で、手を繋ごう

めいふうかん

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第6章

聞きたいけど、聞きたくはなかった(4)

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そう問い詰められて、俺は言葉を選びながらゆっくりと説明する。

「涼さんは俺のこと、彼氏というより弟や友達に近い感覚で好きなのかも知れない」

「『かも』ということは、断定はできないけど、なんとなく感じるわけか」

カケルは意味ありげに『かも』を口にして、言葉を続ける。

「涼さんとキスは?」

「したよ」

「弟や友達にキスするか?」

「俺はしないが、する人っているじゃないか」

「いるな。それじゃ、セックスは?」

淡々と質問をぶつけてくる。
俺はドキドキしながら慎重に答えを選ぶ。

「してない」

「付き合ってどのくらい?」

「約1ヶ月」

「1ヶ月なら、なくてもおかしくない」

「涼さんとカケルは初日だったろう?」

俺は少しムキになって反論する。
そんな人に普通と言われても、信憑性はない。

「人それぞれだろう。他の人とは1ヶ月付き合ってもしなかったことあるし。ま、その人とは結局、しないで別れたけど」

それって、つまり、カケル的には1ヶ月の間にセックスしなかった相手は長続きしないってことじゃないか。


俺が心の中でツッコんでると、カケルは少し考えるように黙った後『涼さんって、セフレいるのかな』と呟く。

「そんなの知らないよ」

冷静になろうと心がけていたのに、すっかりペースは乱されている。

「涼さんって、フィーリングさえ合えば、男でも女でも、来るもの拒まずだから、カラダだけの関係の人がいてもおかしくない。そういう相手でセックスは間に合ってるとか?」

「そんな節操なしなのか」

俺は呆れながらも、余計に『それなら何で俺とは?』と悲しくもなる。

「元妻とは『互いの恋愛に口を出さない』という協定があったみたい」

「何だよ、それ」

「おかしいよな。でも、元妻もそれを呑んで結婚したけど、途中から耐えられなくなって破綻したんだって」

奥さん、そんな条件を呑んででも涼さんと結婚したかったんだろう。結婚すれば、変わってくれると希望があったのかもしれない。

その気持ち、わかる。俺も涼さんとは条件ありの付き合いだから。

「涼さん、クソだな」

俺は色々な思いから悪態をつく。たが、カケルもクールに同意する。

「そう、クソ。でも、俺は浮気は絶対に許さない。だから、付き合った時に、浮気はしないでって言ったから、守ってくれていたと思う。少なくとも俺は、他のやつの気配を感じなかった。約束は守る人だよ」

「それは涼さんらしい」

だけど、尚更、そういう人だからこそ、俺と付き合うのは兄さんの約束を守ろうとしているだけなんじゃないか?

兄さんの手前、セフレだっていないと思う。

「翔が涼さんに恋人として思われてないって考える理由がそれだけなら、自分から迫ればいいじゃないか。答えがはっきりする」

冷静な声で言われると、バカにされている気分になる。だが、彼がそう思ってないことはわかる。

「そういう雰囲気になった時、俺の方から少し押してみたけど、思いっきりはぐらかされた」

「そういう雰囲気の『そういう』って、セックスのこと?」

そこまではっきり言わないとわからないわけじゃないだろうに、カケルはいちいち確認をする。

彼は曖昧な言葉の芯を見ないと気が済まない。
だがら俺は「そう」と伝える。

「気のせいじゃない? さっきも言ったけど、涼さんは来るもの拒まずだよ」

「でも、涼さん、戸惑ってたんだ」

涼さんの部屋で俺が『いいですよ、脱がせても』と迫った時。

にやにやとしていた涼さんの笑みがすっと消える。だけど、それを隠すように、すぐに口角がくっと上がった。

俺はあのシーンを何度も頭で再生して、その度に自分の言動を恥かしくなり、涼さんの消えた笑みを思い出すとため息がもれる。

グラスに残っていた焼酎を流し込むように飲み干し、呼び出しボタンを押す。

『お待たせしました』と秒速で店員が現れる。一番最初の女性だった。

「黒霧島ダブルのロックで」

「いや、ただのウーロン茶にして」

カケルは俺ではなく、女性に言う。

「何でだよ」

「そのペースだと酔潰れる」

「俺の勝手だろう」

「介抱させられたら堪らん。絶対に酔い潰れないって言い切れるのか」

カケルは低い声で、まるで脅すかのように言う。

このままだと、まず酔い潰れる。最悪、吐くかも知れない。

「ウーロン茶で」

仕方がなく女性に告げると、論破したカケルをうっとりとした顔で見つめて『かしこまりました』と去っていく。

「カケルって、本当にモテるんだな」

「そんなことどーでもいい」

いかにも興味なさそうに棒読みで答えてから、話の先を促す。

「それより翔が迫った時に涼さんが戸惑っていたっていうのは、お前の被害妄想じゃないのか?」
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