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第八夜 ここは異世界、それとも……

《08-5》

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††

 母さん、ネクスが寝ぼけて計算間違いをして居なければ、ここはどうやら2,000年後の世界のようです。量子電脳が寝ぼけるなんてあるわけないんですけどな。もしそうならバグですよバグ。それはともかく、2000年後なんていう超未来で、僕はこれからどうなってしまうのでしょう。僕の時代から2000年前とか言ったら、イエス・キリストが荒野を闊歩して奇跡を人々に見せていた時代ですよ。僕にしてみれば逆転の発想ですか。現代っ子の僕が2000年前に戻って荒野を歩いてるんでしょうか。


 しるかーっ!



 なんで獣耳や尻尾がある人間やちっこいデブのドワーフや耳が尖ってるエルフが居て、モンスターが居て、悪魔がいる世界が地球なんだーーっ!


 異世界ならまだしも……


 全力で否定したい、全力で否定したいのにぃいぃ!


 ああも無惨に破壊された日本列島を見せられた日には、否定なんて難しいよね。

 近畿地方から九州にかけて、まるで刳られたように無くなって、偶に小さな小島が残骸の様に残ってるだけ。オマケに朝鮮半島から中国大陸にかけて、数百キロの巨大なクレーターができてて、地図が様変わりしてたよ。

 そこに僕の知ってる日本は無かったんだ。



 ネクスの解析結果から。

 22世紀の後半。太陽系外から飛来した巨大隕石が衝突し、その衝撃によって地球は未曾有の大災害に見舞われた。
 
 黄海付近に墜落した隕石は、地上に衝突する寸前に爆発し2つに分裂し、1つは黄海に、1つは中国大陸に直撃した。黄海は干上がり地殻がめくり上がり、巻き上げられた地殻と土砂は成層圏まで達した。 
 太平洋を挟んだ北米南米豪大陸、及び近隣諸島を巨大津波が襲い、諸島は水没し大陸の沿岸部を飲み込んでいった。

 巻き上げられた地殻と土砂は、地球を覆い太陽光は遮られ、地上には衝突の冬という氷河期がやってきた。
 
 そんな感じで地球人類の大半が死滅しちゃったらしい。もっともその前に少数の選ばれた民《セレクト》は火星へ移住が終わっていたそうだ。

 ネクスの計算では、そんな状況でも人類の3割前後は生き残った可能性があるそうだ。
 
 隕石の落下は10数年前から予測されていた。そのために世界各地では来るべき日の為にシェルターが作られたという。直撃さえ受けなければ生き残った可能性があるそうだ。

 まだどっかに残ってるのかなぁ。ネクスによると人類の生存率は30%位らしいんだよね。

 この辺りは特に被害が酷い地域に近いから、多分残った日本列島に人類が生き残っている可能性は低いらしい。つまり、少なくとも地球人類は残っていても、日本人は壊滅した可能性が高いとか。

 日本人が……壊滅。

 ははは、ネクス、またまた冗談……じゃないか。はぁ……

《マスターは最後の日本人になります》

 わーい、最後の日本人だ~~♪

 じゃなーいっ!

 てかさ、てかさ、人類は絶滅寸前としてぇ、日本人が全滅したとして。隕石が日本の近くに落ちたんだから、まあそれは仕方ないとしてさ、あいつらは何なんだよ。
 
 倭人とかドワーフとかエルフってなんなのさ。

 街を作ったり武器を使って魔法を使って、我が物顔で地球を闊歩してル、あの人達なんなの?


 あ、気づいちゃった。そうかそうなんだ。


 あの人達は宇宙人だっ!
 
《マスター・・・》

 そうだよ2000年も経ってるんだ、きっと人類が居ない地球に宇宙人がやってきて、住み着いちゃったんだよ。

《倭人のDNAは地球人類と98%同じです。染色体も23対です。また倭人の塩基配列には、人類の塩基配列の全てが存在しています。》

 それってどういうこと?

《倭人は人類をベースとして、人類にない能力を持たされた新種、またはクローンを改造・改良した可能性があると判断されます。》

 だそうです。

《人類と異なるのは、人類以上の筋力や厳しい自然に対する耐性、そして何よりも違うのが、そのままでは人類には毒にもなりかねない、魔素を体内に取り込み活用する機能が存在します》

 なるほどね、科学文明の産物ってことか。きっとあれかな、隕石墜落して氷河期が来ちゃって、生き残る為にナノマシンとか先端技術を使って、厳しい環境に適応したのかもしれない。
 
 つーと、倭人とかは元人類ってことか。姿が変わったのは厳しい自然環境に適応するためか。

 でも~~、その科学文明は何処にいった?完全に魔法文明になってない?2000年の間に退化しちゃった?

《・・・・》

 はいはい、データ不足ね。


 はぁ、未来は未来でも、崩壊した未来か。ちょっと残念。

 こうなったら開き直るしかないのかな。

 2000年かぁ、でもさよくよく考えれば、100年後でも2000年後でも同じだよね。どうせ知り合いなんてみんな死んじゃってるし、それに何より母さんが全てを賭けて僕に命を与えてくれたんだ。



 母さん、僕は頑張るよ。ここで生きていくからね。

 だから、僕はここで、冒険者となって混沌とした世界を生きていく。




 僕とアリサが食事してるレストランから、大分離れた場所。

 どことなく胡散臭さが漂う地下に作られた酒場。そこが彼等のたまり場なのか、轟焔龍狩猟団のサタラとレックス、その他が酒を浴びていた。

「ふざけやがってあのガキ、とんだ化物じゃねぇか。」

 僕に打ちのめされたレックスが勢い良くジョッキをテーブルに叩きつけた。いやいやキミが弱いだけだよ、とは言わないし場所が違うから知らない。

 
 正確には飲んでるんだけど、その飲み方が浴びるような飲み方なので、浴びるというのは決して不正解じゃない。

「でしょ、あのガキただもんじゃないっす。」

 似非ビーストオヤジがレックスに胡麻を擂るように言うと、レックスの手からジョッキがほうられて似非ビーストオヤジにぶち当たり砕け散った。

「ん、ぎゃぁぁぁ」

「そもそもてめぇがぁぁ」

「よさないか。」

 熱り立つレックスが立ち上がり襲いかかろうとするのを、サタラが止めた。

「しかし兄者、あのガキッ!次は負けねぇ、あんなもんラッキーパンチだっ!」

「やめておけ。あれは……俺たち何かとはレベルが違うバケモノだ。」「だけどっ!」

「お前ほどの手練でもわからぬのか。あれがラッキーパンチだと?本気で言っているとしたら、修行をやり直せ。アイツはお前を相手する時、本気を出していなかった事がわからんのか?」

「……っ!」

 サタラの言葉にレックスはギリッと歯を噛み締め黙りこんだ。

「私と対峙した時も、私の剣を完全に見切り、僅かな間隙で衣服に傷がつかぬように避けていた。アイツは衣服が傷つくことを気にしながら私と戦っていたのだ。」

 ギリッと歯を噛み締め、サタラの手の中のグラスが粉々に砕かれた。

「あいつだ、LV.118のヴェンテゴを倒したのは、アリサじゃねぇ。あのガキが倒したんだ。」

 サタラの言葉にレックスが押し黙り、周囲に居た狩猟団のメンバーたちも、静まり返っていた。
 
 そんな静寂のなか、酒場のドアが開いた。

「そんなにあの女の子に負けて悔しいの?」

 その突然の甲高い声は静まり返っtた室内に、否が応でも響き渡った。

 そしてドアの前に立つ、頭から黒いローブを被った、怪しげな者を全員が注目した。


           ◇ 第一部 終劇 ◇

††


あとがき
沢山の応援とご支援ありがとうございました。

尻切れトンボ風に謎を沢山残して終わりでございます。
何故人類は滅亡したのか、何故悪魔が存在するのか、何故様々な人種が居るのか。
精霊の存在、モンスターの存在、それら全て(?)の謎をレイ(主にネクス)が解き明かす第二部を渇望してお待ち下さい……いつ再会かは未定ですが。

「遥かな男の娘」はこれにて一旦終劇とさせていただきます。
ご愛顧いただきありがとうございました。m(_ _)m
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