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<K20> 魔術戦の悲劇

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††

 さすがにクリフ君は、あっさりと試合を勝ち抜いてしまいましたとさ、なんか面白くない。
 
 クリフ君の強みは二刀流による高速な攻撃。
 
 身体の柔らかさもあるし、まるでダンスでも踊るように相手を翻弄する。相手が槍だったんだけど、まるで槍に絡むようにあっという間に倒してしまった。
 
 さすが上級貴族クラスでNo.2の使い手ですね。No.1は私。今のところね。
 
 そして第2練武場の次の試合、面白くもなさそうなので、そろそろと魔術の方へと向かう。
 
 剣を装備したままはまずいので、センセに剣を預けて第3練武場に上がった。
 
 一応防具はそのまま。
 
 センセが防御魔法を掛けてくれて、いざ勝負。
 
 お相手は男爵家の子女とか。でもなんかな~、目が虚ろというか、生気がないというか。
 
 そこでふと思い出す。下級貴族のクラスならば、ザックのクラスだ。もしや奴の毒牙に掛かっているのだろうか。
 
 目の下に薄っすらとクマがあり、どこか悲しげで虚ろな瞳。
 
 しかし試合が始まった途端、彼女は呪文を詠唱し始める。両手に火球が造り、四方へと放出させた。
 
 中々やる。
 
 4つの火球が私に迫るが、私は素早く動いて火球を躱し、氷魔法を唱えた。相手が炎が得意なら、こちらは氷で相殺させてみようかと思ったのだけど、彼女は私にむかって走っている。
 
 え?
 
 何故近づく?魔術戦闘では白兵戦なんて無いのに。
 
 見る見る私の目の前まで来ると、いきなり炎が舞い上がり、彼女は全身を火だるまにさせた。
 
「なっ!」

 対戦相手が自らの魔術で焔に包まれ、驚愕する私に向けて彼女は必死の形相で飛びついてきた。
 
「待てェェェェッ!」

 センセが怒鳴っている。
 
 会場から悲鳴が聞こえてきた。
 
 なんだこれ、自爆テロ?
 
 そう正に自爆テロだった。
 
 彼女は私の身体に絡みつき、燃え上がりながら次の呪文を発動させた。
 
 破裂音と爆裂音、激しい焔と衝撃が私に襲いかかった。

 至近距離からの爆裂魔法。

 私の身体もろとも吹き飛ばすつもりだったのか、相打ち狙いだったのか。
 
 しかし何故。
 
 彼女の身体は防具もろとも引き裂かれ、血だるまになり全身に大火傷を負っていた。

 私も少なからず衝撃と火傷を負ったが、私の身体には予め掛けた防御結界が張られている。それにこの程度では、私の超速再生は見る見る治してしまう。

「センセ、はやく治癒をっ!」

 私は対戦相手に駆け寄り、ぐったりとした彼女を抱きしめ叫んだ。
 
「これ、、で、、わたし、、じゆう、、あ、、げふっ、、、」

 彼女は先ほどまでの虚ろな顔がウソのように、ホッとした顔をしている。そして微かな喘ぐ声とともに、口から血が溢れだした。

 内臓もやられたのか?
 
「せんせっ!!!早くっ!!!」

 慌てた治癒師が駆けつけ、彼女を床に寝かせると急いで治癒が行われる。
 
「どうして、、どうしてこんな。」

 訳が解らない。どういうことなのか。自由ってどういう意味なの。混乱する私は必死に考えた。
 
 あの虚ろな顔、そして今の顔、混乱する中で私は結論を出し、練武場の片隅を睨みつけた。
 
「ザックっ!許さないっ!」

 アイツだ。

 証拠なんて無い、だけどあいつがこの子に命令したんだ。

 奴は唇を歪ませ、私を見ていた。少し意外そうな顔もしているが、残念そうでも有る。
 
「センセ、私、魔術はここで棄権します。」
 
 私が言うと、先生は驚いた顔をしたが、なにか事情があると察してくれたのか、直ぐに頷いてくれた。
 
 奴が他の子にも同じように命じているかもしれない。ならば、私はこれ以上試合に出る訳にはいかない。
 
 私が奴の狼藉を耳にしながら、何も手を打てないでいた、その結果なのだから。
 
 
 
 
 
 第2回戦1試合目、ツェザーリ君が既に練武場の上に待っている。
 
 私はちらっと貴賓席に視線を送ると、お父様とお母様が笑みを浮かべて見てくれている。
 
 心を落ち着かせよう。
 
 あの子は助かったという。身体に火傷は残るが、2ヶ月もすれば完全に治るとか。
 
 今はザックへの憎しみは忘れよう。
 
 試合に集中する、そうしなければツェザーリ君に失礼になるから。
 
──うん、行こうか。
 
 私は闘気法を発動させると、闘気を漲らせ、ゆっくりと練武場へと踏み出した。
 
 練武台の上、私を見つめるツェザーリ君が、首を傾げ問いかけた。
 
「アリス様、先ほどの魔術試合、見ておりました。お体はよろしいのですか。」

 優しい目と優しい声、心底心配してくれているのだろう。流石武人の誉れ高い辺境伯の家系だろうか。
 
 私もまたその言葉を受け止める。
 
「ご心配いただき、有難う御座います。ですが勝負に支障はございません。存分によろしくお願いいたします。」
 
 私の言葉にツェザーリ君はコクリと頷く。
 
「では、お言葉に甘え全力にて掛からせて頂きます。」
 
 ツェザーリ君が真剣な顔つきとなり、私の期待に応えるかのように、彼もまた闘気を漲らせていく。

 私の唇が自然と吊り上がり、歯を見せて笑みを作る。

「始めっ!」

 センセの合図が響くと、ツェザーリ君は両手剣を横に構えた。

「アリス様、行きます。」
「ツェザーリ様、存分にっ!」

 ツェザーリ君が、一気に私との間合いを詰め、両手剣を横なぎに切り込んでくる。

 私は長剣を上段に振り上げ、彼の両手剣に向けて振り下ろした。

 激しい剣戟の音が立て続けに起こる。

 早い。
 
 さっき見ていた時よりも早い。
 
 あんな大きな武器を、自在に操ってる。私はツェザーリ君の剣戟を受け止めながら、彼の隙を窺った。
 
 しかし、ほんの僅かな隙を見せた私に、上段から来た剣が斬りつけた。
 
 長剣で受け止め躱したものの、私は大重量の剣の衝撃に跳ね飛ばされ、練武場を転がる。
 
 途端にアチラコチラから悲鳴が聞こえた。中には「アリス様」という声が。私の女子会の子たちかな?
 
 結構人気あるのかな~。
 
 いやいやそんなこと言ってる場合じゃない。
 
 それはともかくだ、私は彼のことを侮っていた。いけない、自分の能力を過信していた。

 変な…といっては失礼だけど、変わった称号なんて貰ったもんだから、慢心していたのかも。
 
 ツェザーリ君は12歳だけど、でも、剣技は上級の騎士団並なんだ。手加減して勝てる相手なんかじゃないと悟った。
 
 私はすぐさまバク転して距離をとって立ち上がる。
 
 しかしツェザーリ君が追いかけてくる。私が剣を構えた時には、すぐ目の前まで迫っていた。
 
 両手剣が迫る、長剣を下から振り上げ跳ね返す。次に来る剣筋を察知し、さらに迫る両手剣を跳ね上げた。

 両手が伸びきる。しかし直ぐに両手剣が私に向けて、振り下ろされる。

 悪手だ。戦闘経験の少なさ、そこに私が付け込む隙ができた。ここで彼が背後に跳んだら、まだ戦いは続いていたはず。

 私はツェザーリ君へと踏み込み、袈裟懸けに斬りつけた。
 
 ズバンッと重い音がし、センセが「それまでっ!」と試合終了の合図をする。
 
 湧き上がる歓声の中、ツェザーリ君ががっくりと項垂れた。
 
「はぁぁ、負けた。」
「ツェザーリ様……手強かったですわ、さすが次期辺境伯です。」

 私は素直に彼を褒めた。今回の試合は私に多くを教えてくれた。あっさりと倒そうなんて、彼を侮っていた。油断の怖さ、私は今回それをよく理解できた。
 
 ツェザーリ君には感謝しないと。
 
「アリス様、貴女こそ素晴らしい剣技です。感服いたしました。」

 ツェザーリ君はにっこりと清々しい笑顔で、胸に手を当てて一礼した。
 
 ちらりと貴賓席を見ると、お父様はにこやかに微笑んでおられる。娘が勝ったことが嬉しいのか、それとも娘の剣技に満足してくれているのかな。
 
 どっちなのかは、今はどうでもいい。あの笑顔を私に向けてくれている、それだけで満足だ。
 
††
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