星に手が届く

霧先令月

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前編

私の願い

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 この物語は、私 高瀬 紡のお話。私の恋の物語。この話を読むには、勇気がいる。貴方には、その勇気はありますか…。


 和歌山県の山奥の秋は、頬を刺すような風が私達二人を攻撃してくる。私は、マフラーに顔をうずくめて隣にいる彼に話し掛けた。
「寒いね。朝から一桁の気温なんて馬鹿げてるよ。」
彼 宮川 海人(みやかわ かいと)は半分寝ている状態で歩いているので、相槌しか出来ない。その様子は、学校の人は知らない事。またそこに、優越感に似た物が心に湧いてくる。そして、愛しさも憶える。
学校の校門近くまで来ると、海人は目を覚まし始めて話すようになってきた。
「今日は英語の時間が自習でさぁ、テスト前じゃねぇからなんの教科すっかな。」
「確かその後に、理科のテストがあるよ。」
「ヤバっ。苦手な分野だ。」
私は、隣で笑っていた。そんな幸せな時間は、儚くも散ってゆく。
 クラスは違うので、海人の教室の前で別れる。私は教室に入ると、窓側の一番後ろの席に腰を下ろした。私に朝の挨拶をする人は、誰一人いない。顔も合わせない。私は、学校では忌み子と呼ばれていた。テストは、勉強をしなくても何時も満点。学年トップに君臨していた。そんな奴、こんな田舎では忌み子扱い。笑える。しかし、それでも私には海人と言う一番の理解者が居るからどうでもいい事。私は東京の私立中学で推薦を貰ったが、海人が行かないから断った。私の理解者は、海人だけだから。
 詰まらない学校生活も終わり、放課後の廊下で海人を待つ。扉から出てきた海人は、私に笑顔で手を振った。
「お待たせっ。わりーな。先生の話が長くてさ。」
「古典+おじさん先生は、話が絶対に長くなる。分かってるよ。」
そんな事を話しながら、下駄箱で靴を履き替えた。
 校門を出て、少し行くと海人が変なことを言い出した。
「なぁ、紡。」
「どうしたの。」
海人は、突然態度が変わった。頬を赤らめ、目線をずらした。
「実は、好きな人が出来たんだ。」
私は、自分自身の事だと思った。四六時中一緒に居るのだから。しかし、私の考えは硝子が一瞬で割れる瞬間の様に散った。
「高宮 紫音って子なんだけど…。この前、他クラスの体育を窓から見たら見つけて…。」
海人は、頬を赤らめながら首辺りをポリポリとかいている。私は、乾いた笑顔で祝福した。しかし、裏の私はその女に殺意が沸いた。私の頭脳が在れば、あの女を殺す事は容易い。そんな事を考えながら、海人にアドバイスをしていた時に、聞きたくも無い事を口にした。
「俺、お前と幼馴染みで良かったわ。」
「えっ。」
「お前も、好きな奴早く出来るといいなっ。」
私は、何故こんな邪気の無い笑顔を見なければいけないのだろうか。あの女への殺意など消えた。私は、もう必要ない。価値がない。そう悟った。海斗には、他の人が…と。私は家に着いて直ぐに、母に言った。
「東京の私立に転校する。父さんが、転勤で東京居るから出来るでしょ。」
私は、海人から逃げた。
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