前の名前笑わなかった?」

「女の子と間違われてセクハラされなかった?」

窓にもたれかかりながら、きゃはは、と意地悪く笑う少年たち。こいつらが教室のボス猿と取り巻きだろう。

変わった名前と女顔……。それがいじめの理由? 
からかいこそすれ、今時の小6がそんなくだらない要因に執着するだろうか。

「病院はお前らみたいなバカを言うガキが居なくて快適だったよ。お望みなら喜んで一生寝てるけど? 入院費出してくれんの?」

周囲が驚いたように、ミントを見た。

「は? 出さねえし!」

「じゃあ仕方ない。お前が入院費を出しくれないなら俺はここに来るしかない。お前のせいだからこれ以上文句言うなよ」

そう言って自分の机にランドセルを置いた。
紺色のランドセルだ。
本人が持っていたのは自身の名前と同じミントグリーンだったが、恥ずかしいとごねて慎一に新調してもらった。

「調子乗ってんじゃねえぞ!」

いじめっ子少年が叫ぶ。
ミントはそんな彼を横目で見た。

「うるせえ奴だな。お前名前は?」

「はあ?」

「記憶喪失で覚えてねえんだって。ほら名乗ってみ? 言わねえとボス猿って呼ぶぞ」

「はあー!?」

少年が近くの机を蹴った。
ガン!と音が響く。その様子を周りのクラスメイトが怯えたように見ていた。

「語彙力が無ぇからってモノに当たってんじゃねえよ、これだからガキは」

やれやれ、とミントは椅子に腰掛けた。
相手にするだけ無駄だ。あんな馬鹿と同級だなんて先が思いやられる。
ランドセルから教科書を取り出した。

近づく足音が聞こえて、振り返る。
その瞬間、胸ぐらを掴まれた。 

「なめんじゃねえぞ」

「さっきから台詞がだせぇんだよ。パパのヤンキー漫画でも読んで憧れたか? 何でも真似したがる年頃だからなあ」

「死ぬか?」

少年の表情を見て、ミントは舌打ちをした。
真っ赤な顔と開いた瞳孔。ブチギレている。

「……っ!!」

体が吹き飛んで、その拍子に椅子が倒れた。殴られたらしい。
女子児童の叫び声が聞こえる。

「んのやろ!」

勝ち誇った表情を浮かべるボス猿。そのみぞおちに頭突きを喰らわせた。
相手は尻餅をついたものの、すぐに立ち上がる。

(体格差があり過ぎて不利だ……。武器がいる……)

咄嗟に、倒れていた椅子を持ち上げた。

その瞬間、教室のドアが開いた。


「なにしてんの……」

青ざめてこちらを見る桜太郎に、
ミントは「まずい」と顔をひきつらせた。

「いや、待て。平原。これには訳がある」

そーっと椅子を床に下ろす。

「さっき椅子で殴り掛かろうとしてたよね?」

「脅しに決まってんだろ! 大体正当防衛だって! この猿が最初に殴ってきたんだから!」

そう言って、ミントは人差し指をボス猿に向けた。

「お前がムカつくことばっか言うせいだろ!」

「いい加減にしなさい!!」

校舎中に轟くような怒鳴り声に、2人は押し黙る。

「2人とも、放課後説教だから」

「今朝、放課後は補習つってたろ」

「補習はその後だよ!」

「はあー!? いつになったら帰れんだよ!」

文句が尽きないミントを桜太郎がぎろりと睨む。

「誰のせいだと思ってるの?」

「……!!」

俺じゃねえ! そんな心の叫びは、かろうじて声に出さなかった。

かくしてミントの復帰は最悪のスタートを切ったのである。
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