40 / 53
第6章
聞きたいけど、聞きたくはなかった(4)
しおりを挟む
そう問い詰められて、俺は言葉を選びながらゆっくりと説明する。
「涼さんは俺のこと、彼氏というより弟や友達に近い感覚で好きなのかも知れない」
「『かも』ということは、断定はできないけど、なんとなく感じるわけか」
カケルは意味ありげに『かも』を口にして、言葉を続ける。
「涼さんとキスは?」
「したよ」
「弟や友達にキスするか?」
「俺はしないが、する人っているじゃないか」
「いるな。それじゃ、セックスは?」
淡々と質問をぶつけてくる。
俺はドキドキしながら慎重に答えを選ぶ。
「してない」
「付き合ってどのくらい?」
「約1ヶ月」
「1ヶ月なら、なくてもおかしくない」
「涼さんとカケルは初日だったろう?」
俺は少しムキになって反論する。
そんな人に普通と言われても、信憑性はない。
「人それぞれだろう。他の人とは1ヶ月付き合ってもしなかったことあるし。ま、その人とは結局、しないで別れたけど」
それって、つまり、カケル的には1ヶ月の間にセックスしなかった相手は長続きしないってことじゃないか。
俺が心の中でツッコんでると、カケルは少し考えるように黙った後『涼さんって、セフレいるのかな』と呟く。
「そんなの知らないよ」
冷静になろうと心がけていたのに、すっかりペースは乱されている。
「涼さんって、フィーリングさえ合えば、男でも女でも、来るもの拒まずだから、カラダだけの関係の人がいてもおかしくない。そういう相手でセックスは間に合ってるとか?」
「そんな節操なしなのか」
俺は呆れながらも、余計に『それなら何で俺とは?』と悲しくもなる。
「元妻とは『互いの恋愛に口を出さない』という協定があったみたい」
「何だよ、それ」
「おかしいよな。でも、元妻もそれを呑んで結婚したけど、途中から耐えられなくなって破綻したんだって」
奥さん、そんな条件を呑んででも涼さんと結婚したかったんだろう。結婚すれば、変わってくれると希望があったのかもしれない。
その気持ち、わかる。俺も涼さんとは条件ありの付き合いだから。
「涼さん、クソだな」
俺は色々な思いから悪態をつく。たが、カケルもクールに同意する。
「そう、クソ。でも、俺は浮気は絶対に許さない。だから、付き合った時に、浮気はしないでって言ったから、守ってくれていたと思う。少なくとも俺は、他のやつの気配を感じなかった。約束は守る人だよ」
「それは涼さんらしい」
だけど、尚更、そういう人だからこそ、俺と付き合うのは兄さんの約束を守ろうとしているだけなんじゃないか?
兄さんの手前、セフレだっていないと思う。
「翔が涼さんに恋人として思われてないって考える理由がそれだけなら、自分から迫ればいいじゃないか。答えがはっきりする」
冷静な声で言われると、バカにされている気分になる。だが、彼がそう思ってないことはわかる。
「そういう雰囲気になった時、俺の方から少し押してみたけど、思いっきりはぐらかされた」
「そういう雰囲気の『そういう』って、セックスのこと?」
そこまではっきり言わないとわからないわけじゃないだろうに、カケルはいちいち確認をする。
彼は曖昧な言葉の芯を見ないと気が済まない。
だがら俺は「そう」と伝える。
「気のせいじゃない? さっきも言ったけど、涼さんは来るもの拒まずだよ」
「でも、涼さん、戸惑ってたんだ」
涼さんの部屋で俺が『いいですよ、脱がせても』と迫った時。
にやにやとしていた涼さんの笑みがすっと消える。だけど、それを隠すように、すぐに口角がくっと上がった。
俺はあのシーンを何度も頭で再生して、その度に自分の言動を恥かしくなり、涼さんの消えた笑みを思い出すとため息がもれる。
グラスに残っていた焼酎を流し込むように飲み干し、呼び出しボタンを押す。
『お待たせしました』と秒速で店員が現れる。一番最初の女性だった。
「黒霧島ダブルのロックで」
「いや、ただのウーロン茶にして」
カケルは俺ではなく、女性に言う。
「何でだよ」
「そのペースだと酔潰れる」
「俺の勝手だろう」
「介抱させられたら堪らん。絶対に酔い潰れないって言い切れるのか」
カケルは低い声で、まるで脅すかのように言う。
このままだと、まず酔い潰れる。最悪、吐くかも知れない。
「ウーロン茶で」
仕方がなく女性に告げると、論破したカケルをうっとりとした顔で見つめて『かしこまりました』と去っていく。
「カケルって、本当にモテるんだな」
「そんなことどーでもいい」
いかにも興味なさそうに棒読みで答えてから、話の先を促す。
「それより翔が迫った時に涼さんが戸惑っていたっていうのは、お前の被害妄想じゃないのか?」
「涼さんは俺のこと、彼氏というより弟や友達に近い感覚で好きなのかも知れない」
「『かも』ということは、断定はできないけど、なんとなく感じるわけか」
カケルは意味ありげに『かも』を口にして、言葉を続ける。
「涼さんとキスは?」
「したよ」
「弟や友達にキスするか?」
「俺はしないが、する人っているじゃないか」
「いるな。それじゃ、セックスは?」
淡々と質問をぶつけてくる。
俺はドキドキしながら慎重に答えを選ぶ。
「してない」
「付き合ってどのくらい?」
「約1ヶ月」
「1ヶ月なら、なくてもおかしくない」
「涼さんとカケルは初日だったろう?」
俺は少しムキになって反論する。
そんな人に普通と言われても、信憑性はない。
「人それぞれだろう。他の人とは1ヶ月付き合ってもしなかったことあるし。ま、その人とは結局、しないで別れたけど」
それって、つまり、カケル的には1ヶ月の間にセックスしなかった相手は長続きしないってことじゃないか。
俺が心の中でツッコんでると、カケルは少し考えるように黙った後『涼さんって、セフレいるのかな』と呟く。
「そんなの知らないよ」
冷静になろうと心がけていたのに、すっかりペースは乱されている。
「涼さんって、フィーリングさえ合えば、男でも女でも、来るもの拒まずだから、カラダだけの関係の人がいてもおかしくない。そういう相手でセックスは間に合ってるとか?」
「そんな節操なしなのか」
俺は呆れながらも、余計に『それなら何で俺とは?』と悲しくもなる。
「元妻とは『互いの恋愛に口を出さない』という協定があったみたい」
「何だよ、それ」
「おかしいよな。でも、元妻もそれを呑んで結婚したけど、途中から耐えられなくなって破綻したんだって」
奥さん、そんな条件を呑んででも涼さんと結婚したかったんだろう。結婚すれば、変わってくれると希望があったのかもしれない。
その気持ち、わかる。俺も涼さんとは条件ありの付き合いだから。
「涼さん、クソだな」
俺は色々な思いから悪態をつく。たが、カケルもクールに同意する。
「そう、クソ。でも、俺は浮気は絶対に許さない。だから、付き合った時に、浮気はしないでって言ったから、守ってくれていたと思う。少なくとも俺は、他のやつの気配を感じなかった。約束は守る人だよ」
「それは涼さんらしい」
だけど、尚更、そういう人だからこそ、俺と付き合うのは兄さんの約束を守ろうとしているだけなんじゃないか?
兄さんの手前、セフレだっていないと思う。
「翔が涼さんに恋人として思われてないって考える理由がそれだけなら、自分から迫ればいいじゃないか。答えがはっきりする」
冷静な声で言われると、バカにされている気分になる。だが、彼がそう思ってないことはわかる。
「そういう雰囲気になった時、俺の方から少し押してみたけど、思いっきりはぐらかされた」
「そういう雰囲気の『そういう』って、セックスのこと?」
そこまではっきり言わないとわからないわけじゃないだろうに、カケルはいちいち確認をする。
彼は曖昧な言葉の芯を見ないと気が済まない。
だがら俺は「そう」と伝える。
「気のせいじゃない? さっきも言ったけど、涼さんは来るもの拒まずだよ」
「でも、涼さん、戸惑ってたんだ」
涼さんの部屋で俺が『いいですよ、脱がせても』と迫った時。
にやにやとしていた涼さんの笑みがすっと消える。だけど、それを隠すように、すぐに口角がくっと上がった。
俺はあのシーンを何度も頭で再生して、その度に自分の言動を恥かしくなり、涼さんの消えた笑みを思い出すとため息がもれる。
グラスに残っていた焼酎を流し込むように飲み干し、呼び出しボタンを押す。
『お待たせしました』と秒速で店員が現れる。一番最初の女性だった。
「黒霧島ダブルのロックで」
「いや、ただのウーロン茶にして」
カケルは俺ではなく、女性に言う。
「何でだよ」
「そのペースだと酔潰れる」
「俺の勝手だろう」
「介抱させられたら堪らん。絶対に酔い潰れないって言い切れるのか」
カケルは低い声で、まるで脅すかのように言う。
このままだと、まず酔い潰れる。最悪、吐くかも知れない。
「ウーロン茶で」
仕方がなく女性に告げると、論破したカケルをうっとりとした顔で見つめて『かしこまりました』と去っていく。
「カケルって、本当にモテるんだな」
「そんなことどーでもいい」
いかにも興味なさそうに棒読みで答えてから、話の先を促す。
「それより翔が迫った時に涼さんが戸惑っていたっていうのは、お前の被害妄想じゃないのか?」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる