ドジな女神に不死にされました ~今度の人生はスローライフで行こうと思ってたのに、どうしてこうなった~

無職の狸

文字の大きさ
上 下
84 / 106

<C18> 襲撃

しおりを挟む
††

 ツェザーリ様ったらほんとにおせっかい焼きなんだから。
 ううん、それをいうならお父様のアシュレイ=ロレッツオ辺境伯かしらね。

 こんな利にも成らない事に、ご助力頂けるなんて……

──ありがとうございます。

 私は馬車を囲み整然と騎乗して進む騎兵たちを見て、頭を下げた。

 そしてはるかに見える城塞都市に向かって、礼を言った。

 あの日、アシュレイ=ロレッツオ辺境伯から夕食に呼ばれた時に云われた。
 
「アリス様のお父上、国王陛下から書簡を頂きました。」

 30代後半のダンディな男性は、優雅に食事を進め私に優しい笑顔で話しかけた。
 
「お父様からの書簡……」
「はい、アリス様をできるだけ、援助してやってほしいと。」

 私は思わず手が止まった。
 
「政務に追われ、貴女に構えなかった。だからこそ貴女をずっとそばで支えてくれていたエリーザが失われたのは、貴女の計り知れない悲しみは、胸が痛くなる思いだと、書かれておりました。」

 その言葉に、私は呆然として辺境伯を見ていた。

「ヴィクリーヌ陛下とは若いころから懇意にさせていただいております。アリス様のご誕生の際には、ヴィクリーヌ陛下は大変お喜びになられておりました。」

 うそ……
 
 いや、違う……
 
 幼かったころ、覚醒する前は確かにそういう記憶がある。だけど、だけど。
 
 学園に行くときも見送りに来てくれなかったし、その後だって年末年始にお城に戻っても、ぜんぜんお会いになってくれなかったし、5年生の時にあったのが、学園に入って初めてだった。

 ずっとほったらかされていたのに。

 所詮第三皇女だから、所詮政治利用されるだけの存在だから、愛されるわけがない。そう思っていたのに。諦めていたのに。
 
「仇を討つとはいっても、嫡子ならともかく、侍女が殺されたり、また、貴女が傷を負ったとは言っても第3皇女では、国軍を動かすわけにはいきません。ヴィクリーヌ陛下が動こうにも、周囲が許さないでしょう。」
「そ、そうですね。」
「だからアリス様の思うままにさせたい、そして私に手伝ってやってほしいと。」
「お父様……」

 目からぼろぼろと涙が落ちてくる。
 
 お父様のご支援、アシュレイ辺境伯のご支援を受けて、なんだか私の為にみんなを巻き込んでしまったようで、本当に申し訳ない気がしてならない。




 外がオレンジ色に染まり始め、斥候部隊が今日のキャンプ地の安全を測りに出ようとした頃。

「来ました。」

 不意に感じた嫌な感覚に、私は顔を上げた。

 私の反応にマリアとクリフ様の顔に緊張が走る。すぐにマリアが御者台にでると、ツェザーリ様にそれを知らせに走った。

 ツェザーリ様はいったい何事かと驚いていたが、私からの伝言だと知ると、騎兵の行進を止めて、警戒に入ってくれた。

 そう、そうしてくれないと困る。

 馬車の扉を開けて外に出た私は、ツェザーリ様のところまで行くと、マリアがその傍らに走り寄ってきた。そのあとをクリフ様が続く。

「何事ですか、アリス様」

 ツェザーリ様が訝し気な顔をしているが、一応止まってくれただけでも良しとしよう。

「穢れた気配を感じました。」

 簡単に説明する私だが、それだけで十分だろう。すでに魔族は近くまで来ているのだから。

 方向は北西。つまり私たちが向かう方向より若干西の街道を外れた森側。少なくともミスティの街からではない。

 おそらく私たちが通りかかるのを狙って、横から襲撃する予定だったのかもしれない。

「本当なのか?」

 深い森の中は見渡すことは無理だ。逆に待ち伏せを仕掛けるなら、いい条件だろう。
 
 ツェザーリ様は私を訝し気に見る。

「私を信じて。」
「ああ、俺が保証する。」

 ちょっと待てクリフ、なんで貴方が保証するのです。

 じろっと睨むとクリフは素知らぬ顔で、視線を逸らしました。あとで殴ります。

「わかった。」

 ツェザーリ様は私に押されて、騎兵に声を掛け、北西の森の様子を見に行かせた。

「でもなんで……」

 再び不思議そうに私の顔を覗き込むツェザーリ様。きっと危機感知スキルをお持ちなのかと思うけど、それに引っかかってないのかな。うん、いくら何でも不思議だよね。

「内緒です。」

 ごめん、私も不思議なんだ。

 多分これってこの傷を受けた時からなんだと思う。魔族が付近にいるとわかっちゃう。奴らの気配がわかるの。

 数分と経たずに斥候が戻り、およそ100匹前後の複数種の亜人が森に隠れているのが発見された。そして目ざとい奴が斥候を発見したらしく、亜人共が斥候を追ってきているとのことだ。

 彼らは仕切りに謝罪しているが、引っ張る手間が省けましたね。

「アリス様。」

 マリアが傍らによると、私の前に腕を差し出す。腕の近くの空間にはぽっかりと白い円が空いて、剣の柄が出ていた。

 マリアの収納魔法だ。

 私はその柄を掴み、長さ90センチほどの、美しい細身の長剣を引き出した。

「狩りのお時間、ですね。」
「アリス様のお手並み、拝見致しましょう。」

 私がにっこりと笑うと、ツェザーリ様も笑った。


◇◇


 隊列が止まった。

「どうした。」
「あ~、なんか先頭がとまったみたいだ。騎兵たちもざわついてるな………あれ、皇女様が馬車を降りて走ってるぞ。」

 俺の問いかけにニトロが首を傾げた。

 危機感知スキルにはまだ引っかかっていないが、アリスが走っているということは、何か俺の知らないスキルでも持っているのか。

「なんだろうね。」
「おぷっ」

 御者台に向かおうとすると、レヴィが俺を押し退けて前に出やがった。

 あやうくルミを転がしそうになったじゃないか。

「おい、レヴィ酷いじゃないか。」

 ルミを抱き上げて前に出ると、しかしレヴィは俺の方には見向きもせずに御者台に立ち上がった前方を見ていた。
 
「お姫様が剣を抜いた。」

 目を細めたレヴィがぼそりという。
 
「てことは、襲撃か?」
「盗賊かな。」
「ば~か、盗賊ごときに、あのお姫様が出ていくかぁ?そもそも騎士が200も居るんだぞ、そこに突っ込む盗賊なんているかよ。」

 ニトロに馬鹿にされた。まあそりゃそうだ。これだけの騎士団なんだから、並みの盗賊じゃ歯が立つわけもない。騎士団を襲うなんてのは、まともな奴じゃない。

「魔族か亜人どもだな。」
「ったくどこにでも沸いてくるな。」

 やれやれと嘆息し、俺はルミを預けて御者台から飛び降りる。
 
「ジュンヤーっ、」

 ルミが騒ぐのを背に、コッペルをルミに預けた。
 
「コッペル、ルミを守ってくれ。」
「くぅっ。」

 可愛らしい顔をしてこくりと頷く。うん、いい感じだな。
 
「ルミ、コッペルとおとなしく待ってろ。すぐ戻るからな。」
「………はぁい。」

 なんか不服そうに頷いた。ちと我儘になってきたかな。
 
「レヴィ、グルーム、ジュンヤについて行ってくれ。ゴレムとリリスは念のため、ここで待機。」

 ニトロが言うと、承知したとばかりにレヴィとグルームが馬車を飛び降り、俺とともに先頭に向かって走り出す。

 ニトロが残ったのは、全戦力を前に向けると、万が一後方から襲ってきたとき、守りが手薄になるからだとか。

 騎兵たちも道幅いっぱいまで広がり、円陣を組み始めている。

 俺達が先頭にたどり着くころには、騎兵たちが馬を降りて、剣を構え、森の中を走り迫る亜人を迎え撃つ用意が整いつつあった。

「アリス…様。」

 俺が先頭にでると、アリス達もすでに臨戦態勢になっている。
 てかドレスで戦うアリスも、メイド服のマリアもなんか場違い風なんだが。

 アリスは長剣をもっているが、今回は雷神剣を使わないのかな。人が多すぎるか?

「ジュンヤ、亜人だけじゃないからね。魔族も来てるよ。」

 うん、俺には完全にぶっちゃけてるな。ほらほら気安過ぎてクリフがまた変な顔してるし。

 てか魔族が来てるって、何故わかる。

「私にはわかるの。何故かね。」

 俺の心を読んだようにアリスが口角を吊り上げた。

††
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...