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<K22> 私はアイツを知っている
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††
昼食タイム。
折角のお父様と一緒にお食事だというのに、私の腸《はらわた》は溶鉱炉のように煮えたぎっていた。
クリフ君が負けたからではない。あれは仕方ない、力量に差がありすぎた。怒っているのは、ザックの態度があまりにも失礼だったからだ。
騎士としての彼は強い、それは認める。練武場で大公の子息であろうと、遠慮無く打ちのめすのも構わない。
だが、奴のクリフ君に対するあの態度は許せぬ。さらに日々聞かされる蛮行、そして騎士にあるまじき態度が許せない。まして私にはあの少女の声が耳から離れない。自分が死ぬかもしれないのに、なのに……
パキッ
手の中で銀製のフォークが折れてしまった。
「アリス様……」
マリアが慌てて寄ってくる。
「ご、ごめんなさい……」
慌てる私はお父様をみると、お父様は厳しい表情で、私を見ていた。
「落ち着きなさい。アリス。」
お父様が静かにおっしゃられた。
そうだいっそお父様に言いつけてしまえば、いい。
お父様だって見ていたはず。クリフ君へのザックの無礼な態度を。そもそもクリフ君もクリフ君だ、ザックに何を云われたか知らないけど、頭に血を上らせて斬りかかって返り討ちにあうとか、バカですか。
「お父様!私は──」「戦場に於いて、将として立つものは、常に冷静であらねばならぬ。」
「……あ、えと、はい、お父様」
将……お父様は何を言いたいの?
「クリフも何を煽られたのか知らぬが、言葉如きで熱り立つとは、まだまだ青い。アリスはその辺り、どうかな?」
お父様が優しく微笑んで見ている。私はなんと返したら良いのかな。確かにクリフ君は戦闘の最中に、ザックとの会話で我を失ってしまった。
敵の術中にハマるなんて、まだまだ青いとしか言えない。でもどんな無礼な事を云われたんだろう、歓声が煩く良く聞きとれなかったけど、クリフ君があそこまで熱り立つなんて……
怒りでザックの動きが見えていなかったのだろう。では自分ならどうなのか。怒りを内に押し殺し、冷静に対処できるのだろうか。
「……はい、まだまだ未熟者かと……」
私は頭を垂れて応えた。
「そうか、アリス。自分の未熟さが解っていれば良い。」
お父様……
「私からは何も言うことはない。勝ち抜いたお前の姿を見せておくれ。」
私……涙腺崩壊!ぶわっ!
どーもお父様にお声を掛けられると、ほんと駄目だ。
考えてみると前の人生でもこんな感じだったかも。お父さんはいつもお仕事で居なかった。朝起きた時には居なくて、夜寝てから帰ってきてた。
顔を見れたのは、陸上部の朝練があるときだけだった。
だからお父さんと少しでも会話したくて、頑張って朝は早起きして自主練してた。
そんな私にお父さんはいつも優しく励ましてくれた。
そっか、私ってファザコンだったんだ。
それじゃファザコンらしく、お父様に私の実力見せてあげよう。
本当の実力を……
◇◇
午後から始まった試合を淡々とこなし、次は第一練武場での決勝となる。ここで勝てば第二練武場のトップと、優勝争いとなる。
前の試合は時間を掛けなかった。闘気を最大限に放ち、ザックの手駒が反則じみた攻撃を仕掛けるも、あっさりと跳ね除けた。
そしてザックの試合。
彼はこの試合を勝ち抜くと、私との決勝になる。
しかし彼は解っているかのように、私をにやにやと見ていた。まるで全身を舐めるように見つめてくる。
そうだ、いつも気が付くと見ていた時のように。
そして当たり前のように平民クラスの対戦相手を、やり過ぎな位に打ちのめした。いや元から対戦相手はビビっていたのだ。
常日頃から奴に暴力を振るわれてきたのだから、戦う前から勝敗は決して居るようなものだ。
次は私だと言わんばかりに、剣を向けてニタリと笑った。
こいつはいったい何を考えているのか。いくら練武場では無礼講とは言え、私は皇女であり、そしてさっきお前が蔑んだのは大公なのだ。
奴の親はいったいどんな教育をしてきたのか。練武場でのこととは言え、大公閣下のさじ加減次第で家を取り潰しにされることだって有る。
貴様の暴言や不遜な態度に大公閣下がお怒りになり、お父様に進言するかもしれないのだ。
あのあとクリフ君とは話していないから、試合中にザックが何を言ったか、何故クリフ君が激昂したのかは解らない。
ただ今は冷静に……そう、お父様の言うとおりに、冷静に試合を進める……
お父様にはそう云われた。だが奴と対峙したとき、私は冷静さを保てるのだろうか。
「アリス様」
センセが私を呼ぶ。
第1練武場の決勝。
相手は大商人の息子。ザックの取り巻きの1人だ。どこか厭らしい下卑た顔。ザックのおこぼれにでも預かっているのか。
奴に隷属して満足しているのか。
苛々としむかむかとしてくる。
冷静になれ。
私は殊更に冷静になろうとした。
怒りそのままに対戦相手を傷つけてはいけない。
だから───
無理っ
「はじめっ!」
センセが合図する。
「縮地」
開始早々に縮地のスキルを発動させ、剣を振った。
ズバーーーンッ
剣は大商人の息子の身体を袈裟懸けに斬り、ふっ飛ばす。肥った身体は転がることもなく、練武場の端まで飛び、転げ落ちた。
きっと彼には何が起きたかすら解らない。
センセには見えていたようだけど、突然の事に呆然としている。
私は剣をザックに向ける。
「休む暇など不要っ!ザック、練武場に上げってこいっ!キサマの性根を叩き治してくれるっ!」
私の怒鳴り声が響き渡った。
ようやく何が起きたか解ったのか、会場がざわめきだした。
ザックは不敵に笑みを浮かべると、両手剣を担いで立ち上がり、私へ厭らしい視線を絡めると、ゆっくりと練武場へと脚を進めた。
ごめんなさい、お父様。冷静に成れません。
◇◇
第一練武場には私とザックが対峙している。
センセはちょっとオロオロしているが、当のザックはにやにやと私に睨めつく視線を絡めてくる。
この視線、ゾッとする。
まるで性犯罪者のオヤジのような視線。
だけどこれ、何処かで見たような視線だ。そうだずっとそう思っていた。
どこかで──私はこいつを知っている。
「へっへっへ、やっと皇女様とごたいめ~んか。なかなか潰し甲斐がありそうだ。どーせなら別の場所でやっちまいてぇけどな。」
この恥知らずな言葉、態度。私の中で怒気が闘気となって、湧き上がり立ち上ってくる。
「皇女に対しての無礼な言葉、地獄で悔いるが良い。」
長剣をぶらりと垂らしたまま、奴を睨みつける。
「ったくつれねーな。そんなに俺が気にくわねーなら、この命くれてやるぜ、どうよ、俺と賭けをしねーか?皇女様。」
「命を賭けるとでもいうか?」
「そうだよ、まああるわけないが、俺が負けたらこの命をくれてやる。だが俺が勝ったら、あんた俺のものになれよ。」
「………貴様……」
「へっへっへ」
ザックの顔が厭らしく歪み、私は……切れた。
「貴様の命──この場で刈り取ってくれよう。」
途端にセンセが慌てだした。
「アリス様、ザック様、ここは武器術の試合の場、そのような決め事をされる場ではありません。」
焦りながらセンセが言うのだが、ザックはまるで聞いていない。当然私もだが。
「い~目をしてやがる。嬲り甲斐があるってもんだ。なんなら真剣でやるか?と言いてぇがあんた殺しちゃったら、嬲れないからなぁ、ここはこいつでいいか。」
「私は構わぬぞ、貴様のそっ首、叩き落してくれる」
「気の強い女は好物だぜ、女は侍女も町娘も抱いてきたが、まだ貴族の女は子爵までしか抱いてねーんだわ。だからよ、上級貴族の皇女様を抱いてみてーんだわ、まだ餓鬼っぽいけどな。俺ので突かれたら、どんな顔するか楽しみだぜ!ぎゃはははははっ!」
何だこいつ。ほんとに最低だな。しかし身長は170センチを超えているだろうし、大人と体格は変わらない。私とは20センチ以上も身長差はある。
こいつ、マジか?
「てかったくよ~。よりによって子爵だからな、最下級より増し位の貴族だぜぇ?王子とかならやり放題できたってのに、あのくそったれ女神のせいでしょぼいしょぼい。」
なんと言った?
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昼食タイム。
折角のお父様と一緒にお食事だというのに、私の腸《はらわた》は溶鉱炉のように煮えたぎっていた。
クリフ君が負けたからではない。あれは仕方ない、力量に差がありすぎた。怒っているのは、ザックの態度があまりにも失礼だったからだ。
騎士としての彼は強い、それは認める。練武場で大公の子息であろうと、遠慮無く打ちのめすのも構わない。
だが、奴のクリフ君に対するあの態度は許せぬ。さらに日々聞かされる蛮行、そして騎士にあるまじき態度が許せない。まして私にはあの少女の声が耳から離れない。自分が死ぬかもしれないのに、なのに……
パキッ
手の中で銀製のフォークが折れてしまった。
「アリス様……」
マリアが慌てて寄ってくる。
「ご、ごめんなさい……」
慌てる私はお父様をみると、お父様は厳しい表情で、私を見ていた。
「落ち着きなさい。アリス。」
お父様が静かにおっしゃられた。
そうだいっそお父様に言いつけてしまえば、いい。
お父様だって見ていたはず。クリフ君へのザックの無礼な態度を。そもそもクリフ君もクリフ君だ、ザックに何を云われたか知らないけど、頭に血を上らせて斬りかかって返り討ちにあうとか、バカですか。
「お父様!私は──」「戦場に於いて、将として立つものは、常に冷静であらねばならぬ。」
「……あ、えと、はい、お父様」
将……お父様は何を言いたいの?
「クリフも何を煽られたのか知らぬが、言葉如きで熱り立つとは、まだまだ青い。アリスはその辺り、どうかな?」
お父様が優しく微笑んで見ている。私はなんと返したら良いのかな。確かにクリフ君は戦闘の最中に、ザックとの会話で我を失ってしまった。
敵の術中にハマるなんて、まだまだ青いとしか言えない。でもどんな無礼な事を云われたんだろう、歓声が煩く良く聞きとれなかったけど、クリフ君があそこまで熱り立つなんて……
怒りでザックの動きが見えていなかったのだろう。では自分ならどうなのか。怒りを内に押し殺し、冷静に対処できるのだろうか。
「……はい、まだまだ未熟者かと……」
私は頭を垂れて応えた。
「そうか、アリス。自分の未熟さが解っていれば良い。」
お父様……
「私からは何も言うことはない。勝ち抜いたお前の姿を見せておくれ。」
私……涙腺崩壊!ぶわっ!
どーもお父様にお声を掛けられると、ほんと駄目だ。
考えてみると前の人生でもこんな感じだったかも。お父さんはいつもお仕事で居なかった。朝起きた時には居なくて、夜寝てから帰ってきてた。
顔を見れたのは、陸上部の朝練があるときだけだった。
だからお父さんと少しでも会話したくて、頑張って朝は早起きして自主練してた。
そんな私にお父さんはいつも優しく励ましてくれた。
そっか、私ってファザコンだったんだ。
それじゃファザコンらしく、お父様に私の実力見せてあげよう。
本当の実力を……
◇◇
午後から始まった試合を淡々とこなし、次は第一練武場での決勝となる。ここで勝てば第二練武場のトップと、優勝争いとなる。
前の試合は時間を掛けなかった。闘気を最大限に放ち、ザックの手駒が反則じみた攻撃を仕掛けるも、あっさりと跳ね除けた。
そしてザックの試合。
彼はこの試合を勝ち抜くと、私との決勝になる。
しかし彼は解っているかのように、私をにやにやと見ていた。まるで全身を舐めるように見つめてくる。
そうだ、いつも気が付くと見ていた時のように。
そして当たり前のように平民クラスの対戦相手を、やり過ぎな位に打ちのめした。いや元から対戦相手はビビっていたのだ。
常日頃から奴に暴力を振るわれてきたのだから、戦う前から勝敗は決して居るようなものだ。
次は私だと言わんばかりに、剣を向けてニタリと笑った。
こいつはいったい何を考えているのか。いくら練武場では無礼講とは言え、私は皇女であり、そしてさっきお前が蔑んだのは大公なのだ。
奴の親はいったいどんな教育をしてきたのか。練武場でのこととは言え、大公閣下のさじ加減次第で家を取り潰しにされることだって有る。
貴様の暴言や不遜な態度に大公閣下がお怒りになり、お父様に進言するかもしれないのだ。
あのあとクリフ君とは話していないから、試合中にザックが何を言ったか、何故クリフ君が激昂したのかは解らない。
ただ今は冷静に……そう、お父様の言うとおりに、冷静に試合を進める……
お父様にはそう云われた。だが奴と対峙したとき、私は冷静さを保てるのだろうか。
「アリス様」
センセが私を呼ぶ。
第1練武場の決勝。
相手は大商人の息子。ザックの取り巻きの1人だ。どこか厭らしい下卑た顔。ザックのおこぼれにでも預かっているのか。
奴に隷属して満足しているのか。
苛々としむかむかとしてくる。
冷静になれ。
私は殊更に冷静になろうとした。
怒りそのままに対戦相手を傷つけてはいけない。
だから───
無理っ
「はじめっ!」
センセが合図する。
「縮地」
開始早々に縮地のスキルを発動させ、剣を振った。
ズバーーーンッ
剣は大商人の息子の身体を袈裟懸けに斬り、ふっ飛ばす。肥った身体は転がることもなく、練武場の端まで飛び、転げ落ちた。
きっと彼には何が起きたかすら解らない。
センセには見えていたようだけど、突然の事に呆然としている。
私は剣をザックに向ける。
「休む暇など不要っ!ザック、練武場に上げってこいっ!キサマの性根を叩き治してくれるっ!」
私の怒鳴り声が響き渡った。
ようやく何が起きたか解ったのか、会場がざわめきだした。
ザックは不敵に笑みを浮かべると、両手剣を担いで立ち上がり、私へ厭らしい視線を絡めると、ゆっくりと練武場へと脚を進めた。
ごめんなさい、お父様。冷静に成れません。
◇◇
第一練武場には私とザックが対峙している。
センセはちょっとオロオロしているが、当のザックはにやにやと私に睨めつく視線を絡めてくる。
この視線、ゾッとする。
まるで性犯罪者のオヤジのような視線。
だけどこれ、何処かで見たような視線だ。そうだずっとそう思っていた。
どこかで──私はこいつを知っている。
「へっへっへ、やっと皇女様とごたいめ~んか。なかなか潰し甲斐がありそうだ。どーせなら別の場所でやっちまいてぇけどな。」
この恥知らずな言葉、態度。私の中で怒気が闘気となって、湧き上がり立ち上ってくる。
「皇女に対しての無礼な言葉、地獄で悔いるが良い。」
長剣をぶらりと垂らしたまま、奴を睨みつける。
「ったくつれねーな。そんなに俺が気にくわねーなら、この命くれてやるぜ、どうよ、俺と賭けをしねーか?皇女様。」
「命を賭けるとでもいうか?」
「そうだよ、まああるわけないが、俺が負けたらこの命をくれてやる。だが俺が勝ったら、あんた俺のものになれよ。」
「………貴様……」
「へっへっへ」
ザックの顔が厭らしく歪み、私は……切れた。
「貴様の命──この場で刈り取ってくれよう。」
途端にセンセが慌てだした。
「アリス様、ザック様、ここは武器術の試合の場、そのような決め事をされる場ではありません。」
焦りながらセンセが言うのだが、ザックはまるで聞いていない。当然私もだが。
「い~目をしてやがる。嬲り甲斐があるってもんだ。なんなら真剣でやるか?と言いてぇがあんた殺しちゃったら、嬲れないからなぁ、ここはこいつでいいか。」
「私は構わぬぞ、貴様のそっ首、叩き落してくれる」
「気の強い女は好物だぜ、女は侍女も町娘も抱いてきたが、まだ貴族の女は子爵までしか抱いてねーんだわ。だからよ、上級貴族の皇女様を抱いてみてーんだわ、まだ餓鬼っぽいけどな。俺ので突かれたら、どんな顔するか楽しみだぜ!ぎゃはははははっ!」
何だこいつ。ほんとに最低だな。しかし身長は170センチを超えているだろうし、大人と体格は変わらない。私とは20センチ以上も身長差はある。
こいつ、マジか?
「てかったくよ~。よりによって子爵だからな、最下級より増し位の貴族だぜぇ?王子とかならやり放題できたってのに、あのくそったれ女神のせいでしょぼいしょぼい。」
なんと言った?
††
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