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<M01> 魔大陸上陸

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††

 海鳥の甲高い声が響いている。
 
 さざ波が船を揺らし、ゆっくりと港へと入っていった。

 俺は甲板から乗り出して、波打つ海を見つめて、思い切り嘔吐した。

「おぇぇぇぇぇぇえっ」

 俺こんなに船に弱かったかな、つか、船乗るの生まれて(前世も込で)初めてじゃん。

 うげぇ、堪らん。何度も吐いた為に、もうグダグダだぜ。

「ジュンヤ、だいじょぶ?」

 ヘロヘロの俺の背中をルミがさすってくれている。ああもうルミは優しいなぁ。

「ああ、だいじょ、ぶぉぉぉえぇぇぇ」

 全然ダイジョブじゃねぇぇ。

「たく、だらしないのね。」

 軽やかな鈴の音のような澄ました声。アリスだ。お前はつめたいなぁぁ。

「うるせ~~、船なんて初めて乗ったんだよ。ぶるあぁぁぁおお、、ぉ、」
「あはは、あたしだって初めてなのにね?」

 ほんとコイツは何なんだ。ピンピンしてやがる。まあ船酔いなんてのは、人によりけりかもしれないのかな。
 
 てかなにその手に持ってるの。グラスに赤い果実酒?優雅だねぇお姫様~。

 俺を蔑むように見ながら、果実酒を飲んでやがる。あ~ムカつく。
 
「ジュンヤ虐めたらだめ。」

 アリスと俺との間にルミが割って入るんだが
 
「ルミちゃん、虐めて無いから安心して?」
「ほんとに?」
「うん、ちょっと誂ってるだけだから。」

 おいっ!

「誂ってるって?」
「遊んであげてるの。」

 おいいいい!

「そっか~。」
「私とジュンヤは仲良しだから、虐めたりなんかしないから安心してね。」
「うんっ!」

 騙されるなルミぃ~~~っ。ぶおえぇぇぇぇっ

 アリスにすっかり言いくるめられやがって。ともかくもうすぐ到着だし、いいか。








 そろそろ到着なのか桟橋が見えてきて、作業員の声が響いてくる。船から桟橋へとロープが何本も放たれ、船がゆっくりと桟橋へと寄せられていった。

 やっと到着だ。

「ふぁぁぁぁぁっ!」

 船から降りた俺は、大きく背伸びをした。その隣りでルミも真似して手を大きく伸ばした。
 
「ウミ~船~、面白かった~」

 満面の笑顔で笑うルミに、俺は優しく頭に手を乗せて撫でてやった。

 ルミ、ここからは修羅の地であり、お前の故郷みたいなもんだからな。願わくば記憶が戻らない事を祈るぞ。

 俺たちの後からは、船から数百の兵士たちがぞろぞろと出てきて、整列していく。

「さてここからどうするか。」

 パァーーンッ

 い~音がして、顔が前のめりになった。痛みはそれほどないが、結構な衝撃が来た。

「どうするもこうするも、ファルコンへ行くに決まってるでしょ。」

 振り向けばアリスが毅然として立ち、青い瞳がニイっと笑みを浮かべている。

「何すんだこの暴力皇女。」
「おだまりなさい、平民。」
「かーっ!」

 俺が熱り立つと、素早くマリアが間に入り剣を抜く、同時にルミがマリアの前に立って、赤い剣がマリアの剣と交差させた。

「アリス様に無礼を働くもの」「ジュンヤを虐めるの許さない」

 マリアとルミが剣を交えて睨み合った。

「ちょまて、ルミ。」
「マリア、お引きなさい。」

 ジュンヤとアリスの声に、ルミとマリアが剣を引いた。
 マリアにしてもルミにしても、やたらと危なっかしいな。

 どっちもちっこいのに。


◇◇


 港町ルード。
 
 港町とはいっても、特に何が有るわけでもない。船着場が有り、ちょっとした休憩場があるだけで、町としての機能はしていない。
 
 話ではここから30キロも移動すれば、城塞都市ファルコンに辿り着くから、そもそも此処に街を作る意味がないそうだ。

 船からでて整列した数百を超える騎士達が、やがて騎士団長や師団長の号令によって城塞都市への道を進んでいく。

「あいつらツェザーリの部隊の騎士と、紋章とか違うけど何処の部隊だ。」

 騎士達のマントについた紋章が、どうも違う。ツェザーリの辺境の部隊じゃないから、だけじゃなさそうだ。そもそも鎧のデザインが違う。
 
「彼等はエグゾス帝国の軍隊よ。」
「お隣さんか。鎧のデザインが色々だな。」
「エグゾス帝国は複数の国家の集合体だから、文化とか違うからね。鎧のデザインは様々よ。」
「へぇ……ロシアみたいなもん?」
「そうね、地球の事はよくわからないけど」
「勉強しなかったのかよ。」
「うっさい、平民。」
「関係ないだろっ!」

 どーもアリスとは変にいがみ合うなぁ。クリフが妙な顔で見てるし、いや別にそこまで仲良く無いから。
 
 そんなこんなで、ツェザーリの騎士達も整列を終えて、エグゾス帝国軍の後について、ゆっくりと出発した。
 
 先行するエグゾス帝国軍の殆どは徒歩進行であるため、移動はゆっくりだ。それでも良く訓練された軍馬は、徒歩行軍にもよく着いて行く。

 俺はというと、運んできたアリスの馬車にルミと一緒に相乗りさせてもらっている。

 まぁその豪華だこと。

 やたらと広くてスプリングもよく聞いてて、ルミもお尻が痛いなんて云わないし、流石皇女様用の馬車です。

 こらルミ、ぽんぽん跳ねるな。

「徒歩行軍だから少し時間がかかるが、4時間程で到着するだろう。」

 クリフが紅茶を飲みながら言う。

「えーと、クリフ様はファルコンは行ったことあるんですか?」
「クリフでいい。構える必要もないから、気軽に呼んでくれ。僕はファルコンは今回が初めてだ。」
「あ、はい。」

 なんかここまで余り話したこと無いけど、同じ年だよな。妙に大人びているのは、やっぱ大公の子息だからか?

「ロレッツオ卿、ツェザーリのオヤジだが、あの人に教えてもらった。」
「ツェザーリ様のお父さんから?」
「ロレッツオ卿は歴戦の英雄だからね。当然魔大陸で何度も戦闘している。要塞バールへ奇襲を掛けたことも有るらしい。」

 俺は少し驚いた。あのゼクスフェスのような魔族がいる要塞に、普通の人間が到達しているのかと。
 
「ま、中には入れなかったといっていたがね。」

 クリフが嘆息し、肩をすくめた。
 
 聴くところによると、あの要塞に攻め入った事は、今まで何度かは有るらしい。しかしそれも数えるほどであり、攻め入った部隊が出てきたこともないそうだ。

 ある意味、あの要塞こそ魔王城ではないのかと云えた。

 数千以上の亜人の群れと魔獣の群れ、トーチカから注ぐ魔弾砲の嵐、それを切り抜けても表門は破城槌を持ってしても、容易に破壊できぬ大きな鉄の扉が閉じられている。

 さらには要塞上空から降り注ぐ、魔弾砲の嵐を抜ける必要がある。凡そ完璧とも言える、防衛戦を突破せねばその奥へ、要塞の中へ入れないのだ。

 それに最近の噂では、ドワーフとの研究開発で造った黒色火薬を使った最新兵器、遠距離攻撃砲とやらで要塞に直接ダメージを追わせたらしい。だが、その後にでてきた炎龍と火の精霊によって、大ダメージを受けてしまったとか。

「炎龍?ドラゴンか……」

 そんなもんが居るのか。どっかのゲー●じゃねーか。

「生き残った者の話では、空間に魔力が集中して、まるで転移したかのように出現したという。恐らく……」
「それって、ショーカンまほーだよ?」

 突然ルミが手を上げていった。

「む……」

 クリフがルミを睨み、俺もまたルミを見た。

「知ってるのか?」
「うん、ましょーぐん"さまえる"がね、ショーカンまほー、つかえたよ~。」
「ましょーぐん…サマエル……」

 おいおいルミは記憶が戻ってきてるのか?いやゼクスフェスの時を考えれば、魔族の情報は残っている、ということか。

「なあルミ、そのましょーぐん、ってのは、もしかしてこないだのゼクスフェスもそうなのか?」
「うん、そーだよ。」
「他にもましょーぐんはいるのか?」
「"ぜくすふぇす"と、"さまえる"のほか?」
「ああ、覚えてたら教えてくれ。」

 俺は少し汗をかき、尋ねた。見ているクリフもアリスも、そして少し離れてマリアも見つめていた。

 鼓動が高まる。もしこれでルミの記憶が完全に戻り、また敵対することになるなら、俺は間違った事をしているのか。

「ヨンキシには、あとねー"ねぼらにぐれ"とね~、"るみねす"」

 ドクン!

 鼓動が高鳴った。

「え、え、、」

 まさかの言葉に俺は固まった。

 "よんきし"て、つまりゼクスフェス、サマエル、ネボラニグレ、そしてルミネスってことなのか。

 つまりルミネスは魔将軍、四騎士の一人ってことなのか。

 クリフとアリスが闘気を帯びている。ツェザーリの手は剣の柄を持ち、今にも斬りかかりそうだ。

††
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