ドジな女神に不死にされました ~今度の人生はスローライフで行こうと思ってたのに、どうしてこうなった~

無職の狸

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<C01> 巻き込んだ男と巻き込まれた少女

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 リステア大陸北西部、街道沿いの見晴らしの良い平地に焚き火の炎がチロチロと揺れ動いていた。
 
 焚べられた枯れ木が燃え上がり、パチパチと音を立てている。

 近くには中型の幌付き馬車が停車し、中では赤髪の幼女が毛むくじゃらの可愛らしい小動物を抱きしめ静かに寝息を立てている。

 その横にはメイド風の衣装姿の少女、美しい銀髪のエルフと、魔道士風の小柄な少女が、やはり静かに寝息を立て眠っていた。

 馬車の外を見ると、馬車の車輪によりかかって眠る軽量鎧の騎士風の少年、少し離れて寝袋に包まって眠っている男が3人居る。

 辺りはしーんと鎮まりかえり、微かに聞こえる虫の声と男たちのイビキをBGMにして、俺は焚き火の前で傍らに座る、鼻から上を仮面で隠した少女を見つめていた。

 仮面の少女は黒基調に銀糸と白の生地といった、高そうな装飾品が散りばめらた、如何にも貴族が着そうなドレスを着ている。

 俺みたいなそうした高級品に疎い奴でも判る、例え大商人であろうとなかなか手出しが難しそうなドレスだ。それだけでも人目を引くというのに、さらに人目を引きたいのか、少女は豪華な装飾が施された仮面を付けている。

 目立っても尚顔を見せないのは、やはりそれだけ位の高い貴族なのだろうか。

 仮面から見えるのは、魅力的な切れ長の眼と長い睫毛だ。凡そそれだけでも美少女だと推測できる。また何よりも仮面の下に見える瞳が美しい。

 右の宝石のように煌めく青い瞳は、感情豊かに俺を見ている。だが左の薄赤い瞳は、宝石の様な美しさにも関わらず、まるで感情が無いかのように俺を見つめていた。




 俺はジュンヤ。

 この世界での年齢は数えで14歳になる。元々はこの世界の人間ではない。日本で中年に差し掛かっても自堕落なニート生活をしていた、ダメ人間だ。お袋が過労で倒れて死んだのも知らずにゲームに興じていた馬鹿だ。
 
 流石に切れたオヤジに家を追い出され、行く宛もなく、河川敷で浮浪者狩りにあって、逃げ出したところでトラックに跳ねられて死んだ。

 そして女神と出会ってこの世界に転生、この世界から見れば異世界人だ。

 死んで異世界行きとなれば、よくある転生モノの物語なら、チートなスキルを授けられて、異世界生活を満喫ってことになるんだろうが、俺の出会った女神は違っていた。

 何も与えられず、唯の村人となって生まれ変わった。だが俺はそれでも良かった。前世で苦労をかけ不幸にした親に、今世では孝行をしてやろうと、生まれ変わったのだから親孝行をして、何も無くてともこの村で、この世界で、長閑で平凡でも幸せな生活をしようと決心したんだ。

 幼馴染のアマンダもいて、オヤジやお袋も元気で、きっとこのまま平凡に、そして小さな喜びを一つ一つ積み重ねて、いずれはアマンダと結婚して子供を授かって安らかな人生を送るんだ、そう思っていた。

 なのに事件が起きた。何故か雷に撃たれ死んでしまい、挙句それがあの女神のミスであり、二度とこのような事が無いようにと、無理やり不死の称号なんて迷惑なモノを授けられてしまった。

 死んでも死なないなんて居う、アンデッドを彷彿とさせる呪いの称号だが、だがおれは今は感謝してる。

 ある日、森のなかで魔族が亜人の群れを率いて、今にも村に襲いかからんとしていた。俺はアマンダを知らせに向かわせ、なんとか引きとめようとしたが、三面六臂の魔族に身体を切り刻まれバラバラにされて殺された。

 しかし俺は不死だ。バラバラになった身体を再生し蘇った。だが復活した時には、既に村は滅びていた。村は全滅し、父も母も殺されてしまった。幾人かの生存者はいたが、その中に幼馴染のアマンダは居なかった。

 全てを失った俺は魔族に復讐を果たすため、魔大陸《ノスフェラトゥ》へと旅にでた。

 その後いろいろな人間と出会い、寄り道もかなりしたが、自称冒険者のニトロ達と出会い、故あって魔大陸へと送ってもらう事になった。その道中に馬車を失った仮面を付けた高貴な少女──アリスと出会ったわけだ。

 アリスは身形からしてどこぞの貴族、それも大貴族かと思われた。そのアリスが、俺が野営の見張りをしているところにやってきて、いきなり度肝を抜かれるような事を仰った。

 あまりの事に、俺はアリスと見つめ合ったまま、ポカンとしていた。


「貴方は日本人でしょ。違うかな~?」

 仮面の少女は腰を屈めて俺を覗き込むように覗くと、お道化たように尋ねた。

 焚火の照り返しを受けて、薄赤いガラスのような瞳が、妙に人工的であり、生き生きとしている蒼い瞳と対照的だ。

「ど~なのかなぁ、多分当たっていると思うんだけどな。」

 仮面に隠されていないぷっくらとした唇が吊り上がり、悪戯っ子の様にクスクスと笑っている。

「………まさかあんたも、日本人なのか。」
 
 俺はアリスに尋ね返した。
 
「その質問は、肯定として受け取りますよ?」

 アリスが唇を吊り上げ笑みを浮かべる。
 
 その通り、俺は日本人だ。そしてそう尋ねたお前も、日本人なのか?
 
「そうよ、私は日本人、でも昔の名前は捨てた。」

 捨てた?てことはこの世界が余程気に入ってるのかな。まあ言いたくないなら聞かないけどね。

「今はアリス。グランダム王国第3皇女アリス=ルイーザよ」

 え?
 今なんつった?

「……皇女、様?」
「そ、第三皇女だけどね。」

 えっと……俺……村人その1なんすけど。

「私がこの世界に転生したのは、元の世界で不幸にも人助けしたのに、事故に巻き込まれて死んでしまったから。これでも元はJKだったのよ?今じゃJKより若いから、JCだけどね~、あはは」

 仮面の下の瞳が細まり楽しそうなアリス、てかささっきから言葉がぶっちゃけ始めてないかな。貴族様、皇女様だろ?まあそれは良いけど、ちょっと気になること言ってたな。

「──人助け?」
「うん、河川敷で浮浪者を虐めてたバカがいてさ、止めようとして声かけたんだけどね~。」

 あれ、あれれれ、どっかで聞いたような、えーと、14年前の事を思い出そうとするんだけど、ぶっちゃけ思い出したくも無いけど。

 てかやっぱなんか似たようなシチュエーションだな。

「そしたらよっぽど怖かったのかな~、浮浪者が土手の上に走ってってさ、あの人も運が悪いよね。大型トラックに跳ねられてさ、さらに私も運が悪いことに、ま~ぶっちゃけいつも運悪いんだけど、ほんと運の悪さここに極まれりって感じで、トラックの運ちゃんハンドルミスしたのか、土手上から転げ落ちてさ~、逃げる間もなく私はぺっちゃんこ。」

 マシンガンのように話すアリス、それも貴族らしからぬ、ぶっちゃけた話し方でまくし立てる。

 ちょっとまて……

 俺の記憶が、あの時の記憶が鮮明に思い出されてくる。

 てか、完全一致してるじゃないか?

 俺がトラックに跳ね飛ばされて、河川敷に叩きつけられてさ、もう意識がなくなろうとした時、止めの一撃とばかりにトラックに押しつぶされたんだよな。

 つまり?

 アリスは、あの時の女子高生なのか。

 そんで、俺とアリスはトラックに押しつぶされて、ほぼ同時に死んだってことか。

「ま、まさか、あんたも女神と会ったのか?」
「貴方もやっぱり会ったんだ。どうやら私と貴方は同じ世界、日本から来て、あの女神様によってこの世界に送られた、そんな感じみたいね。」

 肩を竦め笑うアリスと固まる俺。

††
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