11 / 16
#11:滅裂に(決勝その2)
しおりを挟む―リング上の二人、反時計回りに間合いを計っている? どちらも仕掛けないまま、じりじりと緊密な時間が流れていく……っと!! 先に動いたのはガンフ!! とにかく距離を詰めないと自分の技に持ち込めないと判断したか? やや前傾気味にオスカーの懐に、いや、これを待っていたオスカー!! 溜める動作無しでいきなりそのしなやかな右脚でガンフの首を刈らんばかりに振り抜くぅぅぅっ!! しかしこれは!! これはガンフ読んでいた!! 左腕をしっかり引き締めて自らのこめかみを狙う死神の鎌を巧みにブロックだぁぁぁぁっとぉ!! 右脚を引くオスカーの一瞬の動作の隙に、掴める距離まで入ったぞぉぉっ!! 出るかガンフ必殺の投げっ? いや!! オスカー体を右に流しながら、その動きのまま、ガンフのわき腹に強烈な膝を入れたぁぁぁっ!! これは流石のガンフも動きが止まってしまうぅぅぅっ!! さらにさらにオスカー追撃の右ロー!!………
汗だく過ぎて、体の表面全体に水の膜が覆ったかの状態になりつつも、吉祥寺→渋谷間を何とか走り通した僕だが、もう限界だ。10km辺りで足が動かなくなってからが本当にしんどかったよ。自販機横の地べたに座り込んで、オオハシさんの差し出したスポーツドリンクをぐぐいと三口くらいで開けてようやく一息ついた感じだ。
「服全部取っ替えちまった方がいいな。人も通らんし、ま、その自販機の陰あたりでちゃちゃっとやっちまってくれ」
オオハシさんが言うとおり、東急ハンズの裏手から少し行ったあたり、急激に日が差さなくなった路地裏は、渋谷とは言え、人通りがほとんど見受けられなかった。僕はそれでもそそくさとTシャツやら短パンやら、迷ったけれど、ずぶ濡れのパンツも履き替えて、ややさっぱりとしつつ、オオハシさんが付いて来いと促すままに、雑居ビルと思わしき建物の入口へと向かった。
蛍光灯も切れかけで、薄暗くかなり細い雑居ビルの内廊下を突っ切った最奥に、その店舗はあった。いや店舗かな?
<berrirlyant>
黒い光沢のあるプレートに濃いピンクの筆記体が踊る。「ベリルリャン」とでも読むのか、何となくいかがわしさを感じさせる看板が掛かった扉を、オオハシさんは躊躇せずぐいと奥へと押し開ける。すると、
「あら~ん、珍しい。ガンちゃん、どしたのよぉ」
その店らしき所に足を踏み入れた瞬間、きついバラ系の香りがむわりと漂いまくってきた。表からはまるで予想つかなかったけど、かなり天井が高い。5~6mくらいか? 壁に沿って張り巡らされた何本もの金属のパイプには、これでもかというくらい、色とりどりの服が吊るされていた。壁が布を重ねて出来ているみたいだ。
「やだ、だーれー? このガチムチ君はー」
そしてその吹き抜けの大きな空間の中央、服に取り囲まれてちょこんとあるガラス製のカウンターにしなだれかかっていた人物に、ものすごいつけまつ毛の下からロックオンされた。
「うちのホープだ。マルオっていう。今日来たのは他でもねえ、『ケチュラ』で着るコスチュームを誂えてもらいてえのよ」
オオハシさんがさくりと要件に入るが、地毛なのかヅラなのか、透き通るような白いおかっぱ。その下の顔面についてはあまり描写はしたくないけど、エラの張った無駄に彫りの深い巨顔にはどぎついメイクが施されている。体は引き締まったかなりの長身。よせばいいのに肩幅をより際立たせるノースリーブのシルクっぽい質感のロングドレスを身につけている。夜会なのかな?
「マルオちゃんね。よぉーこそ『ブリリアント』に。あたいはジョリー。このファッション最先端砦のオーナーよん」
つづり「brilliant」だよね……確か。まあいいか。
「ん・で? どんなイメージを考えてるのぉん? ガンフみたいなマスクマンがご所望かしらぁん?」
無駄な流し目と尖らせた唇。ナチュラルさは微塵もない。あるのはコテコテの、女性は持ち得ない女性らしさ。つまりまあ、このジョリーという人は何というか、ま、身も蓋もない言い方をすれば、ステレオタイプの昭和のオカマだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
青春ヒロイズム
月ヶ瀬 杏
青春
私立進学校から地元の近くの高校に2年生の新学期から編入してきた友は、小学校の同級生で初恋相手の星野くんと再会する。 ワケありで編入してきた友は、新しい学校やクラスメートに馴染むつもりはなかったけれど、星野くんだけには特別な気持ちを持っていた。 だけど星野くんは友のことを「覚えていない」うえに、態度も冷たい。星野くんへの気持ちは消してしまおうと思う友だったけれど。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる