来野∋31

gaction9969

文字の大きさ
上 下
23 / 32

chrono-23:統率力は、ファラオ!いざ集え三十一字の旗の元!(川柳?)の巻

しおりを挟む
――おにいちゃんっ……!!

 こえが、きこえる――

――たかくんっ……

 僕はまた……後頭部を強打して……っ……

 不思議と痛みは無かった。それどころか、ぞわぞわとした快感みたいな奇妙な感覚が、頭の後ろから前方へ向かって、這い進むかのように染みて、広がってくるかのような……

 この「脳の痛み」。もう前触れも何も無く襲ってくるようになったな……そして今回はさらに頭打って気絶と。もうなんか「僕」の他の誰かがこの身体を裏から操ってやってんじゃないのほどに非常に流れ作業的にさらには小気味よく。

「……!!」

 引きずり込まれてんだろうことはもう予期していた。インナースペース「ロビー」。僕の人格が集まる場所。意識の表層、みたいなところ。でも今回はいつもの宇宙空間的なノリの無重力の大空間とは少し趣きが異なっていた。

 「目覚めた」僕の身体は仰向けに「青空」を仰いでいる格好。黄白く輝く南中しかけの太陽光線の直射に、瞼を開いた僕は反射的にまた閉じて首を左横によじる。その視界に入ったのは、右半分が「気体の青」、左半分が「液体の青」、みたいなツートンカラー。

 海上……? 海面はほど近くに迫っていて、そのうねる流れとか、潮の香りまでご丁寧に僕の身体全体を包むように漂ってきている。でも浮いてるよね僕の身体。特に能力を使った実感は無いのに、さも当然のように浮いている。身に着けているのはいつもの紫ラメタイツだけど。ま、そのこともこれが意識内、ってことを確実にさせてくれるのでいいのだけれど。と、

「……随分、こざかしい立ち回りをしてくれてたじゃあないか……まあまあ、であればこその隙も出来るというわけで、あっさり『ここ』へと誘えたとも言える」

 水面ちょっと上、飛沫がかかりそうなくらいの中空に何故か浮いて仰臥している僕の足方向から、そのような「僕」然とした声が、周りの波音には決してかき消されないという非現実的な響きをもってして、僕の耳……というか「意識そのもの」に語りかけてきやがった。やっぱりか。

「『誰』……だ?」

 その声の主を探ろうと声を発しながらも、宙に浮いたまま腹筋をするようにとりあえず上体を起こしにかかる僕だけれど、まるで夢の中でままならない動作にやきもきする時みたいに身体の節々がうまく動いてくれない。ブレる視界の中で何とか捉えたのは、僕と同じように海面すれすれに何事もなく「浮き」ながら、腕組みをしてこちらを睥睨してくる「僕」の姿。

「……もう『誰』ってこともないな。しいて言うなら『お前以外のお前』全部だ。『根幹七割』は除いての、な」

 その「僕」は無地の、乳白色に見える大仰なマントらしき物を全身に纏わせていた。コスプレ感ハンパないけど、他ならぬ自分がやっているのを目の当たりにさせられると、すごいこちらを冷静にさせられてくるねぇ。いやいや、気を抜かしている場合じゃない。でもさぁ……何で僕の他の「僕」はこうまで喋り口が全然違うの。いやいやそれより「全部」? あと「二陣営」いたんじゃあなかったっけ。

「……ほぼ半数の人格を統合しているキサマに対抗するために不本意ながら同盟を結んだ……元々、求めるところはそれほど異なっていたというわけでもないしな。『いま表層』のオレは【洞察力08シャドー】。自分を含め『十五』の人格を統合、数の多寡では丁度釣り合うっていう寸法だ。最終戦にはふさわしい状況シチュだろ?」

 まるで僕の思考を読んでいるかのような……それが「洞察」の力とでもいうのだろうか……分からないけど、でも言う通り「人格数」は互角なんだろう。そして真っ向から戦おうってことなんだろうね、先ほどまでのトレース求めて四苦八苦していたことは残念ながら無に帰しそうだけれど、そこはもう諦めるしかない。そして能力残弾数は確かあと「10発」といささか心もとないけれど、それもしょうがない。それにしても足元でせわしなく渦巻く海面とは対照的に「シャドー」のメンタルはすごい凪いでいるね。十メートルくらい先に佇んでいるその姿と、ようやく体勢を整えて「立ち」の姿勢に移行できた僕は向かい合うけれど。その、僕と瓜二つの(当たり前か)顔には、何というか諦観、みたいな色が現れているような気もした。

「……結局、『ひとつ』になるなら、ひとりの『来野アシタカ』に統合されるんだったら、こうまで争う必要は無いんじゃないかって、思い始めてもきたんだけど」

 シャドーにそう言い放ちつつ、僕の内面に存在するファイブたちにも問いかけているような感じで僕は言葉を紡ぎ出す。なんか、ずっと引っかかってるんだよねその辺……穏便に済ませられるのならそうした方が全然いいんじゃないの? 争いからは何も生まれないってよく言われていることでもあるし……

「……」

 ダメだ。なんか最近意識が定まらないようなことが多くなってる。意識の中でのことだけれど、僕は殊更に深く、呼吸をしてみる。落ち着け。

「『来野アシタカ』……ね。なるほど、よくそこへ誘導したもんだ、首謀は誰だよ? なんならこっちと話し合いで決着できるんじゃね?」

 僕の持ち掛けを、まるで無かったかのようにスルーされた。そして顔を嫌な感じで歪ませたシャドーが、おそらく「僕」ではない誰かにそう持ち掛けているけれど、言ってる意味はよく分からない。

 分かるのは、

「……!!」

 次の瞬間、僕は宙を蹴って間合いを詰めていた。分かっていることは……ッ!!

「とか言って話し合いで済ませる気はさらさらない……よね? 思惑とかとりあえず置いといて、とりあえず屠るッ!!」

 ま、だいぶ僕もイキれた精神スタンスになっているわけだけれど。

「いいねえそういう前向き姿勢……ッ!! いやいやむしろ『そっち方面』に行ってもやりきれんじゃね? ま、ま、そうは簡単にはさせないけど、なッ!!」

 何を言ってるか皆目分からなくなってきたシャドーの眼前に、初手安定の【集中力ダイブ】魚雷を一発、目くらまし代わりに現出させつつ、僕は浮遊状態から「跳躍」することをリアルにイメージする。イマジネーションは、いまこの場では真実の力となる。それをもう僕は掴んでいるから。そして、

「【分析力エレキ】ッ!! こいつの正体を分析しろぉッ!!」

 身に着けた全身タイツの色が渋い灰色に変わるのを視界の隅で視認しながら、僕はここの場では初めての能力を発現させる。僕のかざした両手から迸ったまさにの稲光のような電流エレキは、眼下に見えるシャドーの頭上から襲い掛かる。が、

「……【影響力マグネット】」

 さっ、と右手を軽く振ったかと見えた瞬間、その先に「棒」のようなものが突如現れ、そこに「電流」が吸い付くように引き寄せられてしまう。

 なるほど、一筋縄ではやっぱり行かないね。でももうやるしかない。降ってわいたかのような突然の「最終決戦」。でもそれを予期していなかったと言ったら嘘になる。

 自分の中で渦巻くどうしようもないほどの感情のうねりを何とか抑えながら、僕はひとまず目の前の局面に意識のピントを合わせていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Black Day Black Days

かの翔吾
ライト文芸
 日々積み重ねられる日常。他の誰かから見れば何でもない日常。  何でもない日常の中にも小さな山や谷はある。  濱崎凛から始まる、何でもない一日を少しずつ切り取っただけの、六つの連作短編。  五人の高校生と一人の教師の細やかな苦悩を、青春と言う言葉だけでは片付けたくない。  ミステリー好きの作者が何気なく綴り始めたこの物語の行方は、未だ作者にも見えていません。    

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ウィークアウト

エスティー
ライト文芸
「…」 現代を舞台にしたバトルコメディ 完全不定期・見切り発車の私の小説ですが、よろしくお願いします。

となりの窓の灯り

みちまさ
ライト文芸
年若いシングルファーザー、佐藤テツヒロは、事故で妻を亡くします。4歳の娘を抱えて、新しい土地に引っ越し、新生活を始める。何かと暮らしを助けてくれるのは隣に住む年上の女性、長尾ナツミでした。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

叶うのならば、もう一度。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ライト文芸
 今年30になった結奈は、ある日唐突に余命宣告をされた。  混乱する頭で思い悩んだが、そんな彼女を支えたのは優しくて頑固な婚約者の彼だった。  彼と籍を入れ、他愛のない事で笑い合う日々。  病院生活でもそんな幸せな時を過ごせたのは、彼の優しさがあったから。  しかしそんな時間にも限りがあって――?  これは夫婦になっても色褪せない恋情と、別れと、その先のお話。

処理中です...