上 下
15 / 41

Jitoh-15:決然タイ!(あるいは、遊星からの/構造一途ドミナンツァ)

しおりを挟む
 第五投目。手番はまたも俺。盤面もさっきと同じような白球周りに緑と青の球。うぅんデジャヴ……

 だが先ほどとは異なることがある。涼しい顔にて俺の投球を睥睨しようと各々佇む他の二人が、俺の純粋なる「敵」だという事がまごうことなく判明したということだ……この戦いの初っ端から、いやもっと言うとひと目会ったその日から、J志郎も鉄腕も薄々とは言わず噴霧濃度高めに臭わせて来てはいたものの、こうまでの突きつけをされるとは思わなかったよ……

 純粋なる怒りが、俺を凪ぎらせていきおる……

 もぁう、分かった。覚悟が足りていなかったのは俺の方だったよ……

 こうなりゃ絶対にこの勝負をものにして、さらにはエビノ氏もモノにして、こいつらにあることないことの武勇冒険譚を吹き込ましさらして大脳の妄想野を嫉妬熱で炎上焦熱させてやるぅぅぅ……ッ!!

 平静と劣情の間を彷徨うかのような思考の俺は、しかして次の投球のことだけは真剣に考えてはいた。

 的球ジャックの正に四方は邪魔な青緑の四つ球に包み囲われているのは先ほどから一見変わらず。だがJの青球は先ほどよりもバックスピン分、囲いの内部へ、つまり白球に寄り添うようにして最も接近している。一方、鉄腕の野郎が放った緑のイカサマ吸着スティックボールは、その名の通りその場に貼り付いたように動かなくなっていたが、白球へはどれも接してはいないようだ。すなわち現在最も近いのが青球、次いで緑のどれか、ということになる。そしてさらにつまりは白球を動かさない限り、緑球が今以上の距離に近づくことは無いと言える。さて、

 辛酸舐めさせられたこのにっくき「スティック」らめを逆に利用して、俺が「勝ちの布陣」を築くことは出来ねえか……?

 俺が仮に次の投球で、白球に接する会心打を放てたとしよう。だがそれを残る二人は全力で弾き飛ばそうとしてくるはずだ。常に俺が「先手」となりそうなこの状況の中、単に「いちばん白球に接近させる」だけじゃあ駄目だ。だから……

「……」

 腰を直角に曲げ、投球姿勢へ。呼吸を落ち着けてもう一度狙いを確認する。「緑球」の堅牢なる守り。それをかいくぐる一打が放てたのならば。

 ……今度は緑球それら赤球おれを守ってくれる防護壁になってくれるはずだ。

 あくまで柔らかく、赤球を転がし投げる。真っすぐ、真っすぐいってくれ、ここ一球……ッ!!

 俺の祈りが通じた。のか、この上ない直線軌道を進み行った我が球は、四つ球が密集している一角向け迷いなく転がっていく。が、

<……臆したか? 随分手前で止まってしまうぞ?>

 右隣で鉄腕の、嘲るというよりかは残念そうなニュアンス含みの言葉が漏れ出てくるが。野郎の推察通り、赤球は目指す四つ球方向は方向へと進んでいったが、如何せんショート……見た目だが十五センチほど白球まで距離を余しちまった。ぐっ、野郎の言う通り、ここいちばんで手が縮こまっちまったようだぜ……

 ……何つって。なわけねえだろうが。

「……『二連続』で投げるために敢えてそこで止めた……ひとつだけだと簡単に排除されちまうだろうが、どっこい二つならどうかな……? それにてめえの撒いた『吸着』にッ!! 守られるのは白球だけじゃねえってことを見せてやるぜぇっ」

 これが最後の投球。本当のここ一番ッ!! おおおおジトーよ俺に乗り移れぇぇぇぇ……

 と、気合いを放ったはずなのに何故か本当に気色悪いじんめり湿った毛羽立つ薄い毛布みたいなものに背後から抱きつかれたような悪寒が俺を襲う。あ、本当に乗り移らんでもおk……みたいにそれを振り払うかのように、それでもそのおかげで余計な力が肩から抜けてくれた俺の、最初で最後のオーバースロー姿勢からのエセ豪球が、

「……!!」

 ストレートに今しがた投げ放ったばかりの手前赤球に吸い込まれるようにしてぶち当たる。縦回転を与えた豪球は、衝突した赤球を奥面へと押し弾き、自身も回転を宿したままぽんと接地すると、その後を追うようにして力無く転がっていく。

 白球と、緑球の隙間へと。

 うまく行ってくれた。うまく、はまってくれた……

 状況としては、白球と、その六時方向に吸着していた緑球のひとつとの間に入り込むように赤球がひとつ、その後ろについていくような格好でもうひとつの赤球。その左辺りに少し白球から離すことが出来た青球と。

……これ以上は望めねえくらいの結果と相成ってくれた。

 ここで試合が終われば大逆転勝利。だが、Jにも鉄腕にも二球ずつが残されている。それら追撃をかいくぐれるかに俺の勝利は託された。これ以降は何も文字通り手が出せねえ俺だが、

「……」

 いつの間にか盤面を取り囲むかのように集まっていたギャラリーたちが発する、周囲をただよう感嘆含みめいた溜め息に、俺は内心拳を握る。

 四方を囲まれた鉄壁布陣の中に、俺の赤球のひとつはがっちりと入り込んでいる。死角は無え。この事はイコール鉄腕の奴の「転がす球」によっては、直に俺の最接近した赤球に働きかけることは出来ねえってことに繋がる。

 野郎の手は封じた。残るは上空からの剛球をブチ当ててくるだろうJの字だが……

 緑の吸着スティッキー力ってのは反則気味に強力だぜ? 緑に接するくらいの位置でその影に隠れている赤球に当てることは困難だろうし、当てたところでその背後にも白、および緑が根を張っている。この堅城から赤や白を転げ出させるのはまず無理なはずだ。

 勝った……さんざか俺をコケにしてくれたが、ふふ、最後に勝つのは智略突っ走り抜ける者……どうれ、後は敗者どもの消化ボールの挙動でも見て楽しむとするかね……

 壮年のイメージと人格が、勝利を確信した俺に宿っていくのは何故だかは意味は分からなかったが、これで終局だっ。

 そうガラにも無く力んだ、その、

 正にの刹那、なのであった……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】雨上がり、後悔を抱く

私雨
ライト文芸
 夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。  雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。  雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。  『信じる』彼と『信じない』彼女――  果たして、誰が正しいのだろうか……?  これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

井の頭第三貯水池のラッコ

海獺屋ぼの
ライト文芸
井の頭第三貯水池にはラッコが住んでいた。彼は貝や魚を食べ、そして小説を書いて過ごしていた。 そんな彼の周りで人間たちは様々な日常を送っていた。 ラッコと人間の交流を描く三編のオムニバスライト文芸作品。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...