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Ally-26:絢爛なる★ARAI(あるいは、BONA★やつら/でしょ!)
しおりを挟む先ほども述べた通り、天気は良く、気温も穏やかで風は無く、出歩くのには最適な気候であり、人通りもまあ、長沢と久里浜を行ったり来たりするだけの僕の普段の日常と比較すると、1000倍以上のすれ違い数だ。そして、
まことに驚くべきことにだったが、我々一行のトータルとしての風体は、昼ひなかの秋葉原の街並みに溶け込むようにして馴染んでいくのであった……
どう見ても難易度の高い縛りプレイをしている異世界冒険者にしか見えないと思うのだけれど、実際客引きなんかで本職(?)のメイドさん達はあちこちにいたわけで、この五人が何の衒いも無く堂々と幅を利かせて歩いていても、世間の目は、まず天使さんを舐め、僕を素通りしたのちアライくんでブレ動き、猿人髪人のコンボで合わせてはならないと悟られて逸らされていく程度に抑えられていたわけで。
すれ違った外国人観光客からはオーニンジャメイド、とか甚だお門違いな感嘆をされつつ何枚も写真を撮られたけれど、決して忍べてはいないし……とか思うにとどまる。しかし、概ね反応が薄いということに、このメイドチーレムの主のような立ち位置の僕は、逆にこの街の底知れない奥深さに呑まれていきそうだ。
いや、もうそこはいいや。ここを訪れた目的ははっきりあると言うのに、目に映る全てのものに目を奪われがちな四人を何とか宥めすかして「目的地」に促そうとする僕なのだけれど、改めて考えると目指す店舗とかってあるのだろうか……
迂闊に書記団員風情が意見すると、途端に不条理な怒りにかられる厄介この上ない御大に、え、ええと、どっち方面だったっけその、そこは……との、極めて手探りな感じで問うことしか出来ない僕がいる。が、
「なちょこっ? 探し物ゆうたっば、『ラジオ会館』と相場は決まっちょっちょじょ? なぁんやジローやんも、そげな格好しよりばいも、秋葉原っきょでば、割と疎いんやのぅ……」
毎度おなじみとなってきた、ねちっこい&小刻みなマウント取りが散りばめられた言葉を返されたに過ぎなかった。それにしても僕の服装についてこんだけ話題にのぼることがかつてあっただろうか……
ああ、そうなんだねじゃあその「ラジオ会館」に向かおうか……とコトを荒げないように細心の注意を払いつつ言うものの、
だいぶ通り過ぎていたようで、駅方面へとまた引き返す羽目となった。というか色々見て回りたかったんだね、別にいいんだけれど。と、
「……なんか、こういう風に友達と外出することなんて無かったから、新鮮」
至高の天然自然体にて、天使さんは通り過ぎる男衆の十人が十人を二度見させながら、そんな軽やかに天上のトレモロのような(妥当な線上に何とか帰り着いた……)言葉を、僕の方を振り返りながら、僕にだけに向かってそう破壊力の高い笑顔で、ふわり放ってくるのだけれど。
今日という一日が、報われた瞬間だった。そして次の瞬間、僕の脳内を埋め尽くしたのは、たったひとつの冴えたやり方を模索する自問であったわけで。すなわち、
どうすれば、三ツ輪さんと二人きりでフケることが出来るのだろうか……
最重要命題を、脳の演算能力を最大限まで高めながら、突き詰めて思考していく……広い歩道とは言え、人の流れはごった返している……そして御大は全く同じ格好をした腰巾着ふたりを左右に付き従えて、僕そして三ツ輪さんの五メートルは先を上機嫌で肩を揺らせながら歩いている……無防備ッ……あまりに無防備だよアライくん……ッ!!
あれ何だろう、とか、店先で何かにつられたように三ツ輪さんを引き込み、その流れでバックれること、それは容易と思われる……その後は鬼のようにつるべ撃ちされてくるだろう連絡の全てを端末の不具合ということにして乗り切り、この至上の半日を謳歌する……
もうそれしかない、それを為すことのほかに、僕がこの世に生を受けた意味などない……ッ、くらいに飛躍した思考が僕の全身を支配しようとした。その時だった。
「ジロー、良さげばる店舗の選びは任せるばぃい。そういうのはやぱちょ、この書記がいちばん鼻が利くとばいよ」
それを察知したかのような絶妙のタイミングにて、前を行く御大が僕の方を頭髪を振り乱しながら振り返りつつ、そんな下天の共鳴が如くの(意味はわからない)しゃがれ声で、一行にそうのたまってくるのであった。
しょ、しょうがないなぁ、いや僕も自信があるわけじゃないんだけどね、とか、うまく乗せられているのは重々承知しているのだけれど、やっぱり嬉しい僕がいるのは確かなわけで。「ラジオ会館」に着いた僕らは、僕を先頭にして各階を回り始める。
地上十階、地下一階の、かなりの店舗面積を誇る、アライくんが言うのも納得の、まさにの「聖地」と呼ぶべく光景がそこには広がっていたわけで。
カード、フィギュア等を扱う店舗に埋もれるようにしてだけど、確かにそれっぽい電気機器、部品を扱う店が点在している……目指すものは、ブラウン管テレビ、ファミコン本体、それらを繋げるもの、なのだけれど、うーん、流石にそう都合よくは取り扱ってはいなさそうだ……とか思いつつ、十階からひとフロアひとフロアづつ隈なく見て回った僕らは、ついに最後の地下一階まで空手のまま辿り着いてしまうのだけれど。
刹那、と言うほどでもない刹那だったけれど、とにかく刹那だった……
<berrirlyant>
階段を下りた僕の目に飛び込んできたのは、出入り口と思われるアクリルの扉の目の高さらへんに付けられた、その黒い光沢のあるプレートであった。そこにどピンクの筆記体が踊る。「ベリルリャン」、とでも読むのだろうか……怪しいことこの上ない佇まいであったけれど、それに追い打ちをかけるようにして店舗区画自体が壁で仕切られている……
フロアの半分くらいを占めるのか? ひと目ヤバそうな雰囲気を醸し出していたけれど、通路に出されていた電飾の看板には、<アナログ電子機器・家電アリ〼>の文字が。
ううぅん、まさにの願ってもない感だったけど、逆にそれが何かの巨大生物の臓腑へと誘うような撒き餌のような感じがしてならない……
しかして、ここが最後だ。僕の嗅覚が間違っていないことを証明したいがための虚栄心のために、諸々の不穏事には目を瞑って踏み出していこうとする、極めて危険な思考に嵌まりこんでしまっている僕を俯瞰するかのような僕も感じられるけど、かといってどうすることも出来ないわけで……
行くしか、ない。みんなに了解を得ると、意を決し、僕はそのアクリル扉をずずずと押し開いていく……それが混沌のとば口を開くことになるとも知らずに……(つづく)
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