ドジな女神に不死にされました ~今度の人生はスローライフで行こうと思ってたのに、どうしてこうなった~

無職の狸

文字の大きさ
上 下
102 / 106

<M12> 勝負の行方

しおりを挟む
††

 アリスは俺に掌を向けたかと思うと、なにか透明な物が放射された。途端に空間が歪んだ気がした。なんか魚眼レンズとかで景色を見たように。

 魔法を使ったのかと思ったが違う。ソレは一気に距離を詰めて俺の身体にぶつかった。途端に俺の身体は錐揉みしながら弾き飛ばされ、地面に叩き付けられてしまった。

「ぐはぁ、なんちゅう……」

 あれは風圧だ。風を操り暴風の塊を俺に叩きつけたんだ。解ってはいたけど、こうも自在に自然の力を操るなんて、大したもんだ。こいつもしかして俺の天敵かも。

 だがそんなこと構ってられない、アリスが俺に向けて滑空してきた。もちろん剣先を俺に向けて。

「避けないとコレで終わり、生き返るところを私にみせてよっ!」

 この馬鹿、マジで俺を殺す気だ!死なないけどな!

 俺に止めを刺しに滑空してくるアリス、このままじっとしてれば剣を突き刺されるかな。いやそれどころじゃないな。すげえ魔力が込められている。あんなもんで刺されたら、いくら俺の身体でもただじゃすまない。下手すりゃ吹っ飛んじまうだろう。

「この馬鹿野郎!」

 と相手が皇女だってのも構わず怒鳴りつけながら、身体を硬質化し手に魔力を込める。

 俺に向けられる剣に向けて、拳を向けた。
 
 ドドドドドーーーーンッ
 
 強烈な魔力爆発が起こり、白い閃光で俺とアリスが包まれる。暴風のような爆風が辺りを襲った。

 周囲の騎士達からどよめきが奔った。そりゃそうだ、爆風が収まった中心点、そこにはマジかコレと思うほどでかい穴が空いたんだから凄い。

 俺の爆裂拳とアリスの剣がぶつかり、スケルトンドラゴンを倒した時ほどの爆発が起きたんだ。つまりアリスも凄まじい魔力を剣に込めていたってことだ。

 互いの魔力はほぼおなじ位って感じか。

「あははははは、やるじゃ無いっ!でもまだだぁぁぁっ」

 まるで悪魔が笑っているようだ。目が爛々として、楽しくて仕方ない、そんな感じだろうか。誰か止めてくれ……

 アリスの手が横薙ぎにされると、凄まじい暴風が荒れ狂い、稲妻が降り注ぎ、地面が次々に爆散していく。

 コレには見ている騎士達も堪らず、スケルトンドラゴンの時の様に、避難を開始した。クリフやツェザーリ達も同様だ。さっきはアリスが結界を張ってくれたが、今は守ってくれるものが居ないのだ。

 雷鳴が轟き稲妻が奔り、暴風が吹き荒れる中、嬉々とした笑顔でアリスがこちらに向かってくる。

 俺は剣を構え、こうなったら最後の最後、奥の手を使うことにした。あまり使いたくはないのだけど、仕方ない。剣技はあちらが上だし、さらに自然を自在に使役するとなれば、こちらに残る手立てはこれしかない。

「はぁぁぁぁっ!」

 体中に魔力を巡らし、迸らせた。

 身体強化、もっともオーソドックスな手法、だがコレでいい。

 身体強化は、魔法の中でも操作系とも補助系とも分類される魔法だが、一般的に戦士や騎士などの白兵戦を得意とする者達でも使用できる。

 使い方が単純というより、少ない魔力で発動できるからだ。もちろん使える魔力が多ければ多いほど強化可能だが、その分反動も酷くなるので、適度な強化というのが必要だ。

 強くなりたいばかりにありったけの魔力を注ぎこみ、数十倍の強化を行ったとしても、結果はあまりお薦めできるものではない。

 強化中はそれを維持するために、強化の度合いに応じて魔力が消耗するし、そもそも肉体強化を無理に行えば、あとから飛んでもない反動がくる。

 強化しすぎれば、肉体の損壊と魔力の枯渇で、最悪再起不能になることも有るからだ。だから普通はそれをしない。

 しかし俺の場合はどうかというと、有り余る魔力があり、また破壊されても再生する肉体を持っている。それになにしろ最悪の事が起きても、俺は死なないからな。

 つまり──

 俺の身体が輝き始める。それはまるでどっかの超野菜人みたいではある。だが輝きは金色じゃなくて白銀なんだけどな。

 アリスの目が見開いた。

 俺が動く、超高速の動きで持って、アリスの横に回りこみ剣を打ち込んだ。咄嗟に剣で受け止めるアリス、その瞬間凄まじい閃光が放たれ、魔力が暴発したように爆発した。

 爆発の衝撃波で吹き飛ばされる俺とアリス、俺は衝撃波を受けながらも、地面に踏ん張りアリスを見つめる。アリスは結界を張り防御したようだ。あの一瞬で防御結界を張るとは流石だ。

 俺は再びアリスに斬りかかり、アリスもまた俺に向けて斬りかかる。再び互いの剣が交わされ、魔力爆発が起こり衝撃波が拡散する。

 離れていてもなお襲い来る衝撃波と爆風に、騎士達は悲鳴を上げながらさらに俺たちから距離を取ろうとしていた。

 アリスの表情から笑みが消えた。額に汗が浮かんでいる。俺の動きから察したのだろう、遊びの時間が終わったことを。

「へぇ、やるじゃ無い。」

 アリスが剣から片手を離して、プラプラと振った。どうやら流石に爆裂剣《エクスプロージョンブレード》を何度も受けて手が痺れたようだ。

「どういたしまして♪」

 俺はどんなもんだと、ドヤ顔でニヤついた。だが俺の余裕もそこまでだ。

「いいわ、本当の本気で、殺してあげる。」
「ちょまて、お前なにそこまで本気になってんだよっ!」
「え~、だって本気で戦える相手なんて居ないし。いい機会だから、天臨王の能力が何処まで使えるか実験。」

 まてこら。俺を相手に実験とかいうなっ!
 
 俺の言葉など無視されて、再び二人の剣戟が始まる。

 自然を武器にするのは辞めたのか、アリスは剣だけで俺に仕掛けてきた。

 こちらも肉体強化してるんだ、負けるわけがない、と思った時期もありました。

 アリスは俺に追随してくる。後先考えないほどに強化された俺の身体能力に、あっさりとついてきやがった。目に余裕はなさそうだが、まだ唇が微かに笑っている。

 剣の腕はアリスが勝る。それを強引に身体強化された肉体を駆使した高速な動きで、俺とアリスはどうにかイーブンといったところか。

 正直俺はかなり焦っている。なんせ通常使う10数倍の魔力で強化したんだ。現時点で安定的に戦えるギリギリの強化だ。それも再生能力を見越しての強化だ。

 これ以上強化したら、活動できる時間が大幅に短くなるだろう。だがそれでどうにかイーブンってのはどうよ。

 しかもよくよく見て解るけど、アリスにはまだ余裕がある。俺の動きについてきているし、爆裂剣まで受け流され始めた。

 なるほどもしかしたら、アリスはまだ伸び代に余裕があるのではないか。今まさに成長の途中なのではないか。俺の方はもう一杯いっぱいだってのに、こいつどれだけバケモノなんだ。

 やっぱこんなチートが欲しかったぜ。

 だけど結局アリスの本気の本気は見せること無く試合は終わった。途中でマーク将軍が止めに入ったからだ。いやマーク将軍だけじゃなくて、クリフやツェザーリ達も止めに入ってくれた。

 ヘタしたら巻き込まれて死んじまうってのに、よくぞまあ一瞬の間隙をついて飛び込んできてくれたもんだ。アリスの剣の前に飛び出たクリフと、やたらでかい怒鳴り声のマーク将軍に感謝だ。

 何しろもう1時間近く戦っていたもんだから、飽きたのか。ああ違いますか、地面やら何やら色々偉いことになってるから、これ以上は危険だと判断したのね。

 アリスは不服そうだったけど、俺はさっさと辞めちまった。なんせ魔力だって残り少ないしね。5倍●王拳ってわけじゃないが、かなり魔力を消費してたからさ。枯渇ってわけじゃないが、長引けば長引くほど俺には不利だ。しかもお相手は絶賛成長中と来てる。

 勝てるわけねーだろ!

「いや~~アリスの本気を見れないのは残念だ~。」

 なんて言いながら、「ちょっとまてぇ、ジュンヤぁ、逃げるなぁ!」と怒鳴るアリスの声を背に、俺はそそくさルミとコッペルを連れて逃げていった。

 戦闘狂の遊び相手なんて、これ以上はゴメンだよ。

††
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...