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<C23> アマンダの影
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††
マリアもだ。
凄まじい雷撃の雨の中を、降り注ぐ属性攻撃の余波の中を、常識を超えるような身体能力で掻い潜り、アリスの攻撃の間隙の中、三面六臂の女に攻撃を加えていた。
「さすがだな、【天臨王】よ!」
ゼクスフェスの背の翼が翻り、天空に舞い上がった。
「逃げるか!魔族っ!」
「あははははは、面白いぞ、妾はゼクスフェス、亜人の王じゃ。」
空高く浮かんだ三面六臂の女が俺とアリスに向けて、声高らかに叫んだ。ルミがまた飛び出そうとするのを、俺は肩を掴んで押さえつけた。
「ルミネス、貴様、人に着くのか?」
ゼクスフェスがルミを睨みつける。
「アタシはジュンヤを虐めるお前を、許さない。」
ルミが叫ぶと、ゼクスフェスは嘆きの顔で、困ったように首を傾げた。
「……どうやら事故が起きたようだな。」
事故?どういうことだ。
「……まあよい。【天臨王】と【不死神】か、面白い奴らじゃ。」
「ゼクスフェスといったな、俺はジュンヤだ。貴様ら魔族を根絶やしにする男だ。」
「ふ、ふははは、我等を根絶やしか、ふふふ、面白い……可能ならやってみるがいい。もっとも妾の用事は貴様ではなく、【天臨王】──皇女アリス殿にあったのだがな。」
ゼクスフェスの顔がぐるりと動き、能面へと変わり、アリスを見つめた。
アリスに用事だと?襲撃はアリスを狙ったものだというのか、だが何故?【天臨王】の称号が関係しているというのか。
しかし当のアリスは微動だにせず、ただ見上げている。まるで想定の範囲内だと言わんばかりだ。
「それにルミネス……まぁ良いか。今回は面白いものが多く見れたからな。」
ルミをみつめ、そして俺を見た。
「今回は黒き魔物《ポーン》も亜人共も、あらかたやられたようだしな、妾も堪能できたしな。」
「……ふざけろ。いいから降りてきて戦え!」
「急くではないジュンヤ、貴公にはぜひ要塞バールへと来て貰いたいものだ。よい魔族になるぞ。」
「なるかぁっ!!」
「ははは、それに……面白いモノが見れるやもしれぬ」
「面白いモノ?
奴は俺を言ってるんだ。俺に関係のあるものか、まさか、もしかしたら、アマンダ──」
ごくと固唾を飲み込み、ゼクスフェスに向けて声を迸らせた。
「まさかアマンダか、アマンダがいるのかっ!」
ゼクスフェスの唇が吊り上がった。
「あんなモノでも会って見たいと思うのなら、来るが良い。」
「あんなモノ?」
奴は俺の言葉に返答せず、能面の口が大きく開き三日月のようになる。その表情に狂気のような薄ら寒さを感じ、俺はゾクリとした。ついで甲高い笑い声が聞こえた。
「ゼクスフェス、其方に尋ねる。」
ゼクスフェスの笑いを遮り、アリスが声を発した。ずしりと重みのある、皇女としての貫禄なのか、ゼクスフェスもまたその声に笑いを止めた。
「ザックという者を知っておるか。」
「ザック?」
「以前は人であったものだ。今は魔族のはず。首なし騎士に連れて行かれた。」
「………人から魔族に……首なし騎士《ネボラニグレ》が連れ去ったか……」
アリスに問われ、ザクスフェスはしばし腕を絡めて考え込んでいる。思い当たる節がないのか。
「皇女よ、妾の預かり知らぬ事のようじゃ。」
「左様か、ならばもし会うことがあれば伝えよ。グランダム王国第三皇女アリスが、必ず貴様の素っ首を落としてくれる、と。」
「なるほど……面白い、必ず伝えようぞ!」
言うと風を切る音がして、ゼクスフェスの姿が天空高くへと舞い上がっていった。
「まて、待ちやがれ!あんなものとは何だ、アマンダがいるのかぁ!!」
俺の絶叫が反響するが、ゼクスフェスは笑い声だけを残して去っていってしまった。
◇◇
森に囲まれた街道では、騎士達が怪我人を治療し態勢を整えていた。幸いにして死者こそ出なかったが、多数の重傷者を出してしまった。
中には手や足を失ったものまで居る。治癒系魔法が使える術者が、大慌てで止血して回っているが、状態は芳しいものではなかった。
馬もかなりを失い、今後の移動にも少々問題は残っている。
ツェザーリとクリフ、アリス、それにニトロと騎士隊長とが入り、今後の移動方針について話している。
俺はというとそうした会話には入らず、森の木陰に腰掛け、いらいらとしていた。
別に入れなかったことにイラついているわけじゃない。ゼクスフェスが放った言葉が妙に頭にこびりついているからだ。
俺が魔族に『なれる』だと、要塞に来い、そして『面白いモノ』とはなんだ。意味が解らなすぎる。
ゼクスフェスが天臨王《アリス》を殺しに来た理由も知りたい。謎だらけでいらいらしてくる。体中むず痒くて鼓動が高まっていく。
それに完全に見失っていたが、『貫通属性』ってなんだよ。そんなもの最初から武器の特性じゃなかったのかよ。
『貫通属性を持つ武器や攻撃は、防御無視でダメージを与えるから、気を付けろ。』
奴との戦いの後で、ニトロから初めて聞かされた。てか知らねーよそんなもん。
主に刺突系武器がそれにあたるらしい。硬い鎧でも貫くが、急所を突かなければ致命的ダメージを与えられないらしい。逆に言えば急所を狙えば、一撃必殺ってことか。
普通の剣でも尖端が尖っていれば、多少の貫通属性があるようだ。剣を突き刺す時は、切断属性じゃなくて、貫通属性が働くって当たり前のことなんだが、そんなもんゲームじゃなかったぞ。
はい、ここってゲームじゃないんですね。思い知りました。
普通の剣だって部位によって属性が違うからな。斬撃もあれば打撃もあるし、刺突もできるわけだ。ケィニッヒに剣術習った時に、そんなこと言ってた気がする。
雷神剣が俺を刺せても貫けなかったのは、貫通属性が弱いからか。ゼクスフェスのレイピアが貫いたのも、ルミネスの爪が貫いたのもそういうことか。
そもそも最初にゼクスフェスに殺された時だってそうだった。
斬撃は殆ど聞かなかったのに、属性攻撃で傷めつけられ、止めは剣を突き刺されたんだったな。
はぁぁ、アマすぎだな。てか防御値マックスだから、属性耐性上げたからっていい気になりすぎてたか。
バカだな~………ほんとバカだ。云われて気がつくなんて、アマすぎ。
しかしこんなんじゃ、魔大陸にいってもっと強いのが出てきたら、マジやべぇ。殲滅どころか、勝てねぇぞ。
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マリアもだ。
凄まじい雷撃の雨の中を、降り注ぐ属性攻撃の余波の中を、常識を超えるような身体能力で掻い潜り、アリスの攻撃の間隙の中、三面六臂の女に攻撃を加えていた。
「さすがだな、【天臨王】よ!」
ゼクスフェスの背の翼が翻り、天空に舞い上がった。
「逃げるか!魔族っ!」
「あははははは、面白いぞ、妾はゼクスフェス、亜人の王じゃ。」
空高く浮かんだ三面六臂の女が俺とアリスに向けて、声高らかに叫んだ。ルミがまた飛び出そうとするのを、俺は肩を掴んで押さえつけた。
「ルミネス、貴様、人に着くのか?」
ゼクスフェスがルミを睨みつける。
「アタシはジュンヤを虐めるお前を、許さない。」
ルミが叫ぶと、ゼクスフェスは嘆きの顔で、困ったように首を傾げた。
「……どうやら事故が起きたようだな。」
事故?どういうことだ。
「……まあよい。【天臨王】と【不死神】か、面白い奴らじゃ。」
「ゼクスフェスといったな、俺はジュンヤだ。貴様ら魔族を根絶やしにする男だ。」
「ふ、ふははは、我等を根絶やしか、ふふふ、面白い……可能ならやってみるがいい。もっとも妾の用事は貴様ではなく、【天臨王】──皇女アリス殿にあったのだがな。」
ゼクスフェスの顔がぐるりと動き、能面へと変わり、アリスを見つめた。
アリスに用事だと?襲撃はアリスを狙ったものだというのか、だが何故?【天臨王】の称号が関係しているというのか。
しかし当のアリスは微動だにせず、ただ見上げている。まるで想定の範囲内だと言わんばかりだ。
「それにルミネス……まぁ良いか。今回は面白いものが多く見れたからな。」
ルミをみつめ、そして俺を見た。
「今回は黒き魔物《ポーン》も亜人共も、あらかたやられたようだしな、妾も堪能できたしな。」
「……ふざけろ。いいから降りてきて戦え!」
「急くではないジュンヤ、貴公にはぜひ要塞バールへと来て貰いたいものだ。よい魔族になるぞ。」
「なるかぁっ!!」
「ははは、それに……面白いモノが見れるやもしれぬ」
「面白いモノ?
奴は俺を言ってるんだ。俺に関係のあるものか、まさか、もしかしたら、アマンダ──」
ごくと固唾を飲み込み、ゼクスフェスに向けて声を迸らせた。
「まさかアマンダか、アマンダがいるのかっ!」
ゼクスフェスの唇が吊り上がった。
「あんなモノでも会って見たいと思うのなら、来るが良い。」
「あんなモノ?」
奴は俺の言葉に返答せず、能面の口が大きく開き三日月のようになる。その表情に狂気のような薄ら寒さを感じ、俺はゾクリとした。ついで甲高い笑い声が聞こえた。
「ゼクスフェス、其方に尋ねる。」
ゼクスフェスの笑いを遮り、アリスが声を発した。ずしりと重みのある、皇女としての貫禄なのか、ゼクスフェスもまたその声に笑いを止めた。
「ザックという者を知っておるか。」
「ザック?」
「以前は人であったものだ。今は魔族のはず。首なし騎士に連れて行かれた。」
「………人から魔族に……首なし騎士《ネボラニグレ》が連れ去ったか……」
アリスに問われ、ザクスフェスはしばし腕を絡めて考え込んでいる。思い当たる節がないのか。
「皇女よ、妾の預かり知らぬ事のようじゃ。」
「左様か、ならばもし会うことがあれば伝えよ。グランダム王国第三皇女アリスが、必ず貴様の素っ首を落としてくれる、と。」
「なるほど……面白い、必ず伝えようぞ!」
言うと風を切る音がして、ゼクスフェスの姿が天空高くへと舞い上がっていった。
「まて、待ちやがれ!あんなものとは何だ、アマンダがいるのかぁ!!」
俺の絶叫が反響するが、ゼクスフェスは笑い声だけを残して去っていってしまった。
◇◇
森に囲まれた街道では、騎士達が怪我人を治療し態勢を整えていた。幸いにして死者こそ出なかったが、多数の重傷者を出してしまった。
中には手や足を失ったものまで居る。治癒系魔法が使える術者が、大慌てで止血して回っているが、状態は芳しいものではなかった。
馬もかなりを失い、今後の移動にも少々問題は残っている。
ツェザーリとクリフ、アリス、それにニトロと騎士隊長とが入り、今後の移動方針について話している。
俺はというとそうした会話には入らず、森の木陰に腰掛け、いらいらとしていた。
別に入れなかったことにイラついているわけじゃない。ゼクスフェスが放った言葉が妙に頭にこびりついているからだ。
俺が魔族に『なれる』だと、要塞に来い、そして『面白いモノ』とはなんだ。意味が解らなすぎる。
ゼクスフェスが天臨王《アリス》を殺しに来た理由も知りたい。謎だらけでいらいらしてくる。体中むず痒くて鼓動が高まっていく。
それに完全に見失っていたが、『貫通属性』ってなんだよ。そんなもの最初から武器の特性じゃなかったのかよ。
『貫通属性を持つ武器や攻撃は、防御無視でダメージを与えるから、気を付けろ。』
奴との戦いの後で、ニトロから初めて聞かされた。てか知らねーよそんなもん。
主に刺突系武器がそれにあたるらしい。硬い鎧でも貫くが、急所を突かなければ致命的ダメージを与えられないらしい。逆に言えば急所を狙えば、一撃必殺ってことか。
普通の剣でも尖端が尖っていれば、多少の貫通属性があるようだ。剣を突き刺す時は、切断属性じゃなくて、貫通属性が働くって当たり前のことなんだが、そんなもんゲームじゃなかったぞ。
はい、ここってゲームじゃないんですね。思い知りました。
普通の剣だって部位によって属性が違うからな。斬撃もあれば打撃もあるし、刺突もできるわけだ。ケィニッヒに剣術習った時に、そんなこと言ってた気がする。
雷神剣が俺を刺せても貫けなかったのは、貫通属性が弱いからか。ゼクスフェスのレイピアが貫いたのも、ルミネスの爪が貫いたのもそういうことか。
そもそも最初にゼクスフェスに殺された時だってそうだった。
斬撃は殆ど聞かなかったのに、属性攻撃で傷めつけられ、止めは剣を突き刺されたんだったな。
はぁぁ、アマすぎだな。てか防御値マックスだから、属性耐性上げたからっていい気になりすぎてたか。
バカだな~………ほんとバカだ。云われて気がつくなんて、アマすぎ。
しかしこんなんじゃ、魔大陸にいってもっと強いのが出てきたら、マジやべぇ。殲滅どころか、勝てねぇぞ。
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