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幕間 ドジ女神再び!
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††
ふんふんふん~♪
うふふんふん~~~♪
機嫌のよい鼻歌が聞こえていた。
およそ彼女に必要なことかどうかはわからないが、シャワールームというには、やたらと広いシャワールームの中で、白き髪の女性がお湯を浴びていた。
勢いよく落ちてくるお湯が女性の白いほどに白い肌を濡らし、伝い落ちていく。
身体を濡らす行為は、彼女にとって特に必要なことではない。だが大昔からの慣習なのだろうか、シャワーを楽しみ濡らした体に大きなタオルを巻きつけて上機嫌でシャワールームから出てきた。
「んふ~~、やっぱシャワー最高~~。すっきりしゃっきり、気分最高ですわぁ。」
「やっと出てきたか。」
気分よく出てきた女性が固まり、今の低いしわがれた声の方へと恐る恐る顔を向けた。
椅子に腰かけ、足を組んだ白髪の老人が、たっぷりとした顎鬚を撫でてこちらを見ていた。
「こ、これは……ローゼス管理官…様」
女性はタオルを巻いた姿のまま、その場に膝を付き頭を垂れた。
「よいよい、まずは衣を羽織りなさい。」
老人はニコニコと笑みを浮かべ、あられもない恰好の女性を見ていた。
「あ、これは、し、失礼しましたぁ!」
気づいた女性は慌ててたちあがるが、その拍子にタオルがはらりと落ちてしまう。
「おやおや……」
「ひ、ひぇぇぇぇ」
落ちたタオルを拾い、慌ててその場を立ち去って行った。
「まったくドジな奴だ。」
老人が嘆息すると、指を軽く鳴らした。光が周囲から集まり始め、老人の手の中に細いステムの上に丸いボウルが乗った形をした、ワイングラスが現れた。
老人がやれやれと嘆息して、注がれた赤い果実酒を口へと運んでいく。
少しして白い衣を羽織った女性が、戻ってくると
「お待たせ致しました、ローゼス管理官。」
老人の前に跪き、再び首を垂れた。
「突然のご来訪故に、何も持て成す用意ができておらず、剰え見苦しい姿を……」
「そう畏まらんでもよい。それよりもイーロイ、星は動いておるか?」「はい、平穏に、適度に争い、調和が取れているかと。」
イーロイの言葉に老人──ローゼスは目を細めて頷くと、軽く首を上げた。するとその視線の先の空間に青い星が映り、徐々に拡大されていった。
「………イーロイ、面妖なことじゃな。」
「は?」
老人の優しそうな目が急に厳しくなった。
「どういう……」
イーロイが慌てて顔をあげ空間に出現したスクリーンを見上げると、そこには少年が映っていた。
船の上だろうか、甲板の上でなにやらしているのだが、どちらかと言うと、海に向かって俯いている様に見えた。
年の頃なら14歳くらいか、白く見えるが銀色の綺麗な髪をしている。革を主体にした防具を付け、腰には湾曲した剣を装備していることから、狩人《ハンター》と見える。
イーロイはその少年にどこか見覚えがあるが、どうも思い出せない。魂を見ればわかるかもしれないが、それよりローゼスが何を言いたいのかが気になった。
「何故あの少年が【不死神】などもっとるのかのう……」
ローゼスが首を傾げる。そこでイーロイは思い出した。あの少年だと。基はこの辺境の星と星幽《アストラル》レベルで繋がる星、第12星系辺境の惑星から流れ着いた星幽体《アストラルボディ》の持ち主だ。
一度転生させ、そして自分のミスで殺してしまった少年。名前は知らん。
イーロイは慌て口をパクパクとさせた。あの少年は人族に転生していた。寿命はせいぜい100年もない。そのくらいの短期間なら問題は無いはずだった。
何故ローゼスが今来たのか。
「ふ~む、【不死神】などそうそう出現するはずは無いのだが。何故じゃ、しかも……」
スクリーンがずれると綺麗に着飾った仮面の少女が映された。おそらくは同じ船の上に乗りあわせているのだろう。背景が殆ど同じだ。
「あの少女は【天臨王】……【不死神】ほどでは無いが、これもまた珍しい。」
ローゼスがじろりとイーロイに視線を向けると、イーロイはさっと目を逸らした。
「ほ、ほんとに珍しいことです……ね」
「そのようじゃのう……他にも【覇王の巫女】、そしてなんということか【勇者】が堕天して居るではないか。」
イーロイがビクッと顔を上げて、汗を滴らせた。
「なんと混沌とした世界よ……」
ローゼスは手に持ったグラスを空間に消すと、椅子から立ち上がりイーロイを見下ろした。
「──イーロイよ。」
ローゼスの鋭い眼差しが、イーロイを射殺す様に見つめた。
「ひゃ、はいっ!!!」
イーロイはブルブルと身体を震わせ、ただひたすら汗を滴らせている。
「何故このような事となっているか、知っておるか?」
「いえ、あの、その……」
狼狽え生返事をするイーロイから目を離し、再びスクリーンを見上げる。
「愚か者め。お前は星の一つもまともに管理できぬというのか、情けない。」
「申し訳ございません……」
「あのようなコマが揃ってしまっては………この星が消滅したら、大神《たいしん》ラーデウスはお主に罰を与えるかも知らぬぞ。」
途端にイーロイが真っ青になって、さらにがたがたと震えだしローゼスを見あげる。その目は恐怖に染まり、その顔は本来の美しさの欠片すら見いだせなかった。
もしここで不死神、天臨王、それに堕天してしまったが、勇者の称号を自分が与えたなどとわかったら、どんな叱責を受けるかも解らない。
虚無の次元への幽閉などではすまないだろう。それこそ永劫の責め苦が待つ、コキュートスの次元送りになりかねない。いや確実に落とされる。
「覇王の巫女、不死神、天臨王、勇者ならばまだしも、堕天したとなれば──何故小奴らが発生したことを黙っていたか、この大馬鹿者が。」
「は、はぃぃ、申し訳ございません……」
ローゼスの重い口調にイーロイは消え入りそうな声で応える。
「……魔族の配置によって、バランスが崩れたとはいえ────これではやり過ぎじゃ。」
「申し訳ございません。」
イーロイは頭を床に擦り付ける様に土下座した。神の次元にも土下座文化が有るらしい。
「こうなっては仕方ない。いずれ星の運命《さだめ》、星の望むままに……我等は見守るのみ、か。」
「そ、そんな。」
イーロイは目を潤ませローゼスをすがるように見るが、ローゼスはただ顔を横に振るだけだった。
「イーロイ、お前をこの星の執政官《アルコーン》として配置したのは儂の失策だったな。」
「ローゼス管理官……」
イーロイはローゼスの足元に這いつくばると、顔を伏せて泣いた。
気軽に称号を渡してしまったことが、そんな大事になるなど、全て自分の迂闊さのせいで、まさかこんなことになるとは。
可能ならば自ら地に落ちて、なんとかしたかった。
「儂は此度は所用にて近くまで来たので立ち寄っただけ、あの星の事は儂は知らぬことじゃ。だが何れ大神《たいしん》に知れることとなれば、その時はお前が責任をとれっ!」
イーロイは顔をあげ情けを乞うが、ローゼスはそれを蔑む様な視線で返した。
「使えぬ女め。」
ローゼスは侮蔑の目でイーロイを見つめ、掻き消える様に姿を消した。
「あ、あ、そ、そんな、なんで、なんでなの、私は何もしていないのに、なんで責められなければ行けないの。
こんな馬鹿なことがあってたまるか、全てアイツラが悪いんだ。虫けら如きの為に何故私が罰せられねばならない。
そうだ、全てが虫けら共が存在していることが罪なんだ。
見ておれ、あんな転生者のために、コキュートスに落とされてたまるか。」
イーロイの顔が憤怒の表情に変わり、全身から蒼白い焔が燃え上がり始めていた。
「誰ぞあれ!」
部屋に声が反響した。
††
ふんふんふん~♪
うふふんふん~~~♪
機嫌のよい鼻歌が聞こえていた。
およそ彼女に必要なことかどうかはわからないが、シャワールームというには、やたらと広いシャワールームの中で、白き髪の女性がお湯を浴びていた。
勢いよく落ちてくるお湯が女性の白いほどに白い肌を濡らし、伝い落ちていく。
身体を濡らす行為は、彼女にとって特に必要なことではない。だが大昔からの慣習なのだろうか、シャワーを楽しみ濡らした体に大きなタオルを巻きつけて上機嫌でシャワールームから出てきた。
「んふ~~、やっぱシャワー最高~~。すっきりしゃっきり、気分最高ですわぁ。」
「やっと出てきたか。」
気分よく出てきた女性が固まり、今の低いしわがれた声の方へと恐る恐る顔を向けた。
椅子に腰かけ、足を組んだ白髪の老人が、たっぷりとした顎鬚を撫でてこちらを見ていた。
「こ、これは……ローゼス管理官…様」
女性はタオルを巻いた姿のまま、その場に膝を付き頭を垂れた。
「よいよい、まずは衣を羽織りなさい。」
老人はニコニコと笑みを浮かべ、あられもない恰好の女性を見ていた。
「あ、これは、し、失礼しましたぁ!」
気づいた女性は慌ててたちあがるが、その拍子にタオルがはらりと落ちてしまう。
「おやおや……」
「ひ、ひぇぇぇぇ」
落ちたタオルを拾い、慌ててその場を立ち去って行った。
「まったくドジな奴だ。」
老人が嘆息すると、指を軽く鳴らした。光が周囲から集まり始め、老人の手の中に細いステムの上に丸いボウルが乗った形をした、ワイングラスが現れた。
老人がやれやれと嘆息して、注がれた赤い果実酒を口へと運んでいく。
少しして白い衣を羽織った女性が、戻ってくると
「お待たせ致しました、ローゼス管理官。」
老人の前に跪き、再び首を垂れた。
「突然のご来訪故に、何も持て成す用意ができておらず、剰え見苦しい姿を……」
「そう畏まらんでもよい。それよりもイーロイ、星は動いておるか?」「はい、平穏に、適度に争い、調和が取れているかと。」
イーロイの言葉に老人──ローゼスは目を細めて頷くと、軽く首を上げた。するとその視線の先の空間に青い星が映り、徐々に拡大されていった。
「………イーロイ、面妖なことじゃな。」
「は?」
老人の優しそうな目が急に厳しくなった。
「どういう……」
イーロイが慌てて顔をあげ空間に出現したスクリーンを見上げると、そこには少年が映っていた。
船の上だろうか、甲板の上でなにやらしているのだが、どちらかと言うと、海に向かって俯いている様に見えた。
年の頃なら14歳くらいか、白く見えるが銀色の綺麗な髪をしている。革を主体にした防具を付け、腰には湾曲した剣を装備していることから、狩人《ハンター》と見える。
イーロイはその少年にどこか見覚えがあるが、どうも思い出せない。魂を見ればわかるかもしれないが、それよりローゼスが何を言いたいのかが気になった。
「何故あの少年が【不死神】などもっとるのかのう……」
ローゼスが首を傾げる。そこでイーロイは思い出した。あの少年だと。基はこの辺境の星と星幽《アストラル》レベルで繋がる星、第12星系辺境の惑星から流れ着いた星幽体《アストラルボディ》の持ち主だ。
一度転生させ、そして自分のミスで殺してしまった少年。名前は知らん。
イーロイは慌て口をパクパクとさせた。あの少年は人族に転生していた。寿命はせいぜい100年もない。そのくらいの短期間なら問題は無いはずだった。
何故ローゼスが今来たのか。
「ふ~む、【不死神】などそうそう出現するはずは無いのだが。何故じゃ、しかも……」
スクリーンがずれると綺麗に着飾った仮面の少女が映された。おそらくは同じ船の上に乗りあわせているのだろう。背景が殆ど同じだ。
「あの少女は【天臨王】……【不死神】ほどでは無いが、これもまた珍しい。」
ローゼスがじろりとイーロイに視線を向けると、イーロイはさっと目を逸らした。
「ほ、ほんとに珍しいことです……ね」
「そのようじゃのう……他にも【覇王の巫女】、そしてなんということか【勇者】が堕天して居るではないか。」
イーロイがビクッと顔を上げて、汗を滴らせた。
「なんと混沌とした世界よ……」
ローゼスは手に持ったグラスを空間に消すと、椅子から立ち上がりイーロイを見下ろした。
「──イーロイよ。」
ローゼスの鋭い眼差しが、イーロイを射殺す様に見つめた。
「ひゃ、はいっ!!!」
イーロイはブルブルと身体を震わせ、ただひたすら汗を滴らせている。
「何故このような事となっているか、知っておるか?」
「いえ、あの、その……」
狼狽え生返事をするイーロイから目を離し、再びスクリーンを見上げる。
「愚か者め。お前は星の一つもまともに管理できぬというのか、情けない。」
「申し訳ございません……」
「あのようなコマが揃ってしまっては………この星が消滅したら、大神《たいしん》ラーデウスはお主に罰を与えるかも知らぬぞ。」
途端にイーロイが真っ青になって、さらにがたがたと震えだしローゼスを見あげる。その目は恐怖に染まり、その顔は本来の美しさの欠片すら見いだせなかった。
もしここで不死神、天臨王、それに堕天してしまったが、勇者の称号を自分が与えたなどとわかったら、どんな叱責を受けるかも解らない。
虚無の次元への幽閉などではすまないだろう。それこそ永劫の責め苦が待つ、コキュートスの次元送りになりかねない。いや確実に落とされる。
「覇王の巫女、不死神、天臨王、勇者ならばまだしも、堕天したとなれば──何故小奴らが発生したことを黙っていたか、この大馬鹿者が。」
「は、はぃぃ、申し訳ございません……」
ローゼスの重い口調にイーロイは消え入りそうな声で応える。
「……魔族の配置によって、バランスが崩れたとはいえ────これではやり過ぎじゃ。」
「申し訳ございません。」
イーロイは頭を床に擦り付ける様に土下座した。神の次元にも土下座文化が有るらしい。
「こうなっては仕方ない。いずれ星の運命《さだめ》、星の望むままに……我等は見守るのみ、か。」
「そ、そんな。」
イーロイは目を潤ませローゼスをすがるように見るが、ローゼスはただ顔を横に振るだけだった。
「イーロイ、お前をこの星の執政官《アルコーン》として配置したのは儂の失策だったな。」
「ローゼス管理官……」
イーロイはローゼスの足元に這いつくばると、顔を伏せて泣いた。
気軽に称号を渡してしまったことが、そんな大事になるなど、全て自分の迂闊さのせいで、まさかこんなことになるとは。
可能ならば自ら地に落ちて、なんとかしたかった。
「儂は此度は所用にて近くまで来たので立ち寄っただけ、あの星の事は儂は知らぬことじゃ。だが何れ大神《たいしん》に知れることとなれば、その時はお前が責任をとれっ!」
イーロイは顔をあげ情けを乞うが、ローゼスはそれを蔑む様な視線で返した。
「使えぬ女め。」
ローゼスは侮蔑の目でイーロイを見つめ、掻き消える様に姿を消した。
「あ、あ、そ、そんな、なんで、なんでなの、私は何もしていないのに、なんで責められなければ行けないの。
こんな馬鹿なことがあってたまるか、全てアイツラが悪いんだ。虫けら如きの為に何故私が罰せられねばならない。
そうだ、全てが虫けら共が存在していることが罪なんだ。
見ておれ、あんな転生者のために、コキュートスに落とされてたまるか。」
イーロイの顔が憤怒の表情に変わり、全身から蒼白い焔が燃え上がり始めていた。
「誰ぞあれ!」
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