遙かな男の娘 ~目覚めた僕は此処でも男の娘でした~

無職の狸

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第七夜 冒険者組合と僕

《07-2》

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††

 肉を噛み締めた途端、肉汁が迸って口の中いっぱいに拡がった。

 熱い肉汁、噛めば噛むほどジューシーなお肉。ああ、この肉の噛みごたえ、味、味がついてる、ああああ~~~♪

「美味しいっ!!」

「にゃーーーーっ!」

 ビャクも美味いか!美味しいよね、やっぱ料理だよね、これが料理だよね。

 フロストポークなら弱い種類のモンスターだ。LV.10台でも倒せる奴だ。だけどそんな弱いモンスターなのに、なんでこんな美味しいの。なんで、なんでこんなに焼いただけのお肉が美味しいの?
 
 解ってる、お塩とか胡椒とかが掛かってるからだ。ただ焼いただけじゃない。熟練の手腕で微妙に調整した調味料が掛かっているからだ。それに調理する前に肉をお酒とかなんかにつけて柔らかくして、切込みを入れて更に食べやすくしてるからだ。

 肉が柔らかい、肉汁が美味しい、ほんとに美味しいよッ!凄く凄く美味しいっ!ふわぁぁぁぁぁ~~、止まらない、口が止まらない、肉を噛むのが止まらない。

 涙が出てくるよっ!

「お嬢ちゃん、そんなに美味いか。嬉しいねぇ、それじゃこっちはどうだ、タレに漬けたもんだ。タレと言ってもただのタレじゃない。フロストポークの肉を最高に引き立てる、うちの店の特製秘伝のタレだ。最高だぞ。」

 おじさんが笑顔でもう一本差し出してくれた。こっちは肉に秘伝のタレとかいう、色の着いた汁が付いてるんだ。どんな味がするか解らないけど、ただの肉串があれだけ美味しかったんだから、こっちも多分美味しいはずだ。

「うんっ!」

 また引っ手繰るようにしてもらって、かぶりついた。

 興奮して鼻から息を吹き出した。甘辛い汁が舌の上で蕩ける肉とマッチして、もうもう、言葉で言い表せない。

「美味しぃぃぃィッ!」

「にゃぁにゃぁにゃぁ!!」

 ちょっと涙目になって満面の笑みでおじさんを見ると、満足そうにウンウンと頷いている。ビャクも夢中になってる。こんなに勢い良く食べるビャクを見るのは初めてだ。

 それだけこの肉串が美味しいんだ。ああ、もう、止まらないよぉ、これこそ料理だ、これこそお肉だぁ、味付けしたお肉がこんなに美味しいなんて、改めて思い出したよっ街って素敵だぁ。







「こらレイっ!」

「うぐぅ、はぃぃっ!」「にゃっ!」

 アリサの怒鳴り声と頭を掴まれて、ようやく我に帰った。

「あんた何やってんのよっ!」

「え、アリサ、これ、すっごく美味しい!!」

 振り向いて見るアリサは、なんか凄く引きつった笑いを浮かべている。

「あんたねぇ……」

 なんかアリサが呆れてる。

「これが、アリサ言ってた、美味しい物!凄く美味しいっ!」

 久しぶりに味付けされた、ちゃんとした料理を食べる事ができて、僕はやたらと興奮してたみたい。なんかアリサがますます顔を引き攣らせて、大きく息を吸い込むと、はぁっと嘆息した。

「いやぁ、よく食べるお嬢ちゃんだねぇ」

 後ろでおじさんが、ちょっと顔を引き攣らせて、それでもニコニコしてる。

「はぁっ、、いくら?」

 アリサが嘆息していうと

「お嬢ちゃん食べっぷりがいいよね、美味しい美味しいって──」「いいからいくらっ?」

「お、おう、15本だから7,500ミストだ、毎度っ」

「15本もっ!」

 アリサが呆れて地面を見ると、僕が食べた肉串の串がバラバラと落ちている。おじさんのにっこりした顔とアリサのがっくりした顔がとても対照的だった。




 おもいっきり怒られた。なんかアリサにはやたらと怒られてる気がする。

 アリサが云うには、露店の食べ物はがっついて食べるものじゃなくて、偶に1本とか2本とか食べる程度がいいらしい。僕みたいに一度に10本も食べるなんて馬鹿のすることだ、と言われた。

 それに7,500ミストもあれば、結構な高級料理が食べられるそうだ。でも美味しかったよ?こんな美味しいもの初めてだったからね。

「ったく呆れた。でもずっと食べてなかったもんね。これでお腹は膨れたようだし、ご飯は後にしても平気でしょ?先に用事を済ませに行くわよ。」

「え?」

 僕から取り上げた食べかけの肉串を食べながら、アリサはすこしムスッとして何処かへと向かっていった。

 なんか怒らせてばっかりだな。まだお腹空いてるんだけどなぁ。まあいいや。とりあえず僕は納得いかないままアリサについていった。






 ここはどこだろう。賑やかな場所から少し離れて、なんとなく陰気な場所っていうのかな、ちょっとガラの悪いところにやってきた。

 道端にはさっきまで居た華やかな街路の人達とは違う、アリサみたいに、ううん冒険者のような武装した人達が殆どだし、どことなく雰囲気が異質かな。

 それになんだろう、ガラの悪そうな男たちが僕をジロジロ見てくるし、ニヤニヤしてる。これってどっかで……そうだ、僕がよく学校の帰り道とか、繁華街に友達といった時に感じた視線だ。

 ガラの悪い不良たちとか、厭らしそうな顔をした大人たち、そんな奴らが僕を見るときの目だ。

「どこ行くの?」

 僕が尋ねると、アリサは前を向いたままで、僕の方を向うともしない。

 まだ怒ってるのかな。随分お金使わせちゃったみたいだし、悪いことしたかな。

 でも肉串食べちゃったのは、ずっと食べてなくてお腹すいてたからだし、第一アリサはご馳走してくれるって言ってたし

 ぶつぶつと呟いてたら、アリサが立ち止まってこっちをみた。どきっとして見上げると

「忘れたの?私達は依頼を受けていた。だから冒険者組合に報告にいくの。」

「あ、ああそれか。」

 そんなこと云われても、僕は冒険者じゃないんだからね。

††
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