13 / 41
Jitoh-13:非情タイ!(あるいは、リフレしようね!/膠着カステェッロ)
しおりを挟む
体育館の全域に、遠巻きにこの試合を見守っていただろうギャラリーからの押し殺した歓声なんだかため息なんだかが一拍遅れで広がっていく。
かくいう俺も喉奥から自然と「ぐう」の音を不本意ながら漏れ出させていたわけなのだが。
野郎の二・三・四投が終わり、局面も混沌は混沌してきたんだが、俺らに利するところなど全く無さそうなその混沌具合に、急激な「どないしよ」感が脊椎を駆け上がってくる。
いまや的球は中央から右方向に一メーターくらい移動し、ぴったり十二時・三時・六時方向にやや距離を取るかのようにして三つの緑球に周囲を覆われている。かっちり防御布陣……最右のボックスから投擲するジトーにとっちゃあ、邪魔も邪魔に見えるだろう。それでもまたその剛腕でぶっ散らす他は無いだろうが、今度は三個の守り球だぜ……? 全部を全部弾き飛ばして、自分の手球と白球だけをその場に残す?
……それが出来たら神業だ。かたや白球だけに当てて緑包囲網から外に出そうとするにしても相当厄介な「壁」に見えるぞ? ピンポイントのコントロールが要求されるんじゃねえかよ?
いや、その危惧もそうだが。ひとつ確認しとかなきゃならねえ。
「……ボールの材質とか重さってのは自由なのか?」
流石にほぼほぼ全精力を使い尽くしたのかそれとも回復に努めているのかは分からねえが、また車椅子のシートにもたれしなだれかかるような格好で息を荒げている鉄腕の野郎に向けて言葉を放ってみる。と、
<外側の材質や中身が何ということは定められていないが、重量は275グラムプラマイ12、周長、周りの長さは270ミリメートルプラマイ8となっている>
左掌だけは雄弁にそうわしゃわしゃ動くと、そんな詳細説明が返ってくる。よくそんな細かい数字までぽんと出てくるもんだ。が、
「……白を弾いた奴はだいぶ重かったみてーだがよぉ?」
勾配具のうねり方もイレギュラーだったが、球自体も明らかに挙動がそれまでと違っていた。的球を跳ね飛ばすために、イレギュラーに重い奴を使ったのだとそう俺は踏んだわけだが。はたして、
<ああ、事前にキサマらにも一応『この特注の緑球』でやらせてもらうとの承諾は取ったんだがな。さらにランプがスローイングボックスからはみ出たら反則でもある>
何か笑いを含んだ声で返されたんだが。確信犯ってことかよ。何が「神聖なる」だよ。ってなことは頭に浮かんだは浮かんだが、それよりも頭に引っかかってる事がある。
「何かよぉ……そういうことを敢えて見せてねえか? 俺たちに」
俺の方は確信があって問うたことでは無い。ただ何となくこいつが目指しているところはこの「ボッチャ」では無いような気がしていた。いや、ボッチャはボッチャなんだが、「普通のボッチャ」では無いというか。なんかもやもやしてうまく言葉には出来ねえが。
車椅子のところから、壮年声ではなく喉から絞り出すような空気音が二度三度漏れてきたのが聴こえたが、笑ってんのかよ。読めねえなほんとに。
<キサマはいろいろと勘が鋭い。場も見えているようだ。売られた喧嘩を混沌でまぜっかえして今このような『試合』らしきことを繰り広げたりしているが、その運び方も大したものだ。相方のフィジカルも捨てがたく思えてきたし、ここでこう逢ったのは運命かも知れんな……>
得てして得体の知れない奴からほど意味不明であるところの好意だとか全幅信頼とかを寄せられがちな俺ではあるが、それがこいつに対しても遺憾なく発動したというわけか。ありがたいのかそうじゃねえのかも判別できないまま、いや答えになってねえよと何か陶酔入った台詞めいた言葉を発し出した野郎にそう突っ込むは突っ込んでみるが、
<……この一局に集中しろ。私に勝てたらすべてを話そう>
何だそりゃ。何かもう、入っちゃってんのか? 俺ぁ別に能動的に知りたいとかってわけではさらさらねんだけどよぉ。だが、
「……」
ますますこいつをNO完膚にて負かしなめしてキャィン言わせたい欲求だけは高まってきたぜぇ……ッ!!
場に視線を戻す。的球からいちばん離れてしまったのは赤球、つまりは次の投球は俺の第三投ということになる。先ほどの鉄腕の絶技(反則技でもあったが)により、いま一度言うが「的球は三つの緑球に至近を包囲されている」……
どう攻める? どんなアプローチをすればいい?
的球らの塊があるのは場の中央から結構右寄りだ。中央ちょい左の投擲位置の俺からは十字のところにあった時より、一メーターくらい奥に行ってしまった感じであり、尚更狙いにくいって寸法か……
とは言え、いまだ俺に対しては、俺の方向に対しては無防備な腹を晒しているように見えるんだよなぁ……緑球に防がれているのは白球の手前・奥・右。俺から見える「左」はガラ空きだ。さっきから俺をいないものとしやがってぇ……とか思わなくも無かったが、今回はまあそこから「入城」したわけだし、空いてるのは当然とも言える。仮に正面側が空いていたとしたら、白球を弾きつつ、自球にその後を追わせて「蓋」をすることも野郎だったらやってのけたかも知れねえが、真横からそれをやるのは角度的に無理だろう。あの反則超長勾配腕が二十メートルくらい伸びて十字の真左から射出出来るっていうなら話は別だが。
とにかく的球の四方を固められたとかいう、どうとも手が出ない状況だけは避けられたってわけだ。
……いや「避けられた」? 俺は能動的にコトを運んではいねえ。これすら野郎の術中だったとしたら? いやいやそこまで掘り進んでみても始まらねえよ。俺がやらなかったとしてもJの字が引っ掻き回してくれてたじゃねえか。奴の二投目……相手の手球を散らしつつ、自分の球はステイさせるというそれもまた絶技、それをこの後もまた期待するっていうのなら、白球に寄せておくに越したことは無いはずだ。迷わずいくぜ。
なんか嫌な予感はしたが、それは押し込めて盤面に向き直る。大丈夫だ、今度も軌道上には邪魔球は無え。真っすぐ、真っすぐ投げる。今度も受け止めてくれる壁はあるから気持ち強めでも問題ない。ただただ精密な軌道だけをイメージしろ。
意を決して、緑球を左右後ろに従わせたかのように見える白球にロックオンする。真っすぐ、真っすぐ……
「……!!」
いい感じだ。この上なく真っすぐいけた。力はやや入っちまったかもしれねえが、このまま白球に多少強くぶつかっちまっても、副次的に後ろの緑球を向こう側に弾き飛ばせたり出来るかもだ。考え得る最良ッ!! いけぇぇぇぇぇぁぁあああッ!!
俺なりに会心な投球と思われた。実際投げ終えたその右掌を握ってしまったりもした。
刹那、だった……
「!?」
白球に予測通り当たるようにしてその至近に寄った、と思った俺の赤球が、
次の瞬間、向かって左方向に素っ気なくも跳ね返されたのであった。そう、まるで白球に拒絶されるかのように……
な……バカな、だろッ?
かくいう俺も喉奥から自然と「ぐう」の音を不本意ながら漏れ出させていたわけなのだが。
野郎の二・三・四投が終わり、局面も混沌は混沌してきたんだが、俺らに利するところなど全く無さそうなその混沌具合に、急激な「どないしよ」感が脊椎を駆け上がってくる。
いまや的球は中央から右方向に一メーターくらい移動し、ぴったり十二時・三時・六時方向にやや距離を取るかのようにして三つの緑球に周囲を覆われている。かっちり防御布陣……最右のボックスから投擲するジトーにとっちゃあ、邪魔も邪魔に見えるだろう。それでもまたその剛腕でぶっ散らす他は無いだろうが、今度は三個の守り球だぜ……? 全部を全部弾き飛ばして、自分の手球と白球だけをその場に残す?
……それが出来たら神業だ。かたや白球だけに当てて緑包囲網から外に出そうとするにしても相当厄介な「壁」に見えるぞ? ピンポイントのコントロールが要求されるんじゃねえかよ?
いや、その危惧もそうだが。ひとつ確認しとかなきゃならねえ。
「……ボールの材質とか重さってのは自由なのか?」
流石にほぼほぼ全精力を使い尽くしたのかそれとも回復に努めているのかは分からねえが、また車椅子のシートにもたれしなだれかかるような格好で息を荒げている鉄腕の野郎に向けて言葉を放ってみる。と、
<外側の材質や中身が何ということは定められていないが、重量は275グラムプラマイ12、周長、周りの長さは270ミリメートルプラマイ8となっている>
左掌だけは雄弁にそうわしゃわしゃ動くと、そんな詳細説明が返ってくる。よくそんな細かい数字までぽんと出てくるもんだ。が、
「……白を弾いた奴はだいぶ重かったみてーだがよぉ?」
勾配具のうねり方もイレギュラーだったが、球自体も明らかに挙動がそれまでと違っていた。的球を跳ね飛ばすために、イレギュラーに重い奴を使ったのだとそう俺は踏んだわけだが。はたして、
<ああ、事前にキサマらにも一応『この特注の緑球』でやらせてもらうとの承諾は取ったんだがな。さらにランプがスローイングボックスからはみ出たら反則でもある>
何か笑いを含んだ声で返されたんだが。確信犯ってことかよ。何が「神聖なる」だよ。ってなことは頭に浮かんだは浮かんだが、それよりも頭に引っかかってる事がある。
「何かよぉ……そういうことを敢えて見せてねえか? 俺たちに」
俺の方は確信があって問うたことでは無い。ただ何となくこいつが目指しているところはこの「ボッチャ」では無いような気がしていた。いや、ボッチャはボッチャなんだが、「普通のボッチャ」では無いというか。なんかもやもやしてうまく言葉には出来ねえが。
車椅子のところから、壮年声ではなく喉から絞り出すような空気音が二度三度漏れてきたのが聴こえたが、笑ってんのかよ。読めねえなほんとに。
<キサマはいろいろと勘が鋭い。場も見えているようだ。売られた喧嘩を混沌でまぜっかえして今このような『試合』らしきことを繰り広げたりしているが、その運び方も大したものだ。相方のフィジカルも捨てがたく思えてきたし、ここでこう逢ったのは運命かも知れんな……>
得てして得体の知れない奴からほど意味不明であるところの好意だとか全幅信頼とかを寄せられがちな俺ではあるが、それがこいつに対しても遺憾なく発動したというわけか。ありがたいのかそうじゃねえのかも判別できないまま、いや答えになってねえよと何か陶酔入った台詞めいた言葉を発し出した野郎にそう突っ込むは突っ込んでみるが、
<……この一局に集中しろ。私に勝てたらすべてを話そう>
何だそりゃ。何かもう、入っちゃってんのか? 俺ぁ別に能動的に知りたいとかってわけではさらさらねんだけどよぉ。だが、
「……」
ますますこいつをNO完膚にて負かしなめしてキャィン言わせたい欲求だけは高まってきたぜぇ……ッ!!
場に視線を戻す。的球からいちばん離れてしまったのは赤球、つまりは次の投球は俺の第三投ということになる。先ほどの鉄腕の絶技(反則技でもあったが)により、いま一度言うが「的球は三つの緑球に至近を包囲されている」……
どう攻める? どんなアプローチをすればいい?
的球らの塊があるのは場の中央から結構右寄りだ。中央ちょい左の投擲位置の俺からは十字のところにあった時より、一メーターくらい奥に行ってしまった感じであり、尚更狙いにくいって寸法か……
とは言え、いまだ俺に対しては、俺の方向に対しては無防備な腹を晒しているように見えるんだよなぁ……緑球に防がれているのは白球の手前・奥・右。俺から見える「左」はガラ空きだ。さっきから俺をいないものとしやがってぇ……とか思わなくも無かったが、今回はまあそこから「入城」したわけだし、空いてるのは当然とも言える。仮に正面側が空いていたとしたら、白球を弾きつつ、自球にその後を追わせて「蓋」をすることも野郎だったらやってのけたかも知れねえが、真横からそれをやるのは角度的に無理だろう。あの反則超長勾配腕が二十メートルくらい伸びて十字の真左から射出出来るっていうなら話は別だが。
とにかく的球の四方を固められたとかいう、どうとも手が出ない状況だけは避けられたってわけだ。
……いや「避けられた」? 俺は能動的にコトを運んではいねえ。これすら野郎の術中だったとしたら? いやいやそこまで掘り進んでみても始まらねえよ。俺がやらなかったとしてもJの字が引っ掻き回してくれてたじゃねえか。奴の二投目……相手の手球を散らしつつ、自分の球はステイさせるというそれもまた絶技、それをこの後もまた期待するっていうのなら、白球に寄せておくに越したことは無いはずだ。迷わずいくぜ。
なんか嫌な予感はしたが、それは押し込めて盤面に向き直る。大丈夫だ、今度も軌道上には邪魔球は無え。真っすぐ、真っすぐ投げる。今度も受け止めてくれる壁はあるから気持ち強めでも問題ない。ただただ精密な軌道だけをイメージしろ。
意を決して、緑球を左右後ろに従わせたかのように見える白球にロックオンする。真っすぐ、真っすぐ……
「……!!」
いい感じだ。この上なく真っすぐいけた。力はやや入っちまったかもしれねえが、このまま白球に多少強くぶつかっちまっても、副次的に後ろの緑球を向こう側に弾き飛ばせたり出来るかもだ。考え得る最良ッ!! いけぇぇぇぇぇぁぁあああッ!!
俺なりに会心な投球と思われた。実際投げ終えたその右掌を握ってしまったりもした。
刹那、だった……
「!?」
白球に予測通り当たるようにしてその至近に寄った、と思った俺の赤球が、
次の瞬間、向かって左方向に素っ気なくも跳ね返されたのであった。そう、まるで白球に拒絶されるかのように……
な……バカな、だろッ?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
余命3年の君が綴った、まだ名前のない物語。
りた。
ライト文芸
余命3年を宣告された高校1年生の橋口里佳。夢である小説家になる為に、必死に物語を綴っている。そんな中で出会った、役者志望の凪良葵大。ひょんなことから自分の書いた小説を演じる彼に惹かれ始め。病気のせいで恋を諦めていた里佳の心境に変化があり⋯。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
看取り人
織部
ライト文芸
宗介は、末期癌患者が最後を迎える場所、ホスピスのベッドに横たわり、いずれ訪れるであろう最後の時が来るのを待っていた。
後悔はない。そして訪れる人もいない。そんな中、彼が唯一の心残りは心の底で今も疼く若かりし頃の思い出、そして最愛の人のこと。
そんな時、彼の元に1人の少年が訪れる。
「僕は、看取り人です。貴方と最後の時を過ごすために参りました」
これは看取り人と宗介の最後の数時間の語らいの話し
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
透明人間になった僕と君と彼女と
夏川 流美
ライト文芸
――あぁ、お母さん、お父さん。つまりは僕、透明になってしまったようです……。
*
朝、目が覚めたら、透明人間になっていた。街行く人に無視される中、いよいよ自分の死を疑い出す。しかし天国、はたまた地獄からのお迎えは無く、代わりに出会ったのは、同じ境遇の一人の女性だった。
元気で明るい女性と、何処にでもいる好青年の僕。二人は曖昧な存在のまま、お互いに惹かれていく。
しかし、ある日、僕と女性が目にしてしまった物事をきっかけに、涙の選択を迫られる――
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる