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<19> 幕間 オーガと少女
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††
森の奥深くの開けた一角で、焚き火がゆらゆらと揺れている。
焚き火の周りには、貧弱な鎧を身につけた20匹程のオーガ達がくつろいでいる。彼等の手には肉の塊が掴まれ、焚き火を囲んでガツガツと肉を喰らっていた。
「GURURRRRRUUUHHHH………」
その中に唸り声を響かせる巨岩があった。
よく見ればその厳つい様は、岩とも見えるが、人が胡座をかいた形に近かった。だがソレ《・・》は人を遥かに超える大きさであり、さらによく見れば巨体を、ゴツゴツとした岩を模した灰色の鎧が包んでいるようだった。
岩のようにゴツゴツした面に覆われた肩や肘、膝の部分。分厚い鉄で作られた鎧は、身を守るだけではなく、敵に致命的なダメージを与えるためのようでも有る。
それだけでも異様なのに、ハーフキャップの様な兜から見える顔は鬼の形相であり、明らかに人ではない人外であり、額部分からは2本の角が聳《そび》えていた。
異形の巨人が手に持った大きな椀には、波々と注がれた赤い液体が入っており、異形の巨人は椀を口に当てると、牙の生えた大きな口に赤い液体を流し込んでいった。
傍に控えていた異形の巨人よりも三周り以上小さい、異形の巨人寄りも貧相な鎧を身にまとった、頭に角を持つ者──オーガが、空いた椀を受け取った。
オーガは少し離れた場所に置かれた大きな樽まで行く。樽にはまだ半分以上の位置まで赤い液体が入っており、樽の中に月明かりが差し込み、赤い液体の中に浮かぶものを照らしだす。
それは形状を失いはっきりとはしないが、丸いゴロリとしたモノ、なにかの生き物の頭であったり、腹や胸であったり、細く長い手や脚だった。
中には皮膚や肉が崩れ、骨がむき出しになって頭蓋骨が半分見えているものもあった。
オーガは椀を液体に浸して掬いあげ、椀の中に頭まで入ってしまい、引っ掴むとぽいっと樽の中に入れなおす。
指に付着した液体をぺちゃぺちゃと舐めてから、異形の巨人の元へ戻ると、敬々しく巨人に渡した。
ゾゾゾゾゾゾゾゾッ
まるで空気が振動したかのような錯覚に陥り、オーガ達は辺りを見回し警戒した。肉を放り出しメイスやモーニングスターに持ち替え、膝立ちの姿勢となる。
「ずいぶんと、寛いでいるじゃないかぁ。」
オーガ達がざわめいた。いったいいつの間にいたのか、異形の巨人の前に、目にも鮮やかな真紅の長い髪を垂らした少女が居た。
赤い血のような髪に黒い衣装、まるで貴族のドレスのようでもあるが、どこか雰囲気が違う。
どこかそれは、ドレスを自分独自の感性で、オリジナル風にカスタマイズしたようにも見える。
黒いドレスから伸びる白すぎるほどに白い肢体、白く艶めかしい肢体と男を惑わせるような、妖しい容貌の少女。その少女は誰しもが、一目見ただけで、人ではないと理解するだろう。
少女はテラテラと輝く、真紅の瞳を異形の巨人に注いでいた。
異形の巨人は少女を見上げると、顔を顰め視線を逸らした。
「ふん、亜人風情が──なにあたしを無視してるんだい?」
少女はの顔が般若のように歪むと、自分の身の丈の倍程もある異形の巨人に向けて指を伸ばした。
巨人が座っていると、ちょうど視線の高さが合うようだ。
長い爪が生えた指先を伸ばし、異形の巨人の目の前でゆらゆらと揺らす。
「……ルミネス様、オ戯レヲ……」
異形の巨人は嫌そうな顔をし、ギロリと少女を見る。
人の様にも見えるが、この少女もまた異形だった。そして異形の巨人は、明らかにこの少女の機嫌を損ねないように、亜人なりに少しは気を使っているのが見えた。
「ふん、ゼクスフェス《三面女》の部下の事なんてぇ、あたしにゃ関係ないんだけどねぇ。例えここでぶっ殺しても、ね。」
少女の唇が吊り上がり、異様に長い八重歯……いや牙が見える。
「オ戯レヲ。ソノヨウナ事ニナレバ、ゼクスフェス様ガ……」
巨人の方はやりあう気はなさそうだが、ルミネスという少女は、何が気に喰わないのか、ギラギラとした殺気を放っている。
「……オーガ風情がっ」
言いながら地面に剣を突き立てた。彼女の身長近くもある、両手持ちの剣だ。
剣身からは異様な魔力の輝きを放ち、見ているだけで取り込まれそうになる、尋常ならざる魔力を放つ剣。
「コ、コノ剣ハ、マサカッ」
巨人が目を見張り、冷や汗を垂らした。
「ゼクスフェス《三面女》に頼まれたんだよ。ったくなんであたしがオーガなんぞに宅配なんてやらにゃいかんのか。」
ルミネスは憤慨していた。
つまりゼクスフェス《三面女》に頼まれて使いっ走りにされたことが、矢鱈と不快だったようだ。しかも相手は亜人だ。
奴隷以下の存在の亜人なんかの為に、使い走りにされた事に憤慨していた。
もっとも彼女の上官のネボラニグレから直接頼まれたことでもあり、逆らうことは出来ない。その八つ当たり、ということだろう。
「お前らだけじゃ、目的に到達する前に他の人間どもに倒されかねないからね。
ゼクスフェス《三面女》が心配になったんじゃないかね?だいたい、あんなガキなんて、あたしがちょっと出張れば一発なのに、な~んでわざわざ亜人のお前らを使うのかが判らん。」
顔を歪ませ笑みを浮かべ、ペラペラと喋りつつ巨人を侮蔑的に見るのだが、当の巨人は自分の上官からの武器の提供に、身体を震わせて感激して居た。
「オォォォ、ゼクスフェス様……」
恭しく剣を持ち、感涙しているようでも有る。
完全に無視されていた事を知ったルミネスは、ギリギリと歯を食いしばる。
「て、てめぇえ、たかがオーガウォリアーのくせしやがって、あたしを無視……え?」
と怒鳴りつけるのだが、巨人はやにわに立ち上がると、剣を天に向け、空中で一振り振ったものだから堪らない。
ルミネスは固まった。
途端に剣から雷電が迸り、辺り一面に稲妻が走り雷撃が降り注いだ。
「──ば、馬鹿やろおおおお!」
ルミネスの近くにも雷撃が走り、慌てて避ける。
「GGUAGAAAAHHHH!!」
「GIHIIIIHHHH!」
「GIYAAHHHH!」
逃げ惑うオーガ達にも雷撃が向かい、直撃を受けるものが出てくる。
ルミネスは
「これだから、知恵のない亜人は嫌いだ、二度とゼクスフェス《三面女》の使いなどするものかっ!」
と怒鳴り、蝙蝠へと変異してそのまま何処かへと飛び去っていった。
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森の奥深くの開けた一角で、焚き火がゆらゆらと揺れている。
焚き火の周りには、貧弱な鎧を身につけた20匹程のオーガ達がくつろいでいる。彼等の手には肉の塊が掴まれ、焚き火を囲んでガツガツと肉を喰らっていた。
「GURURRRRRUUUHHHH………」
その中に唸り声を響かせる巨岩があった。
よく見ればその厳つい様は、岩とも見えるが、人が胡座をかいた形に近かった。だがソレ《・・》は人を遥かに超える大きさであり、さらによく見れば巨体を、ゴツゴツとした岩を模した灰色の鎧が包んでいるようだった。
岩のようにゴツゴツした面に覆われた肩や肘、膝の部分。分厚い鉄で作られた鎧は、身を守るだけではなく、敵に致命的なダメージを与えるためのようでも有る。
それだけでも異様なのに、ハーフキャップの様な兜から見える顔は鬼の形相であり、明らかに人ではない人外であり、額部分からは2本の角が聳《そび》えていた。
異形の巨人が手に持った大きな椀には、波々と注がれた赤い液体が入っており、異形の巨人は椀を口に当てると、牙の生えた大きな口に赤い液体を流し込んでいった。
傍に控えていた異形の巨人よりも三周り以上小さい、異形の巨人寄りも貧相な鎧を身にまとった、頭に角を持つ者──オーガが、空いた椀を受け取った。
オーガは少し離れた場所に置かれた大きな樽まで行く。樽にはまだ半分以上の位置まで赤い液体が入っており、樽の中に月明かりが差し込み、赤い液体の中に浮かぶものを照らしだす。
それは形状を失いはっきりとはしないが、丸いゴロリとしたモノ、なにかの生き物の頭であったり、腹や胸であったり、細く長い手や脚だった。
中には皮膚や肉が崩れ、骨がむき出しになって頭蓋骨が半分見えているものもあった。
オーガは椀を液体に浸して掬いあげ、椀の中に頭まで入ってしまい、引っ掴むとぽいっと樽の中に入れなおす。
指に付着した液体をぺちゃぺちゃと舐めてから、異形の巨人の元へ戻ると、敬々しく巨人に渡した。
ゾゾゾゾゾゾゾゾッ
まるで空気が振動したかのような錯覚に陥り、オーガ達は辺りを見回し警戒した。肉を放り出しメイスやモーニングスターに持ち替え、膝立ちの姿勢となる。
「ずいぶんと、寛いでいるじゃないかぁ。」
オーガ達がざわめいた。いったいいつの間にいたのか、異形の巨人の前に、目にも鮮やかな真紅の長い髪を垂らした少女が居た。
赤い血のような髪に黒い衣装、まるで貴族のドレスのようでもあるが、どこか雰囲気が違う。
どこかそれは、ドレスを自分独自の感性で、オリジナル風にカスタマイズしたようにも見える。
黒いドレスから伸びる白すぎるほどに白い肢体、白く艶めかしい肢体と男を惑わせるような、妖しい容貌の少女。その少女は誰しもが、一目見ただけで、人ではないと理解するだろう。
少女はテラテラと輝く、真紅の瞳を異形の巨人に注いでいた。
異形の巨人は少女を見上げると、顔を顰め視線を逸らした。
「ふん、亜人風情が──なにあたしを無視してるんだい?」
少女はの顔が般若のように歪むと、自分の身の丈の倍程もある異形の巨人に向けて指を伸ばした。
巨人が座っていると、ちょうど視線の高さが合うようだ。
長い爪が生えた指先を伸ばし、異形の巨人の目の前でゆらゆらと揺らす。
「……ルミネス様、オ戯レヲ……」
異形の巨人は嫌そうな顔をし、ギロリと少女を見る。
人の様にも見えるが、この少女もまた異形だった。そして異形の巨人は、明らかにこの少女の機嫌を損ねないように、亜人なりに少しは気を使っているのが見えた。
「ふん、ゼクスフェス《三面女》の部下の事なんてぇ、あたしにゃ関係ないんだけどねぇ。例えここでぶっ殺しても、ね。」
少女の唇が吊り上がり、異様に長い八重歯……いや牙が見える。
「オ戯レヲ。ソノヨウナ事ニナレバ、ゼクスフェス様ガ……」
巨人の方はやりあう気はなさそうだが、ルミネスという少女は、何が気に喰わないのか、ギラギラとした殺気を放っている。
「……オーガ風情がっ」
言いながら地面に剣を突き立てた。彼女の身長近くもある、両手持ちの剣だ。
剣身からは異様な魔力の輝きを放ち、見ているだけで取り込まれそうになる、尋常ならざる魔力を放つ剣。
「コ、コノ剣ハ、マサカッ」
巨人が目を見張り、冷や汗を垂らした。
「ゼクスフェス《三面女》に頼まれたんだよ。ったくなんであたしがオーガなんぞに宅配なんてやらにゃいかんのか。」
ルミネスは憤慨していた。
つまりゼクスフェス《三面女》に頼まれて使いっ走りにされたことが、矢鱈と不快だったようだ。しかも相手は亜人だ。
奴隷以下の存在の亜人なんかの為に、使い走りにされた事に憤慨していた。
もっとも彼女の上官のネボラニグレから直接頼まれたことでもあり、逆らうことは出来ない。その八つ当たり、ということだろう。
「お前らだけじゃ、目的に到達する前に他の人間どもに倒されかねないからね。
ゼクスフェス《三面女》が心配になったんじゃないかね?だいたい、あんなガキなんて、あたしがちょっと出張れば一発なのに、な~んでわざわざ亜人のお前らを使うのかが判らん。」
顔を歪ませ笑みを浮かべ、ペラペラと喋りつつ巨人を侮蔑的に見るのだが、当の巨人は自分の上官からの武器の提供に、身体を震わせて感激して居た。
「オォォォ、ゼクスフェス様……」
恭しく剣を持ち、感涙しているようでも有る。
完全に無視されていた事を知ったルミネスは、ギリギリと歯を食いしばる。
「て、てめぇえ、たかがオーガウォリアーのくせしやがって、あたしを無視……え?」
と怒鳴りつけるのだが、巨人はやにわに立ち上がると、剣を天に向け、空中で一振り振ったものだから堪らない。
ルミネスは固まった。
途端に剣から雷電が迸り、辺り一面に稲妻が走り雷撃が降り注いだ。
「──ば、馬鹿やろおおおお!」
ルミネスの近くにも雷撃が走り、慌てて避ける。
「GGUAGAAAAHHHH!!」
「GIHIIIIHHHH!」
「GIYAAHHHH!」
逃げ惑うオーガ達にも雷撃が向かい、直撃を受けるものが出てくる。
ルミネスは
「これだから、知恵のない亜人は嫌いだ、二度とゼクスフェス《三面女》の使いなどするものかっ!」
と怒鳴り、蝙蝠へと変異してそのまま何処かへと飛び去っていった。
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