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<35> モフモフは女の子に人気なのです

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††

「魔大陸《ノスフェラトゥ》へ……か?」

 仮面の少女、アリスが俺を見つめた。

 そしてちらりとルミへと視線を落とす。まさか……

「なるほど……」

 小さく首を傾げ、表情は良くは解らないが、恐らく訝しげな顔をしているのかもしれない。

 そしてそれは侍女マリアと少年騎士クリフも同じだ。

 ルミが魔族だとばれたかと思ったが、どうも違うっぽいような。仮面のおかげで表情がよくわからん。

「こいつはジュンヤってんだが、魔大陸《ノスフェラトゥ》の魔族をぶっ殺しにいくっていう、威勢のいい馬鹿だ。」
「てめぇっ!」
「そっちのチッコイのはルミっていう、ジュンヤの妹だ。」
「妹?」
「金髪の兄と赤髪の妹さんですか。」

 アリスがくすっと笑う。嘘バレバレだろ。

「ああ、ジュンヤは貰いっこらしいんだ。」
「てめ、なにいって──」「んじゃ出発だ!」

 俺がマジで殴りかかりそうになる前に、ニトロはひらりと御者台に乗ると馬を奔らせた。
 
「人のプライバシーをペラペラとしゃべり腐って。個人情報保護法をしらねー、よな……ったく」
「はっはっはっ、ぷらいばーとかコジンなんたらなんか知らねーよ。はははは。」

 馬を奔らせながらニトロが笑いやがった。
 
「そうそう、その位いいじゃない?」

 リリスやレヴィまで笑ってやがる。

 ゴレムとグルームはニヤついてるだけだが、笑ってんだろっ!

「個人情報……か……」

 アリスが俺をちらっと見て、くすっと笑った。

「あの、それで、その頭の上の……ヌイグルミは……」

 マリアがおずおずと俺の頭を指して尋ねた。さっきからずっと気になっていたようだ。何故か目がキラキラさせて両手を前にして指がわなわなしてる。
 
「こいつはコッペルっていうんだ。」
「コッペーご挨拶~」

 俺が言うと、ルミがコッペルの頭をポンポンと叩いた。

「クゥッ!」

 途端にコッペルが立ち上がって、首をかしげた。

「「きゃぁぁぁぁぁぁっ」」

 アリスとマリアの黄色い悲鳴が馬車の中で反響した。

 ですよね~。2人とも目を輝かせ、蕩けたような顔で見てやがる。
 女の子には超絶人気なんだけど、一応こいつ肉食獣ですからね。

「か、可愛すぎる……」
「う、うむ、私も欲しい、マリア、この、この可愛らしいのはなんという動物なの?」
「す、すいません、私も初めて見ました。」
「ふ~む、実に……うむ、これはなかなか。」

 アリスとマリアが俺の前に立ちふさがって、あーだこーだと夢中になっている。クリフもなんかムズムズしてる。

「さ、触ってもいいか、いいのか?」
「コッペ、ヤサシクなら、だいじょぶ。」

 アリスがおずおずと手を伸ばそうとしていると、ルミがにっこりと微笑んで頷いた。なんで俺に聞かずにルミに聞くのか。

「そ、そうか───おおおおっ!」
「ふわぁぁぁ、ふわふわ、モフモフです。」
「素晴らしい、こんな生き物、うああああ、癒される……」

 あのさ、コッペルが可愛いのはいいが、いっそ引き剥がしてくれないかな。俺の真ん前に立って……胸が、特にマリア、目の前に迫ってくるな、盛り上がりが近い、近い、近すぎるんだよっ!むがぁぁっ
 
 それをレヴィがすっげぇ形相でみてるわけだが、俺はマリアの盛り上がりに埋まって見えてなかったです。
 
 いろんな意味で良かったかも。


◇◇


「そ、それで、其方は、魔族を退治するために魔大陸《ノスフェラトゥ》へと向かっているのか。」

 アリスが俺を見つめて……いや、視線は膝の上だな。コッペルを抱きかかえて、マリアと一緒にモフモフ堪能している。まだ興奮が収まってないのか、頬が赤いぞ。それになんか艶々してるぞ。

「ま、まあな。」

 こうして剣など振らずにコッペルをモフモフしてる分には、女の子っぽく見える。

「そうか……」

 アリスはちらりとマリアを見ると、マリアが静かに頷いた。

 なんだかな。やっぱなんか訳ありっぽい。


◇◇


 おかしな訳あり風の3人を拾った後は、特に問題もなく旅は進む。おかしな3人も、貴族めいてふんぞり返るでもなしに、気楽に話すようになった。これは恐らく侍女のマリアの役割が大きい。

 彼女は中々人付き合いが良いというか、おしゃべりであり、また話題も豊富だった。これもメイドの嗜み、等と言って笑わせてくれるのだ。

 アリスもまたそこまで硬いわけではなく、適度に話題に入ってきてくれる。

 クリフはそこそこ硬いが、それでも貴族だからとふんぞり返るわけでもなく、気楽に話しかけられた。もしかしたらこいつは貴族じゃなくて、もともとアリスに使える騎士なのかな。

 貴族のアリスと騎士のクリフが、身分違いの恋に落ちて逃避行とか?なんだかな~、そんなドラマ仕立てありか?

 まあおかしな素振りもないし、馬車の空気が悪くなることもなく、旅は順調に進む。
 
 ちと気になるのは、気が付くとアリスが俺を見ているってことか。こちらの視線に気づくと直ぐに逸らすのだが。

 年齢が近いせいだろうか、まさか俺に惚れたか?隣に婚約者がいるんだろ?いいのか?
 
 いや俺にはアマンダがいる。そうだ、アマンダを助け出すために俺は旅をしているんだ。
 
 
 
 夕暮れ近くなり、馬車はようやく街に到着した。
 
 辺境に近いこともあり、それほど大きな街ではないが、そこそこの設備は整っていた。
 
 店もあれば宿もあり、それなりに発展している。見た感じ人口で5000人といった規模だろうか。
 
 俺たちは馬車を厩舎の停車場に預け、宿を決めて荷物を運びこむ。彼らおかしな3人もまた、同じ宿だ。とはいっても宿が一件しかないのだから仕方が無いだろう。
 
 そして今日は久しぶりに上げ膳据え膳の飯屋だ。そう決めている。

「あんたらこれからどうする?俺たちは飯屋にいって夕飯にするんだが。」

 ニトロが尋ねると、マリアとクリフがアリスへと顔を向けた。レディファーストか?主導権はアリスが握っているのか?
 
「ご一緒致しましょう。何よりもここまで送って頂いたのだすから、礼もさせて欲しい。」

 アリスがにっこりと笑った。そしてまた俺をチラッと見る。

「そうこなくっちゃな。ゴチに預かっていいかい、お姫様。」
「なっ!」

 ニトロの言葉にアリスが少し唇を引き攣らせ、マリアが驚きの顔をする。クリフも平常を保とうとしているが、どこか引き攣っていた。

「あ、まずかったかな?そこまで食べる気はないんだが?」

 ニトロが慌てて言い直す。もしや相手は金も奪われて、金欠なのかと。

「ああ、いや、そうではありません。金子の心配などはせずに、存分に食べてください。」

 アリスがニッコリと笑ったが、小さな声で「なんとも紛らわしい。」とぼそっと言ったのを、俺は聞き逃さなかった。

 どういう意味だろう。金のことじゃないとすると………ニトロはなんといったか?
 


 ………そうだ、お姫様……

 俺はゾクッとして振り向き、アリスを見つめた。

 高貴そうな顔立ちに高級なドレス、そもそもそんな服で街を歩くってのか。どこか浮世離れしている感じもある。

──知らん知らん知らんっ

 俺は顔を振って聞かなかったことにする。
 
「では少々お待ちいただけますか?」

 マリアが俺たちに言う。

「どうしたの?」

 リリスが尋ねると
 
「アリス様もクリフ様も、こうした街では、少々悪目立ちしますので……」

 そう言ってくすっと笑った。

 なるほど着替えですか。多少は常識を持っている、ということかな。ってでも衣装はどこにあるの?
 
 そのトランクに全部入ってるのかな。
 
 俺のそんな疑問に応えることもなく、3人は部屋に向かってしまった。それもこの宿で一番広くて高い部屋に。
 
「やっぱあいつら金持ち貴族だな。」
 
 グルームがやれやれと言った顔で、階段を登っていく3人に嘆息した。
 
「最高級の部屋に着替えとか、いい暮らしだねぇ。」
「それだけじゃない。収納《ストレージ》を持ってるとか、か~羨ましいぜ。」

 ニトロが言う。なんだそれ?
 
「なに、ジュンヤ知らんのか?」
「知らん。」

 ニトロが呆れた顔をする。
 
「あいつらの荷物、トランク1つだったろ?」
「ああ、襲われてなくしたのかな。3人分にしては少ないよな。」

 俺が考え込みながら言うと、ニトロは苦笑する。

「貴族様はな、荷物なんて持たないだよ。」
「荷物を持たないって、いや侍女とかが持つんだろ?」
「そうだ、荷物持ちは従者の役目、馬車なんかで旅するときは、数人の従者と護衛、荷物用の馬車を用意するんだ。」
「──まじか?」

 荷物用の馬車とか、どんだけ金持ち何だよ。それに数人の従者とか、村育ちの俺からすれば、想像もできない。いやいや、前世にしてもそんな待遇受けたこと無いぞ。
 
 ああ、でも金持ち連中が海外旅行に行くときは、空港でやたらとブランド物の大きなバッグを、カーゴに沢山持ってるのはテレビで見たな。
 
 でも馬車に従者とかは……どうなんだ?
 
「お忍びとかの場合、着く侍女は1人か2人、そうなると大荷物も持てない。」

 だろ?とニトロが意地悪く笑う。
 

††
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