で、手を繋ごう

めいふうかん

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第8章

一枚の(4)

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ドアを開けると、リビングの光が部屋の中に差し込むが、奥は真っ暗だった。

「入って左側の壁にスイッチあるから」

後ろから涼さんの声が飛んでくる。
壁に手をそわせて、スイッチを見つけ、電気をつける。

書庫兼物置部屋は四畳半ほどの広さで、窓には厚手のカーテンがひかれている。
向かって左側の壁一面には本棚が、右の壁には備え付けの大きな収納棚があった。

本棚に向かおうと、棚から目を離した。
が、完全に離した瞬間に、視線の端に何かを捉えた。

俺は確かめるために、視線を棚に戻す。

棚の一番下の端、青いショルダー。誰もが知る有名スポーツメーカのロゴが大きく印刷されている。

何度もこのショルダーを見かけた。
だけど、それは色違いの赤いショルダー。

兄が大学時代に好んで使っていた。

あの時代に流行っていたショルダーバッグというわけではない。
もちろん、量産品だから、たまたま兄とお揃いでもおかしくない。

だけど。

俺は取り憑かれたようにショルダーバッグに引き寄せられる。

だけど、引っかかる。

シャルダーバックを手に取る。近くで見ると霞んでいる。本来はもっと鮮やかな青だったのだろう。

ジッパーに手を触れる。

人様のものを勝手に開けてはいけない。

思いとは裏腹に、俺はジッパーをひらいていく。

いや、自分の思いに素直になれば、確かめたくてした方がない。

中には1枚の紙、いや、写真だった。

取り出すと、若い頃の兄さん。そして、兄さんに肩を組まれて、はにかんだ笑みを浮かべる涼さん。俺の知らない頃の若い涼さん。

撮影場所は大学?

俺は恐る恐る、写真の裏を見た。

そこには油性のマジックで書かれた文字。


『大好き』


耳元で心臓の音がなった。

何、これ?

『大好き』って何?


混乱する頭を無理矢理動かして、答えを導く。

誰が書いた? 兄さん? な、わけない。

そしたら、残る答えは1つじゃんか。

涼さん。


やっぱり涼さんは兄さんが好きなんだ。

そして、俺は兄さんに似ているわけではなく、兄さんに似ていないのなら。

兄さんの弟だから、好きなふりをして付き合ってくれてる。

それが、一番しっくりくる答えじゃない?
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